第5章 その5
アタシたちは手早く身支度を整えた。レインがバスルームに浴室乾燥を入れておいてくれたので、アタシの服は何とか着られる程度にまで乾いた。
ところで彼はシャワーを浴びた時、カーテンにかけてあったアタシの服や下着をどうしたんだろ?
レインのマンションを出たアタシたちは、高円寺からJRに乗り込み新宿駅で別れた。
「レイン、色々とありがとう。ごめんね。」
「俺の方こそ、ごめん。」
「“ごめん”が多すぎたね。もう言わないようにしよう。」
「そうだね。」
アタシたちはお互いを見つめ合った。
昨日からずいぶんたくさんのことが起きて、たくさんの感情が渦巻いた。アタシたちの間には、まだ緊張感が残っている。それを今は無理して隠す必要もない。
どうすればいいのか分かったから。もう迷わないから。
「ミッションで。」
「じゃ、ミッションで。」
アタシたちは握手を交わした。もうそれ以上は言うこともなかった。
アタシは振り返らずに歩き去った。
それから2週間、アタシは自宅と職場を往復しながらライヴの選曲イメージに取り組んだ。
レインのライヴをはじめ、もうライヴハウスに顔は出さなかった。彼に次に会うのは企画で、と決めていた。レインにもそれは伝わっていたみたいで、彼からも必要最低限の連絡しか来なかった。
SNSは一切観なかった。正直に言えば、あんなことがあって自分のことが何と書かれているか恐い。
今となってはレインがSNSを利用しない気持ちが分かる。彼の元奥さんが亡くなった時、ネットには無責任な発言がいったいどれだけあふれ返っていたんだろう?
あの日スマホの電源を切って以来、ナミからの連絡はなかった。守やんからも何も言ってこなかった。
当然だと思う。アタシがそれだけのことをしたから。
今のアタシには、数日後に迫ったライヴで自分の新しい道を見つけること、もうそれしかない。
クラブDJとしてのアタシは終わった。守田屋に顔を出せないから他の店をメインに、なんて絶対にやりたくない。
クラブDJはダメでライヴDJなら良い、というわけでもないけど。
ただ、これをやると決めたんだ。
あとは、イヴェントが終わった時に何が見つかったか考えればいい。やっぱりアタシにはDJしかないから。
アタシは自らの内にこもって、最後の数日間を過ごした。
そして、当日を迎えた。




