表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/25

第8話 こめ②


その日は探求部の活動がなかったので、帰宅しようと最寄り駅に向かった。すると、こめが本を読みながら歩いていた。背負っているカバンが薪ならば二宮金次郎と同じであった。

「こめー」

彼は僕に気づいた。本を閉じて、ポケットにしまった。

「ポケットに本いれるんや」

「ぜろと違って、本を頭の上に乗せる癖はないからね」

たしかにぜろはよく本を頭の上に乗せて歩いている。バランス感覚を養うためやとモデルのような理由も言っていた。

改札口で定期券を何往復もさせて入退場を繰り返すという、理由を聞いても返事が返ってこないことをした後に、ホームで僕と一緒に電車を待った。彼はさっき本をしまったところと違う場所から本を取り出した。

「違う本読むの」

「そうやねん。併読してんねん」

「2冊併読してんや」

「いや、5冊」

「5冊?!」

「どれがどれの話か分からんときがあるねん」

かしこいのか馬鹿なのかわからなかった。実際、こめがどれくらい勉強できるのか知らないし教えてくれない。天才となんとかは紙一重というが……。

ケータイが鳴った。僕はポケットから本ではなくケータイを取り出した。相手はあさいだった。

「もしもし、かくさん、どこにいる?」

僕が返事しようとするが否や、こめはケータイに近づき「北海道!」と叫んだ。電話越しに「はあ?」と聞こえ、僕は笑いながらこめから距離を取ろうとした。が無駄な抵抗だった。こめは近くで「北海道!」と何回も叫んだ。電話越しは「そうか」と何かに納得して電話に切った。僕は笑った。探求部でたまにあるじゃれあいである。周りの人からは白い目で見られていた。

笑いが収まったら、周りの目が気になり、仕切り直しに本の話に戻した。

「本はよく読むんや」

「そうやねん。知識って大切やで」

「何がおすすめ?」

「うーん。広辞苑やな」

「広辞苑って、あの広辞苑?」

「そうやで、あの広辞苑や」

「辞書何か読んで楽しい?」

「楽しいで。こんな言葉があるんや、と思うで」

「楽しいか、それ?」

「楽しいやろ。ネット検索するようなもんやで」

「そうかもしれんけど」

「寝る前に広辞苑見てたら興奮して、寝不足になる時もあるわ」

「そうなんや」

「知らん間に広辞苑を枕にしているときもあるわ。首が痛くなるからやめたほうがいいで」

 “よう喋るな”と圧倒される中、電車の到着音が会話を遮った。出会って一週間でした会話量を、この数分で圧倒した。特急が各停を追い抜かすようなものか?

 電車の中は空いていて座り放題だった。ホームルーム後に図書室で時間を潰していたから、ほかの学生と帰宅時間がずれたのだろう。あれ、何でこめと重なったのだろう?その疑問を持ちながら座ると、もっと気になることがあった。もちは電車内で立っていた。車両内で2・3人しかない空席状態なのに。

「こめ、座らんの?」

「座らん」

「何で?」

「うーん。誰かが座りたくて死にそうになった時のために空けている」

「なんやそれ」

「とりあえず、場所を空けておこうと思って」

僕は彼の冗談に呆れた笑いをした。彼は真顔で遠くを雲を眺めていた



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ