21.私のクエストのスポンサーになってくれませんか?
店内はたくさんのお客さんで溢れています。
そんなに広くはないスナックですが、内装はマホガニー調のシックな雰囲気で、カウンターにはバーテンダーの男もいるので、一見するとおしゃれなBARという感じのお店。
お客さんが飲みながらカラオケをやってたりとか、テスタ会長がいつもよりちょっと濃いめの化粧で、常連風の男性と、カウンター越しに互いの鼻がくっつくほど近づいてお喋りをしてる――そんな光景さえなければ、わたしも喜んで毎晩通いたくなる、素敵なお店なんですけどね。
BOX席はユモアの商店街の人達が早くも酔っ払っていて、大きな声でお代わりを三杯くれだの、こっちにももう一つくれだの言い合っていますが…… そんな人達も、わたしがお店に入ってくるのに気がつくと、「おお! 今回の祭りの主役が来たぞ‼︎」と大歓迎で出迎えてくれました。
「ささ、英雄様もぜひぜひ!」と促されて、わたしと一緒にいた猫侍さんも一緒にカウンター席へ。今回のイベントはとってもお世話になったので、この打ち上げにお誘いしたんです。
わたし達がカウンター席に座ると、すぐにバーテンダーのアンリがわたしと猫侍さんに蜂蜜酒を出してくれました。このアンリはランプ村の幼馴染。ミドラン族(人間)の男で、昔は女たらしで有名な嫌な男だったんですが…… なんだかすっかり優男風になって…… これも女を騙すための手かもしれませんね。メガネまでかけちゃって。本なんて読んだこともない癖に、目が悪くなる訳ないじゃない……
「お疲れさん。初めてのクエスト出演おめでとう。どう? 大変だったかい?」
「もうしばらくの間は出たくない感じかな…… ここにいる猫侍さんに助けてもらわなかったら、今日ここに来れてないかも。死に戻りしなくて良くなったのって、猫侍さんのお陰だもの」
するとすかさずアンリが猫侍さんに顔を近づけて、
「英雄様、ロッペをお守り下さり、本当にありがとうございます。こちら、ここの主人が特別に職人を招いて作らせました蜂蜜酒でございます。ぜひお試しください」
とお酒の入ったグラスを渡しながら、白々しく猫侍さんの手に触れる。
「へ、へぇ…… ボクも蜂蜜酒はよく飲むけど、ここのは特製なんだね。ぜひ頂くニャ」
猫侍さんがいつもは見せない顔をして、照れてるじゃない…… ちょっと手が触れたくらいでドキドキしてしまうほどウブなの⁉︎ 急にロボット愛が冷めてアンリにゾッコン、なんてことになったらわたしの計画が台無しじゃない! 絶対に猫侍さんのお金は渡さないんだから‼︎
テスタ会長もわたし達に気がついたようで、カラオケのマイクを持ってわたしの近くへやってきました。そしてわたしを椅子の上に立たせて、満席の店内に響く声で紹介してくれたんです。
「みなさん、今回、このユモアでバレンタインデーイベントクエストを企画し、成功をもたらしたのは、このロッペのアイデアと努力によるものです」
歓声が沸き起こります。
「ロッペの功績は、この街にお客様をたくさん集めたことだけではありません。私達ユモア市民が、神へ向けてイベントを提案し、それを実現させたことです。これは今まで誰も成し得なかった、誰もしようともしなかった、前代未聞のことです。
今まで私達は、神から与えられたものを受け入れるだけでした。指示があれば他の街へ移り住み、店をたたみ、職を失って途方に暮れることもありました……
このロッペは自らの考えを持ち、それを実現させるために行動する女性です。神に自分の意思を伝え、それを実現させるための努力をする者です。
かつてのユモアがそうだったように、ユモアの民は強き意思をもった、選ばれし市民。これからユモアが進むべき道を示してくれました。
ありがとうロッペ。さぁ、みんなでロッペの功績を讃えて乾杯しましょう!」
『乾杯!』
店内にグラスを合わせる音とが響いて、みんな笑顔で乾杯しました。別に英雄のためにやろうとしたわけでもなく、街のために頑張ったわけでもなく、全部自分のためだったんだけど…… それが街の人達の役に立ったんだったら、今回のわたしのクエストは大成功、ってことかな。
ていうか、後半のクエストは全部テスタ会長のアイデアなんだけど……? なんか自分のやったこと以上にわたし…… 担ぎ上げられてない?
乾杯してグラスに入ったお酒に口をつけて飲もうとした時に、隣の猫侍さんと目が合ったので、「お疲れ様」とわたし達は二人でもう一度乾杯をしました。
「一番早いのは、『英雄の道』の試練に出演することだね」
と、テスタ会長はわたしに『主要NPCにはどうやったらなれるのか』教えてくれました。
「英雄が真の英雄になるための試練ってやつですよね?」
「そう。そのクエストに出演すれば、この世界のほぼ全ての英雄がそのクエストを受けるから、一気にクエスト出演数が稼げるってわけさ」
「クエストの出演数が一定以上になれば、自動的に主要NPCに認定されるよ。主要NPCっていう称号は、『この世界に居なくてはならない、重要な市民』ってことだからね。
今回のバレンタインイベントクエストもかなりの英雄が受けてくれたけれど、まだそれだけでは足りないだろうね。この調子で君がクエストを発注し続けられれば、認定もそう遠くないんじゃないかな」
常に何かしらのクエストを公開しておくくらいじゃないと、認定はいつになるやら…… このコール島でわたしの企画したクエストを何かひとつくらいは実施しておかないと。
テスタ会長はそんなわたしに、
「困ったことがあったらまた私に声をかけてくれよ。君のことはいつだって待っているから」と言って、ユモア商工会の会員バッジを手渡してくれました。
「え…… これ、いいんですか? わたし、もうアルデナ商会の会員になっちゃってますし、ユモア商工会は入会資格が厳しいって聞いてましたけど……」
「そう。我がユモア商工会は基本的には新規入会者は取らないんだ。会員資格は親から子に受け継がれるものだからね。それとあと一つは、会員からの推薦があれば入会できるんだよ? ロッペ、君の事はこの会長自ら推薦させてもらうよ。ぜひこれをつけて貰えないかな?」と、テスタ会長は言ってくださったのです!
わたしはそれを、ありがたくお受けしました。
「これは名誉会員としてこちらから頼んで入ってもらう訳だから、既にどこかに所属してたって問題なんてないさ。ロッペは私のカードをたくさん配ってくれたからね。これはささやかなお礼だよ」と言って、テスタ会長は他のお客さんの席の方へ歩いて行ってしまいました。
わたしがテスタ会長と話している間、猫侍さんはわたしの隣で、交換所の受付のマークと立ち話をしていました。装備品と討伐認定証を交換する交換所は、その性質上、英雄とは接点が非常に多いのです。
「また明日からもモンスター狩りですか?」
とマークが立ち去ったところを見計らって、猫侍さんに尋ねました。
「もちろん! 明日からロッペさんと一緒に回れないのはちょっと寂しいけどニャ」
「もしも、の話ですけど…… 探してる飛行タイプのコアクリスタルが見つかったとしたら、全財産使ってでもそれを買い取っていい、って思ったりします?」
「もちろんだニャ! ロボになったらお金なんていらないのニャ。どこかでコアクリスタルが見つかったって聞いたら、それはもう力づくでも奪いに行くと思うよ? ボクはこの夢に命をかけてるんだからね‼︎」
ニャ忘れてる時は発言が過激になって怖い時がありますね……
「実はわたし、クエストを発注したいんです。このユモアで」
「おお、どういうクエストを作るのニャ? ロッペさんの作るクエスト、どんなのか興味あるのニャ」
「わたし…… 飛行タイプのコアクリスタルを探すクエストを発注しようかと思ってるんですよ」
「コアクリスタルを……?」
「猫侍さん…… 良かったら、このクエストの出資者になっていただけませんか?」
「出資者……」
「猫侍さんの全財産を報酬に提示してくれませんか? そしたらきっと、猫侍さんが今まで探し続けてたものをこの世界にいる英雄達…… 三千万人が必死になって探してくれるはずです!」
「全財産をかけて? 三千万人が⁉︎ エエエエエーッ‼︎」
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