旅に出ます探さないで下さい
主人公の導入シーンです
シリアスしかないですが、多めに見てください……
【天才】
誰しもが夢見る。
人生は一度しか無く、限られた時間しかない。ならば、幸福な時間を得られるようにするのは自然の理だろう。
生まれ持った才能、一人だけできる愉悦、みんなに頼られるヒーローを夢想する。
しかし、夢はいつしか覚めるもので、その場限りの幻でしかない。
自分が持てるスペック。生まれ持った性能は予め決められたもので、自分の都合の良い様に改ざんできるものではない。
それが当たり前で、特別なことなど何一つも無い。
だが、誰でもできることを与えられて、それをこなす。社会貢献と言う者ができるのであればそれはそれで生きていると言う証になる。
たとえそれが、自分の意思とは関係なく、他の誰でもいいことであったとしてもだ。それはまるで、この世の上からプレイする何かが操る人形の手駒のような扱い。
それでも、役目があるだけでも、何かしらの社会貢献となっている。
その社会貢献ですらも出来ない存在があるとするならばどうだろうか。
【無能】
才能は無く、何も成果は出さず、人形のように行動を起こせないものは社気的にも不要な存在だ。
スペックが低く、生まれ持った性能はたかが知れて、誰もができるのに、それすらも出来ない存在。
いつしか【天才】と夢見た理想は塵のように消え去り、【無能】の仮面を着せられ捨てられる。
それを現実と呪う。
ヒーローなんて架空の存在は何処にも存在しない。夢見た理想は現実の元、引きちぎられてしまう。
成長と言えば聞こえは良いが、一種の裏切りでもある。もっとも、これだけであるならば、本人の気持ちの問題だけで終わることであろう。
しかし、例外中の例外にそれだけでは済まされない問題があった。
「この馬鹿!!」
パチン! と音が響いた。
普段、その場所はガヤガヤと騒がしい場所であったのにも関わらず、たったその音だけで静まり返る。
何事か? 最も音から近い場所以外の大勢が、音のした場所へと顔を覗かせた。が、すぐさま納得したかのように顔を逸らし、各自の話題に戻った。
それはまるでいつもの光景であったかのように、日常のそれだと思われただろう。
あるところでは、酒を飲みながら語りだし
あるところでは、大声を出しながら酒を飲み干したりと、その場所は、酒場のそれらしき場所だった。
そんな場所で、音を出した等の本人たちは、周りのことなんかお構いなしに自分達の世界を築き上げていた。酒場に相応しくない不穏な空気をかもし出していた。
「ご、ごめん」
とある金髪の少年は、左頬を左手で抑え、上を向いて目の前の少女に謝った。
袖の無い濃い赤色の服装で、少し胸元の部分が見えていて、少し大人しめでふっくらあるくらいの大きさが特徴的な見た目だろう。
その服装の上から、肩の部分が露出する形をした黒色の上着を、前の部分が開ける形で羽織っていて、金色のボタンがジグザクに左右に4つずつ付いている。
黒色の線が特徴的なチェックの付いた赤色のスカートは、全体的に短めで、膝より上の部分、太ももが若干見えるくらいの長さでしかない。
膝まで伸びている白色の靴下を履いており、上の部分には少し太めな黒色のラインが見れる。そこに、長めの黒色のブーツを履いている。
少し長めの紅い髪の毛は癖っ毛一つ無く腰の部分まで伸びていて、前の部分は、眼に髪が入らない長さを保っており、もみ上げの部分は肩から胸に当る部分まで伸びている。
穢れを知らなさそうな透明な翡翠色の瞳は少年を捉えては、つり目にになっていてそれだけで明らかに怒っている雰囲気を醸し出している。
そこへ、腰に手を当て、金髪の少年に前かがみで迫っては、如何にも機嫌悪いですよアピールをしている。
「「ごめん」、じゃないわよ! アンタは前衛に立つなって何度いえば分かるのよ! 邪魔なのよ!」
「で、でも……」
「「でも」、じゃないわ!」
「ま、まぁまぁ落ち着いて」
二人の口喧嘩(一方的な罵詈荘厳)を止めるように一人の少年が間に入った。
この世界では珍しく短めの黒い髪に、黒い瞳をしており、一見ぱっとしない見た目をした顔立ちの少年。
黒色の服に、上から黒色の上着を前の部分が開けた状態で羽織っており、袖の長さは手首まで伸びている。
黒色の長めのズボンに黒色の革製のブーツを履いており、ブーツにズボンの部分を入れている。
全体的に黒が特徴的に見えるような少年だった。
しかし、少年の右腰の部分にはその服装とは似合わない金色をした鞘が付けてある。
「レイアさん。結果的に依頼はクリア出来た訳ですし、良いじゃないですか」
黒髪の少年は赤毛の少女、レイアに落ち着かせようとした。
しかし、それで止まるはずが無いと黒髪の少年も分かっていた。
「何よ? 結果よければ良いって訳? 大体ね、ユーキはエミルに甘やかしすぎなのよ!」
「甘いっていうよりも正当な評価って言うか……」
「ユーキなら分かるけど、エミルは駄目!」
矛先を変えたのか、レイアは黒髪の少年、ユーキに言葉で攻め始めた。
「大体ね。ちょっと皮が分厚い魔物相手に傷ひとつ付けられないような奴と一緒に前衛で戦うってのが無茶なのよ」
「いや、でも……」
「駄目ったら駄目!」
それはまるでいつものやり取りだった。
レイアが一方的にエミルとユーキを言葉できつく当る光景。
「兎に角、あんたは前線に立つな!」
びしっと指をエミルに突き立てたレイア。
エミルはばつ悪そうにしかめっ面を浮かべた。
「そんなに、役立たずなのか」
エミルは誰にも聞こえないであろう音量でそう呟いた。
独り言だった。エミルと言う少年は心の中でもやもやする何かがこみ上げて来る感覚に、気持ち悪そうな顔をしてた。
「なんか言ったかしら?」
「い、いや何も」
エミルはそういうと、その場から立ち上がった。
「何処に行くのよ?」
「先に帰ってるよ」
「ふぅん。そう」
エミルはその後、何も言わずにその場を後にした。
もう、この場所に居場所はない。
日が跨ぎ、みんなが寝ずまり返ったとある宿屋の中でエミルは紙に何かを書きながら思いふけていた。
酒場から出た時から、エミルはある準備をしていた。
自分でも分かっていた。パーティの貢献に何も役に立っていないと。
自惚れていたのかもしれない。かつて、舞い上がっていた自分をぶん殴りたくなるほどにエミルは思い悩んでいた。
「旅に出よう」
このままでは行けない。いくら才能が無くても、無能のままお邪魔になってはパーティのみんなに悪い。そう思い悩んだエミルは、書き終えた紙を机の上に置いた。
「……さよならみんな」
エミルはそう言い残すと、身体がブレを生じてからその場からいなくなった。
後に残ったのは、開いた窓と風に靡いたカーテンだけだった。
吹きこんだ風は一枚の紙を空中に誘い込んで地面とへと落ちた。
旅に出ます探さないで下さい
byエミル
次回は、ヒロインの導入シーンです