気が付いたら女の子が目の前にいた。襲われた。
光に包まれて数秒ほどして、視界が晴れてくる。俺が最初に目にしたのは、小高い丘の上に建つ館だった。距離にして数百メートルくらいだろうか。遠目でよく見えないが、整備はされているようだ。
「……ここが異世界……。確かに、何か違う感じはするが……」
何の、と聞かれれば返答には困るが、何かの密度が高い。そんな気がする。それも、俺がよく知っているはずの何かが。
「……成功……した……の……?」
背後で女の子の声がする。なるほど。俺を呼び出したのはそいつか。振り返ると、そこには雰囲気こそ違えど、ノアとよく似た顔の女の子が立っていた。足元には魔法陣。手元には魔導書。どうやら間違いないみたいだな。
「お前か。転移魔法で俺をここに連れてきたのは」
威圧するわけでもなく、ただ淡々と質問をする。女の子は動じて無いように見える。ノア共々、図太い神経をしてるな。
「……そう。私は、ユウイ=アイスアーデル。貴方のことは、魔法を通じて多少は知っているわ。カノン=バッドドッグ」
どうやら自己紹介の必要はないらしい。手間が省けて助かる。
「……急に呼び出して……ごめんなさい。……猫の手も借りたいくらいだったの……」
ノアとは違い、ハキハキと喋らないな。俺の見た目で物怖じしないのを鑑みて、ただそういう喋り方なだけだろう。
「呼び出したこと自体は別にいい。が、向こうは相当な騒動になるぞ。その責任は後で払って貰わないとな」
「……責任……、どうやって払えばいい……?……身体で……?」
なぜそうなる。そして顔を赤くするな。
「子どもに手を出す趣味はない」
「子ど……、私、これでも、16……」
同い年かよ。控えめに見ても12歳くらいにしか見えないぞ。
「………………」
そして黙り込んでしまった。いや、何かぶつぶつ呟いているように見えるが……。
「……ノアが発動したから疑いたくはないんだけど、貴方、本当に強いの……?」
なんだそれは。自分で呼び出した相手を疑ってるのか。
「知らん」
一蹴。そもそも俺には基準がよくわからないからな。
「……そう。なら、確かめる……」
確かめる?言葉を受け取ると同時に、ユウイの魔力が増幅していくのを感じ取った。そして、密度の正体にも気付く。
「この密度……こいつの魔力か……!」
とてつもない程の魔力。今感じてるだけでも、俺の総魔力量の、数倍はあるだろう。咄嗟に距離を取る。
「……『アイスバレット』」
後ろに飛んだのが幸いか、ユウイの放った魔法は、俺がいた場所に突き刺さる。
ただ、ユウイの放った魔法に違和感を覚えた。
「……魔法を『単発』で……巫山戯てるのか?」
「……どういう意味?魔法はそういうものでしょ……?」
続けざまに先程を氷の玉を射出する。そこそこ速度は出ているが、それを身体を逸らして躱す。やはりどこか、違和感がある。
「この違和感……。もしかして、魔法の仕組みが根本から違うのか……?」
だとしたらユウイの言葉にも納得が出来る。
……この世界に『乗法魔法式』は存在しない。