表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

誰も死なないデスゲーム 後編

 第二ステージでは完敗を期した。

 それでも諦める事無く運営側は第三、第四ステージにおいて、多種多様なゲームを参加者へと繰り出していく。

 しかし、参加者はどのゲームもいとも簡単に突破していった。

 当然の事如く、誰一人脱落せず、芽生えた友情が消える事もない。

 逆に友情は強くなり、参加者は一丸となってステージに挑んでいた。

 この想定外の状態に、運営側も限界が来ていた。


「もう……駄目だ……。どうしようもない……」


「主催者様、大丈夫ですか?顔色が良くないようですが……」


「まあ、大丈夫……とは言えないかな」


 ハッキリ言って、全てが想定外。

 全てが上手くいっておらず、状況は最悪。

 予定では最終ステージの人数は一桁代になるはずだった。

 それがまさかの全員生存。

 ここまで来ると胃が痛いとかそう言う次元じゃない。

 俺はもう心身ともに限界だよ。誰かこの状況をどうにかしてくれ。

 

 あー……なんかもうどうでも良くなってきた。

 デスゲームなんかやめて、家に帰ってゲームでもやろうかな。

 そう言えばこの間買った新作ゲーム。まだ序章しかやってなかったんだよな。

 よし、家に帰って新作ゲームをやろう。

 無駄に見ないテレビをつけて、お菓子を食べながらゆっくりやろう。

 デスゲームなんか忘れて、楽しい事をしよう。


「……お疲れのようですが、そろそろ最終ゲームを開始しなくて大丈夫なのですか?最強の殺人鬼の用意は一応済んでますが、直接何か伝えたりなどは……」


「え……いや……別に……あっ……あああああああああ!そうだ!最終ステージは殺人鬼を使うんだった!最強の殺人鬼を使うんだった!」


 最終ステージの内容を思い出し、思わず心の声が出た。

 それと同時に、一筋の希望が見えてきた。


 そう。最終ステージでは、最強の殺人鬼を使用する。

 この殺人鬼は我ら運営側が一年の月日をかけて鍛え上げ、作り上げてきた最高の殺人鬼。

 元は集団の中にいるのが死ぬほど嫌いなだけの、殺人願望のある少年だった。

 そんな彼に、俺たちは様々な事を覚えさせていった。

 2mを越える身長に、スイカをいとも簡単に握り潰せる握力。

 鍛え上げられた最強の肉体に、極められた殺人技術。

 そして、敵を仕留める事に特化した数多の武術など、本当に様々な能力を覚えさせてきた。

 その強さは強大で、世界最強と謳われる様々な武術家や戦闘狂を、8割の確率で撃破することが可能なほどである。

 まさしく、運営側の秘密兵器。

 この殺人鬼がいれば、参加者全員を脱落させる事も苦ではない。


 想定外の事態が起こりすぎたせいで、すっかりその存在を忘れていた。

 やはり、諦めなければ奇跡は起こるんだな。

 当初の予定では、最終ステージで一人を残し、参加者のほとんどを殺害する予定だった。

 しかし、ここまでコケにされて、もう我慢の限界だ。

 今回のデスゲームクリア者は無しにしてやろうじゃないか。


 最後の切り札を前に、一気に自信を取り戻し、職員に指示を出していく。

 そして、最強の殺人鬼に通話を繋ぐと、指示を伝え始める。


「もしもし、我だ!最強の殺人鬼よ、調子はどうだ?」


「うおおおおおおお!プロフェッサアアアアア!最高だぞおおおおお!」


「それは良かった!さて、殺人鬼よ!君にいい知らせがある!当初の予定では一人を残して、全員殺せとの事だったが、協議した結果。なんと……今回は参加者全員を殺して良いとの事になった!」


「えええええええ!本当かあああああああ!全員殺して良いのかああああああ!?」


「ああ、全員良いんだ!君なら出来る!頼りにしているぞ!」


 それだけ告げ、通話を切る。

 普段通り、調子良さげな殺人鬼の声を聞くと、安心感が爆増してくる。

 調子が良い時の彼の仕事は完璧だ。失敗した事は両手両足で数える程度しかない。

 これなら、大した問題は怒らないはずだ。


 肩の荷が下りたような気分になり、体の力を一気に抜く。

 思い返してみれば、第二ステージを突破されてから、飲み物一口も飲んでいない。

 気付くと無性に喉が渇いてくる。

 随分前に用意されたブラックコーヒーを手に取ると、全てを飲み干す勢いで喉へと流しこんで行く。

 不思議と苦みは感じず、美味しいとすら感じる。

 確実な勝利を目前としているからだろうか。

 そんな事を考えながらも、全ての準備が整ったのを確認し、最終ステージの会場へ、映像を繋ぐ。

 

「やあ、参加者諸君!ここまで良くたどり着けたものだな!一応は褒めてやろう!しかし、残念ながら諸君らはここで全員死ぬこととなる!最終ステージのゲーム内容を説明する!ルールは簡単。これから一時間、最強の殺人鬼から逃げきればいい!正真正銘ルールはそれだけだ!それでは……ゲーム開始!」


 突然の開始の宣言に、参加者は一気に騒めきだした。

 そんな彼らを待つことなく、無慈悲なゲームは開始される。

 会場の出口が大きく開くと、そこから鉄パイプを持った大柄の男が会場へと侵入した。

 そう、彼こそが最強の殺人鬼その人である。

 その不気味な雰囲気に、彼らが動けずにいると、その中から一人。

 大柄な中年男性が前へと出てきた。


「最強だか殺人鬼だか知らねえが……俺は柔道で茶帯を持ってるんだ!お前程度ぶっ倒してやる!」


「柔道うううう?柔道なら俺も出来るぞおおおおお!」


 そう叫ぶなり、殺人鬼は男へと駆け出す。

 想像以上の素早さに動揺しながらも、男はすぐさま戦闘態勢に入る。

 が、殺人鬼は彼をいとも簡単に捕獲し、大きく持ち上げると、彼を十数m先の壁に投げつけた。

 その衝撃の強さに、彼は苦しみ声をあげ、地面に倒れこんだ。

 大柄の見た目と反する想像以上の素早さ。

 大柄な男を軽々と持ち上げ、十数m先へと投げつける圧倒的力。

 人間をほぼ超越したとも言えるその力に、参加者は動揺し、動こうにも動くことが出来ない。


「ふっふっふっ……どうだあああああああ!これが俺たちの奥の手だ!見ろ、女職員よ!あの驚いた顔を!恐怖に怯える顔を!あのマヌケな顔を!」


「流石にあの殺人鬼には動揺を隠しきれないみたいですね」


「ああ、そうだ!だが、ここからだ!さあ、行け、殺人鬼よ!参加者全員を地獄へ送り出せ!」


 その声に応えるかのように、殺人鬼は参加者へと向かって行く。

 当然、参加者は怯え、一斉に逃げ惑う。

 その様子はまさしく地獄絵図。

 

 ふう……最高!

 あー、もう……最高!

 自分の作戦が上手くいくことが、ここまで気分が高まる事だとは思わなかった!

 本当にいろいろあった。思えば苦悩の連続だったな。

 初めてのデスゲームなのにも関わらず、全てが予想通りにいかず、デスゲームとは思えない雰囲気で進んで行った。

 ステージは軽々とクリアされ、誰一人として死なずに最終ステージまで来てしまった。

 ハッキリ言って、心が折れたこともあった。

 というか、少し前まで心は折れていた。

 全てが上手くいかず、デスゲームなんかやめて、家に帰ろうと思ったこともあったな……。

 

 長く、大変な一日だった。

 本当に……本当にここまで長かった……まあ、実際の時間は一日も立ってない訳だが。

 体感時間で言えば二日ほどたったような感じだ。

 だが……ここで終わる。全てが最高の状態で終わる。

 最強な殺人鬼によって、参加者は全員脱落し、デスゲームは終了するのだ!


「……主催者様。様子がおかしくありませんか?」


「え?おかしいって……何がだい、女職員よ。すべてが順調じゃないか!」


「いや、さっきまで逃げまどっていた参加者が、逃げるのを辞めて、殺人鬼を囲っているのですが……」


 そう言われ映像を見ると、確かに参加者は逃げるのをやめ、殺人鬼の周りに集まっている。

 何事かと思いながらも、その様子を眺めていると、突如として、参加者全員が殺人鬼へと駆け出した。

 突然の行動に動揺しているのか、殺人鬼は一瞬反応が遅れてしまった。

 その隙を突き、何度もゲームのクリアに貢献した、アホずらの男が殺人鬼から鉄パイプを奪い取った。

 そして、その鉄パイプで殺人鬼を全力で叩く。

 当然の事ながら、最強である殺人鬼には全く効いていない。


 殺人鬼はアホずらの男に対し拳を向ける。

 しかし、それを阻止するべく、他の参加者が彼へと襲い掛かる。

 驚きながらも、軽く参加者を投げようとすると、別の参加者が襲い掛かり、邪魔をする。

 次から次に参加者は襲い掛かり、殺人鬼の動きを封じていく。

 どうやら、参加者は数で対抗しようという考えのようだ。


「ふっ……無駄な事だな。いくら一般人が襲い掛かろうが、最強の殺人鬼の前では無力!そんな行動は無駄なのだよ!さあ、全てを蹴散らせ!殺人……あれ、え、殺人鬼?最強の殺人鬼?」

 

 殺人鬼の様子がおかしい。

 最初は参加者を蹴散らし、余裕があった。

 それが襲い掛かる参加者に捕まれ、身動きが取れなくなっている。

 しかし、彼の力なら一般人である参加者程度蹴散らせるはず。

 一体どうしたのだろうか。


「主催者様……これまずくないですか」


「え、何がだい、女職員よ」


「いや、そもそもとして、最終ステージにこんなに大勢が残るって予定されてないんですよ。予定では数人が残るとされていましたし、それもあって殺人鬼は対大勢向けではありません。対大勢になると、世界最強のボクサーレベルから、サッカークラブに通っている小学生並みに弱くなります。それに……彼が嫌いなこと覚えてませんか?」


「嫌いな事?何かあったか?」


「……たしか彼、集団の中にいるのが嫌いじゃありませんでしたっけ。それも死ぬほど」


「……確かにそんな事も言ってたな…………。対大勢に向いておらず、死ぬほど嫌いな状況下にある。あれ……これまずくね?」


「はい。まずいです」


 その言葉を聞き、最悪のシナリオが頭をよぎった。

 焦りながらも再び映像に目をやる。


 丁度その瞬間。

 一か所に集まっている参加者の中から、一人の男が抜け出し、出口へと超高速で走り出した。

 その男は大柄で、目から大量の涙をこぼしている。

 見るに堪えない姿になっているが、間違いなく殺人鬼であった。


「プロフェッサアアアアアア!助けてええええ!人が沢山で怖いよおおおおお!殴ってるのに人が減らなくて敵わないよおおおおおおお!」


「ちょっ……落ち着け最強の殺人鬼!お前は最強だ!お前なら出来るだろ……ちょ……殺人鬼聞いてる!?一回足止めて、話聞こうよ!殺人鬼くんんんんんんん!」


 言葉を聞くことなく、殺人鬼は会場を後にした。

 会場は少しの間静寂に包まれたが、すぐに参加者の喜びの声で包まれた。


「やった……やったぞおおおおおおおおおお!なんとかなったああああ!赤髪!お前の言った通り数で何とかなった!」


「ハッキリ言って賭けだった……全員が最後まで残ることを想定してなかった事を考えて、想定外である参加者の数をいかせば、想定外の事態に反応できないのではあと思ったが……上手くいって良かったよ!ヤンキーくんも武器を取るの良かったよ!」


「そうか?ありがとうな!」


 互いが互いを褒め合い、喜びを分かち合っている。

 泣き叫ぶ者もいれば、抱き合い、喜びあっている者もいる。

 信じられないほどに嬉しそうだ。

 それに比べて、俺の気持ちは最悪だった。


 ……だってさあ……想定外も想定外も想定外じゃん。

 まさか、こんな形で殺人鬼の弱点疲れるとは思わんやん。

 いやさ、殺人鬼の嫌いな事は把握してたんよ。

 だけどさ、最終ステージに来るのは数人の予定だったんよ。

 絶対に弱点がつかれる事はないと思ってたんよ。

 絶対にないと思ってたから、さっきまで頭から抜けてたんよ。


 それに、全員が一斉に襲ってくるとは思わんやん。

 あんな化け物目の前にしたら、全員恐れて、逃げ惑うに決まってるじゃん。

 全員協力して立ち向かうとか……お前ら全員勇気バケモンかよ。

 

 最悪だ……ここまで来たらどうしようもない。

 どんな手を使っても、参加者全員を脱落させる手が思いつかない。

 さっきの様子じゃ、殺人鬼もしばらく動けなさそうだもんな……。

 はあ……初めてのデスゲームだったのにな……。

 ワクワクとドキドキで昨日は眠れなかったんだけどな……。




 ……うん、今回ばかりは完敗だ。

 全て参加者に上をいかれた。

 潔く負けを認めよう。

 だが……負けを認めるのは今回だけだ。

 次は負けない。次こそは完璧なデスゲームを開催し、参加者を恐怖で苦しめてやる。

 楽しく、最高なゲームを作り上げてやる!


「女職員よ……今回のデスゲームは失敗だ。しかし……次は勝つ。次は完璧なデスゲームを開催し、俺たちが勝ってやるぞ!」


「……はい。そうですね。……しかし、その前に一つ越えるべき壁があります」


「ん?超えるべき壁って?」


「……この数の参加者の賞金……どします?」


「あ…………ふう……」


 全てを悟り、ゆっくりと振り返る。

 そして、一つの決意を胸に持つ。


 嫌な事忘れて、家帰ってゲームしよう!


評価が良ければ続くかも?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ