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第21話 初戦

 僕がクラウス中隊に組み込まれたのは、サラのお父さんの采配で、気が付けばそれはとても自然に終わっていた。マリュウはマリュウで別の小隊に組み込まれていたが、ほとんど合同で演習しているので、毎日のように顔を合わせている。


「フッフッフ、ノエル君、あの頃から随分成長したようだね」


 クラウス中隊長とはあの一件以来会っていないので、あの頃と言えば間違いなく赤毛の魔獣を討伐した頃の事だろう。


「三年近く経ってますからね。とはいえ、あの魔獣にたった二人で挑む度胸はまだ備わってません。クラウスしょ、いや中隊長殿」


 今日はクラウス中隊長直々に剣技の訓練に付き合ってくれている。世間話をしながらではあるが二人とも真剣を手に剣撃を重ねる。身体強化魔法の構築を教わり、自分なりにアレンジしてみたが、魔法が苦手だと自認している割にはすんなり馴染んでいるみたいだ。剣に嵌め込まれた魔石の消費も思ったほどではない。


「あれはあの時点では本来、騎士団の小隊クラスで立ち向かうものだったからね。君やサラを参考に魔具を使った戦いを確立してもなお、死者を出さないためにはその規模で臨むことを推奨されているし」


 つくづく生き残れたのは運が良かったなと思う。もう一匹現れていたら完全に詰みだったな。と思い出に浸りながらもクラウス小隊長の鋭い剣を捌ききる。魔法のおかげか剣が軽く感じるが、クラウス小隊長はまるで羽を振るうかのようにしなやかに斬りかかってくる。片手で扱っているとは思えない重量感だ。


「ああ、それにしてもまたこの季節がやってきたんだなぁ」


 クラウス中隊長はどこか物悲し気にさりとて僕の剣を弾き飛ばしながら語り始めた。


「この季節、とは?」

「新入りの初実戦さ、ノエル君。心したまえ。対人戦は精神負担が魔獣討伐とは比べ物にならないからね」

「精神負担……」


 クラウス中隊長曰く。人を殺す経験、仲間が殺される経験を経る事によって大きく成長するものと、そこで立ち止まる者が出てくると。人を殺す経験は言わずもがな。そして、戦争というものには味方の犠牲も付き物であると。


「例えば、敵が正真正銘の極悪人で、見るもの全てを嬲り、壊し、殺し尽くすような奴だったら僕や君の胸には沸々と戦いの意志が目覚めるだろう。だけど、戦争をする相手は旗や紋章が違うだけの()()だ。そんな相手を前に新人は必ず迷い、立ち尽くしてしまう」


 学園でも、この半年の訓練でも、対人戦は当然のように訓練に組み込まれていた。騎士の役目は国の守護であり、それは魔獣に限ったものではない。近くは野盗の類から遠くは隣国の兵士まで。長きにわたって叩きこまれてきた事なのだが。


「同じ学園出身のクラウス中隊長が言うのだからそうなるのでしょうね」 


 クラウス中隊長はニコリと笑って頷いた。


「僕は初の実戦で同期を二人失った。昨日まで一緒に訓練をしたり、飯を食ったり、他愛も無い話をしたり。そんな仲間が死んだと知らされてなお戦い続ける事が出来るかどうか。そういうものも否応なくのしかかってくることになる」


 僕は……、僕はどうだろう。例えばシルキスや……サラやマリュウが戦死したと聞いて、立ち止まることなく戦えるだろうか。


「立ち止まる事は別に悪いことじゃない。ただ、そこで行き止まりになるのか、別の道を模索するのか、或いは強行突破するのか。騎士としての生き方をどうしても大きく変える出来事になると思うよ」


 クラウス中隊長の言葉はこの半年後、最後の前線(ラストフロント)で僕の胸に再び突き刺さる事になる。



  ☆☆☆



「今回我々に与えられた任務は、旧バルコニス城を根城にする盗賊集団の殲滅である。特に新入り諸君は初となる対人実践である。努々、命を無駄に散らすことなく帰還することを望む!」


 ブライト隊長の号令で400人からなるブライト隊の全隊員が胸に手を当ててこれに応える。


「敵の数はおよそ1,000! バルコニス城は既に廃城となっていて防衛能力は大きく損なわれているが、堅牢な城壁や城門は健在である! 敵そのものの能力は不明だが、強力な魔法を操る者の存在が確認されたため、我ら騎士に派遣要請が出た!  また、今回は魔導師二名も随行予定! 我等はこれを守護し、門の破壊と同時に攻城戦と移行する! 攻と守! はっきり分けての作戦である! 何か質問は!」

「首領など一味の生死はいかがいたしますか!?」

「無論、生死は問わずである! 近隣の被害状況も含め、早急に対処せよとの事だ!」


 配属されてから二か月が過ぎ、僕の騎士としての初陣が決まった。ブライト隊、全員による作戦行動だ。この時期の作戦には新人研修の意味も込められている為、隊長自らが指揮を執り、敵集団の殲滅を目指す。大隊単位での練度を上げる事に主眼を置かれているらしい。


「さぁて、覚悟の程が問われるが、準備はいいかい? ノエル君」

「ええ、僕はまだこんなところでは死ねませんから。騎士として手柄を上げるまでは」


 クラウス中隊長は少し黙って、そしてやがて吸い込んだ息を吐きながら話し始めた。


「新人らしい気負いだな。けど、ノエル。手柄を追い求める奴は経験上早死にをしているぞ」


 僕は思わず剣を握る手に力が入っている事に気が付いた。そしてまた、クラウス中隊長の目が平時とは比べ物にならないほどの圧を宿している事にも。


「手柄なんてのは生き残った奴の物だ。まずは生き残る事を第一に考えろ。そうでなければお前に与えられる褒美は墓に供えられる少しお高い飾りだけだ」


 冷静になって周りを見渡すと、先輩方は既に戦場の顔つきになっていた。以前、魔具を興味深そうに見ていた眼鏡の先輩、そして僕の直属の上長であるリィザ小隊長も髪を一つに結わえあげ、眼光鋭く備品をチェックしていた。手に持っているのは同じ魔具なのに雰囲気は天地程に違うものになっている。


「ここにいる全員、多かれ少なかれ仲間との別れを経験している。周りの雰囲気が変わったと感じるならお前も変われ。もうここは戦場だと意識しろ」

「ノエル、あなたの指揮は私が取ります。くれぐれも統率を乱すような行動は控えるように」


 僕は、クラウス中隊長とリィザ小隊長の声に覚悟を込めて頷いた。


「それでは、各員! 出立!!!」

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