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富の神様 ~宝くじが当選する人の裏事情~

作者: 松山 京平

 むかーしむかーしの(1時間ぐらい前の現代社会の)お話です。

 ある日あるところに、1人の社畜がいました。


 社畜はたいそう働き者で、皆にとても慕われて、頼りにされていました。

 職場の仲間達は何か困った事がおきると、必ず社畜に相談しに行きます。その都度、社畜はもっとも効果的な対策を示すのですが、これまた困ったことに、その対策は社畜のもつ技能が必要で、結局社畜が尻拭いすることになります。

 この会社はいつもこんな状況ですから、社畜の生活は、寝るか食べるか働く以外に何もありません。

 しかし、社畜のおかげで会社は順風満帆。

 世の不景気も何のその、みんなのお給料はどんどん増えて、職場は笑顔であふれています。


 けれど、社畜は思いました。


「時間が欲しい……」と。


 ある日、社畜は社長に掛け合いました。「人を増やして欲しい」と。


けれども社長は言いました。


「こんな明日をも知れぬ世の中で人を雇うなどもっての他だ。忙しいのは工夫が足りないからだ! 考えろ!」


 社長は社畜にありがたいお言葉をかけるだけ。


 ああ、もうどうにも成らないのだな……。


 働き過ぎた社畜は疲れ切っており、転職するということすら思いつきませんでした。



 会社から出て駅までの帰り道。

 社畜がふと見渡すと、小さな神社がありました。

 ふらふらと吸い寄せられるように境内に入った社畜は、賽銭箱に500円を投げ入れると、ガラガラと鈴を鳴らして祈りました。


「もう無理です。どうか宝くじで1等が当たりますように!」


 その時、奇跡が起こります。


  ──おお、なんという哀れな社畜よ、そなたの望み叶えて進ぜよう!


 なんと、社畜の脳内に神の声が聞こえたのです!


 社畜は「奇跡だ!」と喜び飛び跳ね、使う暇すらなかった貯金を全額引き出し宝くじを買えるだけ買いました。



 翌日。

 酔い潰れた社畜の社長が、これまた吸い寄せられるように神社へやってきました。

 そう。社長も偶然、昨日社畜がやってきた神社と同じ神社にやってきたのです。


「ああ、会社の金をギャンブルで溶かしてしまった……。ヒック! このままでは来月には債務不履行になってしまう……。ああ神様、助けてくださいっ!」


 絶望の表情を浮かべて叫ぶ社長。

 けれど、さすがの神様も「自業自得じゃねーか、バーカ!」と社畜の社長を蔑みます。


 当然、社畜と違って、社畜社長に神の声は届きません……。


「……そう言えば、社員の山田のヤツぁ、子供が生まれたって喜んでたなぁ。でも、もうダメだ。俺が不甲斐ないばかりに、来月の給料が支払えねぇ。ヒック!」


 社畜社長が呟きます。

 けれど、神様からすれば、聞き飽きるほどよくある話。

 山田とかいう人間には同情するが、目の前の社長がゴミクズであることには変わりは無い。


「もはや社畜だけが頼みだ……。あいつさえ頑張ってくれたら、資金ショートはギリギリで免れる……ヒック!」


 しかし、当の社畜は限界寸前。

 それは職場の皆も薄々感づいてたが、誰も社畜のような苦労はしたくないと社内では黙殺され、社長にまで報告が行かなかった。


「神様っ! どうか頼みます! 会社が潰れたら皆路頭に迷いますっ! 会社を救ってくださいっ! そして社畜がもっともっとと、低賃金のまま一杯稼げるようにしてくださいっ!」


 酔った勢いで、社畜社長は賽銭箱に500万円を突っ込みます。


「!!」


 さすがの神様も、この金額は無視できません。


 そして神様は思いました。

 神頼みに来る人間は皆、何かしら欲望や苦しみを抱えてやってくるが、小銭を投げつけては、金額に釣り合わない事ばかり言ってくる、と。


 だがこの男は違う。言ってることはクズだが、気前が良い。

 それに社畜1人をみみっちく救済するよりも、社畜の社長を救済した方が、トータルで考えれば幸せになれる人数が多い。


 社畜は有能かも知れないが、あくまで使われてこそ輝く存在。


 ならば……と、神様は決断し、社畜社長に囁きます。


「宝くじを買うのです……」


 その声を聞いた社畜社長は、泥酔状態で意識が朦朧としつつも、ふらふらと宝くじ売り場へ行って、宝くじを1枚買いました。



 そして1ヶ月後……。



 なんと、社畜社長の買った宝くじは大当たり!

 そして、がんばって働いた社畜のおかげで、新規事業も大当たり!!

 会社の業績は急成長!!!


 社畜はと言うと、全額投じて買った宝くじはすべて外れ、焦げ付いた家のローンを支払うために、毎日楽しく残業の日々。


 けれど、働く喜を知った社畜からは笑顔が絶えることなく、職場の仲間も笑顔に満ちあふれいます。

 そして社畜は定年(100歳)まで働き続け、幸せそうに暮らしました……。

時間が欲しいです……。

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