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第20話 配属

 あっという間に半年が過ぎた。思えば僕の嫌いな座学も、昼寝の時間と割り切れば無いよりマシだったのかもしれない。騎士団に入ってからというもの座学は半分以下の時間になってしまった。見て学べ、やって学べ、体で覚えろ、染み込ませろ。という事らしい。


「もうすぐ、適正検査と配属だなぁ」

「そうだねぇ」


 僕達は当初グラウンドの周回を終えると立ち上がれない程の疲労感が襲ってきていたが、今ではこの通り走行中に軽口は叩くし、走り終えても肩で息をするぐらいで済む程度には訓練慣れしてきた。並走中なのは、シルキス。


 シルキスは相変わらず朝が弱いが、それでも入団当初のような失態は無くなり、僕と同様に体力や筋力がついてきた。と言うか学園組はみんなそうだ。厳しい環境にさらされてきた兵士やワーカント組は別として、そもそも10年に及ぶ下地はあったのだ。後は時間をかけて慣れていくだけ。ただ、それに耐えられず、何十名かの脱落者は出た。ほとんどが学園組だ。


「結局僕は魔法に関してはこっちに来てもほとんど向上しなかったな」

「そういう人は配属後に身体強化の魔法術式が開示されるってー」


 いくら魔法が苦手でも、騎士の任務は命に係わるものがほとんどだ。こればっかりは最低限頭を使わないと寿命を縮める羽目になる。こんな時こそエマに相談してみようか。いや、サラやマリュウ辺りの方が説明を聞くだけならわかりやすいか。


「シルキスはどっちだと思う?」

「剣士か魔法剣士ってこと?」


 僕は兜ごと頷いた。


「うーん、剣士よりだと思うけどなぁ。と言うか今、魔法剣士に配属されたくないかなー」

「どういうこと?」

「今の魔剣公は歴代でも最高クラスの実力者らしいけど、性格がちょっとアレらしいんだー」


 僕はなんとなくシルキスの言いたいことを察した。と言うより僕自身も僅かばかりであるが、肌で感じるところがある。現魔剣公は横暴で傲慢で、剣技に特化した剣聖や剣技部隊を自分の下に見ているとか。トップがその調子なので、魔法剣士部隊も少しずつ感化されているみたいだ。もう、目前と噂される大陸平定や大森林への進出を前にそんな調子で大丈夫かと疑いたくなる。


「配属したら数回の実践を経て最後の前線(ラストフロント)に送り込まれるらしいからなー」

「最後の王国、最後の前線か……。実戦投入の速度は早まってるらしいけど」


「のえぇぇぇる!! しるきぃぃぃぃぃす!! 無駄口を叩くな!!!!」


 マズイ。ゴールが近づいている事に気が付かなかった。上官の怒りに満ちた表情が視認できる距離だ。


「後、5周!!! 行ってこい!!!」


 僕とシルキスは走り終わった後、久しぶりにぐったりと倒れた。おかげで昼食の時間はいつもの半分以下になってしまった。



  ☆☆☆



「それではこれより入隊式を始める。名前を呼んだ後は部隊属性、隊長名を伝えるので速やかに前に出て各隊長の所へ移動すること!」


 眼鏡をかけた女性教官の鋭い声が響き渡る。正騎士と訓練生はまるでこれから戦争でも始めるかのように向かい合っている。


「A組、ロクス=ベックス! 剣士! ドノバン隊!」

「はい!!!!!」


 ロクスと呼ばれた男の訓練生がてを上げていたドノバン隊長の前に立つと、ドノバン隊長はロクスに徽章を渡し、笑顔のまま親指で自分の後ろを指した。どうやら、後ろに並べという事らしい。ロクスが移動を開始すると、まずドノバン隊長に一発、尻に張り手をくらっていた。その後も最後尾に達するまで、隊のメンバーに一撃ずつ尻に攻撃されている。どうやら洗礼の儀式らしい。じゃあ、女の訓練生はどうなるのだろうと様子を見ていると、


「A組、フロリア=アルバーン! 魔法剣士! ガルド隊!」

「はい!!」


 フロリアと呼ばれた訓練生は先ほどロクスが受けた洗礼を見て明らかに青ざめていた。恐怖を押し殺し、おずおずとガルド隊長の前に立つ。


「フフフ、ビビり過ぎだ! さぁ、後ろへ」


 ガルド隊長はフロリアの背中をバシッと叩いた。手加減はされているようだが、それでもフロリアの体は前へズンと傾いた。


 その後も様子を見ていたが、訓練生男、尻。訓練生女、背中と言う図式はどこの隊長だろうが、それこそ男女の隊長問わず繰り返されていった。そして、いよいよ。


「ノエル=フォルティス! 剣士! ブライト隊!」


 ブライト、ブライト!? それってまさか。


「はい!!!!」


 僕は手を上げている人物の目の前に立つと、白髭の男はニカッと笑みを浮かべ、


「娘が世話になったな」


 とだけ言うと、僕の尻を思いっきり引っぱたいた。当然のようにその列の途中にはクラウス小隊長もいて、同じくニヤリと笑いながら僕を前に吹き飛ばすほどの勢いで一撃。たぶん、今日はうつ伏せで寝るのが良さそうだ。


 そして、マリュウも魔法剣士として同じ隊に入ってきた。騎士団は総勢2万人程で隊も50以上ある事を考えると敢えて集められたんだろうと考える。意外なことにそこにサラの姿は無かった。家族が隊内にいると手心を加えてしまうとかそんなところだろうか。


 そして、全ての訓練生の名前が呼ばれ、全ての配属が完了した。すると、全部隊の隊長が一歩前に出て、皇帝の住む城の方へ向きを変えた。そして、抜剣の号令と共に剣を取り出し、城に向かって掲げると、今度は全団員が跪いた。僕達訓練生も少し遅れて真似をする。


「戦時故、簡略ではあるが宣誓の儀を行う。皇帝への謁見及び叙任は後日改めて」


「我ら騎士、皇帝の剣にして民の盾。聖人の法にして罪人の業。忠誠、誠実、実行を旨とし、図らず、(たばか)らず、欺かず」

「我ら騎士、斬るは主の敵のみならず。誓いに臨む己を戒め、誓いに違う友を伏せよ」

「我ら騎士、いかなる時も礼と節を持ち、民の範となるべし」

「我ら騎士、これらの誓いを血に流し、肉に刻み、以って帝国の礎とならん」


 全団員が立ち上がり再び剣を掲げる。


「以上! 納剣!!」


 僕達は剣を持っていなかったので胸に手を当て、敬礼で応えた。戦いの中で生き抜くことが出来れば、来年は僕達も剣を持ってこの式に臨むのだろう。僕はまた、騎士の誓いとは別に、技術を磨いて必ず生き残る事を心に誓った。

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