天国から帰ってきた奇跡の霊能力者〜不死身で最強の美青年は死者と交信して世界平和をゆるふわライフを送りながら超楽簡単に攻略して図ろうと思います〜
「なんだよ、この番組名」桐崎は業務用アイスを一人で食ってテレビを見ていた。「なにが美青年だよ、ほんっと気持ち悪いな」
CMが流れている。恐ろしく醜い爪の垢が皿に山盛りになった映像と共に会社名がチープにされた古典音楽に乗って流れた。
「もう勘弁しろよ…」リモコンをとって消して、苦い顔をしながらアイスを口に運んだ。
するとスマホに電話がかかってくる。出てみるとしばらく消えていた遊山が話しかけてきた。
「俺だよ、遊山大地…」
「あ、お前さ、今までどこ行ってたんだ?何日もいなかったけど…つか声聞こえるか?」
「大丈夫。全財産で補聴器を買ったんだ。ただそれでバイトだけじゃ苦しくなって海に出ていたよ。でも嫌になって抜け出してきた。実は今な、海沿いの公衆電話からかけてるんだよ」
「ああ、どおりで潮風の音がすると思った。俺の家に来いよ。家族とか大丈夫か?」
「いや、両親は蒸発しちゃったみたい」
「なおさら俺の家に来るべきだな。心配するな、俺の家は二世帯住宅で今父親出張してるから部屋くらい空いてるんだ。わかったらさっさと来い、今秋人がテレビに出てるぜ」
「ほんと?すぐ行くよ」
……
番組では秋人は目隠しした状態であぐらをシートの前でかいていた。
「さて、今日は」と司会者。
「──今日は、奇跡の復活劇を遂げた青年に来てもらってます。そう、ここにあぐらをかいて静かに精神統一を図っている青年です。実はこの青年、ちょっと前まで死んでいました。刺された青年はすぐに病院に運ばれて適切な処置を受ける予定でしたが、医療ミスが重なって死亡が確認されたのです。それが証拠の死亡を確認したという書類です…死因は刺殺による多量出血と書かれています。それでも青年は、なぜ生きているかというと…それを今回、本人に直接質問して聞いてみましょう、よろしいですか? あぁ、まずはお名前をどうぞ」
「あ、あ、秋人です」
「ほう、秋人君…良い名前だ。どういう意味がありますか?もしかして、天皇から取られていたりしますか?」
「ま、まさか、そんな滅相も──いえ、天皇から取られています」と秋人は急に語気を強くした。それまでの謙遜とは違い、彼は吹っ切れた。「将来は天皇になる男としてお母様とお父様に名付けてもらったのです」
「これは面白い。では秋人さん」
「様とつけてください。これからとても素晴らしい能力を見せますので」
「…ほう、ですが今見ている人は、きっとあなたを疑っていると思いますよ」
「ふふ、それは今のうちですよ」秋人はニヤリと笑った。「早く本題に移りましょう、この力を見せたくてうずうずしてます」
「おや、秋人さまは尺を知らないようだ。あと少しだけ辛抱してくださりますか?」
「…はい」耳が赤くなる。
「うわ、こいつ恥をかきやがった。ダッセーな」と桐崎は言った。呼び鈴が鳴る。桐崎は膝掛けを退かして玄関に向かった。「意外と早く来たな。…アイスあるから食おうぜ」
「秋人さまは、どうして死亡を確認されたのに生きているのですか?」
「…それは、蘇ったからです。天国でまだ現世に生きたいという思いから目を覚ましました」
「ふむ、ならあなたは、天国をこの目でご覧になったというわけですか。どういうところでした?」
「天国は広かったです。ただ一人、地獄には十代で命と一緒に閉経した女がいました」
「…は、秋人さま、ふざけてるんですか?」
「いえ、本当です」
「今、地獄とおっしゃいましたが」
「実は早くから言おうと考えていたのでしたが、死後の世界には天国も地獄もそういった区別はなくて、どの人も平等に死後の世界にいるのです。ただ、勘違いさせたら申し訳ございません」と頭を軽く下げる。
「…では、気を取り直して…秋人さま、その…世界から蘇り、何か特別な能力を手に入れたそうですね? 一見、彼はただ五十音順シートの前であぐらをかいていますが、聞くところによればその…シートを使うと?」
「はい。このシートは地…死後の世界と繋がっていて、ある方法を行うと死者と会話ができるのです」
「わお、それはすごい」と司会者はカメラを見る。「今回、なぜ生放送の形かというと、そう、今観客席にいる人の中から私が選び出して、その選ばれし人が秋人さまを通じて話したい死者と話せる機会を設ける、やらせや台本が一切なしを今日、証拠としてお見せするためなのです」
一斉に観客席から拍手が鳴った。
突然で秋人はビクッとした。
止まる時も同時だった。
「では準備はよろしいですか、秋人さま」
「はい、いつでも」
「じゃあ、まずそこの人」
誰かが歩いてくる。
「秋人さまとシートを挟む形で座ってください。座る姿勢はなんでも構いません。そして誰と話したいか、秋人さま言ってください。秘密でもいいですよ」
秋人は指先をシートの前に出した。耳元で聞こえてくる、誰か知らない名前。
「お願いします…」
腕を動かす。やがてぴたりと止まる。すると突然、秋人の目の前で声を上げて泣き始めた。
こいつもヒスか。と秋人。まずいな、目隠しのせいでどこに指先を出せばいいか全然わからないぞ。
口を開ける秋人を、じっと依頼者は見る。
し、ぬえ、の、と、り、は、たたたさ。と指先は動いたが、秋人が喋った言葉は違った。
「ひ、さ、し、ぶ、り、げ、ん、き、?」
交互に見ている司会者は眼を赤くし始めた。
「お爺ちゃん、もうゆっくりしていいからね。ごめんね、いっぱい迷惑をかけて」
き、り、ね、ぬ、む、あい、し、て、ゆ。
「げ、ん、き、し、て、あ、い、し、て、る」
依頼者は嗚咽を走らせてハンカチで顔を覆う。司会者も天井を向く。
「全員頭おかしいな」と遊山は首を横に降りながら言った。二人はアイスを食べていた。
「ありがとうございました…」と依頼者は席に戻る。
「で、では、少し秋人さまに、質問があるのですが、よろしいですか?」と司会者もハンカチで涙を拭きながら聞く。
「はい」
「シートと喋りが、あまり一致していないのですが、どういうことでしょう?」
「それは…死後の世界との霊能電波が悪いと、どうしてもなってしまうんですよ」
「嘘っぱちだ!」と桐崎は言う。
このあとも秋人は二、三人と話した。
無事に終えた秋人はプロデューサーから背中を叩かれた。
「よくやった秋人さん!」
「人を騙すのはいいもんじゃねえな…」秋人は自販機から取り出した缶のココアを包んで冷たい手を温かくしようとした。
「いや、よくやったよ。しっかり自信家なところとかね。危なかったけど目隠しはつけて正解だったと思う。あれのおかげで信頼性もグッと上がった。これなら月収一億は夢じゃないよ!」
「一億? そんな貰えるの?!」
「全国に名が渡って評価さえされれば普通にあり得る話だよ。君が見ている有名人はたいていそれくらい。もちろんできるだろ?」
「さあな。嫌になったら逃げるかも…」
というと、秋人の手にまた札束が乗った。
誰にも見られていないうちに裏ポケットに入れて、一人になりたいと彼はトイレに入った。
「コヨミ、出てこい」
「なに? 別れを伝えにきた?」
「またその話か?…」
二人は生放送前にも話をしていた。それらは田辺とアイスクリーム屋に行った事と、まだ彼が彼女に言ったことを一切反省していない事で喧嘩していた。
「何度も言うけど田辺は感謝してだし、あいつは食いっぷりがいいんだよ。見た目でわかるだろ。俺は人が食べてるのを見るのが好きって、忘れたのか馬鹿女」
「まだ反省していないね」
「もう聞き飽きたよ。それよりコヨミ、なんとか円滑に上手くことを運ばせたいからいい加減協力してくれ。そうすれば将来俺は経済とかに苦しまなくて済むぞ」
「今のあなたは苦しんだ方がいいと思う、私はね。あなたはかなり変わったわ」
「変わってなんかない!」
「ブランドものをつけれる限りつけてるのに? ジャラジャラ重くないの?」
「これは金があるからだよ」とネックレスを指で引っかけてぴーんと前に出す。
「生きる上で関係なくない?」
「いやあるね。この社会はどれだけブランドを背負えるかというのが競争としてあるんだ。女なのにそれもわからないのかね? ブランドはいわば、体力メーターなんだよ」
鏡にヒビが入り、その破片がまだ気づいていない秋人に飛んできた。ネックレスを切った。
「あ! おい馬鹿これじゃ…」秋人は急に萎縮して横になる。「力が…」
「考え過ぎなだけじゃん」
「いや、マジだぜ。このイカした純金ネックレスを治してくれ、多分ここ、今お前の世界なんだろ? そんな気がする。だっテ、急に…静かになりやガった!」
彼が言った通り、秋人は死の世界にある空間にいた。「いつからだ?」
「呼んだ時から。戻ればネックレスは元通りになると思う。でも秋人、ちゃんと考えてよ、欺瞞と傲慢は長続きしないこともね」
「社会はそれで成り立っている!」
「…次呼ぶときは最後でも、私はまだ見放していないから」
「だったら協力してくれよ…成功を維持するには君が必要なんだ…」
するとシートが目の前で落ちた。
「それを使えば本当の死者と交信が図れるかもしれないよ」と耳打ち。
秋人はシートを丸めて握りしめた。その狡猾な微笑みに貧乏に近かった彼の面影はもうない。
運転手付きのセンチュリーの後部座席で秋人は厚化粧と香水がきつい女に抱きつかれながら家に帰っていた。
玄関に立つと、横から襲撃があった。
「うわ!何すっだてめえェ!」秋人は拳を空中に放った。運良くそれが何かに当たった。肉があり、人だ!
「痛え!鼻が!」後ろに転げる桐崎の声。
「は! 桐崎? 何してんだここで?」秋人は落ちた高いサングラスをかけた。「うわあ壊れてる。また買えばいいか。何の用だ?」
「この詐欺師野郎! 馬鹿秋人! もうお前は昔の秋人じゃないのか!」
「ウッセー!」と秋人は桐崎に蹴りを入れようとした。が横から遊山がタックルをしてきた。「イッテェなあ…なんだよお前ら、凶暴な猿になりやがってヨォ!? トトぉ!俺ェを助けろォ!」
すると二階の窓から光る四つの目が、二人の頭にしゅんとかけ落ちると顔を攻撃しようとした。
「ぎゃー!」
「ぎゃー!」
二人は逃げて行く。
「へへ、ざまぁみな」秋人は立ち上がる。トトは彼の前で座って顔を見ていた。
「なんだよ、トト」
トトは少年の姿になった。
「なあ僕はずっと疑問だった。いったいその服は、どうやって着てくるんだ?…これは女に生理周期を聞くようなものかもしれないから、もう恩恵ということにしておこう。それが良い。…それに過去ほど馬鹿馬鹿しいものはないからな!」
トトに指を差したまま自分で納得して頷いていた。勝ち誇った顔をしていた。
「高いの買ってやるよ」
「ちょっと、変だよ?」
「変だって? どこが? この街は変な奴しかいないのに? お前だって猫になれるんだから例外じゃないぞ。わかったらさっさと家入ろう…」
トトは、秋人の開けた扉を通っていった。




