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第4話 野盗

 どうやら、討伐の時の事を思い出しながらそのまま寝てしまったらしい。余りに無防備な野営となったが、街道沿いは魔素も少なそうだし魔獣に襲われる事は無いだろう。後、三日以上の道のりか……。まぁ、お金は節約したいし、途中で馬車でも通れば助かるんだが。


 なんて、気楽に考えていたのがいけなかったのか。


 人を襲うのは何も魔獣だけではないという事をすっかり忘れてた。馬車旅を長く続けていたせいだろうか。徒歩で山を越えようとしたら、野盗らしき男たちに出くわしてしまった。切り開かれた山道を塞ぐように立つ男達。


 敵は三人。バンダナ、髭面、毛皮のベストに手には手斧やら短剣やら。これぞまさに盗賊でござい、といった出で立ちのトリオだ。


「要件は言うまでもないよなぁ? へへへへ」

「一応、試しに聞いてみようかな? 山を案内してくれる見た目に反して優しいおじさんだったりは……」

「しないんだよなぁ」


 リーダーらしき男が斧の刃面をピタピタと触っている。親切な木こりのおじさん、という訳でもないらしい。刃先は刃こぼれが激しいが、それでも、人に振りかざせば致命の一撃は充分に与えられるだろう。


「有り金、荷物、全部置いていけ」


 殺して奪う、から始めないだけむしろ優しさを感じてもいい場面かも知れない。


「金なら少しは分けてやってもいいけど、どうしても届けなければいけない荷物がある。後、僕を殺そうと思わない方がいい」

「ダメだ。交渉はしねぇ。この山は魔獣が出ねえんだ。命があるだけありがたいと思え」


 とはいえ、僕にも預り物と目的がある。今は短剣しかないが、持ち合わせの武器で戦うしかない。僕は荷物を下ろすと、腰の短剣を抜いた。


「なるほど、勇敢な若者じゃねぇか。よし、決めた。お前は奴隷商に売る。こういう目をした男娼はいい値がつく。お望み通り殺さないよう痛めつけろ!」


 手下二人は素早く左右に散開する。手慣れた動きだ。二人の動きに気を配りながら僕はジリジリと後退する。


「いやっほおおおおお!!」


 向かって左の男が奇声を発しながら短剣で切りかかってくる。リーダーに比べて随分と細身の男だ。飛び掛かりながら剣を突き立ててきたのでスルリと後ろに躱し、勢いのまま腹を蹴りあげた。


「ゲブッ!」


 右手側の男は小太りで上背は一番大きい。少し臆病そうに見える。短剣を両手で握り前に突き出したままだ。なら注意を払うべきは僕の足元でうずくまっている男と髭面。


「素人の動きじゃねぇな」


 髭面のリーダーが警戒感を強める。僕は痩せた男の短剣を持つ手を踏みしだき、悲痛な叫び声を聞きながら剣を後方へ蹴り飛ばす。


「相手が誰だろうと襲い掛かった以上は()()()()()を覚悟しておかないと」


 僕は痩せた男の背中に短剣を突き立てた。働く貧民の命は軽い。まして働かざる者、どころか他者を襲って糊口をしのごうなどという不心得者の命などは言うに及ばず。足元の命は手を潰した時より小さなうめき声を上げ、静かに果てた。


「躊躇も無しか。若造一人と思って舐めてたぜ」


 髭面からヘラヘラとした笑顔が消えた。隣の男は剣を手にブルブルと震えだした。僕は痩身の男から短剣を引き抜き、ゆっくりと二人を見据える。と、髭面の男はおもむろに指笛を鳴らし、先ほどより邪悪な笑みを取り戻す。


「増援か……。困ったな」


 僕は僕を囲むように現れた野盗の集団を見回し、深くため息をついた。



  ☆☆☆




「先ほどは危ないところを助けていただきありがとうございました」

「いや何、このところ山賊が出ると言うのでな。護衛を増やして移動していたんだが。君は運がいいな」


 リーロック村の方面へ向かう馬車。僕の正面に座るのは帝国内で物流の一翼を担うボルリッチ商会の西方支部の、ネルソン氏だ。何でも、大事な取引先の親睦パーティに出席するため、移動中だったそうだが野盗に襲われている僕を見て助けてくれたんだとか。


「そうですね。それに馬車にまで乗せていただいて。感謝のしようも有りません」

「ああ、気にしないでくれ。今回はたまたまワーカントに護衛依頼を出していたのだがね。途中の街で追加したワーカントの中に君の姿を覚えている者がいたんだ」


 そう言ってネルソンさんが指差した先には巧みに馬を乗りこなすベルクがいた。神はそれほど信じていないけど、奇妙な縁はあるもんだと勝手に納得する。


「それに我がボルリッチ商会としても通行路の安全は確保されているに越したことは無い。それにしてもノエル君と言ったか? あの人数を相手に無傷とは。それどころか君の周りには既に何人か倒れていた。一体どんな魔法を使ったんだい?」

「魔法と言うほどでは。ただ死にたくない一心で無我夢中でしたから」


 ふむ、とネルソン氏はあごに手をやり何か考え事をしているようだった。商人の心を読み解くことは騎士には難しい。しかし、こちらの心の何割かは表情や仕草なんかでネルソン氏に割れてしまっているのではないかとぎこちない笑みを返した。


「この山を越えればバスコという小さな町がある。そこで我々は宿を取って目的地に向かうつもりだ。君はどうするね?」

「僕はリーロックという村に向かっています。この先は魔獣が出るような森も賊が出そうな山も有りませんので先を急ごうかと思います」


 ネルソン氏はそうか、とだけ頷きその後は他愛もない話をして馬車に揺られた。バスコの街に到着すると、再びネルソン氏とベルクにお礼を言うと僕はまた村に向かって歩みを進めた。別れ際に、ネルソン氏に「今度は依頼主とワーカントとして会うかもしれんな」などと言われたので、適当に愛想よく頷いておいた。


 この先何度かワーカントギルドを利用することになるかもしれない。けど、一刻も早く僕は帝国領を抜けて目指す場所がある。それに、なるべく人との接触も避けなければ。そんな訳でワーカントギルドの利用は最小限に抑えるつもりだ。


 僕にはどうしても会いたい人がいる。会わなければならない人が。


 そして、その人は今、遠い遠いところにいる。


 最果ての地、と呼ばれるところに。

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