32.私の推理では……犯人はあなた‼︎
「いやぁ…… 襲撃されるのは知ってたんですが…… それでもいきなり来られると、びっくりしちゃいますね……」
あれだけ一方的に攻撃を受けながら、ケロリと無傷で歩いて戻ってくるエル。推奨レベル5の英雄クエストをレベル99で進行している訳ですし。敵役の方が災難ってもんでしょ。
何もそこまでしなくても…… ってくらいに入念にトドメを刺してましたし……
「蘇生されると失敗になっちゃうんですよ」と返り血を浴びて、聖なるヒーラーとは程遠い見た目と発言をしてしまうエル。
「ヒーラーってさ、治癒回復が専門って言ったって、一応魔法使いの仲間なんでしょ? だったら、攻撃用の魔法だって、少しくらいは使えたりするんじゃない?
そんなふうに杖振り回して戦ってるヒーラーなんて…… わたし見たことないんだけど?」
ユモアでやった護衛クエストの時だって、ヒーラーはたくさん見てきました。なんかエルのヒーラーはその人たちと雰囲気違うんですよね…… 装備は間違いなくヒーラーの装備なんだけどなぁ……
どこがおかしいんだろ。
「なるほど……」と考え込むエル。そんなエルの手には、真っ黒に焦げて、もはや何が書いてあるかも読めない手紙のようなものが握られています。
そして…… わたし、見てしまったんです。サンドア兵を倒した後に取った、エルの奇妙な行動を……
聞いてもいいよね? これクエストだし……?
「エル…… あなた、あの遠くで倒れてるサンドアの狙撃兵の手に何か握らせたでしょ……? あれ、何してたの?」
「ああ、サンドアで女性が住んでいるマンションからブローチ盗んだでしょ? あれを握らせたんですよ」
「ブローチを死んだ兵士の手に?」
「ええ」
悪びれもなく答えるエル。
「もう少ししたら、ここを調べにサンドア軍のとある人物がやってくるはずなんです。正確にはあと14分後ですね。それまでに手に握らせておかないと、この試練は失敗です」
そろそろやってくるかもしれませんから、早くここから退散しましょう、とエル。
「見つかると、また全員殺さなくてはならなくなりますので……」
怖いこと言うじゃない……
ひょっとして…… このクエストの中で言われてる『裏切り者』って…… 英雄自身なんじゃないの?
わたしの推理では──
サンドア軍は、内部にスパイがいることに感づいた。そこで『裏切り者の正体を掴んだ』という情報を敢えて漏洩させる。『裏切り者』は必ずそれを握りつぶしに来る。そこを待ち伏せして襲撃するという作戦なの。
『裏切り者』はそれが偽物で、罠である可能性があることがわかっていても、本物である可能性がゼロでない以上、それを無視するわけにはいかない。
だけど、『裏切り者』の英雄は、その罠も見越して抜け目なく部屋から女性が大切にしている『ブローチ』を盗んでいた…… 戦って揉み合う中で引きちぎられたように見せるため、それを死んだ兵士の手に握らせておいたのよ……
間違いない。
でもねぇ…… ブローチを握らせたってことは、あのマンションの女性に裏切り者の疑惑をなすり付けたってことでしょう? なぜあの人を身代わりに選んだわけ……? 何か理由でもあるのかしら……
この『英雄の道』っていう試練は、この世界で一番最初に英雄と呼ばれた冒険者が辿ったストーリー。この世界を救った偉業を追体験して、全ての冒険者がこの世界を救った英雄になるための連続クエストなのです。
冒険者として降り立った『未来の英雄』エルは今、サンドア兵の中に潜り込んで、暗躍しているようです…… このサンドアで英雄がやろうとしてる事って一体何なの?
──聞いてみよっ。
「ねぇ、エル? エルって今、サンドアでスパイか何かをやってるんでしょ? 何企んでるわけ?」
「……それはちょっと言えないですね」
何よ! なんでそこでもったいぶるわけ⁉︎ 教えなさいよ‼︎
「そんな事より、このあとはサンドアに戻ってサンドアの兵舎でまたイベントですね」
「あ、また戻るのね」
エルを車に乗せて、またサンドアへ戻る。
これって。
……わたし、ただの運転手じゃん?
英雄のストーリーが気になってしまって、自分の仕事忘れてたし……
今のところ、調理師ギルドのクエストに役に立ちそうなものもないしなぁ…… こんな保護者みたいに付き添ってる必要もないでしょ。明日からひとりでまわってもらうかなぁ。
……ちょっと話の続きは気になるけど。また話が進んだら、これまでのあらすじを教えてもらわなきゃ。
一通りのことを終えて、サンドアの街へ帰ってきたのはもう日暮れ前。
「どこかご飯でも食べに行く?」
と誘ったのに、エルときたら。
「いえ、今日はそろそろ時間なので、この辺にしときます」
……キッパリ断られました。
なによ…… 付き合い悪いじゃない!
お弁当買って、ホテルで食べよかな……
一日中運転して、かなり上手になった運転で太陽通りを西へ。
逆光のサンドアの街は週末です。わたしはひとり、夕食の弁当を買いに行きました。
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