津波の後に
呆然。
呆然と佇む私に、ハムスターがよじ登ったことで我に返る。
喉の渇きを自覚した。
辺り一帯に兎の死体が広がり、血の臭いが充満している。
丘を下れば、小川は血と泥、兎やワニの死体で汚れており、飲めるものではなさそうだ。
地形から荷物の場所に検討をつけ、水袋を探す。
兎かゾウか。踏みつぶされて破れていた。
どうしよう……
とりあえず、だ。
破れた物は仕方ない。兎の皮を剥いで水袋を作ろう。
短剣で皮を……ない。あああっ! 何で置いといたんだろう? どこ行った!?
何とか短剣を探しだし、水の澄んできた川で喉を潤す。危ないのは分かっているがもう我慢できない。
ウサギの皮を剥いでいく。
「そこの子」
ハッと振り返る。どれほど呆けていたのか。男が近づいていたことに気づけなかった。サッと立ち上がり、向かい合う。
「怪我はないか?」
「け、が。……はい、ありません」
「それは良かった」
この辺りにない白い肌に青い瞳、金色の髪をした、身形の良い鷲鼻の男は心底嬉しそうに笑った。
「このような所に一人でどうした? 近隣の者か?」
「いえ、旅人です」
「旅人か。何処へ行くのか?」
何この人。グイグイ来るな。
あ、でも六歳の子供が一人でいたら当然か。
「遥か東の竜帝国を目指す道中です」
「竜帝国……その国はイーグレットと白蛇国に分かれたぞ」
「一族に青い瞳の子供が産まれたので連れていくのです。竜帝国の者は今でも青い瞳や白い髪を持つ者を求めていると聞きます」
その子と引き換えに市民権か対価を望むつもりとも。
「一族というが一人ではないか。はぐれたのか? それとも、その、やられたのか」
仕立ての良い服で泥と地に汚れた所に膝をついて、目線を合わせてくる彼の行動に戸惑う。
ちょっと、ハムスター! 彼に上るのは止めなさい! 何も言えないけど!
彼とハムスターはじっとお互いを見る。
「なるほど」
何がなるほどなのか。
この人もよく分からんなぁ……。
「一族と会えるまで一緒に来なさい」
「は?」
「名を何と言う?」
……見知らぬ人に名乗るのは抵抗があるのだが、これまでの行いからは犯罪を犯すような者ではない、よなぁ。
むしろ騙されて身ぐるみはがされる方だ。
「……サシャ」
「そうか、私はイーグ。よろしくな、サシャ。これから不思議体験をするが暴れないでくれよ」
……不思議体験?
「さ、持てるだけの荷物をまとめなさい。ウサギの皮も持ってくるんだよ」
促されて頷く。一族が見つかるかは定かではないが、身を預かってくれるようだ。
どこかに売り飛ばされるという可能性もあるが、このままでは生きるか死ぬかの瀬戸際だ。
さっきもゾウに潰されるところだったし、獰猛なウサギと戦っていた。
荷をまとめ、動けるだけの皮を持つ。
彼、イーグは立ち上がってぐっと両腕を開いてノビをすると黄金色に光だした。
「はああっ!?」
光は大きくなり、体長2mほどの金色の鷲が現れる。
「もう一度言うが、暴れないでくれよ」
鷲の口からイーグの声が出た。
不思議、体験……
大きな鷲は私の胴を掴むと大空へと飛び立った。




