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15.私のクッキー貰ってくれますか?



 何もない時に同じ商品を配っても誰も見向きもしないだろうけど、イベントというものには恐るべき力があります。


 英雄達が《イベントNPC》という肩書きのついたわたしの元へ、続々と交換へやってきました。まさにコーヒークッキー金策以来の大行列!


 「コーヒークッキーって今まで大量に作ったけど、食べるの初めてだよ! こんなに美味かったんだぁ」


 ――と、純粋にクッキーを貰って喜んでいる英雄や、中にはクリスタでわたしがコーヒークッキー工房で働いていた事に気づいた英雄も居て、


 「これ、祝福されたハートチョコレートって言う、特別なチョコレートなんだよ!ロッペちゃんにはお世話になったからもらって欲しいんだ!頑張ってね‼︎」


 と、バレンタインデーイベントキャラのわたしが逆にチョコを頂いてしまったり……


 時間制限ありのイベントというのも珍しかったのかもしれません。わたしが開店準備してる様子だとか、店を畳んでリヤカー引いて村に帰っていくのを写真に撮ったり。


 そこまではまだいいとして、そのまま家までついてくる英雄も居ます。朝は玄関の前でわたしが出て来るのを待っている事も…… そんなに待ち遠しいならリヤカー引くの手伝ってくれれば良いのに…… なんて思うんですが。



 で、ここからが本題です。そんな予想以上に大盛況なコーヒークッキー交換イベントならぬ、バレンタインイベント(ユモア編)なのですが、英雄達にクッキーをお金で買い取って貰うんじゃなくて、物々交換をしてもらうことにしていました。


 実は、コーヒークッキーをオリーブオイルと交換で渡すことにしていたんです。まず最初に手がける商売は、素材になるほとんどのものを自分で調達できるという理由で、食品系を取り扱うのがハードルが低いんじゃないかなと思っています。なにより、わたしの手元にある大量の超高品質のコーヒークッキーを利用しない手はありません!


 だけど、これを商品として販売しても、ほとんど買い手はつかないはずです。それならば、完成品のクッキーの在庫を抱えているより、食材として広く使い道があるオリーブオイルに交換してもらったほうが良いんじゃないか? と考えたんです。


 何より、高品質なオリーブオイルは私達一般市民には精製することができない、英雄にしか作れない超貴重品。コーヒークッキーのパッケージに『バレンタインイベント』というシールが付いただけで、普段はありえないような交換条件のトレードも成立してしまうのです。イベントの力、利用しない手はない……!



 「まだイベント終了まで期間は半分以上残っているけれど、どうかな? もう交換するクッキーの残りが少ないようだが?」


 と、わたしの後ろに積んであるクッキーの在庫がかなりの勢いで減ってきてるのに気付いてやってきたのは、商工会のテスタ会長。美しいラベンダーのような紫色の髪に、猫耳と長い尻尾を持ったサンシ族の女性で、英雄達からもその妖しい魅力で、このユモアでは一位二位を争う、とっても有名で、とっても人気のあるお方です。そして、とっても美人。


 「この調子だとあと1週間で完売してしまうかもしれませんが、クリスタに以前働いてた工房がにツテがありますので、そこから追加で仕入れるつもりです。イベント終了まで問題なく交換できますので、ご安心ください」


 「いや、無理して配布イベントを続けてもらわなくても大丈夫だよ。全て自腹で購入するんだろう? 本来、こういう公式…… いや、市民が英雄に感謝を伝えるためのイベントは、個人の財産を投じて行うものではないんだよ。なので、在庫がなくなり次第終了で構わないし、もちろん交換した油は君が持ち帰ってもらって構わない」


 ……まぁ、クッキー工房には唸るほど高級コーヒークッキーの在庫があるので、モニスをお茶にでも誘えば、かなり格安で譲り受けることができるし、このまま継続した方がわたし的には美味しかったのだけれど…… ここはテスタ会長のご厚意に預かりましょう。あまりガツガツ欲張りすぎない方がいいよね、きっと。


 「あくまで、イベントは主要三国が主体だから、在庫が切れたら『完売につき閉店』で問題ないよ。そのあたりは好きにしてくれたらいい」


 「ありがとうございます! メドがつき次第、ご報告に行きますので」


 「今年はなんだかイベントに妙なNPCが立ってると話題になって、今年はこの街もありがたいことにすごく賑わっているよ。これもロッペのお陰だ。次は何をするか、考えておかないとね」


 そう言うとテスタ会長は手を振ってカジノエリアの方へ歩いて行きました。次は何をするか……? 来年の事を早くもテスタ会長は考えてるのでしょうか。 ていうか、妙なNPCって……! そんな言い方しなくてもっ!



 イベント開始から休む事なく二週間。リヤカーで朝家を出て、また昼にリヤカー引いて帰ってくる、を繰り返しコーヒークッキーは無事完売となりました。そして家には凄まじい量の高級オリーブオイルが! やった!

 

 「こんなに沢山あるんだったら、ご近所にも分けて差し上げましょうね」


 これは次の商売を始めるための大切な原資のようなモノだというのに、ママが勝手にご近所にお裾分けをしようとしているっ!


 それをやめさせるのに、それはもう大変でした。「アンタはケチね! ケチな娘だよッ!」と罵倒されました。 もう、何とでも言わせておけばいいんです。


 家庭内にそんなこんな騒動はありつつも、リューさんから仕入れたコーヒークッキーもあと二日くらいで在庫が切れそう、ってところまで配布が終わりました。その日の配布が終わった後、イベント終了のご報告をしに、テスタ会長のところへお伺いしました。


 「ちょうど一ヶ月のイベントの中間あたりで配り終えるとは、とってもいい塩梅じゃないか。素晴らしいよ…… ロッペ。お疲れ様」


 「突然の申し出にも関わらず、快くお引き受け頂きましてありがとうございました。このユモアはわたしの故郷も同然。この街に来て下さった英雄様に少しでもお楽しみ頂けたなら、わたしもとても嬉しいのです」


 「……ほう。 それはちょうど良かった」


 ん? それじゃぁお疲れさん、で会話は終わりだと思ってたのに、テスタ会長はさらに何かわたしに話があるようです。会長はわたしに一枚の紙を手渡して、まっすぐわたしの目を見てこう言いました。この紙は…… 企画書です。


 「実はね、バレンタインイベント(ユモア編)後半をやろうかと思っているんだよ」


 「ほう……」


 「崖の上のアミテ村とトンラ村に商工会の役員達がいるのだが、その役員達にわたしからチョコレートを配りたくてね。みてくれよ、手作りで作ってみたのさ」


 そう言ってテスタ会長は大量のチョコレートが入った木箱をわたしに見せてくれた。すごい量だけどこれを本当にお一人で? ウソでしょ⁈


 ……って、それよりもこの流れは……?


 これは英雄がよくやってる、『お使いなんとか』というやつでは? わたしは市民ですよ? クエストなんて受けられません。どっちかっていうと、出す側ですが?



 「これをぜひロッペにお願いしたいんだよ」



 ほーら、言うと思った!




お読みいただき、ありがとうございます!


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