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第19話 魔導士

 最近、ノエルからの手紙が適当になってきてる気がする。最初の方は同室の子がどうとか初日から遅刻したこととか紙面を埋めるぐらいの勢いで書いてきてたのに。最近は訓練メニューのメモのようなものが送られてくるだけ。


 よっぽど厳しい訓練なのか、それとも――


 私に興味なくなった!?


 よもや、彼女なんてできてたら……。


 そういえば昔からノエルは年上にモテる事が多かった。本人的にはモテてる自覚はなくて、ただ可愛がられてるなぁぐらいの認識だったみたいだけど私の意見は異なる。ノエルは色々と世話を焼きたくなるタイプなのだ。言い換えれば母性をくすぐるタイプ……?


 騎士団には女性の騎士もたくさんいるし、教官や上官としてノエルを担当することだって有るかもしれない。色々教えている内に一線を越えてノエルが大人の色香に惑ってしまったら……!


 ぎぃやあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!


「クレア、私、騎士になるわ」

「え? どういう事!? 何が、え!?」


 一緒に作業中のクレアの手元から加工中の青国石が落ちる。


「胸騒ぎがするの。何かとてつもなく悪いことが起きるような」

「私、エマが剣を振るところ全く想像できないんだけど。魔導師として前線に出るって事? だったら騎士にならなくても魔導局に転属すれば――」

「ううん、守らなきゃ。魔の手から」

「え!? 新手の魔獣!?」


 そうよ、魔獣よ。ノエルを汚そうとするものは全て魔獣。滅し尽くさねば。全然恋人とかそういうのじゃないけど。あくまで保護者として。ノエルってばそういうとこ抜けてるから簡単に騙されそう。騙されなくても一緒に死線なんか超えた日にはコロッと……!!


 はあああああああああぁっ!?


 ダメよ。やっぱりノエルには私が付いてないと。


「そうだ、メスを近づけない結界って作れないかな」

「なんでメスに限定する必要が? あ、もしかして噂の魔女!? 魔女対策!?」

「いいえ、近づけないだけじゃ弱いわね。カウンターが飛び出すぐらいの仕掛けは欲しいところ」


 例えば……、近づくと極端に魅力値が下がるとか……。声が男になるってのも悪くない。ノエルは単純だからお守りって言って渡せばきっと身に着けてくれるだろうし。まずは付与魔法の構築から……? 結界の範囲は? 男女の認証に……どうすれば魅力値を下げられるかしら。ノエルの視覚をいじる? それとも対象者の?


「結界にカウンターの付与! 例えば魔法を吸収するとか!? 面白そうねそれ!」

「いいえ、あらゆる衝撃を抑え込むぐらいしないと」

「す、すごい……!」


 衝撃? いえ、衝動と言った方が正しいわね。年頃の男子の衝動を抑え込む。かなり難しい魔法になりそう。久々にやりがいのある仕事を見つけたわ。そうよ。忘れてた。上からの指示で魔法を開発することも大事だけど、自分のやりたいことを忘れちゃいけない。


「とりあえず私は局長に掛け合ってみるわね!」

「いいえ、クレア。必要ないわ。これは私の問題。解いて見せるわ! この難問をね!」

「…………!! 分かったわ!! 私にも出来る事があったら言ってね!」


 そして、あっという間に月日は経ち。


「ぬぬぬぬ……」


 朝、鏡の前に立つと、そこには死霊のような顔をした怪物が立っていた。目の下のクマが何ともおどろおどろしい。ここ数カ月、眠ろうとすると余計なことばかり考えてしまう。手紙も相変わらず訓練の内容ばかり。少し前向きな決意表明もあったけれど。この睡眠不足を解消するためには一刻も早くノエルに渡す新作のお守りを開発しなければ。


 もちろん、それ以外に魔法や魔具開発の会議に出席したり、実際に製作もしなければならない。ノエルは今とんでもない訓練を受けてるみたいだけどこちらの試練もなかなかだ。


「やっぱり青国石の欠片じゃ、デバフ効果まで求めるのは難しいかぁ……」


 付与効果のある結界を常時展開となると青国石の消耗が激しくなる。色々試してみたけど、結界の展開だけでも1ヵ月、そこに様々な付与をもたらすと早いもので5時間で本体が砕けてしまった。まぁ、それは性欲の抑制から敵の魅力半減まで全部乗っけたせいだけど。


「こんなんじゃ、ノエルに変な虫が寄りついてしまう……」


 私は重い足を引きずりながら今日も研究室へ向かった。


「おぉ! エマ! どうだい? 新しい魔具の研究は! クレアからちょっとだけ話を聞いたけどなんか面白いことやってるみたいじゃん」


 ほとんど地を這うようにして歩いていた私に声を掛けてきたのは焼却炉先輩ことマグナスさんだ。もちろん、本人を目の前にしてそんなことは言わないけど。さわやかな見た目からは教室を火の海にしそうな雰囲気は微塵も感じない。


「ええ……順調ですよ……それはもう」

「あんまりそんな風には見えないけど」

「どうしても青国石じゃ、損耗が激しくて。黒神石でもあれば楽なんですけどね」


 私は疲れ切った顔でニタリと笑いながらへへへと奇怪な声を上げた。


「黒神石を取りに行くのに黒神石が必要か……。やっぱり君は変わってるね、ハハハ」


 私の知り合った人間の中で最も変わり者だと認識している人に変わっていると言われてしまった。やっぱりという枕詞まで戴いて。


「マグナスさんは今は何を?」

「いや、君の発想に乗っかるみたいで悪いんだけど、魔獣の嫌う臭いを出せたら結界の代わりになるかなって。それでちょっと魔獣調査局に顔を出してきたとこ」


 臭い!!! なるほど!!! やっぱり、マグナスさんも変わり者だ。


 ん? いや、でも臭いが元で女性に嫌われるのもさすがに可哀想か。何なら騎士の任務に支障をきたしかねない。ノエルに適用するのは見送りとして、クレアと考えていた魔具の方に応用できるかも。魔法として付与すれば余計な荷物が増えずに済むし。


「さすがの発想ですね、マグナスさん」

「フッフッフッ、そうだろう。でも僕が真に作りたいのはやっぱり華麗な爆発魔法なんだ。爆発にはロマンがある」

「な、なるほど……」

「君の作り出したあの魔具も素晴らしい発想だが、やはり炎というものは酸素を喰らって爆散しないと」


 うん、やっぱりこの人は焼却炉先輩ってことでいいかも。


 お守りの方もノエルの配属先が決まるまでには完成させたいなぁ……。

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