第5章 その12
ミッションに戻ると、ちょうど転換前のバンドが最後の曲を演奏するところだった。危ない危ない!大急ぎでCDJに音源を挿入し、音のチェック。
何事もなかったみたいにイヴェントは続いている。
ミッションに入る直前、環七からオマワリが自転車に乗ってくるのが見えた。危なかった、誰かを呼びに行ってたら間に合わなかったかも。
「サニィ。また何か、あった?」
平静を装っても、やっぱりレインにはバレちゃうな。
「うん、ちょっとね。大したことじゃないよ。」
アタシはそれだけ答えた。自慢するようなことじゃない、レインがしたのと同じようにしただけ。
「お陰さまでリフレッシュできた!もうすっかり元気になったよ、レインありがとうね。」
「そうか、なら良かった。後半もがんばろう。」
「うん。」
次は大阪から来たガレージ・パンクのバンドが演奏する。アタシはだいぶ自信を取り戻した。どんな反応だろうと、自分が信じた方向でやろう。迷っても何にもならないから。
レインが太鼓判を押してくれたもんね。
フロアにDJの音を聴きに出てみた。戻ってくると、レインに誰かが話しかけていた。
「俺たちの時にDJしてたの、キミ?」
「いや、違います。彼女です。」
レインが手をアタシの方に向け、二人の男が振り返った。アタシが最初に転換を担当したバンドの、ギタリストとドラマーだった。
ギタリストは長身で無造作な長めの黒髪。白いタンクトップに革パンを履いている。ドラマーは少し小柄でオシャレなストライプのシャツを着て、髪はマッシュルームカットに近い。色眼鏡って感じのサングラスをしている。
二人とも年はアタシよりひと回りは上だろう。どちらも色気たっぷり。有名なバンドを幾つも渡り歩いてきたバンドマンたちで、雑誌なんかにもよく出ている。
ギタリストが話しかけてきた。
「さっき“ダズン・ガールズ”回してたでしょ。あれ、わざと?」
「はい、そうです。同じメロディーライン…。」
アタシの言葉に二人はフッと笑った。
「気づいてたんだ。」
「キミ、名前なんて言ったっけ。」
今度はドラマーの方が聞いてきた。
「サニィです。」
「サニィちゃん。覚えておくよ。」
「また一緒に演りたいね。あとでゴン君に言っておくから。」
そう言うと二人は握手を求めてきた。
「あ、ありがとうございます。」
二人がブースを離れた。アタシは少しボーっとしながら急いで次のCDを用意した。何だか、夢みたい。
横を見ると、レインがアタシの方を見てニッと笑った。
アタシははにかんで、またヘッドフォンを耳に当てた。
さっきよりフロアが盛り上がってきた気がする。
レインの言う通り “普通のお客さん”が増えてきたみたい。だからかな?
アタシはさらに数曲を回し、そして出番を終えた。
ライヴDJにも、だいぶ慣れてきたと思う。
お客の反応を見るため何度かフロアに出て分かったのは、ブースにいる時よりフロアでのDJの音はギター音に負けていない。そんなに気にしなくても良かったんだ。
爆音の中でモニターを聴き分けるのにも慣れてきた。
アタシはラムコークを飲みながら、大阪から来たガレージ・バンドのステージを観ていた。明るくてノリが良くて楽しいステージ、このバンド好きだな。
数曲を演奏し終えると、ギターヴォーカルがMCを始めた。テンガロン・ハットをかぶって黒いキルト・シャツの襟を立てた、鼻の大きい粋な男。
「今日は呼んでもうて言うのも何やけど、最初はエラいアウェイ感があったんやけどなあ。」
彼はそう言ってフロアを笑わせた。
「でもなあ、ホンマにお客さんは暖かいし、DJは俺らの仲間の曲をバンバン流してくれるし、居心地ええわ。何か、キンコブか火影におるみたいやなあ。」
ちゃんと分かってくれた。
アタシは彼らのウェブサイトのリンクページを調べて、そこにアタシが知っている(そして音源を持っている)バンドを見つけ、それならと続けて回してみた。
ディザスター・ポインツ、ブラッドショット・ファミグリア、ビースト、ゾロ。みんな大阪のアンダーグラウンドなパンクバンドばかり。
ガレージ系でまとめた選曲じゃない。雰囲気が違うと言われるかもしれないし、そのバンドと彼らの今の関係がどうなのかも知らない(縁がなくなった後もリンクを放置するバンドの多いこと!)。賭けでもあったプレイ。
アタシは勝った。彼らにしっかり伝わった。
火影、そして「キンコブ」ことキングコブラ。どっちも大阪にあるライヴハウスで、多くのパンクバンドが集う場所。
彼らのホームを感じさせる雰囲気を、DJで表現することができた。
こういうことが、やりたかったんだ。
タツさんがブースの前を通り過ぎた。声をかけようとすると、彼は指を2本立ててピースサインを出し、ニヤッと笑った。
「ナイスDJ!」
そのままタツさんは行っちゃった。最高の気分だけを残して。
ステージではガレージ・バンドが渾身のステージでフロアを沸かせていた。
アタシもDJブースから飛び出したい気分だった。




