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第17話その2 私は見ていた

【夢の2つ目】


 「私は見ていた」


 場所はt県s市、時は夏に入ろうかとする季節である。私はk高校で教師をしている。この学校に配属になり一年が過ぎ、少しずつ教師生活にも慣れてきた。そんな私が未だに全く慣れないことがある。ある男子生徒のことである。私は一年前にこの街でたまたま見てしまったのです。その男子生徒が殺人を犯すところを。私に見られたことを彼が知っているのかは分からない。バレていないかもしれない。分からないからとりあえず彼の様子を見る。分からないからとりあえず見る。ある日、いつものように男子学生を見ていた。最近出来たらしい友人と談笑していた。その近くに別の学生もいたが、その学生は関係なかったらしい。

 その男子生徒は特に目立つ存在ではなかった。勉強もスポーツも特にできる訳ではなく、クラスの中心になるような学生ではなかった。クラスの隅で数人で静かに話すタイプである。男前というわけではなく不細工というわけでもなく、なんとも形容しにくい普通の生徒だ。そういえば、殺人を犯したときも普通の生活の一部のようにしているような感じでしており、狂気じみたものはなかった。そのほうが怖い気もするが……そんな男子学生が友人と二人で場所を移した。日陰で人気のないところへ行くのだろうか。もしかしたら友人を……私は急いで後を追った。

 私は暗いろうかの曲がり角で、壁に隠れるような形で二人を見つめていた。二人は何かを話していた。たわいもない話か、少し秘めた真面目な話か、それとも……ふと、男子生徒と目があった。暗い廊下から目を光らせていた。急にゾッとした。寒かった。体が動かなかった。目をそらすことができなかった。何も喋ることができなかった。

 「先生、殺人事件がまた発生したという話、知ってます?」

 この言葉を聞いたとき、何かに心臓を掴まれた思いだった。とりわけ平静を保とうとしたが、その度に心臓を掴まれる思いだった。思いだった?私は何かを返事して、その場から離れた。何を話したかは覚えていない。とりあえず早く安全な場所へ、多くの生徒がいる群衆の中へ逃げることで精一杯だった。厚い雲が日を隠し一面が暗い場所へと。


 次の日、生徒が一人死んだ。帰宅中に被害にあった可能性が高いという点以外は何も分っていなかった。近くの人も世間も何もわからない状態だった。私も何も分からなかった。そんな中、あの男子生徒に会った。外で雨が降っているなか急に出会ったから、不気味さを感じた。何故か先ほどまで忘れていた存在だ。そうだ、この男がいたんだ……「先生」という彼の言葉で我に帰った。どうやら恐怖で我を忘れていたらしい。私は体をゾクゾクさせながら返事した。しかし、その返事の内容は覚えていない。この男を前にすると、冷静にいられない。いつもテンパってしまう。我に返ると男子生徒は去っていくところだった。多くの学生たちの中に溶け込んでいった。私はゾッとした。唇が奇妙に震えていた。「本当にヤバイ人は一般人に溶け込む」というフレーズが頭に浮かんだ。小説か漫画かドラマか、どこで見たフレーズなのかは覚えていなかった。しかし、私はその言葉を確信した。見失ってはいけない。きちんと彼を凝視しよう。彼は人ごみの闇の中に消えていった。

 生徒の下校時刻となった。事件のこともあり、集団下校と先生や近所住人たちによる見張りがある。臨時休校にならないのかと思う余裕もなく私は見張りをしていた。私が見張るところは他の先生たちと違うだろう。私は明確に一人を見張っていた。他の一般生徒たちに溶け込もうとしているが、そうはいかない。私が濾過のように抽出してやる。私は覚悟した。覚悟したら、恐怖を追いやることができた。男子生徒は暗い細道を入っていった。恐怖の対象が私の視界から追いやられた形だ。私は持ち場を離れて追いかけた。冷静に迅速にたまに勇気を持って。それが尾行のイロハである。男はたまに立ち止まり周りをキョロキョロ見た。私も立ち止まって息を殺した。周りは奇妙なほど静かで、私の心臓の音だけが聞こえる。そんな中「誰だ」という男の声がはっきり聞こえた。私がつけていることがバレているのだろうか?いや、そんなことはない。場所などは気づいていないようだ。私は壁に隠れながら冷静に見ていた。尾行になると冷静になれる自分を客観的に笑ってしまった。男がダッシュした時に腹からこける姿はシュールだった。今まで見たことがない余興だった。本人が真面目なところがさらにおかしい。男が走って家に着いた。家の中ではどんな顔をしているのだろうか?帰路の時は、この世の終わりみたいな顔だった。同じ顔か、安心した顔か、別の顔か。想像したらおかしくなってきた。どうやら、私の心配は杞憂だったようだ。殺人犯があんな滑稽なわけがない。私は取っ付きが晴れたように声を出して笑った。カラスが舞い、身のような真っ赤な夕日を背景に……


 翌日、学校であの男子学生と会った。廊下で二人きりで話す機会があった。今日は今までと違い、余裕を持って冷静に話ができた。でも、「お腹を剃りました」と言われたときは思わず笑ってしまいそうになった。私は生徒との会話を終えて、温かい気持ちとなって職員室に戻った。曇りの中、時々太陽が顔を出す学校。そんな中、あの男子生徒が倒れたという話を聞いた。今は保健室で安静にしており、一度は目を覚ましたが、再び意識を失ったらしい。太陽が雲に隠れた。新しい情報が来た。その生徒が保健室を抜け出したらしい。教室にあったカバンや荷物も無くなったらしい。帰ったかもしれない。確認のため、私は探した。すぐに見つかった。昨日、お腹を剃った場所だ。生徒は意識が半分無いようで、フラフラしていた。ここがどこかも分かっていないようだった。「こんなところでフラフラしてないで、早く家に帰りなさい」と私が言ったことを理解したのか、また歩き始めた。危ないと思い、私も横で並行した。私のことに気づいていないらしい。フラフラ歩く彼は、ハイハイを脱したばかりの赤ん坊のようだった。どことなく母性本能をくすぐられる気持ちがわかった。そんな自分に笑ってしまった。一歩一歩確実に進んだ。あと少し、あと少しなんだ。太陽は雲に完全に隠れてしまい、暗かった。冷たい風も強く吹き始めた。これは、意識を朦朧とした人がしっかりするのにちょうどいいかもしれない。世界も彼を応援しているようだ。そして、ついに到着した。彼はフラフラになりながら、家の中に入っていった。私はそれを見送って学校に戻ろうとした。すると、後ろで音がした。振り向くと、彼が鋭利な刃物を振りかぶっていた……


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