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【ダーク】な短編シリーズ

午後9時から午前5時まで診察します! みかづき診療所

作者: ウナム立早


「ああ、疲れた……」


 電車から降りた人の波に流されるようにして、駅の構外に出たわたしは、思わずそんな言葉を漏らしていた。


 今日は金曜日の夜で、明日から週末……だというのに、体の奥からにじみ出てくるどうしようもないだるさと、頭の中を包み込むモヤモヤとした不安に、わたしは支配されている。ここ数か月、いつもこんな状態だ。


 どうにもやりきれず、帰り道で自分の生活習慣を省みてみる。年齢はまだ二十代後半、酒はほどほど、タバコは吸わない。休日はほぼ週に二日とれていて、たまに残業することはあっても、勤務時間はそれほど長いわけじゃない。ごくふつうの、いや、わりと良い待遇のほうの会社員と言える。結局、体調を崩す要素なんて、まるで無いというのがわかるだけ。


 だからこそ、何だか自分が情けない人に思えて、心まで沈んでいってしまう。今度の週末も、自宅でだらだらと過ごすことになるのだろうか、わたしはまだ若いのに、そんな生活でいいのかと、不毛な自問自答が繰り返されていく。


 こんなにしんどい状態が続くなら、どこか診療所クリニックで診てもらった方がいいのかなとは思うけど、ただ怠いというだけで、有給をとって治療を受けるのも大げさな気がするし、土日に診察をしている所なんてここらへんには……。


 そんな事を考えながらビル群の間をとぼとぼ歩いていた時、一つの看板が目についた。その看板は眩しいぐらいの白い光を放ち、表面には大きく、『みかづき診療所』と記されていた。


 わたしは思わず時計を確認する。今は午後9時20分、深夜に差し掛かっていると言っていい時間帯だ。


 こんな時間に開いている診療所がある? それとも、単に看板の電源を切り忘れているのかな?


 疑問とともに、不思議なくらいの好奇心が湧いてきた。そのままわたしは、蛍光灯に誘われた羽虫のように、診療所のある雑居ビルの入口へと向かっていった。


 入口にある総合案内インフォメーションを確認すると、3F、みかづき診療所、月・火・水・木・金、午後9時から翌5時まで、土・日、休診、とあった。


 ホントに開いてるんだ! しかも朝の5時までやってる!?


 驚きとともに、ビルの入り口のほうに顔を向けてみると、ちょうどその診療所のポスターが自動ドア近くのガラス戸に貼られていた。


『忙しい現代人のためのスピード検査、スピード診察。お仕事の後でお疲れのあなたにも親身に対応します。予約制ではありませんので、初診の方もお気軽にご相談ください。午後9時から午前5時まで診察します! みかづき診療所』


 ポスターにはだいたいこのような内容が書いてあった。


 もしかしたら、この診療所はわたしみたいな人をターゲットにしているのかも。それにしても珍しいな、大都会でもこういうの、なかなか無いんじゃないかな。どうせ今夜はヒマなんだし、試しに行ってみようか。


 ますます興味をそそられたわたしは、そのまま雑居ビルに入り、エレベータに乗って診療所のある3階へと向かっていった。


 3階に到着すると、眩しいぐらいに白一色の空間が目の前に広がった。その空間に切って貼りつけたように、クリニックの所在を示す立て看板と、入り口のドアとが並んでいた。


 ドアをそっと開けて中に入ると、そこも白をベースにした、清潔感のある内装だった。


「こんばんは。初診の方でしょうか?」


 横から女の人の声が聞こえてきたので、振り向くと、受付と思われる場所に人が座っている。


「あ、はい、初診、なのですが……」

「それでは、まず保険証の提示をお願いいたします。それから、体温の測定と、問診票へのご記入が必要となりますので、あちらの待合室でお書きになって、そのままお待ちください」


 丁寧な応対に、わたしの心も自然と落ち着いていく。思ったよりまともな診療所みたいだ、それに保険もちゃんと効くようだし。


 待合室のソファに座って、体温計を腋に挟みながら、問診票を書いていく。特に持病や飲んでいる薬なども無いので、記入はあっさりと終わってしまった。呼ばれるまでの待機時間は、待合室のインテリアを眺めて待つことにした。


 待合室も清潔さは保たれているようだけど、テレビは無く、なんだか全体的に古めかしい。歴史の教科書に載ってそうな肖像画が壁に並び、本棚にはコミックや雑誌の類は無く、背表紙に英字の記された本が半分以上を占めている。あとは、なんか、レコードプレーヤーとか、蝋燭の燭台とか、少し錆びた色合いの甲冑とか……ここの院長先生の、趣味なのだろうか?


津千田伊織つちだいおりさん、診察室の前にどうぞ」


 だいたいの観察がすんで、スマートフォンに手を伸ばそうとしたときに、タイミングよく名前が呼ばれた。


 受付の人に問診票と体温計を渡し、診察室の前の椅子に座る。しばらくすると診察室から男性の声が聞こえてきた。


「津千田さん、診察室へどうぞ」


 落ち着いた感じのする声だった。診察室に入ると、そのイメージ通りの先生が、パソコンデスクの前に座っていた。


 白髪交じりの頭髪に口ひげ、目元のシワと深い眼差し、年齢を重ねた印象が所々にあるものの、清潔に整えられた顔と白衣には、なんだか貴族の人のような気品を感じさせた。


「どうぞ、お掛けになってください」

「あ、はい」


 勧められるまま、私は近くの丸椅子に腰かけた。


「失礼します、院長」

「うむ」


 白い仕切りの影から看護師と思われる人がやってきて、先ほどわたしが書いた問診票が手渡された。風貌からしてそんな気はしていたけど、やはりこの人は院長のようだ。院長先生は問診票に目を通しつつ、パソコンのキーボードを叩きながら、診察を始めていった。


「体のだるさと……、心に不安な気持ちがあるようですな」

「は、はい、そうなんです」

「症状があるのは、2、3ヶ月ほど前から?」

「えっと、それぐらいからだと思います」

「3食はきちんと食べている、夜はしっかり眠れている、ふむ……」

「……」

「体温計の数値が若干高い、ようですが、今までに目立った発熱はありましたか?」

「発熱、えーと、なんか……熱っぽいなと思ったことはあります。ここに来るまで、実際に測ったりはしてないんですが」

「なるほど……」

 ……


 診察はスムーズに進んでいった。そろそろ診察が終わるかなとわたしが思い始めた時、院長先生は少し間を置いて、ある提案をした。


「そうですね、お話を聞いている限りだと、どうも鉄分不足が原因で、貧血症になっている可能性が高いようですが……少し採血をして、詳しく調べてみましょうか?」

「えっ、採血……ですか?」

「ああ、ご心配なく、当院では独自の方法で採血と血液検査を行っておりまして、ほんのわずかな採血量ですみます。採血中に体調が悪くなることもほとんどありませんよ」

「は、はあ」

「検査の結果も、5分から10分程度で、だいたいの事はわかりますので」

「そんなに早く結果が出るんですか!?」

「いかがです? すぐに終わりますので、一度試されてはどうでしょうか」


 わたしは少しの間、悩んだ。そんなに早く結果が出る血液検査なんて、今まで聞いたことがない。社内の健康診断でも3日はかかっていたはず。しかし、夜も遅く、そもそも帰宅途中だったわたしにとっては、少しの間待つだけで自分の不調の正体が少しでもはっきりする、というのは、とても魅力的な話に思えた。


「わかりました。採血と検査を……お願いしてもいいでしょうか」

「かしこまりました。少しの間準備をしますので、ベッドで横になってお待ちください」


 診察室の白い仕切りのむこうの、ベージュ色のカーテンに囲まれたベッドに案内された。わたしは、言われた通り横向きになって待機していた。


 しばらくすると、カーテンを開けて、看護師の人と院長先生が入ってきた、看護師は何かアイマスクのようなものを持っているけど、採血をするような器具は特に見受けられなかった。


「採血前にお伝えしておきますが、当院では首から採血を行う方法とっておりまして、少しの間、アイマスクを装着してもらいます」

「えっ!? 首から、採血するんですか?」

「ええ、首の、肩に近い方の部分で採血します。わずかな時間で済むのですが、緊張して筋肉が固まるとうまくいかない場合があるので、処置が終わるまでの間、アイマスクを着けて、できるだけ外部の情報を遮断する方がいいのです」


 困惑するわたしの表情を察したのか、院長先生は穏やかな、気品ある微笑みを浮かべて、こう言った。


「そう心配なさらないで、私はこの方法を、これまでに何千回とこなしてきました。一切の苦痛なく、終わらせることを約束しましょう」


 その微笑みを見ていると、わたしの心は、なんだか催眠にかかったような、不思議な安心感で満たされた。


「よし、落ち着かれたようですな。ではさっそく、始めましょうか」


 看護師が近くにやってきて、私の顔にアイマスクを取り付けた。視界はすっかり闇に覆われ、外の様子は全くわからなくなってしまった。


 誰かが、横になっているわたしの頭と、肩とを優しく押さえている。


 誰かが、わたしの首筋に、ゆっくりと近づいてくる。


 わたしの心臓が、静かに、トクトクと鼓動を響かせているのを感じる。


 そして、首の付け根あたりに、何か尖ったものが突き刺さる。


 首から、液体――たぶん血だと思う――が、滲み出てくるような不快感を覚える。


 その後すぐに、首にテープのようなものが貼りつけられ、首の不快感は消えていった。


 終わった、のかな?


 そう思った時、先生の呟き声が耳に入った。


「うむ、やはり鉄欠乏性の貧血か。しかし、わずかに粘り気があるな――」


 聞いている途中で、わたしの顔からアイマスクが取り外された。目の前には、先生に付き添っていた、看護師の姿があった。


「お疲れさまでした。採血が終わりましたよ。今、院長が検査をしているところですので、少しの間、診察室でお待ちください」


 それから、診察室の丸椅子に座って待機していたが、本当にものの数分程度で、先生が検査結果が出ましたよと言いながら戻ってきた。先生が持っていた紙には、手書きで英語のような文字と、プラスとかマイナスとかの記号が記されているようだった。


 その紙をパソコンデスクの上に置いて、先生は言う。


「お待たせしました。さっそく検査結果ですが、血液中の鉄分が不足しておりますので、貧血の症状が出ているのは間違いないでしょう。それと、どうやら細菌かウィルスに感染している可能性があるようですな、感染症の時にみられるタンパク質が、わずかに出ています」

「ええっ!? 感染症? 食中毒か何かですか?」

「いえ、吐き気や下痢がないようですので、おそらくは風邪……の初期の段階だと思われます。いわゆる風邪気味という状態でしょう」


 大事ではなさそうなので、わたしはほっと一息をついた。


「これから風邪の症状が強くなる可能性がありますので、鉄分を補給するお薬の他に、念のため、総合風邪薬を処方しておきますね。気分の不調もお有りのようですが、これは体力の消耗が一因となっているかもしれません。とりあえず一週間ほど様子を見て、またこちらにいらしてください」

「わかりました。ありがとうございます」


 様子見という形にはなったものの、不調の原因がある程度わかったのは収穫だった。わたしは感謝の気持ちで先生に礼をした。先生も穏やかな笑みを浮かべつつ、わたしに会釈をしてくれた。深夜だけ診察をしているクリニックなんて、どんな先生がやっているんだろうと思っていたけど、いい先生で本当に良かった。


「津千田さん、お待たせいたしました。お薬の準備もできましたので、こちらでお会計をお願いします」


 診察が終わり、待合室でスマートフォンをいじりながら待っていると、受付から名前を呼ばれた。ここのクリニックは、診察後に薬も一緒に出してくれるみたい。まあ処方せんを薬局まで持っていって薬をもらうよりは、こっちの方が楽でいいんだけれども。


「受診予定は来週となっておりますが、特に予約のお電話などは必要ありませんので、ご都合のよろしい時にお越しになってください。では、お大事に」


 支払いを済ませたわたしは、受付の人に礼を返しながら、診療所を後にした。ビルから外に出ると、まだ夜の10時前という頃合いだった。


「先生の言う通り、この薬、飲んでみようかな」


 私はそう呟きながら、薬と明細書の入った袋をバッグに入れる。


 その時に、なんとなく、採血された自分の首を触ってみた。


 あれ?


 肩口から首の付け根まで何度か撫でて、ようやく違和感の正体に気づく。


 絆創膏が2つある……?


 採血の後で出血を止めるために貼られる、あの小さな四角い絆創膏が、首筋に2つ貼られていたのだ。


 いつの間にか、2回も採血されていたのだろうか? それとも、看護師の人のミスだろうか?


「まあいいや、とにかく来週、また行ってみよう」


 少し気味の悪さを感じたものの、わたしはそう独り言ちて、自宅に向かって歩き始めた。帰宅の途中、頭の中には、あの院長先生の穏やかで上品な微笑みが浮かんでいた。




********




「先生! すごい効果です! しんどくて辛かった時のことが、嘘みたいですよ!」

「ほっほっほ、それは良かった」


 院長先生の前で、わたしは子どものようにはしゃいでいた。それだけ効果があったことを、先生に見てもらいたかったのだ。


「貧血の方はもう大丈夫だと思いますが、念のため、今回も採血をしましょう。よろしいですかな?」

「はい、できれば今後もずっと、採血をしてもらいたいぐらいです!」


 わたしの勢いに押されたのか、先生は少し苦笑いをしているようだった。


 今回の受診でちょうど10回目だろうか。わたしの体調は受診するたびに良くなっている、その実感がある。毎週の通院も、今ではほとんど気にならなくなっている。


「それにですね、先生。なんだか最近筋肉もついた気がするんです! 今まで持てなかった重いものも持てるようになって、同僚たちがビックリしてましたよ!」

「ははは、それはさすがに、気のせいかもしれないですな。他に何か、気になったことはありませんか?」

「体調のほうは、問題ないんですけど……」


 ちょっと声の勢いを落として、わたしは続けた。


「なんとなくですが、光、特に日光に弱くなった気がしますね、少しの光でも、眩しさや眩暈めまいを感じることがあります。それと、時々ですが胃もたれすることがありますね、特に、脂っこいものは食べていないんですが」

「ふむ、そうですか」


 先生は少し顔をうつむかせて考えた後、優しい口調で語りかけた。


「詳細はまた検査結果が出た後にお話ししますが、今日のお薬には、日光への抵抗力を上げるお薬と、ニンニク……とか、タマネギなどの野菜を、消化しやすくするお薬を追加しておきましょう。この薬でたぶん、先ほどおっしゃられた症状は改善するはずです」

「本当ですか! ありがとうございます!」


 今のわたしは、院長先生を全面的に信頼している。こんな素晴らしい先生が出してくれる薬なんだ、効かないはずがない。


「それでは、今回も採血の準備をしますので、いつものように、ベッドで横になってお待ちください」

「はい、よろしくお願いします、先生!」




********




「失礼します、旦那様」

「うむ」


 私はいつものように、食後の一杯を入れたボトルと、小さなグラスをトレイに乗せ、リビングへ入室した。リビングでは、食事を終えた旦那様がソファでくつろぎながら、1枚の用紙を眺めていた。


「今月も、新規患者が増えているようだな。継続して通院している患者も、そろそろ20人になる」

「はい、これも、旦那様の豊かな経験と、魅力カリスマの賜物かと」

「世辞はよい。我輩といえど、医師としてはまだ半端者だ。それよりも、3日前の患者たちの、正確な検査結果はどうだったのだ?」

「はっ」


 私は内ポケットからタブレット端末を取り出し、患者の血液検査データを表示しながら言った。


「今回の分も、旦那様の所見と、実際の検査数値との相違は見られませんでした。お見事でございます」

「そうか、安心した」


 旦那様の険が綻ぶのが感じ取れて、私も思わず頬が緩む。


いでくれ」

「かしこまりました」


 私はボトルの中身を、ゆっくりとグラスへ注いでいった。グラスの下半分が、たちまち赤黒い液体で満たされる。


 旦那様はグラスを手に持つと、まず一口含み、しばらく味わってから飲み込んだ。


「やはり、冷蔵のものは味が落ちるな。多少病んでることもあるとはいえ、直に飲むのが一番だ」

「左様でございますね」

「それにしても、故郷の城を捨てて日本に移り住んで、もう何年にもなるのだな。あの時は、自害すら考えたものだが……」


 旦那様は壁に掛けてある、かつての居城の写真を、しげしげと見つめていた。


「……私も同じ思いでございます。旦那様のように住処すみかを追われ、世界中に散り散りになった同族のことを思うと、胸が痛みます。ですが、我々がうまく人間社会に溶け込めたのは、旦那様に特殊な能力があったからこそです」

「よもや、何百年にも渡って人の血を吸い続けていたことが、こんなところで活かされるとはな。わからぬものだ」

「世界中の同族を探しても、旦那様のように血を味わうだけで不調や病気がわかる方はおりますまい。長年の経験の賜物でございましょう。これなら、機械による煩わしい検査などしなくても、遥かに短時間で終わり、すぐに結果がでる。夜だけしか診察しないとはいえ、人間の患者が増えてきているのは、至極当然のことではないでしょうか」


 私はあらん限りの言葉で褒めたたえたが、旦那様は少々渋い顔をしていた。


「利益が出るのは良いことだが、目立ちすぎるのもいかんな。我々の素性が外部に知られたら、この診療所も放棄せねばなん。そろそろ、新規の患者を減らすべきかと思うのだが」

「確かに、このまま患者が増え続けるのは問題ですね。とりあえずは、ビルの入り口近くに貼ってある宣伝ポスターを取り外しましょうか……」


 バン!


 会話の途中で、リビングの扉が勢いよく開かれた。


「院長! ……いや、旦那様」


 扉の方を振り向くと、受付で書類の整理をしていたはずの従者が、医療事務の姿のままで入ってきた。


「どうしたのだ! そんな恰好で、旦那様の御前だぞ!」

「かまわぬ、わけを話せ」


 従者は、深く礼をしつつ報告した。


「お休みのところ申し訳ございません、旦那様。通院患者の里川さとかわさんがいらっしゃってまして、どうしても先生に診てもらいたい、採血してほしいと訴えているのですが……」


 旦那様は額に手を当て、項垂れつつ答えた。


「やれやれまたあの娘か。どこの国にも、放蕩娘は居るものだ。おおそうだ、あの娘には診察のついでに、わが診療所をツイッターやインスタグラムで無闇に宣伝しないよう、ちゃんと言っておかねばならぬ」


 ソファから立ち上がった旦那様を遮るように、私は言葉を発した。


「失礼ですが、旦那様、今はもう朝の6時です。旦那様はここ数日、診療時間を越えて働いているではありませんか。早く棺桶でお休みにならないと、お身体に障りますよ」

「心配せずともよい、もともとこの診療所は、日光が入ってこないように設計されている。それに扉の向こうで待っているのは、我輩の愛しき従者の一人だ。粗末に扱うわけにもいくまい?」


 そう言って旦那様は、黒づくめの上着を脱ぎ、コートハンガーに掛けてあった白衣を身に着けて、診察室へと向かっていった。



-END-



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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