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第6話 追手

「酒場……酒場……と」


 僕はリオンの母さんに教えてもらった酒場に足を運んだ。街の酒場とは違って一軒家を改造した造りだからだろうか。家庭的な料理が出てきそうな雰囲気を漂わせている。中に入ると、テーブルは二つだけで後はカウンター席のみ。昼間だというのに既に先客が居た。


「ったく、年齢、性別に見た目の特徴だけで人を探せだなんて上も無茶言うぜ」

「そうだな。何者かなんてことは興味が無いが名前まで秘匿する意味が分からん。捕える気があるのか……?」


 金属製の簡素な鎧を纏った二人組。一人は若く髪の毛が逆立った鋭い目つきの男。もう一人は綺麗に整えられた白髪に髭を生やした初老の男。二人とも帯刀している。装備から言って騎士ではなさそうだが。兵士かさもなくば武闘派のワーカントか。


 会話の内容に思い当たる節があったので、僕はフードを被った。そして、急いで目的を果たしこの場を去ることにした。


「大体、お上の命令だってのに依頼書に王の印も無いしよぉ。片っ端から該当する奴ひっ捕らえろってのか? あぁっ!?」


 若い方は少し酔いが回っているようだ。僕は店主に娘の居場所を尋ねる。


「この店にエルマって娘はいますか?」

「はい、エルマなら私ですが」


 店の奥から一人の綺麗な女性が現れた。リオンと同い年くらいだろうか。金色の長い髪が歩くたびにフワリと揺れる。


「あの、あなたにお届けものです」

「えっ? ええと……」


 僕はエルマに指輪を手渡した。


「お? なんだなんだ? 求婚かぁ!? そんなショボイ奴やめとけやめとけ! ひゃはははは」


 若い男の口が開くたびに酒の臭いが辺りに広がる。不快な冷やかしと相まって気分が猛烈に悪い。


「ここじゃ何ですから、ちょっと外でお話しできますか?」


 僕はエルマを外に連れ出し、改めて事情を話すことにした。


「これは、リオンという青年から預かった物です。心当たりは有りますか?」

「え、ええ……。彼とは結婚の約束をしていました。街で仕事が安定したら君を呼ぶからって」


 僕が、彼の死を伝えるとエルマはひどく動揺して震えだした。こんな綺麗な女性と相思相愛だったのだから、リオンの無念も相当なものだっただろう。つくづく自分が嫌になる。


「そ、そんな……。リオン……」

「リオンは最後まで勇敢でした。部外者の僕にはそれ以外にお伝えすることが出来ません」


 エルマは僕の声が届いているのか分からないぐらい放心状態でフラフラと店へと戻って行った。僕に出来る事は多分これ以上ない。慰めの言葉一つ持ちえない僕は、ため息をついてその場を離れようとした。その時、


「やめて!! 離してください!!」


 グラスの砕ける音と共にエルマの叫び声が聞こえてきた。


「だぁかぁらぁ!! 俺が癒してあげるってぇ!!」

「よせ、ダラス。こんな田舎娘相手に」


 僕が酒場に戻ってみると、さっきの若い男が片手でエルマの手を掴んでもう片方の手は腰に回していた。


「こんなド田舎にしては掘り出しモンだろぉ!? 訳わからん命令でこっちはストレス溜まってんだよぉ!!」

「やめてっ!」

「フン……。まぁほどほどにな」


 初老の男は興味なさげに席を離れていく。ダラスと呼ばれた男はエルマにあの酒臭い口を近づけていた。気弱そうな店主はオロオロと注意さえできずにいる。


 何もかも、僕のせいだ。


 こいつらがここにいる事も、ストレスを溜めている事も。エルマや母親が大切な人を失った事も。


 この場にある不幸がみんなして僕を指差して嘲笑(わら)っている。本人達はそれと知らずに。


「その手を、離せ」


 僕は怒りよりもただ虚しい感情で、ダラスの手首を掴んだ。僕を救ったリオンの命、その対価はここに納める事にしよう。何もかもが自分のせいだとしても。彼の意志はエルマを救う。僕の無価値な命の使い所がここだ。


「ああ? なんだおめぇ死にてぇのか?」

「…………」

「黙ってねぇでなんとか言えや!!」

「表に出ろ。ここは食事を楽しむところだ」


 店の入り口では初老の男がやれやれといったポーズで立っている。ダラスはエルマから手を離し、代わりに腰の剣に手を伸ばした。


「ダラス! お望み通り外にしてやれ!」

「しかしよう……スレイ」

「ダラス!!」


 ダラスは渋々手を剣の柄から離し、入口へと向かっていった。


「おい、お前! 逃がしゃしねえからな!」

「あ、あの……」

「大丈夫、()()()()()()()()()()()()()。僕たちの事は忘れてこれからも健やかに暮らしてください。リオンもそう望んでいるはずです」


 不安そうに見つめるエルマに僕はそう告げると、店を後にした。


「僕を殺そうと思わない方がいい」


 僕は店を出ると、二人にそう告げた。


「僕を殺さないでくだちゃいの間違いだろ! ひゃははは! さっさと終わらしてあの女とイイコトしなきゃいけねぇんだからよぉ! とっとと死ねや!」

「……こいつはこんな調子だが、普段は俺と組んで人狩りを生業にしている。小僧もさっさと引いた方が身のためだぞ」


 ワーカントの中でもハンターに属するチームか……。対人戦の実力はどれほどのものだろう。


「ん? んん~? なぁ、スレイ、そういえばコイツの背丈と年齢、探してる奴に一致しねぇかぁ?」

「ああ、フードで隠しちゃいるが年齢や背格好なんかはピシャリだ。髪色が黒なら間候補者の一人だな」


 さすがに、そろそろ情報は出回る頃か。むしろ、良くもった方だ。これで、ますます戦いは避けられそうにない。僕はフードを下ろすと、腰の短剣に手を掛けた。


「村に死体を転がすのは気が引ける。着いてこい」

「安心しろ! お前の死体は帝国がきれいに後片付けしてくれるからよぉ!」


 そう言うとダラスはショートソードを振り上げ襲い掛かってきた。僕は短剣で斬撃をいなし、改めてダラスから距離を取った。マズイな。出来れば村人の中に目撃者を作りたくない。


「こいつ……なかなかやるぜぇ……。この()()()な身のこなし……、騎士様かぁ!?」

「……とすると、ますます怪しいな」


 僕は村の外に誘導するため、一目散に走りだした。


「はぁ?? おいおいおいおい、背中を見せて逃げる騎士様なんて初めて見たぜ!?」

「おい、追うぞ! ダラス! なかなか素早い!」

「クッ……!」


 簡素とは言え鎧を纏った二人だ。逃走なら重量差でこっちに分がある。とにかく村を出て林か……、山か……。とにかく人目に触れなそうなところ……。



 そう、人目につかず二人には居なくなってもらった方が、いい。

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