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38.私を葡萄谷に連れてって‼︎




 もしも…… メルピさんとマシュさんが、食人種とかいう超ヤバい種族の集落に転送されて生き返ったら……


 二人はもう生きてすらいないかもしれません…… それを考えると恐ろしくて鳥肌が立ってきます。


 死んで、また生き返る…… 食べられて、死んで、生き返る。


 その集落の広場に……


 無限地獄……!



 食人種なんて種族がいるかどうかも分かりませんが、この世界…… 何がいても、何が起こっても、もはや不思議じゃありません。


 ついさっき、石ころに魔法をかけたら魂が生まれて、泥人形が動かせるようになった、っていう話を聞いたばかりなんですから。



 もうすっかり夜になってしまいましたが、車もなんとか借りる事ができて、街灯も灯いてないサンドア郊外の郡道を葡萄谷の方へ向かって走っています。


 エルが持っていた『冒険マップサンドア近郊編』と、それと繋がるグリンデの地図を見てみると、二人が死亡した地点から一番近い場所に、ロマニという村を見つけました。サンドアが誇る最高級ワインの生産地として有名な村です。ここで二人仲良くワインでも飲んでてくれればいいのですが……


 昨日生まれて初めて車の運転をしたという、こんなわたしでも危なげなくスイスイ運転できてしまうのは、わたし以外の車に全く出会わないからです。対向車も居なければ、前にも後ろにも車はいません。それどころか、街道を歩く冒険者の姿すら見当たらないのです。


 「ねぇ、エル? 昼間メルピさん達と車で移動してる時、他の冒険者とすれ違ったりした?」


 「いえ、道中は誰とも会ってないですね」


 たまに話しかけないと、エルは平気で助手席で寝てしまうんです。


 そもそも助手席に座る人って、運転手が運転しやすいように地図広げてナビしたり、何か面白い話とかするのが仕事なんじゃないですか?


 エルは黙って座ってるだけで、面白い事なんてひとつだって言ったことないですし、放っておくとすーすー寝息立てて寝ちゃうんです。だからこうやって定期的に話を振っておかないといけないんです。


 「おかしくない? 昨日の、あのオリーブが栽培されてたあの丘よ…… あそこも車で30分くらいはかかったけど、誰ともすれ違わなかったじゃない? 昼間だったのに誰とも会わないなんて……」


 エルはだから何? という顔をしています。


 「何が言いたいかわかる?」


 「いえ? わかりません」


 「試練、受け間違えてるんじゃない? これ英雄の試練じゃなくて、誰も受けないような『破滅への道』みたいな…… 極道かマフィアのボス目指すような変なクエスト受けちゃってるんじゃない? ってわたしは言いたいのよ」


 ストーリーもなんだかおかしいし、他の冒険者の影すら見えないじゃない…… 絶対おかしいいんだから……


 すると、エルはわたしに1冊の本をカバンから出して見せてくれました。なんだかぶ厚い本です。


 そこには確かに、『英雄の道 5.4』と書いてあります。そして、『海の都サンドア編』というところにちゃんと付箋が貼ってありました。


 へぇぇ、これが英雄の試練のクエストブック…… 生まれて初めて目にするクエストブック。一般市民が決して目にすることはない本です……


 付箋が貼ってあるその先を見ようとすると、サッと横から本を取り上げられてしまいました。


 「ダメですよ、ネタバレになりますからね」


 何よ、ネタバレって…… わたしは英雄を目指してるわけでもなんでもないんだから、別にいいじゃないのよ……



 でも合ってる…… 今進めてるのは『英雄の道』で間違いないんだ……


 「間違いありませんよ。僕はきっちり予習して無駄なく進めているんですから。僕に起こってる予想外の出来事ってのは、全部ロッペさん持ち込みですからね?」


 ううっ…… 何も言えないじゃない……



 到着したロマニの村は、葡萄谷の手前40キロ程の場所にある、人口200人未満の小さな村です。


 真夜中なので外を出歩く人もなく、ひっそり静まりかえっています。ワインの醸造がこの村の主な産業なので、繁華街のようなものもありません。


 村に数軒しかないホテルを全て廻って、サンドア市民のカップルがこの村で復活するようなことがなかったかと聞いてみましたが、どこで話を聞いても答えは同じ。


 行動不能になった冒険者ですらこの村で復活することもほとんどないのに、ましてや一般市民がこの村で生き返るなんてあるはずがない、と。そんな珍しい事があろうものなら、村中で噂になってるよ、と笑われてしまいました。


 この村に二人が来た可能性は、ほぼなさそうです……



 もう日も暮れてしまいましたし、この村で聞き込みをするにも時間的に遅すぎると思ったので、明日、明るくなってから捜索を再開しよう、と言うことになりました。


 「じゃ、僕はここで落ちますね。ロッペさん、明日こそマシュさん達を見つけましょう」


 「うん。遅くまでありがとう、また明日ね」


 エルは手を振りながら、霧のように消えて見えなくなりました。




 朝になって、エルが戻ってくるまでの間に主に食料品を取り扱っている商店を巡ってみたのですが、結局手がかりは一切なし。未発見の町か村を探す、という不可能とも思える探索を行う事になりそうです……



 エルを待つ間、噴水のロータリーにあるバス停のベンチに座って、ホテルで貰ったロマニのパンフレットをなんとなく眺めていました。


 それを見ていると、ロマニワインは確かに最高のワインで世界一というのは間違いないんだけど、村の名前がついたロマニワインよりも、畑の名前がつけられた特別なワインというものがあるそうです。それこそが特級というべき最高級のワインである、と。


 ロマニワインでもそうそう気軽に飲める値段じゃないって言うのに、特級畑の名前がついたロマニ産のワインなんて、どうせ市民が口にできるような代物じゃないんでしょ…… なんて思いながら、ワインショップへフラフラと立ち寄ろうとした所をエルに目撃されました。


 「ロッペさん、お酒を飲むのは行方不明の二人が見つかってからにしましょう?」




 とりあえずここには何も手がかりは見つからなかったので、いったん葡萄谷の試練の場所まで行ってみようかという事になりました。


 車で約30分程で葡萄谷へ到着。葡萄谷というくらいだから、葡萄畑が広がる景色を予想していたんですが、葡萄の木なんて一つもない、荒れ果て、雑草が生い茂っているだけの丘陵地帯。こんな場所も、昔は一面に葡萄畑が広がっていたのでしょうか。名前だけが残ったのかもしれません。


 そんな中に小屋がポツンと建ってました。あれが例の…… と一目でわかりました。最初にメルピさんとマシュさんが入っていた、戦車で破壊される小屋です。……でも、ただそれだけではなく…… どこか不自然な雰囲気のある小屋だな、と思いました。


 「この小屋、なんでこんなとこに1つだけポツンと建ってるのかな……?」


 こんな何もない所に、どう見ても不自然なんです。


 「昔、葡萄畑が広がっていた時の名残じゃないですか? 道具置き場に使ってたとか。用途はいくらでもあると思いますが」


 「試練のイベントの時には潰されちゃったんだよね?」


 「ええ、突然戦車が現れて。あっという間でしたよ……」


 「葡萄畑がいつまでここにあったのかはわからないけど…… この小屋結構キレイじゃない? 10年以上ほったらかしだったら、建物なんてあっという間に滅びちゃうんだから。この小屋、ちゃんと整備されてるっぽいよ?」


 「まぁ…… そう言われればそうですね」


 意味のない事はしないと思うんだよなぁ…… 必要のない建物は建てないし、いらないんだったら取り壊すか、放置するでしょ……? たしかに、戦車が小屋をドーン! と破壊して突っ込んでくるのは迫力があると思うんだけど…… ほんとにそれだけなのかなぁ……



 何か秘密があるんじゃないかと、念入りに調べてみたんですが、ヒントになるようなアイテムも見つからず。やっぱり手がかりなしか、と途方に暮れていた時、パーティらしき四人の冒険者がやってきました。


 「あの場所にいるって事は、きっと試練ですよ。パーティで今から攻略を始めるんだと思います」とエル。


 「えっ……! じゃぁ、この小屋に居ると危ないんじゃない?」


 「そうですね、イベントが始まると戦車が来ちゃいます」


 「ちょっとお! じゃぁモタモタしてないで急いで非難しないとっ‼︎ どこにいれば安全なのよ⁉︎」


 「どこに居ても、この後魔導士部隊がやってきて、この辺り一帯全て範囲魔法で焼き尽くされちゃいますからね…… 言ったでしょ? それでマシュさんとメルピさん死んじゃったんですから…… どこに逃げても助かりません」


 「ええええー‼︎ じゃぁ、もう死んじゃうってこと⁉︎ 焼け死ぬなんて絶対嫌よ‼︎ エル? 何か助かる方法はないのっ‼︎‼︎」


 「何言ってるんですか…… 落ち着いてくださいよ。僕ヒーラーですよ? バリア張りますから安心してください」


 ニッコリ笑うエル。なんで最初からそれを言わないのよ……


 この男、わざと言ってるでしょ? マジで怖いんだけど……




 バリアが戦車の重量に耐えられるか分からない、とエルが言うので、小屋から出たところでヒールバリアを張って防御しつつ、パーティが今から行う試練のクエストを見学することにしました。


 ちょっと遠くて表情までは見る事ができないのですが、冒険者の前にいるNPCは、英雄の親友だったという、サンドア軍人の男性でしょう。そしてその隣には女性の姿も。あれはそのフィアンセなのかな。


 「スパイ容疑のかかった女性をここまで護衛して連れてくるのが、試練の内容だったんですよ」


 スパイ容疑のかかった、って…… アンタが小細工して自分の罪をなすりつけたんじゃない……


 「その女性は親友のフィアンセなんです。だから国外へ逃げられるように手助けしようとしたんですが……」


 激しい音とともに戦車がやってきて、総勢20人前後の騎馬に乗った槍兵と魔導士軍団がその後に続いて現れます。


 「既に追っ手がかかっていた、というわけです」


 「この追っ手、英雄にとっても想定外なわけ? それとも狙い通りなの?」


 「これは想定外だったようです」


 へぇ…… まぁいいけど。


 戦車がさっきの小屋を激しく踏み倒して冒険者達の方へ前進していきます。そしてサンドア軍の魔導士部隊が一斉に魔法の詠唱をはじめ、試練のイベントバトルがいよいよ始まったようです。


 エルから話を聞いた時も気になってたけど、ほんとに魔法唱えてます…… 英雄でも冒険者でもない人間が魔法を使っているのを見る事ができるのはきっとココだけ! 激レアシーンです‼︎


 「あの魔導士全員で超複雑な術式を詠唱しますから、完成するとすごいですよ。あんな大きな爆発まともに食らって、生きてるのが不思議なくらいでした」


 それ食らっちゃいけないやつなんじゃないの……? 近くで見てたメルピさん達はさぞ怖かったでしょうね……


 冒険者のパーティはまず、魔導士部隊に狙いを定めて、魔導士の元に突っ込んでいきました。スキルを使って詠唱を中断させて、魔法攻撃を発動させる前に倒してしまう戦法のようです。とても新米冒険者とは思えない、とても手慣れた様子で次々と魔導士を蹴散らしていきます。


 「魔導士ってこうやてみると打たれ弱いのね…… あっという間に倒されちゃったじゃない」


 冒険者パーティ──激レア魔導士部隊をあっという間に殲滅完了。


 「範囲魔法なんて来なかったよね?」


 「なるほど、魔導士から先に倒せば良かったようですね…… 戦車を先に壊そうとしてましたよ……」


 数の多い敵を相手にする時は、まず数を減らすってのはセオリーなんじゃないの?


 冒険者パーティは、次は騎兵に狙いを定めます。騎兵はその機動力を生かして、ヒット&アウェイでパーティのヒーラーを狙っていました。なるほど、パーティの中で一番打たれ弱いヒーラーから狙うとは……! 敵ながらイイ作戦だっ!


 「そうそう、この馬が厄介だったんですよね……」


 「その間もずっと戦車叩いてたの?」


 「ですです」


 「……」


 どんな攻撃食らっても痛くも痒くもないから、って変な戦い方する癖がついちゃったら、下手クソなヒーラーになっちゃわない? 大丈夫かなぁ……


 盾を持った冒険者がスキルを使用して、一気に騎兵の攻撃を自分に向けさせ、ヒーラーへの攻撃を妨害すると、今度は騎兵に向けてパーティ全員が攻撃を集中させていきます。


 「あれだけいた敵兵があっという間に倒されていくじゃん! すごいね‼︎」


 思わず感嘆の声をあげると、エルは


 「僕は一人ですからね……? 時間かかって当然ですよ。こんなにパーティだと早いんですね……」と悔しそうに見ています。


 冒険者パーティ──敵騎兵を危なげなく殲滅完了。


 いやいや、やり方次第なんじゃないの? 強さは既に英雄と同等なんだからさ…… こんな試練の前半で苦戦するなんてあり得ないでしょ? 


 こうして、サンドア軍の兵隊は全滅。残るは戦車のみ。もはや何もしてこなくなった、ただの鉄の塊をパーティ全員でタコ殴りしてるうちに、硬そうな戦車も大爆発。試練はクリアとなりました。


 「特に危なげもなくクリアしちゃったね」


 「なるほど…… 魔導士部隊を放置しすぎて、あの全範囲魔法攻撃がきたってわけですか……」


 『ミッション失敗タイムアップ』の超強力エリア魔法だったようです…… それ食らってもエルは規格外の高レベルだったから死ななかったけど、メルピさんとマシュさんは灰になっちゃったわけか……



 イベントのバトルが終わった後、冒険者のパーティはサンドアへ帰還してしまったらしく、その姿はもうここにはありません。戦いが終わった葡萄谷に残されたのは、戦車の残骸と、その戦車に潰されて跡形もなく崩れた小屋だけでした。


 「あの親友の男とそのフィアンセはどうしたのよ? 姿が見えないけど…… ひょっとして巻き込まれて死んだの?」あの二人も忽然と姿を消しています。


 「どうですかね…… それは言えません」


 またこの男は!


 「あのねエル、わたしはネタバレとかどうでもいいんだから、教えてよ! わたしはこの試練をやることは一生ないんだから、バレたってどうって事ないでしょ? 中途半端に知っちゃってるから、なんだかモヤモヤするのっ‼︎」


 エルは無言のまま。


 おいおいおい…… 本当に何なのよ……? 



 どうやって二人が死んでいったのか、その様子を克明に想像する情報を得ることはできたものの、結局行き先の手がかりは全く掴めず。ここからぐるぐると円を描くように範囲を広げながら、地道に探っていくしか手はないと諦めて辺りを見回してみました。


 辺りを見回したところで、見えるのは雑草がボウボウの荒れ果てた丘と壊れた小屋。


 何もかも崩れて、小屋はぺちゃんこです……


 ぺちゃんこになってまっ平に潰された小屋……



 「エル、ちょっと小屋へ急いで戻りましょう! あと数分で元に戻っちゃう‼︎」


 クエストのイベントで破壊されたものは、たしか10分程で元に戻ってしまいます。戦車に破壊されて潰された小屋は、床も崩れ落ちて軒下まであらわになっていました。


 「エル…… あったよ!」



 床板がなくなった小屋の真下の地面には、地下へと続く階段がありました。



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