第2章 告白とデート
次の日、留衣にまた来ると言ったからには、
いくら行きつけのメイド喫茶が開いていると言っても約束通りいかなければならない。
慕には義理堅い面もあるのだ。
それにあのお店の食べ物の値段は、意外と安かったし……
変な理由をつけながら、慕はまたそのお店に向かった。
「慕さん、好きですっ!!」
いきなり留衣が抱き着いてきた。
この行動が自然な感じになるように、彼女はメイド喫茶のDVDを見て研究しつつ、
抱き枕で何度も練習したのだ。
慕はメイド喫茶の真似だとしか思えなかったが、
「ああ、僕も君が好きだよ」と軽くあしらった……つもりだったが。
「じゃあ、付き合ってくださいっ!!」
留衣に爆弾発言をされてしまった。
「私は、慕さんのことが付き合いたいくらい好きなんですっ!
だからお願いします、私と付き合ってください」
正座までされてしまった、上目遣いで見てくる。
慕は困り果てて、「いいよ」と返事をしてしまった。
その様子を、マスターは呆れて見ていた……。
「付き合うって言ったら、デートでしょ♪ どこ行く? どこ行く?」
ノリノリの留衣、振り回される慕。その横には、積み上げられたチャーハン……。
慕はあきらめて黙っていた。
「あっ、ここ行きましょう!」
指さした文字は、上野動物園、という文字だった……。
「……ちょっと子供っぽくないか?」
慕が言うと、留衣は「良いんですっ! 行きたいんですっ」と返す。
慕は本格的に諦めた。
「……いつ行く?」
「月曜日が定休日だよ」
慕の質問に応えたのは、マスターだった。
「じゃあその日に……僕は午後が開いているから、行こうか……
その日までは会わないようにしよう。恋しくなるから」
慕はそう言った。
本当はこのテンションに振り回されるのをなるべく避けたいからだった。
「はいっ、楽しみにしてまーす♥」
留衣は元気に言った。
デート当日。
「慕くんっ、食べる―?」
留衣が、『パンダのうんこちゃん』とかいう不名誉な名前の食べ物を押し付ける。
「……いらないよ」
てうかなんだこれ、いつのまにできたもの?
『パンダ』に『うんこ』しかも『ちゃん』付き。
しかも会社は『I Love うんこ』
「美味しいのに~、しかもこれ、マスターの会社が作ってるんだよ♪」
「美味しいかもしれないけど、名前がなぁ」
ちょっとひどすぎる。社名もひどい……。
それを言うと、留衣は「店長に伝えとく」と言っていた。
「じゃあ、動物園に行こっか~」
留衣は僕を引っ張っていった。
誰か助けてくれ。
その後もモルモットにうんちをかけられたり、象が死んでいたり、
リスに引っ掻かれたりと、散々な一日だった。
そして、夕方。
「留衣、僕のことをからかっているだけじゃないか?
隙とか言って、全部嘘じゃないか。
お店とマスターの宣伝ばかりして」
さすがに、キレた。
留衣は寂しそうにしている。
「……う、もん」
小さな声で、つぶやくように。
まるで、この大きさでしかもう話せなくなってしまったかのように言う。
「うん? 留衣、何か言った?」
だから僕は優しく彼女に聞いた。
「違うよ、私は慕くんのことが大好きなの!
今日はちょっと酷いことしすぎちゃったかなって思ってる。
ごめんなさい。
マスターのことを話したのは、このまま売り上げが伸びないとお店が潰れちゃって、
私はどこかに行かなきゃいけなくなっちゃうからで……」
彼女の必死な弁解を聞いているうちに、彼女が愛しくなった。
「……こうやってマスターの宣伝をしているうちは、
留衣はこっから居なくならないんだな。
約束だぞ。俺もおまえのことが好きだ。ずっと一緒に居てくれ」
意外と、好きだと言うのは簡単だった。
留衣はしっかりとうなずいた。
「うん」
「今日は楽しかったな、新しいパンダにも会えたし」
俺は留衣の頭をなでてあげた。
それからは毎日が楽しくなった。
おとなしい留衣も、活発な留衣も、全てが愛しくて、毎日彼女に会いたくて、幸せだった。
「えへっ、留衣ちゃん特製スペシャルメヌー、
あっ、スペシャルメニュー! 『カレーパン』だよー☆
馬鹿だよね、かんじゃった」
彼女が楽しそうに言うから、僕も笑ったんだ。
「いや、別に困ってないし」って。
他にも、いろいろなところに行ったり、キスをしたり、楽しい時間を過ごしていたのだが、
突然、別れの危機が訪れた。