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ああ……黒くて長いものがいっぱいあるのぉ

ヒロインの導入部分です。

次回までシリアスが続きますが、暖かく見守ってください

『こんなはずじゃなかった』


 誰しもが後悔する。


 人生において一度や二度どころか生きている間は誰だって経験する事柄で、ありきたりな言葉だろう。


 夢を望み、理想を掲げて、決意をあらわにした意志の元、目標に向けた熱意で未来を切り開く。


 だが、人生において、いや、この世の万物の理と言うものは必然であって偶然なんてものは存在しない。

 物が上から落ちれば下に流れて落ちてくる。それは当たり前なことで、それ以外の【理を無視した事象】と言うのは普通はない。

 しかし、だからこそ思うのだ。この世は理不尽だと。

 そんな当たり前な事象が起こりさえすれば良いのに、いつだって起こりたくもないときに予想外なことが起こりうるのだ。

 横暴に、無情に、理不尽に、数多の抵抗を無視して残虐な王様は姿を現してくる。


 それを運命(現実)と呪う。


 夢を折られ、理想は崩れ、支えるものすら失ってボロボロになった者が、またもや運命(現実)に対して再び立ち上がるか、はたまた諦めて受け入れ消えいくかは本人次第。


 もっとも、再び立ち上がるだけの気力があれば、誰だって悩まずにいられただろうが……。


(助けて……!)


 心の中で、少女が叫ぶ。


 暗く、じめじめした狭い洞窟の中、平らであろう壁を背にして、一人の少女が膝を抱えて座り込んでいた。


 その少女は今、近づいてくる破壊音に全身を震わせて身体を竦ませてる。


 ドゴ! ドガ! ドォオオ!! と何かが壊される音が暗闇を支配する。


 ギュッと瞑ったその目の両端からは、止まることなく涙が零れていた。


 可愛らしいと言うよりは、美しく、物静かそうな少女で、見た目の年齢は十五か六歳といったところだろう。


 飾りのない銀色の髪は腰まで届いており、横に細い、白に寄った青色の瞳は暗い洞窟の中でも儚げに輝いていている。


 フードを引きちぎられた、ボロボロの黒コートで全身を包み込んでいる彼女は、ただただ恐怖が過ぎ去るのを待っていた。


 そんな少女は、ドゴォ! という先ほどまでよりもでかく響く音に「ひっ」と声を上げると、両手で頭を抱えて俯いた。


「ごめん……なさい……!」


 消え入りそうなその声は、誰に向けて発したのか、そもそも何についての謝罪なのか、それに意味なんてあるのか、少女自身分からなかった。


 不意に、先程まで響いていた破壊音がピタリと止まる。


 少女は目の端に涙の雫を溜めながら、今まで音が鳴っていた方を向く。


『奴等』が探すのを諦めて、引き返したのかと都合よく考えるも、直ぐにそれはないとその考えを捨てた。


 仮にそうであるならば、音が遠くなるのが自然。ピタリと鳴り止む現象には当て嵌らない。


 故に、何かをしているのであろうと考えるのが定石。


 ごくっと言う音が壁であろうものに跳ね返っては、まるで何かの言霊のように奥のほうまで響き渡る。少女はその音にもビクッとして肩を跳ね上げた。たった今、少女の喉を鳴らした音であることさえ忘れるほどに少女はガクガクと震えていた。


 故に、何かをしているのであろうと考えるのが道理だろう。


 ごくっと、唾を飲む音が嫌に大きく聞こえる。心臓はうるさく鼓動し、今すぐ逃げ出したい衝動に駆られる。


 すると、ドガッ! と壁を破壊する音が少女の背後で聞こえた。


「きゃあ!!」


 少女は、半ば吹っ飛ばされるような形で座ってた位置から転げ落ちる。


 破壊された壁からは、白い煙が立ち込めていた。


 時間と共に白い煙が収まると、赤い眼が少女を捕らえる。


【触手】、特徴的だと上げれればソレだろう。身体を覆うように、赤混じりの黒っぽい触手が無数に纏わり付いている。


 足のように生やされているのは四足。尻尾らしきものは本体から一本に編まれた状態で伸びていた。


 さらにそれらは途中から先に向けて四つに分かれており、先端が全て鋭く尖っている。


 顔の部分もパーツが全て触手で作られており、目や鼻、口等至る所に触手がうねっている。


 触手が生えていることを除けば、見た目は狼っぽいその化け物は、聖書に描かれていそうな冒涜的な何かのようだ。


「あ、あぁ……」


 少女はガタガタと身体を震わせながら後ずさる。


「ヴヴァァ……」


 ソレは狙いをつける用に尻尾の触手を少女に向ける。


 針のように鋭いソレは、獲物を捕らえようと素早い動きで少女を襲う。


 咄嗟に少女は目を伏せて、顔を背けるように左下を向く。


「ツクモ様ぁあああああああ!!」


 少女の名を、誰かが叫ぶ。それに驚いたのか化け物の触手は狙いから逸れ、ツクモの左頬を掠めた。


「あっ……」


 少女が、涙を溜めた眼を再び開けると、自分を狙っていた触手の化け物が真っ二つに割れていた。


 そして、その化け物を真っ二つにした女性がツクモの元に駆け寄ってくる。


 金に輝く長い髪を後ろに束ねたポニーテールと、釣り目の赤い瞳が特徴的で、背はツクモに比べたら高く。見た目の年齢は十八の頃だろう。


 右手には刀身が紫に輝く大剣を握りしめ、ツクモと同じように黒いコートを着込んでいる。


「ご無事ですかツクモ様」


 金髪の女性は、大剣を地面に置いて座り込むと、心配そうな表情でツクモに声をかけた。


「く……ろ? クロ! うぐ! っ~~!」


 ツクモは金髪の女性をクロと呼ぶと、嗚咽しながら彼女に抱きついた。


 泣くツクモを、クロは背中を撫でて落ち着かせようとする。


「ツクモ様……申し訳ございませんが時間がありませんので、もうそろそろ離れてください」


「ぐす……。ごめんなさい、クロ……」


 険しい顔のクロに言われ、謝りながらツクモは離れた。


 するとクロは下を向き、聞こえないくらいの声でなにかを呟く。


「クロ?」


 ツクモはクロが突然下に向いたことに疑問を抱く。それと同時、彼女の体を魔力の膜が包む。


 それはほぼ透明で、幕の上には白い魔法陣が浮いていた。


「この魔法陣……。クロ、まさか!」


「ツクモ様、生きてください」


 クロは再び剣を手に取り立ち上がり、寂しさを匂わせた背中をツクモに見せる。


 剣を握る反対の手には、紫色の大きい石が握られていた。ツクモを逃がすための、転移結晶石が。


転移結晶石ワープストーン……やだ! クロもいっ……!」


 言い切るよりも先に、彼女はこの場からいなくなる。


 その時、ツクモがどんな表情をしていたのか、クロは見ていない。いや、見ようとしなかった。


 クロは持っていたソレを捨てると、剣を両手で握り、目を閉じる。


 蔓延する腐臭、蔓延る触手の数々がクロのいる場所に集結し、四方八方を囲う。


 全方から飛んでくる触手。それらを轟速剛力の剣技で以て切り散らす。


 返り血がクロの顔に付着する。それを左手で拭い口元でペロッと舐めては、にやりと笑う。


「限界突破」


 何処からか触手が飛んでくる。その動きに合わせて、バックステップで避けるクロ。その刹那、飛んできた触手の方向へ走り出す。











 太陽の陽が頭上高くから照らす森の中、一人の少年は走っていた。


 短めな金の髪、黒混じりな紺色の瞳をした少年は、まるで何かから逃げるように、ただ前だけを向いて走っている。


 黒い半袖の服着て、上からは緑色のジャケットを羽織っている。


 ジャケットの前部分は開いており、髪と共に激しく風に靡いていた。


 下は布で出来たこげ茶色の半ズボンに、革製のブーツ。右太もも辺りにはこげ茶色の革で出来たホルダーがあり、短剣がしまわれている。


 全体的に軽装で、年齢は十五ぐらい。


 森を走る最中、唐突に何もいはずのところで何かにぶつかり、よろけた末少年は背中から倒れた。


「うわ! 一体なにが……」


 少年は突然ぶつかったものに驚いた声を上げるも、途中で言葉が止まる。


 まず目に飛び込んだのは、特徴的な銀髪だった。顔が右に向け、うつ伏せた少女の閉じた目蓋からは、涙の跡があった。


 少年は彼女に見惚れ、顔をまじまじと見つめる。


「すぅー……すぅー……」


 ノイズの無い、綺麗な寝息を立てている少女は、少年の胸を枕代わりに寝てしまっているようだ。


 開いた口が塞がらないとはこの事をいうのだろうか、少年は口を金魚のように開閉しながら、その寝顔をまじまじと見つめた。


(ほっぺたやらわかそう……じゃなくて! なに、なんなのこの状況は!?)


 停止していた思考が動き出すと、少年は顔を赤くして頭を左右に振った。

次回、初戦闘

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