11.私はクッキー工房で女子会します!
金策祭りが終わって、もはや光の都の名物だった、英雄の行列が跡形もなく消えたお店は、元のオシャレなカフェに戻っていました。外は雨だし、とにかくリューさんは落ち込んでいたので「とりあえず中に入って、暖かいものでも飲みませんか?」とお誘いしたのです。
「いったいどうしました? いきなりクビだなんて酷い話じゃないですか……」
他にお客さんもいないので、モニス先輩も一緒にお茶してます。隣にいるわたしもいきなりクビになってるんですがね……?
「この前メンテがあったじゃないですか?」
「「メンテ?」」
突然飛び出す意味不明な用語。
「あ…… 三時間くらい世界に入れなくなった現象? と言うべきでしょうか……」
「三時間? ああ、ロッペちゃん。きっと日食の事よ!」
ああ、なるほど…… 英雄はあれをメンテと呼ぶようです。
「で、そのメンテでなにが?」
英雄様とお話しする機会なんて超貴重じゃん! とモニス先輩は興味津々です。
「そのメンテ以降、竜戦士のスキルコンボが弱体化されて、ダメージディーラーとしていらない子になっちゃったんです……」
「……」
「……」
「リューさん…… なんとなく弱くなったってのはわかりましたけど、専門用語は気をつけて使ってくださいね? 全くわかりませんから」と、わたしは言いました。少しくらい気を使って歩み寄ってもらわないと、会話が成立しませんから。
「ああ、ごめんなさい! 日食以降、修正されて竜戦士が弱くなっちゃって、パーティに私の居場所がなくなりました」
「おお! それだと私達にもわかるねっ‼︎」
「ええ、とてもわかりやすいです」
なるほどそいうことか!と、歓声をあげて理解できたことを喜び、拍手をする私達と対照的に、リューさんはしょんぼりしたままです。
ハッと我にかえるわたしとモニス先輩。わたしはコホン、と咳払いをして、
「でも、竜戦士さんって他にもたくさんいらっしゃるんでしょう? その全員がパーティから追い出されちゃったんですか?」と訊きました。
「いえ、そういうわけではないでしょうけど…… ラインハルトさんは、これを機にメンバーを再編成しよう、って言い出して……」とリューさんは答えたっきり、しょんぼりと項垂れてしまいました。
ひろしの奴…… 竜戦士が弱くなったのを良い事に、体よくリューさんを追い出したな……?
それを聞いてがぜん熱くなってしまったのが看板娘のモニス。
「そのハルトさんって方、ヒドすぎませんか⁉︎」
『ハルト』というのは、たぶん『ラインハルト』から取ったんでしょう。ひろしの事です。
モニス先輩はさらに言いたいことがあるようです。
「攻略できないのをリューさんのせいにしてさ? ハルトさんみたいな人の事はもう、忘れちゃいましょう? ハルトさんにはリューさんと一緒にパーティ組むパートナーの資格なんてないんです! こんなに一生懸命頑張ってるんだもん、きっとリューさんには素敵なメンバーがきっと見つかりますよ! 絶対です‼︎」
そう言って、モニス先輩はグッ!とリューさんの手を掴みます。
こういう、モニス先輩の力強い励ましって、結構助かるんだよね。言ってる事に根拠はないけど……
「あの、モニス先輩? 分かり辛くなっちゃうんで、せめてわたし達の方では『ひろし』で統一しましょう。バリエーションが増えると良くないと思うんです」
「うん、わかったよ!」
「それにしても…… 日食のせいでわたしは職を失って、リューさんはパーティを失って、散々ですね」
わたしはコーヒーを啜りながら、コーヒークッキーを一口かじります。英雄の作ったコーヒークッキー、本当に最高に美味しい…… 英雄は金欲しさにどんどん作るけど、食べた事なんてないんでしょうね。
「ロッペちゃんはもう十分活躍したんだから、普通の人だったら、おしゃれなマンションで悠々自適に引退生活を送るんだけどね? そんなの嫌なんだってさ」
変だよねー? とモニス先輩はリューさんにわたしの事を話します。
「わたしの事はいいんですよ…… 今日商会に登録だってしてきたんですから。わたしは自分のお店を始める準備をもう始めてるんですっ!」
「ロッペさん、お店始めるんですか⁉︎」と、リューさんがわたしが宝くじでも当てたみたいに驚いた様子で訊いてきます。
「いや、まだ何にも決まってないんですけどね? 時間はあるんで、ゆっくり探っていこうかな、と……」
「すごいじゃん、さすがロッペちゃん! どうせ何も調べずに入会しちゃったんでしょ? でも、行動が早いのはすごくいいと思う!」
「なんですかそれ…… ちょっと気になるんですけど⁉︎ わたしの事はとりあえずいいじゃないですか……! 今はリューさんですよ、リューさんはどうするんですか?」
「私ですか……? 目標だったものが急に無くなって…… 今は何も考えられないですね……」
クッキー工房はとても静かです。窓の外はまだ雨が降っていて、外を歩く人の姿もありません。寒くなってきたので、リューさんが持っている素材でホットココアを作ってくれました。
温かいココアを飲みながら、もう一皿、クッキーをおかわりしてお話を続ける事にしました。
だってお客さんもいないし、時間はいくらでもあるんですから。
そして何より、この三人でお話する時間がとても心地よかったからです。
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