視界が黒くなって夢オチでした。そうであって欲しかった
『普通』じゃない。そう気付くのに時間は必要無かった。俺の表情を見てお隣さんもアルフも察したのだろう。戸惑っているのが一目でわかった。なるほど。察しの良さは親譲りだったのか。
急いで魔法を解くも、もう遅かったらしい。解くよりも先に出力はゼロになり、途端に当たりが暗闇に包まれた。アルフの姿もお隣さんの姿ももう見えない。それどころではない。今目の前にあるはずの、俺の手のひらですら見えなくなっている。
「……何か別の魔法の引き金になったのか……?」
現状を理解する意味合いも込めて、あえて口に出してみる。声は聞こえる。身体にも触れてみると、触っている感覚もある。
「その通り、よくわかったね」
どこからともなく声が聞こえる。今まで聞いたこともない、幼く、無機質な声だ。
その声が聞こえると同時に、辺りがぽうっと明るくなる。俺の手も見えるようになったことから、視力を奪われた訳ではなく、暗闇にいたようだ。しかし、暗闇が晴れたわけではなく、明るくなった所以外は暗闇に包まれたままだ。
「初めまして。僕の名前は『ノア』。君の名前は?」
明るくなった場所に目をやると、船の模型を持った、10歳位の男の子が1人。顔つきはタレ目気味の女の子のように見えるが、上半身に何も着ておらず、割と筋肉質に見えるからそう思っているだけだが。
「悪いが、先に俺の質問に答えろ。ここはどこだ」
幼かろうが、未知の魔法を目の当たりにし、警戒しない訳にはいかない。怒気を含めた俺の言葉に、ノアと名乗る少年は物怖じもしていないようだ。
「そうだねー。この魔法は『方舟』。君のよく知る世界ではない、いわゆる異世界で使われた魔法さ。その効果は……、君ならわかるんじゃない?」
試されてるのか、馬鹿にしてるのか……。
「……世界を渡る、転移魔法……といったところか」
「せいかーい。さすが、あれだけの出力を出すだけのことはあるね。いやー、火力馬鹿じゃなくて良かったよ」
……褒められてることにしておこう。いちいち感情を昂らせていたらキリがない。
「……名前だったな。俺の名前はカノン。カノン=バッドドッグだ」
「カノン=バッドドッグね。うん。名前も僕らの世界でも違和感なくいけるかな」
十中八九、いや、十中十、このまま俺は異世界に連れて行かれるのだろうな。そうなると色々気になることがある。
「ノア。いくつか質問に答えてくれないか?」
「ん?いいよー。それと最初に言っておくけど、へりくだる必要はないからね。問答無用で連れてきちゃったのはこっちだし、こちらとしては敵対するわけでもないから」
普段通りでいいのか。確かにその方が楽だな。
「じゃあ遠慮なく。俺の周囲に2人ほどいたはずだが、そいつらはどうなった」
「御安心を、被害はなにもないよ?彼らから見たら、君が暗闇に包まれて、気づいたらいなくなってた、という感じに見えてるさ」
それはそれで問題だろうが。混乱するだろ。そう口にしたかったが、後の展開が予測出来るからやめておこう。それよりも、他に確認したいことがある。
「俺の魔法が引き金になったのは感覚でわかったが、それは、術者の魔力不足が原因か?」
「そだね。僕は元々、魔導書に記されてて、その手順通りに準備をして初めて発動できるタイプの魔法なんだけど、肝心の魔力が供給されなくてねー。ただ、それでも異世界と繋がることが出来たから、君の魔法の熱量を使わせて貰ったってわけ」
なるほど。謎は大体解けた。
「つまり、術者は魔導書を理解出来る頭はあれど、魔力をそんなに持たないような奴だと言うことか」
「んー、そこは着いてからのお楽しみ、かな?じゃ、僕はこの辺で、じゃあねー」
そう言うや否や、ノアは姿を消してしまった。着いてからのお楽しみ?言葉の意味を考える暇もなく、今度は眩しい光に包まれた。