1.私は英雄が嫌いです!
お仕事の終わりに、お店の先輩に誘われて、『階段酒場』に来ています。
この店、正直あんまり好きじゃありません。女子二人で来てるのに、なんで居酒屋なのよ…… せっかく光の都で働いてるんだから、もっとおしゃれな所に行きたいんだけど。しかもここって、英雄が入り浸るギルドの支部に併設されてるから、周りは英雄だらけなんです……
「ロッペちゃんさぁ、英雄様達の事めっちゃ嫌ってるでしょ?」
唐突にこんなことを聞いてくるのは、モニス先輩。
彼女はお店の看板娘で、店主のエイリクさんがお店を始めた時から居る、入ってまだ日の浅い私にとっては、『超』がつく先輩です。
「ええ…… そんなことないですよぉ」
ビールのジョッキを片手に、メニューを見ながら答えます。もう…… 肉と揚げ物ばっかり……
「ウソばっかり! 私が休憩の時、レジ交代してもらってるじゃん?」
「ですねぇ」
「接客してる時のロッペちゃんの顔…… もう、ほんと……! すごいんだからっ!」
大きな目をさらに大きくして、モニス先輩は笑います。
「すごい、ってなんなんですかぁ!」
「もうね、こんな顔よ!」
目を細くして、ムスッとした顔をして見せるモニス先輩。なにもそこまで気合入れてブサイク顔作らなくてもいいじゃない……!
「もう、モニス先輩ったら! ひどいじゃないですかっ!」
どうせ奢ってもらえるんだろうし、串焼きを全種類5本づつとお刺身の盛り合わせをオーダーしました。
「そういえば、ロッペちゃんさ。前の仕事ではどんな事してたの? イディルにいたんでしょう? あそこって近くに有名大学がいっぱいあるから、将来有望な人がいっぱいいそうじゃん! 良さそうな人…… いた……?」
「わたしがやってたのは、英雄相手のトークン交換係ですから。良さそうな人も何も、通声穴のついたパーティション越しにやり取りするだけですし……」
「いやいや、その近いようで、触れられない距離感がいいんじゃない? なんかこう…… もどかしさがあるっていうか! 『キミ、今日何時に終わるの?』みたいなのってないわけ?」
「ないですね」
「ロッペちゃんはつまんない。本当につまんないなぁ!」
学術都市のイディルって、なんだか頭良さそうな感じで好きだったんです。どこで働いてるの? って聞かれて『イディルで』って答えるの、オシャレだしデキる女っぽくて気に入ってたんだけどな。あんまり派手な街じゃなかったけど。
「その交換所もさ、今のうちらの店みたいに、すっごい忙しかったんでしょ?」
「1年くらいは続きましたかねぇ…… すごい行列でしたよ?」
「いいよねぇ、英雄様がたくさん集まってくれるってさ…… わたしら市民の喜びだよ。だから今、毎日すっごく充実してて楽しい。ロッペちゃんは?」
「ええ、まぁ……」
「だよねー! 飲もう飲もう! 明日は久しぶりの休みだし。今日はわたしの奢りだから! さぁ、じゃんじゃん行こー‼︎」
わたし達の世界は、英雄によって守られています。英雄の活躍を全力で支えるのが、わたし達市民の役目であり、喜びです。
──と、みんながそう言うんです。
わたしにはどうしても、それを目的に生きていくことができません。
みんなの言うことに本心から同意できなくて、些細な嘘をつきながら、わたしは毎日を過ごしています。
英雄のために生きていくなんて……
ありえないんだけど。
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