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プロローグと第一話

 僕は曇りガラスを眺めているだけだった。そこに何があるのかも分からずに、ただぼんやりと眺めているだけだった。そう、眺めているだけだった。



 《面白くない奴らが面白くないことをしている。》

《世の中、同じメンバーで同じことをして楽しんでいるだけで、傍から見るとつまらないものである。そこに入れない人はそれをただぼんやりと眺めるのみだ。眺められている人たちは、そのことを意にも返さず楽しむだけだ。》


 少年は小学生になってから異常に大人しくなった。幼稚園児の時のやんちゃぶりからは信じられない変化である。園児のときは、友達と幼稚園中を走り回り叫びまわっていた。

あるとき、園児はうさぎと遊びたくて勝手に幼稚園のうさぎ小屋に忍び込んだ。そのうさぎは白くて小さくモコモコして人形みたいであり、園児からしたら可愛くて仕方が無かった。それでうさぎ小屋で遊んでいたらうさぎを逃がしてしまい、うさぎと一緒に走り回っていた。うさぎが右に曲がったら右に曲がり、左に曲がったら左に曲がり、また右に曲がったと思い右に曲がろうとしたら急に方向転換してフェイントをかけられたりした。そんなうさぎとの死闘を幼稚園の先生に見つかり、代わりに捕まえてくれた。そのことを幼稚園の先生に注意されたから、反省した。だから園児はうさぎ小屋に近づくのを辞め、孔雀小屋で孔雀と遊んだ。そしたら、今度は孔雀を逃がしてしまった。

また別の時、アスレチックジャングルで遊んだ。アスレチックジャングルの本来は危なくて行ってはいけない屋根の上や手すりの上に行った。ものすごく危なくて、先生は落ちても受け止められるように手を広げながら下で待機していた。こんなことしても受け止められないといった風にアタフタと待機していた。ほかの園児たちは口々に賞賛と羨望の喝采や羨望を向けていた。その園児は下のそういう様子を気にも止めずスリルを楽しんでいた。少し右にヨロけそうになったら左に体重を乗せ、左にヨロけそうになったら右に体重を乗せ、また右にヨロけそうになったと思ったら急に左によろけてフラフラした。何とか無事に下界へ戻ったら、先生に危ないからと怒られた。園児は反省して、アスレチックジャングルの上などには行かず、ブランコの上の棒のところに登ってフラフラした。

それとはまた別の日、幼稚園から外に飛び出し祭りに行った。地元のやぐら祭りだ。『やぐら』という山車を使う祭りだ。神輿を担ぐとはまた別で、岸和田だんじり祭りで有名なだんじりに似ている。やぐらを引っ張って街中を練り歩くのである。大人や上の人たちは太鼓を叩いたり笛を吹いたり山車を直接触ったりするが、園児のくらいではやぐらを引っ張る綱を持つくらいである。それでも園児からしたら楽しいものである。園児はやぐらを右に動かそうと綱を右に引っ張り、左に動かそうと左に引っ張り、とりあえず動かしたいから綱を左右関係なく無造作に引っ張ったりした。結局は園児一人の力では大きなやぐらを動かすことはできなかったが、大人から綱を無造作に引っ張り回して他人に迷惑をかけたことを注意された。園児は綱から手を離し、別のやぐらを引きに行った。

そんなやんちゃな園児が、小学生になると大人しくなった。小学校には寂れた鶏小屋があったが、少年は興味がない風だった。基本は近づかないし、たまに近くを通ったとしても檻のむこうの鶏を少し見たらすぐに立ち去った。忍び込んだり逃がしたりする心配は無かった。少年が鶏小屋を通り過ぎると、校庭に出た。そこには錆び付いたブランコ等の遊具があったが、それに少年は興味がない風だった。基本は近づかないし、たまに近くを通ったとしても風に揺れるのを少し見たらすぐに立ち去った。危ない所に登って怪我をする心配は無かった。少年が遊具を通り過ぎると、道路との境目の金網のところに出た。その金網の向こうでは、祭りの真似をして遊んでいる暗い園児がいたが、それにも少年は興味がない風だった。基本は近づかないし、たまに近くを通ったとしても「あんた誰?」と園児に不思議がられるのを少し見たらすぐに立ち去った。やぐらを引っ張ることを邪魔する心配はなかったが、不審者と思われる心配はあった。

そんな大人しい少年がしていたことはただ一つ、勉強だけだった。なぜ勉強していたかといったら、他にすることがなかったからだ。家に帰ったらゲームしたりテレビ見たり漫画読んだりした。しかし、学校ではそれらをすることができない。だから勉強していただけだ。同級生は勉強できる子だと驚き、その周りの大人は真面目な子だと感心し、少年の親は勉強を頑張っている子だと喜んだ。しかし、少年は勉強できるわけでも真面目なわけでも頑張っているわけでもなかった。勉強意外することがなかったからしていただけだ。そこには何の目的も意思もなかった。

 少年は中学生になってから異常に憂鬱になった。身の回りは全てぼやけて見えた。教室で椅子に座りながら、ぼんやりと教室を眺めているらしかった。木で出来た机と椅子に根付いたかのように自分の席に座っていた。いや、少年だけではない。他の級友たちも自分の席に座っている風だった。少年はどうやら授業中のようだったと気づき、周りがどんな顔で授業を聴いているのか確かめようとした。しかし、少年には級友の顔もぼやけて見えて、区別がつかなかった。元来、目が悪かったから、そのせいでぼやけていたのかもしれない。少年はそう思った。しかし、数年前からメガネをかけても景色は変わらなかった。

 退屈な授業の最中、窓側の席から外の景色を眺めていた。一階の窓側の席だった。窓の手前側には囲むクリーム色の壁が広がっていた。その壁はところどころ黒く汚れていたりペンキが垂れたあとみたいな膨らみがあった。その壁の向こう側には運動場があり、どこかのクラスが楽しそうにサッカーをしていた。それらを見ながら、少年は退屈をしのいでいた。

窓際族の訓練を今から行う少年にとって、退屈は仲間である。チョークが黒板を駆ける音を聞きながら、視線は黒板から離れていた。だから、黒板に何が書かれているのか分からないし、誰が黒板にチョークを走らせているのかも分からなかった。その方向から何か声が聞こえるが、それもぼんやりとしたもので聞きとれなかった。まあ、授業なんか聞かなくても、教科書を読んでそこに載っている問題を解けば何とかなる。それが、少年の学校生活で得た知恵だった。そんな感じで、ぼんやりと暮らしていた。

そんな少年の窓際生活にも変化が起きた。眺めている窓ガラスが急に曇りだしたのだ。曇りガラスに変化した。少年は少し驚いた。少し周りを見ると、自分が見ていた窓ガラスだけが曇っている風だった。他の窓ガラスからは光が教室に差していた。それに比べて、少年の前の曇りガラスは光を遮っていた。この曇りガラスの前では視界はぼやけてしまって、外の様子を見ることができない。困ったものである。少年の思考も曇った。

 

僕は目を覚ました。

なぜあんな夢を見たのだろうか?僕は高校1年生になっていた。退屈だった中学時代、高校に行けば何かが変わると思っていた。ぼんやりとした退屈な生活から脱することができると、ぼんやり考えていた。そう思いながら、授業中にくもりガラスの向こう側をぼんやり見ていた。そういうことをぼんやり思い出していた。そんな僕の高校に入ってからの生活は次のとおりだ。

 1・クラスに友人がいなかった

中学までもそうだったが、それは周りが合わないだけだと思っていた。勉強して進学校へ行けば、同じような人が集まり、周りと合うと思っていた。しかし、進学校にいる人は勉強できるだけで、気は合わなかった。

 2・勉強が上手くいかない

進学校に行っても上位におれる自信があった。しかし、違った。中学校までの勉強と高校からの勉強は違った。また、思いの外みんなの学力が高かった。成績は落ちた。やる気が無くなってきた。

 3・退部した

中学までしていた部活と同じ部活に入った。しかし、人間関係が合わなかった。実力でも周りのレベルが高かった。イヤでイヤで仕方なかった。一学期中間テスト終了後の部活再開直前の時期に退部した。

 それから僕は無気力に歩き、電車に乗り、学校に行く。それを繰り返しただけだった。いつも空は曇っていた。

 すべてがうまくいかない。

 占いによると、大殺界の年の大殺界の月らしい。普段は占いを信じない興味もない僕は、親から「今年は大殺界だから我慢しい」と言われたので初めて興味を持った。調べてみたら、たしかに大殺界の年だっただけではなく、大殺界の月でもあった。気分はどん底である。

新しく生まれ変わりたい。アニメで異世界転生ものばかり見ていたせいか、そういう思いが強くなった。最近はパワプロのサクセスにも久しぶりにハマった。育成失敗しても最初からやり直せば良かった。そんなことをしているから、なおさらやり直したい気持ちが強くなった。しかし、世の中そんなに非現実的なことがあるわけがない。それぐらいは、さすがの僕でもわかっている。子供の頃のように、カメハメハを発することができると本気に思い、まっくろくろすけがどこかに隠れていて、実は勇者の血が流れていて魔王を退治する、と思うことはなくなった。ただ人間関係に悩み、金の心配をして、何かでストレスを発散しなければ生きていけない、普通の人の普通の生活をするだけだろう。

あまりの憂鬱で思考停止しながら歩いていた。歯車のように横断歩道を歩いていると、急に車が突っ込んできた。「あれ、これは?」と停止していた思考が少し動き、歯車が動き出したような気がした。「大殺界中の大殺界なんだなー」と思ったが、すぐに思考は再び止まり始めた。


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