5.私は装備が気になります!
リューさんはなんだかおっちょこちょいだし、謝ってばっかりだし、なんとなく頼りない雰囲気を漂わせています。正直、あんまり強い人じゃないんだろうなって思ってました。
「この武器、この世界で最強の槍なんですよ?」
「ほほー!」世界最強の言葉に反射的に驚いてしまったけど、世界最強の槍って一番よく切れる、ってこと? 切れ味が最高の槍。って事かな?
「モーンハルバードって言うんです。かっこいいでしょ?」
うーん…… 見た目的にはどうなんだろう?
「最強の武器を持つほどの腕前なら、どうしてあんなに怒られなきゃならないんですか……」
「きっと、開始早々、すぐ死んでしまうのが問題なんだと思います……」
「死ぬって…… 痛いんですか?」
「痛いですね……」
「その…… やられないようにするために、何か方法はないんですか? 痛いのは嫌でしょう……?」
「当たらなければ良いんですよ!当たらなければね…… まぁ、それができないから苦労してます……」
「とにかく何度もチャレンジするしかないって事ですかね」
「そうですね。何度も何度も繰り返し練習したいんですけど、パーティだとそれがなかなか難しくて。いつも真っ先に死んでしまうので、ほとんど私は練習に参加してないようなものです……」
「それって…… やってて、楽しいんですか?」と、わたしは気になって訊いてみました。なんのために死んでまで続けてるのか、まったく意味がわからないんですけど……
「楽しくは…… ないですね……」リューさんはそう言うと少し考えて、「でも、せっかく誘って頂いたので」と答えました。
「私、今までずっとソロで活動してたんです。ちょっとリアルがばたばたしてて忙しかったので、なかなかパーティも組めなくて……」
「リアル?」
「あ、ごめんなさい。 うーん、竜戦士以外での活動? かな……」
「ふむふむ」
「時間ができたらで良いから、いつでもおいで? って誘ってくれたので……」
「へぇ、誰にです?」
「さっき一緒にいた、盾を持ったタンクの人です」
「ええっ! リューさん、その人にめちゃ怒られてませんでした?」
「……そうなんです」
リューさんはきている鎧の胸のところを指さして、「この鎧、彼が私にわざわざ作ってくれたものなんです。一緒に討伐成功まで頑張ろう、って……」
リューさんの鎧には銘らしきものがしっかりと彫られています。
『Hiroshi Lineharuto』
ヒロシ ラインハルト……
「私、彼の期待に応えたいんです……」
なに……? ひょっとして、リューさんはひろしの事が好きなの⁉︎
「な、なに言ってるんですかっ……⁉︎ そんなんじゃないんです! 装備を作るって大変なんですよ? 素材を集めて、それをとかして叩いて、部品をひとつづつ組み合わせて…… 甲冑師の技術だけじゃなくて、革細工の技術だって…… それをわたしのために作ってくれたんです! 大事にしないといけないって、思うじゃないですか! 思いますよね……⁉︎ ロッペさんも!」
……はいはい、わかった…… もう、わかりましたよ……
「でもリューさん…… 期待に応えたいって言ったって、そんな装備じゃ強敵の攻撃に耐える事なんてできないでしょう……?」
「ラインハルトさんも、攻撃を受けるのは盾の役目だと仰っていましたし…… 装備のせいにするのはどうかと……」
「ひろしの期待に応えたいなら、死ぬなって言ってるワケですから。まずは簡単に死ななように準備を整えて、全力でその……何でしたっけ?」
「絶級召喚魔パイモンです」
「それにあわせて、キッチリ備えるべきだとわたしは思います」
「そうですね……」
「怒られて落ち込んでじっとしてると、どんどん不安になっちゃうじゃないですか……? とにかく身体動かして忙しくジタバタしてたほうが、わたしは気が楽です」
「ロッペさんも悩んだりする事ってあるんですか?」
「ええ…… 毎日毎日、不安です」
わたしはリューさんに向かってできるだけ笑顔を作って、そう答えました。
「わたしの周りにいる人達はみんな、すごく前向きで、毎日すごく楽しそうにしてるんですよ。英雄様のために今日も毎日頑張ろう! って」
「ありがたい事です……」とリューさん。
「いえ…… それがわたし達の生きがいなんです。もちろん辛い事だってありますけど、きっと英雄の頑張ってる姿とか、街をたくさん歩いてる姿を見るだけで幸せなんじゃないですかね……? わたしみたいに明日の事が不安になって震えてるのなんて、この世界には誰もいません」
「……そうですか。そうですよね…… この世界には死もなければ、不安も苦しみも飢えもなくて、ただ幸福だけがあるんだって聞いてます」
リューさんは独り言のようにそう呟きました。
「きっと、ロッペさんはわたし達に近いんですよ!」
「わたしが? 英雄にですか⁉︎」
「そう!」
「それはないでしょう…… だって武器も持てませんし、あんなに美味しいコーヒークッキーも作れません」
「うーん、だったら…… 心が一緒……! かな? 不安になったり、悩んだり、悲しんだりするところとか」
「強くもなくて、器用でもないのに、なんだかめんどくさい所だけ英雄と同じなんて、嫌ですね…… 損じゃないですかそんなの……」
「そうですね」
「そうですよ……」
わたし達は笑っていました。
お読みいただき、ありがとうございます!
続きが気になると思っていただけましたら
ブックマークと、ぜひ評価の方もお願いします!
読みやすい文章が書けるよう、勉強中です。
感想や改善点も書いていただけたら、作者の励みになります‼︎
評価はこのページの下側にある
【☆☆☆☆☆】をタップしてください。
よろしくお願いします!!