金毛一角兎
四方から駆けてきた奴らは勢いをそのままに突撃してくる。
昼間に遭遇した金毛の一角兎だ。五羽どころではなく、十は越えているのではないだろうか。
「くっ」
相手は馬を一撃で倒す角を持っている。短剣を納め、馬追い棒から外套を外して棒で応戦することにしよう。
倒すことを考えてはいけない。
相討ちさせることを狙わなければ。
腰を落とし、どの方向にも動けるよう身構える。
三羽が同時に突撃してくる。二羽が後を追った。
三羽がぶつかる地点まで移動し、跳ねる。後続の二羽は棒を駆使し、一羽の頭を起点に撥ね飛ばされた。
「かはっ」
空中で体勢を整えるなどできるはずもなく、地面に叩きつけられた。
跳ね起きて突撃を避ける。
一羽を殴って軌道を反らし、もう一羽をしゃがんで避けつつ下からすくい投げ、三羽目を跳ねてかわす。四羽目の突撃を間一髪で避けると手元を通った。
首を掴んで五羽目に投げつけて相討つ。
背後からの一撃を避けるのに失敗してしまい、背中を角が掠め服に引っかかって地に転がる。
「うぅっ」
両手をバネに起き上がった。
……あれ?
棒がなぁぁぁぁいっ!
ええ? ちょっとどこ行った!?
「のぉうっ!」
寸前で突撃をかわす。
しまった。考え事をしている場合ではなかった。
腰にさしてあった一角兎の角を持つ。
「だぁりゃあああっ!」
低く構えながら、私は一角兎へと突撃した。
日暮れ。何とか私は一角兎の群れに勝利した。
水筒の水を布に浸し、傷口を拭う。
「しみるぅ~」
自作の薬を背中の傷に塗りつけ、胴に布を巻き付ける。
一角兎たちの処理をする。皮の日乾しは明日として、肉を焼こ……先ほどの戦闘で釜戸は壊れていた。
石を組み直し、火を点ける。
最終的に、ウサギは十五羽やって来た。
金色の毛皮と立派な角は売り物になるだろうし、嵩張るものの持っていくとして、肉はどれだけ持って行こうか。次の町まで馬車で二日。
徒歩だと五日くらい? いや、まだ一次成長期のこの体。休み休み行くしかないだろうし、六日や七日は見た方が良いか。
小さな子供が独りで歩いているのだから、肉食獣も寄って来るような気がする。
それに……。それに、水が心許ない。
騙し騙し水分を摂ったとしても二日が限度か。
七日では聞かないかもなぁ。
ああでも、一つの町に滞在するのは平均して五日であることを考えると急ぐしかないか。
誰かが探しに来てくれるといいのに。