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僕たちの戦争  作者: イケサキ
有名と成り上がる二人編
12/18

うんコマーシャル

 桐崎がまずやったのはCMだった。

「日本の女はダメだ。あんな尿瓶の体型じゃ却って注目を浴びるかもしれないが、それは糞で代用できる。出てくる女はあぁ…ルッキズム主義者と間違われないようブサイクな女を起用してくれ、デブでもいい。それとそれだけじゃ本当誰も見ないだろうから猫を出して上手いこと中和させよう。猫好きは基本猫という名前に引き寄せられてくるからな…おっとここに猫がいるな」桐崎は止まって見てきていた猫を抱き上げた。「なんだ、逃げないのか? 都市にいる猫は逃げやすいんだがな、まあこいつを」と桐崎はスタッフにネコを渡した。

「げ、ゲージに入れてきます」

「プロデューサー! 糞をとってきました!」スタッフが黒い袋を握っていた。

「どれ、ここで見せてみろ」

「はい」

 近づいてくる桐崎に糞を見せる。

「んん…これは違うな。やっぱり俺が出した糞がいいだろう。後から話題作りにでも通じるし、その方が一石二鳥だ。ちょうどさっき下剤を飲んだから、今腹がゴロゴロなっている。袋をくれ。…既に使われたやつはいらん。新しい袋を誰か持ってこい!」

「わわ! 猫が逃げた!」遠くから女の声。

「なにしてるんだ? ゲージに入れる事もできないのかよ、お前はもうクビだ」

「え、そんな、嘘ですよね?」

「いやクビ。猫も入れられない不器用で社会についてこれないお前は、クビだ」

「そんな私この仕事を十年続けてきたんですよ?」

「くだらん戯言、くだらん履歴、くだらん昔話を誰が興味持つ? そうなっちゃ定年さ。さっさとクビを受け入れてこの会社から出ていきな。退職金は出ないがな」と桐崎は笑った。

「君にそんな権限はない!」と彼を嫌うスタッフ。

「プロデューサーに歯向かう気か? 金はこちらが全部出しているんだぞ。企画が通った以上しっかりやれ。お前もクビ」

 こうして独裁者となった桐崎は使えないスタッフを切って行った。

 

「とにかく、この企画を大成功させるんだ。…」彼は立ち上がり、出た糞を手づかみで袋に入れた。「汚れようが、やがて掴むのは黄金だろ? いいぞ隼人、お前はこの糞で億万長者になるんだ」

 一方遊山は特にすることがなく、テレビでよく見ていた芸能人と雑談していた。完全に閉まっていない扉が開くと、猫が入ってきた。

「あ、猫ちゃん」芸能人が言う。「どうやって入ってきたんだろう」

「ん、あの猫…どっかで見た覚えが」

 猫は可愛らしく鳴くと、遊山の側にやってきた。

「うわあ可愛い。でも凄い既視感あるんだよな。お前、秋人の家によくいる猫だろ?」

 そう言うと猫はゆっくりと瞬きした。

「おい大地」桐崎が部屋に入ってくる。

「うわくっさ、その袋をどっかにやれ」

「わかったわ」袋を芸能人の隣に投げる。

 芸能人は叫び声を上げて部屋から出て行った。猫も逃げた。

「おい勘弁しろよ…」鼻を摘みながら遊山。

「ところでこれを見てくれ。宣伝CM製作について詳しく書かれた書類だ」と桐崎は遊山に渡そうとした。

「外で読もう…てこの書類も臭えぞ…」

 ざっと読んだ遊山は「はいはいわかったよ」と言うだけで書類を返すとトイレに走った。手を洗いたいのだ。

 猫も彼について行った。

 トイレで手を洗っていると、出入り口から少年の声。

「大地」

「あ? なんで子供が? 誰か連れてきたのか」

「ううん」と首を横に振る。「僕はさっきまで猫で、人間になっただけ」

「そりゃファンタジーですね坊ちゃん。さぞ役員の糞ガキは夢見心地で羨ましの木だぜ」

 トトは猫に変わり、彼の近くで鳴いた。

「…マジ?」

「ニャ」と鳴く。

 また少年になる。

「すげえ…それで、なんのようだよ?」

「秋人に言われて、今日は大地のそばにいてあげてって」

「なんで?」

「両親が蒸発したんでしょ?」

「お前の飼い主は良心が蒸発してるがな」

「でも蒸発したことを教えたら、秋人はそう言ったよ。あと僕は秋人の飼い主じゃないから」

「…そう」遊山は考えを巡らす。あいつにもまだ良心がある? な訳あるかよ。これは何かの、罠だ。「だったらどうする気だ?」

「今日家に戻るんでしょ? 真っ暗な寝床じゃあさ、寂しいかと思うから一緒に寝てあげるよ」

「襲うつもりじゃないだろうな?」

「そんなことしたら、秋人は怒ると思う」

「なあ! 大地!」と桐崎が出てくる。トトは扉が開く寸前に足音で察知してトイレに隠れた。

「わ! なんだよ」

「今から本格的に撮影が始まるから来い! うんこまみれで面白えぞ!」桐崎は遊山の腕を掴んで引っ張って行った、よりによって糞のついた手で。


 スタジオのセットの中に糞が置かれていた。その後ろで横たわり、顔を地面につけながら舌を出している性転換した男。

 

 撮影が始まると、初めに糞が映った。

 

 カメラはピントをぼやけさせ、後ろにいる男にピントを合わせる。 

 男はじっとカメラを見ていた。

「私は見ないけど、糞は見るわよ」

 見えないところで横になっている女が立ち上がると、ゆっくりとカメラに映る。そしてカメラに近づいた。画面いっぱい顔になると、カメラは後ろに退いてゆく。その過程で、女は両手をカメラに見せる。

 赤い絵の具をまんべんにつけた手のひらで顔を塗り始めた。

 

 男の声がする。

 

「私は見なくても、心は見るわよ」

 

 その次に猫の声であるおっさんの声。

 

「心なんてないにゃー」

 

 暗転。

 

 スタッフが飼っている猫が、麻酔で横になっていた。眼は開いていた。

 

「心なんて嘘だにゃー」

 

 猫の周りに、水の入った水槽が置かれる。

 

「心なんて、ないんだにゃー」

 

 音楽が段々と聴こえてくる。振動が水槽を揺らした。ポタポタと赤い絵の具を垂らすと、糸のようなギザギザに揺れ始める。

 番組名を何度も言う音楽が大きくなると、赤い顔の女が叫んでは飛び跳ねたり、性転換した男が猫の頭を水槽につけては出したりを繰り返しながら番組名を叫んでいる途中で無音になる。次の瞬間真っ赤になった猫の顔と女の赤い顔が激しく交互に切り替わりながらプツリと途切れて終わった。

 

 

「…こんなのよく通ったな」と遊山。

「上層部にもしっかり書類を見せたよ。すぐトイレに駆け込んで行ったけどな」

「…」遊山は肘で桐崎を突いた。「…わかってやったんだろ?」

「お前と俺は世界の富豪になる男。甘く見られちゃ困る」

 

 後日、放送されたCMに大規模のクレームがきた。

「こんなのを放送するな!」

「こんなのを公共で流さないで!」

「とても不快です! 放送を停止してください! 私はフェミニストで繊細さんです!」

「アナタノ芸術的才能ヲ買イニキマシタ!」


 色々な人が会社に突撃していた。桐崎は裏から出ると、表にいるクレーマーたちの中に立ってスマホの機能を使って録音した。

 それを加工して、拍手や女の歓喜するような声に変換させていた。

「新時代をなめんじゃねえ」と桐崎は窓から両手で中指を立てて笑っていた。。「俺のでも崇めやがれ! この世は金ダァ! 金なんだよォ! 新時代は! 金があってようやく入会ができんだ!」

「でもこんな批判が上がると放送にも影響が出そうだな…」

「心配するな。これから好感度超あげあげ作戦へと移行する。まあ遊山は静かに見とけよ、俺たちは必ず金持ちになる。そして秋人をぶっ倒すんだ!」

 予想通り、多くの人間が彼のブログやSNSを突き止めた。炎上中の彼にさらなる薪をくべるべく根掘り葉掘りされたが、内容はどれも開業した塾でしっかり障害者に工夫をしながら教えている画像や品ある文章、障碍者の家族と一緒に笑顔で写真を撮っているものばかりで炎上するどころか彼は称賛されて行った。また桐崎は端正な所もあるので女のファンが増えた。そして内部から匿名掲示板を使って桐崎の善行を打線に組ませたりして知名度は好感度と共に上がっていった。

 スポンサーは好感度上昇中の匂いを嗅ぎつけて立つ企業があった。


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