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第27話 精霊術師

 城攻めが始まってから数時間が経った。だが、僕たちはまだ城の中にさえ入り込めずにいた。城門から際限なく湧き出てくる自爆兵と、精霊術によるものと思われる魔法を防ぐ結界が僕たちの軍の侵攻を足止めしているせいだ。


「これ以上は魔石の消耗が激しくなる一方だぞ!」


 クラウス中隊長が前線に出て指揮を執る中、忌々し気に叫ぶ。この城を落とす手段として一つ目に、高威力の魔法で結界を消滅させ、中の精霊術師ごと討ち滅ぼす。二つ目に、自爆兵が尽きるまで遠距離から倒し続ける。という二つの手段が検討されている。だが、一つ目の作戦には問題がある。


 まず、精霊術による結界は魔法と違って解析が極めて困難だということだ。魔法の術式を解析する手段はいくつかあるが、そのどれもが精霊術には不向き。そもそも精霊が使用してくる魔法は術式体系がまるで違う。そのせいで、どれほどの魔法を放てば結界を消し去ることが出来るのか、探ることが出来ない。仮に最大威力の魔法を放ったところで、橋頭保とすべき城が跡形もなく消え去っては、意味がない。


 というわけで、一つ目の作戦は保留となり、現在自爆兵を魔法、あるいは風刃で掃討中……なんだけど、どこからこれほどの死を恐れぬ兵を集めてきたのか、城門からは何度となく兵士が補充されている。


「もしかしたら自爆兵は最初の一団だけで、後はただの城兵なのでは!?」

「だとしても僕達には見分けることが出来ん!」

「敵の作戦通り、初戦から消耗戦を強いられているってわけですね!」


 何しろ、敵は魔法を防ぐ結界を越えてくる上に、自爆する直前までは普通に剣技で戦いを挑んでくるのだ。リィザ小隊長はすでに魔石を三回取り替えている。このままでは、本当にこちらの物資をいたずらに消耗するだけの徒労に終わってしまう。


 とその時、全部隊に伝霊が飛ぶ。


「魔剣公、出陣。後方へ」


「ついに出てくるか……!」

「今回の出兵の大将ですよ!?」

「しびれを切らしたのだろう。あの方の性格上、自分でやるのが一番早いと考えるのも無理からぬことだ」


 刹那、黒い鎧を纏った魔剣公マルグリートが獣のように最前線へ走り抜け、砕いてみよとばかりに敵兵の前に躍り出た。それを受けて、敵兵がまず剣でマルグリートに切りかかる。それをモノともせず薙ぎ払い、結果、挑みかかった二人の兵は上半身と下半身が真っ二つに割れる有様となった。


「なんという……! あれが自爆兵だったらどうなさるつもりなのか!」


 クラウス中隊長が疑問に思うのも無理はない。結界が間に合わなかったら確実に致命傷を負う距離で彼は戦い続けている。そして。


 大きな爆発音とともに、再び兵が炸裂する。


「マルグリート殿!!」


 爆炎と爆煙が払われたころ、結界と共にマルグリートが現れる。驚いたことに彼は魔導士でしか発動できないような爆発を防ぐ結界を自ら生成している。


「フン……、他愛もない」


 剣には赤く煌めく赤帝石が三つ。おそらく予備の魔石も赤帝石だろう。


「ワシの魔法と共に全軍、城内へ突入せいっ!!!」


 彼は叫びながら剣を振りかざす。切っ先から放たれるのは巨大な十字の形を成した風刃。だが、あの威力を放てる魔法剣士は恐らく過去に遡っても誰一人いないだろう。剣聖の膂力に魔導士の魔力。噂は本物だった。目の当たりにして初めて背筋が凍るほどの威力。同じ赤帝石を使ってもエマにすらあれが放てるかどうか……?


 放たれた魔法は城の前に配置された兵をバターか何かのように切り払いながら展開されていた結界に衝突。僕たちは()()が結界を破ることを確信して走り出していた。アレを見た誰もがそうした。


「突入!!! 精霊術師に気を付けろ!!! 僕たちの中隊が一番槍だ!!」


 僕たちの確信通り、放たれた魔法は結界を突き破り、城門を破壊してなお、その威力を弱めることなく城内奥深くまで突き崩したようだ。あれで精霊術師が巻き込まれててくれれば御の字なんだが。


 城内に殺到した僕たちを待っていたのは恐慌状態の城兵達。しばらくは結界を抜かれることは無いだろうと慢心していたのだろうか。完全に虚を突かれた様子で、慌てふためいている。僕たちは、そんな兵たちを掃討しながら奥へ奥へと進んだ。今回はアンドラ隊の例もあって、後方に魔導士を一人付けているので城内で爆発されても結界がそれを防いでくれるはずだ。


「いやいやいや、精霊様の力を借りることなくこの威力とは」


 眼前に現れたのは、まだ若い、法衣を纏った敵兵。一般的に精霊の力を最大限引き出すには長い年月が必要と言われているので、警戒すべきは老齢の精霊術師なのだが……。


「親愛なる精霊サラマンデル様、どうぞ力をお貸しください。我らがウェスタビアをお守りください」

「ヒヒヒヒ! カマワネェゼ!」


 精霊術師と思われる男が手を翳すと、不気味な声と共に火球が飛び出してきた。結界で何とか防げる威力だが、これが代償無しに無制限で撃てるなんて反則だ。


「ワーカント、帝国兵は下がれ! こいつは我々が相手をする!」

「ギルテニア騎士とお見受けする。我等の土地に土足で踏み入る無礼、火刑を以って処断する!」


 炎を自由に操る精霊術師とみて間違いない。


「ドナイ、ヤッチマエ! ヒヒヒ」

「精霊様の守護の元! 我等は貴様等を生かしては帰さん!!」


 苛烈さを増す火球による攻撃。まるでいつか見た流星群のように結界に向かって突き刺さってくる。


「結界を維持したまま散開!」


 クラウス中隊長の指令により、結界はシャボン玉のように五つに分かれ、精霊術師を取り囲む。ところが、敵も敵で炎の結界を纏い、物理的に近づくことが困難になってしまった。そして、相変わらずその結界から湧き出すように火球が勢いよく飛び出してくる。


「各自、もてる限りの力で水弾、撃てぇっ!!」


 100人からなる中隊人員が一斉に水弾を放つ。さながら消火活動だ。放たれた水弾は火球を相殺し、ドナイと呼ばれた男の炎の結界をも突き破っていく。


「クッ……! ギルテニアァァァァァッ!!」

「ギヒヒヒヒ! ドナイ、()()()()()?」

「精霊様……!! …………、捧げましょう! 我が身、祖国ウェスタビアに!!」

「ギヒャヒャヒャ!! イイゾ! ナラバ、キサマノカラダガモジドオリ、()()()()()()()! ワレガケンゲンシヨウ!」


 突然、精霊術師の体が火を纏い始めた。何かの魔法かと思ったが、それにしては本人が一番苦しんでいるようだ。不気味な声の言うことが確かなら、この後に起こることは……。


 そして、辺りは光に包まれた。

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