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誰も死なないデスゲーム 中編

 第二ステージの裏へ着くと、即座に指示を出し、第二ステージ開始の準備を進める。

 ステージの点検を手作業で行い、自作の機械の動作確認を行う。

 改めて至る所を確認していき、全ての準備が完璧であるか確認を取る。

 優秀な職員の尽力もあり、運営側の準備は数分で完了し、参加者側の準備を待つのみとなった。


 落ち着いて席に着き、カッコいいという理由だけでブラックコーヒーに口をつける。

 その苦みに顔が歪むのを耐えながら、数十グループに分けられた参加者の確認をする。

 予め指示していた通り、アホずらの男と赤髪眼鏡の男は同グループに分けられている。

 その事実を確認し、これから起こるであろう出来事に笑みを浮かべていると、参加者側の準備が整ったと報告が入った。

 全ての準備が整ったのを確認し、マイクを手に取ると、映像に目をやりながら説明を始める。

 映像には六つのレーンが映され、その内二レーンにはアホずらの男と赤髪眼鏡の男が映されている。


「さて、諸君らも位置に着いたようだな!これより、このステージのゲーム内容を説明する!ルールは単純!君たちはそれぞれ一直線のレーン上にいると思うのだが、そこを静かに、真っ直ぐ進み、無事にゴールに着けばクリアだ。えー?何故静かにだって?それはな。このレーンで大きな音を出すと、スタートから少しずつ足場が落ちていき、最終的にレーン全体が消え去り、そこにいる参加者は落下死してしまうからだ!ほら、テレビとかである後ろから足場が落ちてくやつだ!どうだ?怖いかー?」


 煽るように言葉を放つが、誰一人として反応しない。

 ここのセリフは結構頑張って考えたんだけどな……もっと反応してほしかった。

 いや、こんな事でめげるな俺。

 どうせこいつらはこれから地獄を見るんだ。

 頑張れ俺。

 

「さ、さらにだ!さっき言った音なのだが、もし同じグループの誰かが音を立ててしまった場合。連帯責任でグループ全員のレーンの足場を落としていく!つまり、諸君らは……あれだ、あれ……一進一退?全体一体?……まあ、忘れたからいい!取りあえずルールが分かったのなら、ゲームスタートだ!」


 ボタンを押すと、全てのレーンにゲーム開始の信号が入った。

 それと同時に、会場は静寂に包まれる。

 参加者は進み方は違えど、音を立てずにゴールへと進みだす。

 匍匐前進で進む者や、一歩ずつ慎重に進む者。

 赤ちゃん歩きで進む者や、数センチずつ進む者など様々。

 そして、全員は半分を突破した頃。

 ついに俺は動き、指示を出す。


「女職員よ。プランβを発動する。作業に取り掛かれ!」


「了解です!」


 そう答えると、女職員は手元のレバーを深く押す。

 すると、会場全体に「規定以上の音が発生したため、足場落下を発動します」とのアナウンスが流れると同時に、全てのレーンの足場が闇に消え始める。

 参加者は焦り、全員がすぐさまゴールへ駆け出す。


「ふっふっふっ……あの焦りようを見ろ、女職員よ!哀れとしか言いようがないな!」


「はい。しかし、良かったのですか?音を立てていないのにも関わらず、足場の落下を始めて……」


「良いのだよ。こうでなくては面白味がないからな!それに、これも第一ステージを全員突破したのが悪いんだ!」


「そうですか。それなら良かったです。しかし、この罠で脱落する人などいるのでしょうか。ハッキリ言って、落下速度は中々に遅いと思いますよ」


「確かにな。恐らくアホずらの男の様な青年は無事に済むだろう。しかし、年老いた老人はどうかな!同グループには八十代後半の老人がいたはずだ!あの老人は無事で済むはずがない!どれどれ……」


 そう言いながら会場の様子が映るモニターに手を置く。 

 画面に触れ、設定をいじりながら老人が映る映像へと画面を変える。

 そして、老人の様子を見ると、俺は思わず固まった。

 その衝撃的な映像に、石化したかの如く完全に固まってしまった。

 

 その映像には、落下する足場から逃げる老人の姿が映っていた。

 その老人は足場から逃れるべく、ゴールへたどり着くべく、全力で走っていた。

 それはもう信じられない速度で。


 以前、テレビで見た事があるオリンピックの100m走。

 そこで走っていた世界各国の足が速い猛者たち。

 その猛者たちと同レベル。

 いや、その猛者たち以上の速度で走っていた。

 これまで生きてきた中で、これほどまでに速い人類は初めてだと言っても過言ではないほどの速さ。

 速過ぎて、高性能なカメラを使っているのにも関わらず、映像がぶれっぶれになっている。

 その様子に衝撃を受けすぎて、全く体が動かない。


 いや……人間じゃないだろ。

 だって……超老人だぞ。

 何であんな速さで走れるんだよ。

 世界一の走りをテレビで見た事があるが、それ以上の速さに思えたぞ。

 あれ、本当に人間か?間違えて化け物一人混ざってないか?

 だって……え……ええ……えええ……?

 元陸上選手だったりするのか……いや、それでもあの速さは異常だって。

 だって、あんなのチートじゃん。最強チートじゃん。


 駄目だ。衝撃過ぎて体が動かない。

 驚きすぎると人って動けないんだな。初めて知ったわ。


「……あの、主催者様。どうやら全員が無事にゴールに到着したみたいです」


「え、あ……あ、ああ!そ、そうか。それなら全員を同じ部屋に……」


「ゴール先は同じ部屋に繋がっているので、既に全員が同じ部屋にいます」


「あ、ああ、そうだったな」


 予想外の連続。衝撃的な映像。

 緊急事態の連続で、相当混乱しているのが自分でも理解できる。

 このままでは、確実に状況は悪化する。


 落ち着きを取り戻すべく、一度席を立ち、体の力を抜く。

 大きく息を吸い込み、全力で息を吐く。

 その作業を数回繰り返したのち、再度元の席へ着いた。

 深呼吸のおかげか、多少冷静さを取り戻せたように感じる。


「よし、もう大丈夫だ。まあ、ハッキリ言ってここで死のうが死ぬまいが、大した問題じゃない!俺の狙いはここからなのだ!見てろ、女職員!俺の予想通りなら、この後こいつらは喧嘩をする!誰が音を立てたのかという理由でな!そして、仲違いし、裏切り行為が始まるのだ!」


 そうだ。重要なのはここからだ。

 誰かのせいで死にかけたんだ。

 確実に全員が腹を立て、怒り狂っているに違いない。

 一先ず誰が犯人かを捜す事になるだろうが、当然の事ながら誰一人として名乗り出ない。

 それもそうだ。何故なら音は出ていないのにも関わらず、俺たちが勝手に足場を落下させ始めたのだからな。

 しかし、そんな事を知る由もない彼らは犯人捜しを続け、それと同時に憎悪も増加していくはずだ。

 そうなれば、何もしなくとも互いの友情は消えさり、互いに疑い、裏切りあう事となるはずだ。

 さあ、参加者ども!俺たちの手の上で踊り狂うが良い!


 心の中でそう叫びながら、画面の設定をいじり、会場の声がより聞こえるように設定をした。

 すると、会場から怒りの声が聞こえてきた。


「おい、いい加減に白状しろよ!こんなかの誰かが音を立てたせいで死にかけたんだぞ!いい加減に名乗り出ないとぶち殺すぞ!」


 その予想通りの怒りの声に、今日一番の安心と喜びが胸を包み込んだ。 

 どうやら怒り狂っているのはアホずらの男。

 予想通りの人物が怒っていたことにより、より一層喜びの感情が湧き上がってくる。


「落ち着いてよ!みんな生きてるんだし、良かったじゃない!」


「黒髪女さんの言う通りだよ。みんな生きてるんだし、今はそれを喜ぼうよ」


「うるせえ、赤髪に黒髪女!そんなこと言ってるお前らこそ犯人なんじゃないのかよ!」


 アホずらの男よ……お前は最高だ!

 数刻前までは最悪の奴だと思っていたが……お前はやっぱり最高だ!

 全て俺が求める言動をし、その場を荒らしまくってくれる。

 俺の想像した通りのヤンキーキャラになりつつある。

 デスゲームテンプレの展開が作られつつある。

 お前は本当に……俺の自慢の参加者だよ!

 さっきは悪口思ったりしてごめんな!

 俺はお前が大好きだ!

 この調子でどんどん場を荒らしていけ!

 

 そう思った直後。

 ヘッドホンを付けた女性の参加者が口を開いた。


「……ねえ、うるさいから黙ってくれない?」


「……は?黙ってって……今そんな状態じゃねえんだよ!この中の誰かが嘘ついてるかもしれないんだぞ!」


「……よく考えてみてよヤンキーくん。これはデスゲームなんだよ?それにしてはさっきのゲーム、簡単すぎると思わない?音を出さなければよくて、時間制限がない。デスゲームでそんなゲームをい出すなんていくら考えてもおかしいでしょ。それなら何でそんな簡単なゲームにしたのか。考えうる理由は一つ。このゲームには裏があった」


 ……いや、ちょっと待って。

 なんか一人の参加者が説明を始めたんだけど。

 それもなんかめちゃくちゃ分かってる風なんだけど。

 嫌な予感しかしてこないんだけど。

 既に簡単すぎるとか、裏があったとか言ってるし、この後のセリフが怖すぎるんですけど。


 え、大丈夫だよね?

 流石に作戦がばれていたりしないよね?

 え、流石にそこまで頭回ったりしないよね?

 だって、さっき他人のミスで死にかけたんだよ?

 誰しも頭に血が上って考えがまとまらないはずだよね?

 大丈夫だよね!?!?!?


「……裏っていったいなんだよ」


「私の推測だと、装置が作動し、足場が落下し始めたのは音が鳴ったからじゃない。運営が勝手に機械を操作し、そうなるように仕向けたんだと思う。理由はおそらく二つ。一つはそれにより脱落者を出す事。二つ目はこうやって言い争いをさせて、仲違いさせて、疑心暗鬼にさせるため。推測ではあると思うけど、間違ってはないと思うよ」


 うわー、全部言われた。全部推測されてた。

 もう……最悪だよ。

 今完璧な流れ来てたじゃん。

 このまま仲違いして、俺たちの思うがままになる流れだったじゃん。

 それを軽く説明するとか……お前は鬼かよ。


 いや、確かにいるよ、こういうキャラ。

 頭が良くて、運営の考え全てを見透かしているキャラいるよ。

 だけど駄目じゃん。出てきたらダメじゃん。

 ここで出てきたら運営側のメンタル。と言うか俺のメンタルが崩壊しちゃうって。

 何なんだよ畜生。最悪の気分だよ。


 てかどうするよ。さっき自信満々でこの後起こる事説明しちゃったよ。

 女職員に超ドヤ顔で説明しちゃったよ。

 途中までは良かったけど、途中からは全てが外れて残酷な結果になったよ。

 俺もう顔上げられないよ。

 恥ずかしすぎて俺もう二度と女職員の顔見れないよ。

 言葉を交わす事すら出来ないよ。

 もう最悪だよ……。


 いや、だがまだだ!

 アホずらの男が話を信じるとも限らないし、信じたとしても普通に謝るとは思えない。

 あそこまでキレていたんだ。ここで引いて謝ったりは出来ないだろう。

 恐らくは逆ギレし、雰囲気は最悪になるはず。

 というか、そうなってくれ!


「……確かにそうかもな。いや……絶対そうだ。じゃあ俺は……みんな、ごめん!」


 そう叫び、金髪の男は両膝を地面に着き、深々と頭を下げた。

 見事なまでの土下座。その様子から察するに、彼が深く反省しているのは明らかだ。


「え、いや、落ち着いてよヤンキーくん!今の状況じゃ疑うのは仕方がなかったって……あたしだってヘッドホンちゃんがいなければ、分からなかったしさ!」


「いや、今回は俺が悪った!あと少しで、俺のせいで大変な事になるかもしれなかった!本当にごめん!ヘッドホン女も、本当にごめん!んでもってありがとう!お陰っで助かった。この恩は必ず返す!」


「別にいいよヤンキーくん。失敗は誰にでもあるし、困った時はお互い様でしょ」


「ヘッドホン女……まじでありがとう!」


 そう言いながら、彼は地面に頭を擦りつけ、深く謝罪をした。

 

 ……いや、まあそんな気はしてましたよ。

 ここまで流れ最悪なんだから、予想通りにはいかないと思ってましたよ。

 滅茶苦茶深く土下座してるし、滅茶苦茶謝罪してるし。

 他の参加者も嫌な顔一つせず、許してるし。

 何これ、優しい世界過ぎるだろ。


 あれ、これってデスゲームだよね?

 デスゲームってもっとこう……ギスギスしてて、人間の悪い所が出まくるゲームだと思うんですけど。

 もっとこう……自分の身を守るために、他の参加者は引きずり落とすような、そんなゲームだと思うんですけど。

 何これ。本当に俺デスゲームやってるのかな。

 間違えてゆるゆるゲームやっちゃってないよね。


「……あの、主催者様。次のグループの参加者が待っているんですけど」


「え、ああ、そうだな。……いや、そうだよ!参加者はこいつらだけじゃなかったんだ!そうだ……きっとこいつらがおかしいだけで、他の奴らは大したことないはず……。女職員よ!すぐさま次のゲームを始めるぞ!」


「了解しました」


 そして、次々にグループを入れ、ゲームを始めて行く。

 しかし、どのグループも思い通りに行くことはなかった。

 基本的なグループはそもそもとして言い争いは起きず、攻める事もしない。

 ただ、生きていることを喜び、誰がミスをしたかは問わず、気にしないように互いを励まし合う。

 

 言い争いが起きたとしても、運営の策略だと気づくか、優しそうな参加者が自分がやってもないのにも関わらず、自らのミスだと言い、全力で謝罪をした。

 言い争いによる仲違いを避けるためや、実際にミスをした者を庇うためなど理由は様々だが、一貫して他人のために行っている。

 日常生活ならともかく、命が掛かったデスゲームでこのような行動を起こせるものは善人と言って相違ないだろう。

 

 最終的に全グループがゲームを終えた頃。

 その時点において、死亡した参加者は0名。

 仲違いを起こし、険悪な状態にあるグループは0グループ。

 参加者全員完全に無事な状態での第二ステージ終了となった。

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