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第5章 その15

P.A.が客電を落とし、DJの音はゆっくりとフェイドアウトする。代わりに、今日一番の大歓声が地響きのようにミッション全体を包み込んだ。

自分でも気づかないうちに、アタシはマイクを握っていた。

「さあ、最後だよ!今日という日を悔いないように、みんな全力で楽しみましょう!」

そしてアタシはバンド名を叫んだ。ありったけの力で。

最後に回そうとして、流れずに終わってしまった曲。

シャム69の“イフ・ザ・キッズ・アー・ユナイテッド”。

でも何となく、回さなくても良かった気がする。

終わった。

まだクローズDJは残ってるけど、ひと仕事終えた気分。解放感が押し寄せてくる。

レインみたいに終始沸かせるセットにはならなかったけど。フロアをじわじわ、じわじわと温めて、ライヴ前には最高潮に持って行けた。その手ごたえはあった。

全ての視線がステージに向く中、アタシはひとり息を吐いてヘッドフォンをブースに置いた。

革ジャン以上の存在証明を、ここで示すことができた。

アタシ、ここでやっていける。

地の底から響くようなドラムの音が、さ迷い出たアタシの意識を呼び戻した。次の瞬間、稲妻みたいな彼女の歌がフロアの中で爆発する。アタシ、ぶっ飛ばされた!

右腕の上に誰かの手が置かれた。マサさんが手を置いたのと同じ腕だけど、今度は力強さに優しさが込められている。

見上げるとレインがアタシに微笑んでいる。グッと握った手の感触に、言葉にしなくても彼の意思が伝わってきた。

“よく、がんばったね”

レインはフロアに向かおうとした。離れかけた彼の腕を、アタシは逆に掴んだ。勢いを止められたレインがこっちを向く。

アタシは彼に笑顔を向けたまま、DJブースから飛び出た。

「アタシも行く!」

すぐにレインの顔にも笑みが浮かび、アタシたちは二人で手を取り合ったまま、ギター鳴り響くフロアに突っ込んでいった。


既にモッシュピットはもみくちゃ状態。アタシたちはすぐに押し合いへし合い、大混乱の中に巻き込まれた。

元・フェス女子だったアタシはピット慣れしてると思っていたけど…フェスとライヴハウスのピットでは全然違う!パンクスが多いせいか、やたら当たりが強くてぶつかると痛い。うわ、勢いで来ちゃったけど、後悔!

荒れ狂う人の渦の中、離れそうになる手をレインが抱え込むようにアタシを守りながら、二人でようやく最前列にたどり着いた。

ちょうど目の前の男が鉄柵を離れピットに向かったので、2人分の隙間をどうにか作って身体をねじ込む。ホッとしたけど、それ以上に楽しい!

アタシ、こんなにライヴハウスで楽しんでるのって初めてかも!こんなに高円寺で楽しんでるのって、初めてかも!

アタシ、高円寺が好き!

ゴンさんはキャッツアイ(細身のサングラス)に鋲ジャンをビシッとキメて、モヒカンから汗を滴らせながら悲鳴のようなギターを弾いている。冗談ばかり言ってたショージさんも、ステージでは別人みたいに熱いビートを刻む。ベースの人は地味だけど、その音はうねりにうねりまくってる。

そしてヴォーカル!速く荒いハードコア・パンクの楽曲なのに、歌の上手さ・存在感が際立ってる。一度聴いたら忘れられない熱く深い声。

アタシ、どうしてこのバンドを聴いてこなかったんだろう?

アタシとレインは最前列でひたすら拳を突き上げ、歌い、飛び跳ね続けた。目が合うたびに笑顔が自然に浮かんだ。

レイン、珍しくピットに行かない。イヴェントのクライマックスを、一番前で見届けたいんだろうな。

アタシが大好きな曲が始まった。これ、音源を聴いてからライヴで演るの楽しみにしてた!何回も聴いて歌詞もすっかり覚えちゃった。

アタシはバンドと一緒になって夢中でシンガロングした。

と、レインが急に鉄柵を乗り越え、ステージによじ登った。ダイブする気だ!ガマンできなくなったんだね。

アタシ、受け止められるかな?

と、センターで歌っていたヴォーカルが、レインの腕を掴んで自分の方に引き寄せた。レインは「いいの?」って顔をしながら、彼女と一緒にマイクで歌い始めた。

初めて聴いたレインの歌声。上手じゃないけど…ハスキーな声が雰囲気あってアタシは好き。

1つのマイクで歌う二人の姿を目の前に、アタシはジェラシーと誇らしさと高揚感と、いろんな感情がごちゃ混ぜになった変な気分。ああ、いいなー!

ステージ上のヴォーカルの視線がアタシに向いた。レインを肘でつつき、アタシの方を指さす。

二人はアタシに向かって手を差し伸べた。アタシは迷うことなく二人の手を掴んだ。

後ろからオーディエンスにも押されて、アタシはステージに引っ張り上げられた(どさくさに紛れてアタシのおしりを触った不届き者も数名いた)。

彼女は笑顔でアタシを迎え入れた。アタシたちは彼女を真ん中にして、3人で肩を組みながら歌った。

初めて観る、ステージ上からのライヴハウス。こんなに広かったんだ。こんなに高かったんだ。

こんなにいっぱいの笑顔があふれてるんだ!

曲が間奏に入った。

ヴォーカルが「行くよ!」とアタシたちに叫んだ。

何のことだろ?

と、レインと彼女はモニターの上に立ち上がった。

そういうことか!

アタシもつられてモニターに足をかけた。ステージからは初めてだけど、不思議と恐さは感じない。

アタシたちは、せーの!で肩を組んだまま3人でフロアに向かって思い切りダイブした!

重力がなくなったみたいな一瞬の感覚。そして無数の手がクッションとなってアタシたちをしっかり受け止めた。

まるで雲の上を散歩してるみたいだった。


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