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神からの贈り物

作者: 楓里


イルタにある小さな村の中央に建つ大きな教会の美しいステンドグラスを陽の光が照らし、キラキラと輝く中、一人の男が祭壇の前に屈みこみ、神に祈りを捧げていた。

男はしばらく何事かを呟きながら祈りを続けていたが、ふと胸騒ぎを覚え、スっと立ち上がると、教会の窓から外を眺めた。

村の入口のあたりが見えるその窓を男が覗いていると、村の外からここ数年は見ること無かった男女がこの村の地主の屋敷に向かっているのが見え、男はその男女が何をしにやってきたのか、すぐに分かったのか、その光景に悲しげに顔を歪めると、そのまま窓から離れ、再び祭壇の前に跪くと、神に祈りを捧げた。


『ライル様…どうか…どうかあの子らが幸せであれますように…』


男は涙を流しながら、縋るように何度も何度もそう祈り続けた。


それからしばらく男が神に祈りを捧げ続けていると、ふいに男以外鳴らすことの出来ないはずの教会の鐘が鳴り始めた。

男は独りでに鳴り始めたその鐘の音を怪しみながらも、どこか諦めたように、涙を流しながらその音を聞いていた。

すると教会の外から子供の泣き叫ぶ声が聞こえ、男はその声に絶望したかのようにその場に崩れ落ちた。


それからどれくらいたったであろうか、いつの間にかステンドグラスを照らしていた陽は落ち、今度は月光がステンドグラスを通して祭壇を照らしており、子供の泣き叫ぶ声も、それを宥める誰かの声ももう聞こえなくなり、静かになった教会には唯々未だ鳴り止まない鐘の音だけが響いていた。

男はその音すらもう聞こえていないのか、虚ろな目から止まることの無い涙を流しながら、祭壇の前に座り込んでいた。

すると急に閉じられていたはずの教会の扉が開いた。

男は扉の開く音にそちらを見ると、一人の少女がプレゼントなのか可愛く飾り付けられた小さな箱を掲げながら、男の方へと向かってきているのが見えた。

男は泣き過ぎて疲れたのかふらつく身体を起こして、みっともなくないようにと持っていたハンカチで涙を拭くと、少女を真正面から見つめた。

少女はそんな男の様子にニコリと嬉しそうに笑うと、そっと背伸びをして、泣き過ぎて赤くなっている男の目をそっと撫でた。

すると今まで赤く腫れていた男の目元は何も無かったかのようになり、その事に男が驚いていると、少女はまたニコリと笑いながら、今度は男に持っていた箱を差し出した。


『貴方に祝福を』


そう微笑みながら告げた少女に男はそっとその箱を手に取ると、ゆっくりと箱の蓋を開けた。

箱の中には綺麗な装飾の施された小瓶が入っており、その小瓶には見たことも無いような美しい輝きを放つ液体が入っていた。

男はしばらくその小瓶を見つめていたが、その意味を理解したのか、決心したように顔を引き締めると、その小瓶を手に取り、ゆっくりと蓋を開け、中身を飲み干した。

すると男は何かに操られるかのようにそっと小瓶を箱に戻し、少女に返すと、フラフラと覚束無い足取りで祭壇に向かうと、祭壇に身体を預けたまま、その場に倒れ込んだ。

そしてそんな男を見ていた少女は倒れた男のそばにより、その顔が幸せそうに微笑んでいることを確認すると、嬉しそうにまたニコリと笑い、その場を後にした。



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