表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/25

第5話 あさい②


次の日、昼休みにあさいから電話が来た。

「もしもし」

というので「亀よ亀さんよー♪」と返したら、少し間を空けてから電話の向こうで歌声が聞こえてきた。きちんと聞き取れなかったが、続きを歌ってくれたのだろう。

「何を歌わせとんねん」

「ごめんごめん。それで何?」

「今日の黒点観測なんやけど、当番のぜろが来ないから、代わりの一緒にしてくれへん?」

「わかった」

地学室には昨日と同じようにあさいがいた。機嫌よく歌いながら数学の問題集を解いていた。

「きたでー」

「おう、かくさん。行こっか」

 あさいは右手首から左手を離して解答をやめた。屋上への鍵を取りに行こうとした。だが、曇り始めた

「曇ったら黒点観測できへんやん」

あさいは地学室に隠されていた鍵を振り回していた。

「上に行って待機してみる?また晴れるかも」

「いやーこれは晴れへんかもー」

あさいは窓から空を見上げてた。

「ちょっとここで様子みてから決めようか。最悪、放課後でいいし」

そういうとあさいは窓から離れた。再び数学を解くのかなと思ったが、問題集と違う方向に向かった。

「キャッチボールしようか」

あさいは地球儀を持っていた。それを投げるとはどういうコペルニクス的発想だろうか。ぜろに隠れているが、あさいも十分変なやつである。

「ええよ」

了解するとともに、本当に地球儀を投げてきた。もしかしたらと思って冗談の世界線も視野に入れていたが、それは無駄だった。

 何回か往復しているうちに地球儀キャッチボールにも慣れてきた。最初は手が変なところに当たり痛かった。あれは、ボールを捕ろうとするのではなく、赤ん坊などを包み込むイメージのほうがいい。あと、初めからしなかったが、上から投げ下ろすのはダメだ。下から投げよう。

 僕は青春ドラマである河川敷でのキャッチボールを思い出した。二人の友達または親子が世間話などを言い合うシーンである。まあ、ここは河川敷ではないけどね。

「そういえば、あさいは何で探求部に入ったん?」

「ん?ぜろに誘われた」

「いつ?」

「中間テスト終わったくらい」

「え?最近やん?」

「そうやで。他の二人もそれくらいやで。言ってなかったっけ?」

「聞いてないよ。てっきり入学直後に興味持って入ったもんやと思った」

「ちゃうよ。俺は軽音部とか、いくつかのクラブに体験入学してたくらいやで」

「それで、ぜろと何で知り合ったん?」

「中間テストで数学100点とったんよ。そしたら、自分以外で100点とったやつは誰やと探してきたんや」

「かしこいな。僕50点無かったで」

「平均点超えてるから凄いやん。確か、あれ、平均点40無かったで」

「そうやけど、満点は凄いわ」

「俺は数学だけやで。ぜろなんかほぼ全科目満点近くやったで、古典以外」

「数学だけでもそんなにできるの凄いやん。どうしてんの?」

「どうしてるって、うーん。まあ、公式が何で成り立つのか証明したり、何でその解法なのかを考えたりかな。周りの人は暗記したりしているらしいけど、俺にはそれは無理やわ」

「そうなんや。僕も解放を覚えるタイプやわ。やっぱり出来る人は考え方が違うんかな」

「どうなんやろ。ぜろはまだよく分からんけど、俺の兄ちゃんは覚えるタイプって言ってたわ」

「兄ちゃんおるの?かしこいの?」

「めっちゃかしこいで」

『めっちゃ』という言葉が変に強く響いていた。

「どれくらいかしこいん?」

「小学生のときに何かの全国模試で全国3位になったんやって。それで名門私立中学校に行ったほうがいいとなって、県内で一番賢いs中学に入ったんよ。それで、そこでもトップ争いしていて、最近受けた模試で全国順位2桁やって、k大学の医学部に行けそうらしいよ」

思った以上に賢かった。頭がパンクしそうだった。僕の周りにはそんなに賢い人はいなかったから新鮮だった。僕はそんな話を聞けて楽しい気分となった。そんな中、あさいは地球儀を落とした。ガンという音が鈍かった。互いに焦ったが、地球儀は無事だった。あさいはそれを元の場所に戻した。彼は苦笑いをした。僕も釣られて苦笑いした。互いに思っていることは同じだと思った。しかし、直後のあさいの暗い顔は僕にはわからなかった。外の曇は余計に深くなっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ