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第3話 凱旋

 クレセントベアに引き裂かれた傷は血が止まりにくくなる。怪我をした時はそれほど深手でなくても気が付けば手遅れになっているという事もざらにある。実際、そこかしこに転がっているワーカント達の中にはまだ息をしている者もいるが手当をしなければじきにリオンと同じ最後を迎える事になるだろう。


「よお、兄ちゃん! お疲れさん!」


 ベルクは折り重なるように倒れた二体のクレセントベアの遺体に腰掛けながら僕に声を掛けてきた。


「解毒薬の余りはありますか?」


 僕は自分の腕に解毒薬を塗り込み、包帯を巻いているベルク達に問いかけた。答えは分かりきっているのに。


「ん? 兄ちゃんは持ってないのか? というか傷一つ見当たらないが」

「いえ、なるべく助かりそうな人は助けたいんです」

「そうか……。だがな、俺達の手持ちも余裕って程じゃないんだ。帰りに他の魔獣に襲われる可能性だってあるしな」


 当たり前の話だ。よほどの実力者であるワーカントでもない限り、大体のワーカントは万年金欠。他人を気遣う余裕などない。


「そいつらは持ってなかったのか?」

「多少の傷薬なら。でも血が止まりません」

「すまねぇが、それなら自己責任て奴だ。包帯なら分けてやるからなるべく軽傷の奴を助けてやりな」


 僕が投げ渡された包帯を受け取ると、ゆっくりとベルクは立ち上がった。


「さあ、グズグズしてると血の臭いで魔獣が集まっちまう! さっさと下山するぞ!」


 応じたのは、僕を除いてたったの五人。大盾の二人と槍の投擲役二人、削り役が一人。序盤に逃げ出した奴らが居たにせよ、六人はすでに物言わぬ骸になっている。かといってベルクの指揮が拙劣だったかというとそうでもない。むしろ少数で討伐を目的とするなら的確で適切だった。片方は小さかったとはいえ、二体のクレセントベアを相手に、素人含みの集団としては討伐という結果は大健闘と言える。


 ベルクは母親と思われるクレセントベアの頭を持ち上げ、切り落とした。討伐報酬を得るためには遺体の一部と割符が必要になるからだ。もう一人は子ベアの首を切り落としている。


「残りはこっちの犠牲者と一緒に焼くぞ!」


 現時点を以って、自力で帰れない者は焼却。他の魔獣になるべく人の味を覚えさせないためだ。


「ああああ、待ってくれ……俺は……まだ動ける……」

「やめろ! やめて……くれ……」


 結局、僕が手当できたのは一人。肩を借りてどうにか歩ける程度だが。その他の者はどう見ても回復の見込みがないか、歩けない者が三人。助けたいのは山々だが、人員が足りない。助けを呼ぶにもこんな魔獣の多い地域に動けないものを置いて行って無事に済むはずもない。


「ワーカント証と割符の回収は済んだか!?」

「ううう……待って……待ってくれ……」


 僕は、リオンのワーカント証と割符を荷物袋から取り出し、リオンの髪を少しだけ切り取った。受け取った手紙に添える為に。


「急いで燃やすぞ! 周囲警戒怠るな!」


 そう言うとベルクは一カ所に集めた犠牲者の遺体の周り四方にそれぞれ小さな玉を置いた。そして、遺体の山に向かって火を放つ。四つの玉はベルクが念を込めると同時に光の筋を放ち、あっという間に光る立方体を作り出した。


 『簡易結界』だ。


 ワーカントギルドからのありがたい支給品の一つだが、この結界は《《不幸にも》》魔獣討伐において犠牲者が出た場合を想定して、火と煙と《《臭い》》と《《音》》を閉じ込める術式が組まれている。一般人程度の少ない魔力でも発動するように、対象をそれらに限定してある。歩くことが出来る人間は這い出る事も可能だ。効果も8時間と短い。


「あああああああああっ」

「いてぇぇぇぇぇよぉぉぉああああああ」

「あついぃぃぃぃあついぃぃぃぃ」


 中の叫びは僕らには聞こえない。魔獣たちにも聞こえない。鼻を衝く臭いも無い。速やかに離れれば心を痛める事も無い。この一連の作業は魔獣討伐手順書にも記載されている。


「引き上げるぞ! 急げ!」


 ベルクの号令で僕達は一斉に帰途についた。


 途中、ベルクの警戒していた通り、負傷者の血の臭いに引き寄せられて何度かワイルドボアが現れたが、クレセントベアに比べれば刃が通る分、まだ対処のしようはあった。連戦に次ぐ連戦で、ボロボロになった一団が街についたのは日が沈む直前だった。


「よし、ワーカントギルドで精算の手続きだ」


 ベルクが先頭となってギルドの中に入っていく。精算手続きでやるべきことは二つ。魔獣を討伐したことを証明できる部位を引き渡す事。ギルドに割符を返却すること。今回は指揮を執ったベルクがクレセントベアの頭部を引き渡した。


「討伐ご苦労様でした。では、討伐報酬の精算と犠牲になられた方の手続きを進めさせていただきます。まず、割符の回収と貸与品の返還をお願い致します」


 依頼の報酬は参加メンバーで等分。指揮を執ろうが止めを刺そうが、いかなる場合も等分だ。そしてその分割には犠牲者も含まれる。今回のような大人数での討伐の場合は精算時にその場に居ない者は犠牲者か逃亡者と見なされる。犠牲者に分配された報酬はワーカントに正式に登録している場合遺族に。遺族が居ない場合や、仮登録の者はギルドに預託される。逃亡者分に関しては、参加メンバーで再分配となる。


 ただ、ここまでのルールでは討伐参加者が全員逃亡したということにして報酬を独り占めしようと殺し合いを始めるケースが続発したため、ギルドは一つの楔を打った。それが割符による音声ログの収集だ。これがあまりにも不明瞭だったり、提出できない場合にはペナルティがある。


 その他にワーカント登録証の回収にも特典がある。犠牲者にも報酬が分配されるため、回収することに何のうまみも無いように思えるが、実際はその登録証を回収することによって貢献ポイントが付与されるのだ。この貢献ポイントによって討伐依頼の時に貸出武器が豪華になったり、便利な魔具を借りたりすることが出来る。


 ちなみに、同業殺しは指名手配犯でもない限り基本的には重罪になるので、殺し合いをするほどのうまみは無い程度の好待遇になっている。


 まあ、仮登録の僕にはほとんど関係ない話だ。貢献ポイントも付かないし。日銭を稼げれば結構。


「今回割符を受け取られた参加者は二十名。内、帰還者七名、誠に残念ながら犠牲となられた方が九名、割符の未返却者が四名。よって、報酬400万Gは十六等分となります」


 一人頭25万Gか……。宿代が4,000Gとして……命を懸ける値段じゃないな。とはいえ、単独での魔獣討伐は……うーん……。まあとりあえずこれでしばらく旅を続けることが出来るだろう。次の目的地はリーロック村か……。西から帝国領を抜けるつもりだったけど少し南寄りに引き返さないといけないか。リオンの死はギルドを通じて連絡が入るとして、受け取った手紙は直接渡さないとな。今夜は宿を取って、地図を見る限り4日程歩けば着くだろう。


 翌日、僕は街道の分岐点を少し後ろ髪引かれる思いで南へ進路を取った。

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