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深夜のダブルベッド三人利用その三

  問題とも言えない問題を解決するためには、まずもってロボット族と人間と魔物の夜の営みにおいての暴力性と狂気、そして醜悪さについて語りあかし考察する必要性がある。


「そうなん?」


  シズクの主張をモネは力んで疑っていた。


「ただ単に、アクアのユーザーが何かしらの事情かなんか知らんけど約束すっぽかしただけとちゃうん?」


  それはどうだろう? とさらに疑いを重ねてくるのはアンジェラの喉元だった。


「そうだとしても、六年ほど前までならまだロボット族の個人の権利は世に浸透しとらんはずやし、ユーザーはともかくオーナーが放置ってのはおかしいんじゃなかろうか?」

 

  へえ、と知らぬ知識に驚きの声をつぶやく、男性の肉声。


「んる」


  シズクが振り返ると、そこにはラブホテルの受付係の男性が佇んでいた。


「あ、受付の方」


  シズクが特に驚く素振りを見せないで、相手を真っ直ぐ視界の中に認識、それだけを実行している。


  そういえば、まだ自己紹介すらもしていない、名前も教えていない。


  ということに気づく。

  気づいてるあいだ。


「きゃー?!」


  アクアがまた悲鳴をあげていた。

  先程の血濡れの美少女たちを見つけた時よりも、もうすこし、冷静さを保つことに成功した。

  そんな悲鳴の後、アクアは近くにいるシズクに質問をしている。


「ねえねえ、可愛い子ちゃん」

「ぼくの名前はシズクです」

「ねえ、シズクちゃん」


  アクアは、受付係の彼を指さす。


「あの、ハロウィーンのお化けの仮装みたいな格好をしたのって、あれもあんたのお仲間さん?」


  少なくとも、彼女は彼が決して待ち人のそれでは無いということは理解出来ているようだった。


  とりあえず、アクアを中心にダブルベッドを囲むような姿勢になる。


  アクアの主張によれば。


「だってお兄さん、既婚者でしょ?」

「んるる?!」


  アクアにぎゅっと身を寄りかかられているシズクが、彼女の重さを支えつつ喉を短く鳴らして驚いている。


「そうなのですか」

「あ? ああ、うん、そうだが?」


  紛うことなき事実であるため、彼はただ頷くことしか出来ないでいる。

  だが頷く、と言ってもシズクのように相手を不躾レベルで凝視できるようなタイプでもない限り、彼が肯定の意を首の些細な動作で表したことにはなかなか気づけないだろう。


  なぜなら彼の体は謎めいていた。

  真っ白なベッドシーツのような布を頭から被り、せめてもの誤魔化しと言わんばかりに目元部分だけふたつの小さな穴を開けている。

  まさしく、アクア嬢が表現した通り。

  ハロウィーンにふさわしき、というよりそれ以外の日付にはおよそ受けいられないであろう。そんなファッションをしていた。


「好き好んでこんな格好しているわけがないんだけどな」


  それはそうでしょう、とぼやく彼にモネは同意をしたくなる。

  どう見ても不審者。

  とても社会常識に組み込めるような風体をしていない。


「とは言うものの」


  アンジェラは冷静に考える。


「こげなクソゲーじみた世界で奇抜なファッションもあらへんじゃなか?

  むしろうちらこそもうちょっと攻めたオシャレせんといけんような気がしとるのに。

  ほら、もうちょっとアホみたいに胸の谷間強調したドレスきて公園の公衆トイレ使うくらいの気概見せんと」

「いいですね」シズクが想像力の中でウキウキとしている。

「せっかくなので地域のゴミ拾いにも参加してみましょうよ」

「えー……っと、お嬢さんがた?」


  キャッキャウフフしているアンジェラとシズクのふたりに、お化け姿の彼が冷たい視線を向けてきている。


「状況はアホみたいにくだらないけれど、こちらとしては割と本気で助けて欲しいんだ」


  助けて、と聞いた。

  言葉を聞いた。魔法使いたちは返事をする。


「仕事の依頼として認識しても宜しいか?」


  モネが、眼帯に隠されていない方の左目で彼のことをじっと見る。

  警戒心を抱かれていることだけ、それ以外は特になんの感情も含まれておらず、つまりは次の選択肢でいくらでも行動の方向性が変えられる。


  そんな状態で身構えられている。

  彼は、あくまでも一般的思考の割合が強めの彼は、魔法使いとの取引に声音を硬くしている。


「ああ、まさか、このタイミングで魔法使いが、しかも魔物側の魔法使いが三びきも現れてくれるなんて」


  彼は、お化けの姿でもわかりやすいくらいに天井を、その向こうにある星空を見上げる。

  崇めている。

  どこかにいるかもしれない神様のような、運命が極々稀に見せる異常な慈悲深さについて。


「毎日毎日、祈れど、何も無かった日々が、唐突に全部否定されたような気がするよ」


  助けを求めておいて、それを否定する。

  矛盾、だがそれについて魔法使いたちは取り立てて拒否感を表さなかった。


「時間の経過はあらゆる願望に全て累積します」


  シズクはお化け姿の彼に微笑んでいる。


「いえ、たとえ願わなくても、行動しなくても、行動したとしても、あらゆる存在に平等に時間は経過する。

  後悔するか否かなどというものは所詮結果論でしかなく、現状の解決には何の役にもたちません」


  だから、と。シズクの言葉をモネは雑にまとめる。


「わたし共に出来るのは、今現在に聞き取れる分だけの「助けて」に全力を込めて答える、聞き取る、足掻くか無駄骨を折る。

  それだけなんよ」


  彼は、はあ、とまたため息をつく。


「やれやれ、冷たいな」


  若干笑みを含んだ声。

  ともあれ、魔法使いの元に仕事が舞い込んできたのであった。

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