ファンヒーターエンターテイメントアンドセレクションクローゼットプレジャーズ
桐崎と遊山は家に戻り、傷口を治療した。
「ダメだな、秋人は」
「もう秋人はいつもの秋人にもどらないかもな」と二人は話し合っていた。
「…こうなったら、俺たちも秋人と同じようにインチキして金持になるか」と桐崎はまだ躊躇をしているような抑揚で言った。
「でも、資金とか」
「坂上が貸してくれるはず。あいつ金持ちだろ」
「そうなったら、善は急げだ!」
二人は力強く手を叩いた。
休みの日、秋人を吉田を除いたバラガキのいる部屋にほぼ監禁させて(元々彼はその部屋を担当していたからほぼ変わりなかったが)、二人は今日は来る子少ないからと秋人の連れ二人を追い出して、坂上に言う時がもう間近に来ていた。
「なんだ? 番組作るのか?」坂上は軽度知的障害者に算数を教えている最中だった。手元にある紙にはかなり苦労しているようであらゆる解き方を教えていた。「なんの?」
「障害者のドキュメンタリー!」と桐崎。
「みんなに、理解をしてもらって、そこから得た募金で塾の設備を良くしたりする予定です!」と遊山は言う。
「お前らさあ、説教とかくさいことはしたくないけど、障害者は見せもんじゃないからな…?」
「そうやって見せないから坂上、理解者っていうのは減ってくんじゃないかなあ? もしテレビでこの子たちを出せば、内容次第でお金が稼げて!…何より、設備とかこの子たちがさらに学べる環境をよくしたいんだ」
だが本心では募金を私物にする予定なのを、坂上はそれを見抜いたかのように目を鋭くさせた。
「…まあでも、経験する事は人生じゃとても大事って聞かされてきたし、それを僕は身をもって味わってもきた。だからいいよ。資金、出してあげる。ただしテレビの企画は君たちが通せ。僕は金を出すだけね」
一方秋人はゲーム機を持ってきて四人にやらせていた。彼は頭皮について書かれた本を読んでいた。
「秋それなに、初めて見た」瀬古が彼の背後に回る。秋人は本を閉じる。
「薄毛について書かれてる本。お前らにはまだ無縁だよ」
「ふうん…秋ってハゲてんの?」
「ハゲてねえ…見んなよ」秋人は頭を見ようとする瀬古を引っ張って前に倒した。
「なに、格闘技でもするの?」と二人が秋人を見る。
「お、やるか? ォまえら!」
突然、窓が破れた。キャッと声を上げる三人。秋人は素早く立ち上がる。石が転がっており、手紙のようなものがつけられていた。
「お前ら下がってろ」秋人は手紙をつまみ取り、中を読んだ。三人は不安な眼差しでお互いに見合っていた。
拝啓
おいインチキ秋人!
お前の名声は各界に知れ渡っているぞ!
それと能力がインチキであることもだ!
オレと闘え! オレは真の霊能力者だ!
お前はインチキだ!
本物のオレと闘え!
場所は出会い頭、そこでお前を倒す!
このインチキ秋人!
バーカ、死ね!
敬具
「んだよこれ…」と秋人はため息を吐いた。
桐崎からか? でもわざわざこんなのを投げて子供の身の安全を考えない奴ではないはず、それにあいつは一階だし、修理費用も考えたら絶対にしないだろう。このインチキ霊能力者、なんで俺がここにいるってわかったんだ?
秋人は外を見た。
誰もいない。
「秋人…大丈夫?」宮良が聞いてくる。
「お前らに心配させられちまうじゃ俺も店じまいだな。安心しろ。この勝負、俺の勝ちだ」と晶に手紙を渡す。
「決闘状…」と三人は声を合わせる。
四人が窓から離れた時、再び手紙付きの石が投げられてきた。それも一つじゃなく大量に。
「なんだよ! うぜえな!」と秋人は押し入れに三人を入れて、自分も入った。「プロデューサーに…あ、仕事用の携帯家に置いてきたわ…てかなんで下のやつは上に来ないんだよ!」
下ではネズミだろうと話題になって誰も行く事はなかった。それに数多に降る石で重いにわか雨でも降ってるのかと殆どが考えていた。。
やがて止み、部屋を見ると石の山ができていた。全て、決闘状の申込みだった。全員、出会い頭。
「こいつら日にち書くの忘れてねえか?」
また大量の石が投げられた。数字が書かれていて、どれも一致した。
「運命の激安セールか? 天使も人を選べねえんだろうなあ…」
「本当だよ」と天使が秋人の隣にいた。
「うんざりしない?」
「するね。毎日。なんでこんな奴に運命を恵まなきゃいけないんだってしょっちゅう思う」
「同情するよ。俺もこれからこんな奴らと戦わなきゃならないんだぜ?」と天使に手紙を見せる。
「わあ大変。出会い頭って、通り魔になるつもり?」
「俺に聞かないでよ。とにかく天使、もしよければ僕を助けてくれない? こんなめんどくさい奴らにびくびくして歩く日々が続くなんて、君も嫌だろう?」
「うん。確かに、久しぶりに下界に降りてしっかり話の合う人がこんな人たちにやられるのは嫌だね。よしわかったよ秋人、すぐ神様に報告するね!」
「神さんによろしく頼んだぜ」
と、秋人と天使は握手した。
天使は翼を広げて天界に戻っていった。
「金持ち最高!」電車の中で桐崎は叫んだ。
車内にいる人は下を向いて一切桐崎に注意を払わなかった。いくら騒いでも彼らは顔を上げなかった。二人の側で一方的にボコボコにされている男がいた。
桐崎は離れて、ベビーカーに眠っている赤子の前でしゃがんで見ていた。
「かわいいな…奥さん、この子の名前は?」
「お茶です」
「へえマジか、お茶か…。良い名前…なのか?」と桐崎は遊山を見る。
「知らね。多分良い名前ですよ、奥さん。俺の名前大地なんですけど、それとほぼ一緒ですからね」
「人名じゃ──」
「奥さんじゃなくパートナー!」
優先席に座っている女が言った。
「あらら、フェミニズム?」
「一人の女性で、普通の日本人です」
「そう、失礼した」
「…よろしい」
「まだ軽度っぽいな」と小声。
「…悪化しないうちに移ろう」
桐崎と遊山は別の車両に行った。
「助け…誰か!」
それからバーガー店の中で二人は昼食を食べていた。
「見ろよ秋…違う大地、さっきいた電車でボコボコにされていた男の動画がSNSで流れてきたぜ」
遊山は隣でスマホをじっと見ている会社員の男のを見て頷いた。
「なあこいつ、俺たちと一緒の車内にいた奴だわ。なんでもう一度見るんだろうな」と遊山は小声で言った。
「知らない」
「ん、なに君たち?」と会社員の男。
「いや…さっき一緒にいましたよね?」
「叫んでた君たちだろ?」
「そうです。その、殴られている男をまたSNSで見るのが不思議で」
すると会社員はにこりと笑った。
「そんなの簡単だよ。上司が殴られてるみたいで見てて気持ちがいいんだ。君たちもそうだろ?」
「まさか、俺たちは殴られてる人間を自業自得な奴だと馬鹿にしながら愉快に見ているんですよ。もちろんストレス発散として見るのもいいかもしれませんね」
そう言うと会社員は苦い顔をして顔を引いた。
「へえ…とても悪趣味だ…」
「どっちもどっちっすね」と桐崎は笑う。
「…えっと、私はもう食べ終わったから出るよ、さようなら。あと君もこの殴られている老人と同じようにSNSであげられて笑われてるよ」と男はどっか行った。
「は?!」桐崎は口を開けっぱなしに自分が「金持ち最高!」という自分の姿を映像の中で見ていた。「まあいいや、ネット社会ってそんなもんだろ?」
「まあな」遊山はコーラを飲んだ。「…なあ隼人、あの時に秋人がいたら見逃してたと思うか?」
「今の秋なら考えられる。でもわざわざ殴られに、危険を伴う救出をするとはとても思えない」
その時、秋人は道の真ん中であぐらをかいて依頼者の願いに応えていた。
「それでさあ話は変わるけど、どうやって企画を通すつもり?俺たちって資格とかその放送局の人間でもないけど」
「心配するな。持ち込みってのがある、一つの会社に。そこに全力集中だ!」
「ちょうどこの店の目の前に立ってるビル?」
大きな窓の向こうに、遊山がいうビルが立っていた。大都市の中心に、二人は鞄を持って立ち、天を見上げていた。
金持ちへの道! 二人は強く感じた。
中に入ると、さっそく受付に行った。
「企画を持ってきた」と桐崎。
「…紹介状、もしくは社員証を提示できますか?」
「そんなもんない。企画を持ってきた」
「申し訳ありませんが、この会社は企画の持ち込みはご遠慮ください」
「はあ、最近まで受け付けていたじゃないか! なんだ、なんで禁止になった?」
「最近になって急に占い師や霊媒師が最近死者と交信する能力が最近になって目覚めたと言って企画を大量に持ち込んで来る人が増加したので今は中止しているんです」
「随分と最先端になったもんだな…」
「俺たちはそれじゃ─」と遊山。
「何か提示できるものがないなら、お引き取りください。でないと警備員を──」
「サックス」桐崎がネイティブに言った。
「え?」
「サックスブラジャー、ファンヒーターエンターテイメントアンドセレクションクローゼットプレジャーズ…意味わかるかね?」
「…わかりません」と苦笑い。
「ふん。受付の質がこれじゃあ、この会社は時代についてこれないだろうね。モナカテレビトランスミッション、ペットボトルマイカー?」
「あの…」
「ワールドヒューマンカップ…この用語もわからないようじゃ、上の者を呼んでくれるかな?」
「あの」
「ただいま上の者を呼んでおります」と受付の上司らしき女が出てきた。「なにしてるの!」と上司らしき女は受付を小声で叱り、引っ張って裏に消えた。
やがて上の者が出てきた。
「先程は失礼しました」と頭を深く下げる。
「ケーオー、ナッツスタジアム」
「はい。ご用件はなんでしょう?」
「ユマ、テレビセーターショッピングワイルド」
「き、企画を持ってきた」と遊山は言う。
「では、こちらに案内します」
「ケーオー、ナッツスタジアムスーパーアリーナ」
二人が連れてこられたのは、会議室だった。
待っているとノックがされた。
「失礼します」と一人の若い男に連れてむっくりとした中年の男と、社長らしき白髪の男や他にもやってきた。
「ドラゴンフライセレクション、セレモニーワンタッチオーケー? ウィリアムウィリアムキングダムスロットマジック!」
「おお、なかなか良さそうだな」と白髪。他も同調して頷く。
「マジック、エンターテイナー。スネークタイムフォービズム。バナナアップル、パイテレビオーケー?」
「オーケー…じゃなくてケーオーだとも。君の提案は、今まで聞いたことがない。チェアナイスフォーマルピザクーラー!」
全員が拍手する。
「ケーオー、ファンヒーターフード。プリーズテイクマイルドアースアンドカスタードプリン!」
「ふむふむ、なるほど。しかし、我々日本人は当たり障りのなく未だ引きずっている敗戦の傷口を舐め合いながら始めてお笑いが成立するのですよ。そのようなものが成り立つかどうかは…あぁ、ディスカッションプロセスディベートベイビーズ…ディベートフロムラブミーノットオープンペインザクリームシチュー」
「オールドディスカッションゴールドベイビー、オーティストアース! ワールドゴー!」
全員が一斉に笑う。
「フルケアマイスリープタイムミートゥ」
「よし」と白髪の男が嬉々として立つ。同時に桐崎も立った。
二人は握手を交わし、契約の書類にサインした。企画は無事、通った。




