第7話 こめ①
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あさいとの地球儀キャッチボールの翌週、ようやく黒点観測ができる晴れ模様が返ってきた。その日の放課後は、探求部の活動ということで、ぜろに誘われた。何をするのか知らずに化学室へ行くことになった。そこには、あさいとこめがいた。
『こめ』とは坊主男子のことである。ニックネームの由来は『米田』という苗字から想像できる。
「先輩は?」
「用事があるから無理やって」
「そっか。じゃあ、始めるか」
ぜろとあさいは準備を始めた。化学室ということで、実験をするのだろう。
化学室に常備されている製氷機から氷を取り出し、机上の機械に入れた。その機械についている取手を手動で力強く回し、氷を砕き始めた。砕かれた氷は受け皿に落ちていった。受け皿に積もった粉雪に派手な赤色の液体を結合させた。そして、舌に乗せる。うん、イチゴ味のかき氷だ。
「かき氷かい」
僕はスプーンを叩きつけた。
「イチゴ味は嫌やったか」
「やっぱメロン味やろ」
「そういう問題違うねん」
次のかき氷を準備中の二人は動きを止めた。
「何か実験するんじゃなかったん?」
「ぜろ、そんなこと言ったん?」
「いや、言ってへん」
たしかに言ってなかった。
「今日はかき氷作んねん。先生には許可取ってるわ」
「じゃあ、次行くで」
新たなかき氷が出来上がっていた。こめはそれを黙って食べ始めた。僕は、こめのことが未だによくわからなかった。ぜろとあさいはよく喋るから、変な人だということだけは分かった。しかし、こめはあまり喋らず本ばかり読んでいるので、変な人かどうかさえ分からない。もしかしたら普通の人かもしれない。
彼は食べ終わると、頑張る二人に素知らぬ顔で読書を始めた。かき氷を作っては食べ作っては食べを三人で繰り返した。木漏れ日が落ちる平和な放課後だった。すると。
ボッ
「わあ!」
振り向くと、こめがライターを出していた。
「どうした?」
「いや、ガス栓開けてライターつけたらどうなるかなあ、と思って」
「どうやった?」
「小爆発して、火がすぐ消えた」
「そうか」
何が『そうか』なのだろう?危ないから注意するべきだという僕の頭に浮かんだことはずれているのだろうか?というか、こめもやっぱり変な奴っぽい。
「小爆発くらい大丈夫やろ。備品のラジオを勝手に分解して壊したことに比べたら」
「あと、地層のサンプルに水を入れてシャッフルした時も、めっちゃ怒られていたな」
ああ、確実に変な奴だ。