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第3章 その3

今夜のGBはお客さんがよく入っていた。

このハコは奥行きがある分、集客をがんばらないとどうしてもフロアが寂しい感じになってしまう。その点、今夜は盛況。

レインは高円寺でも吉祥寺でも何も変わらなかった。常にフロアの状況を見ながら、ベストな選曲で場を盛り上げる。選曲は前回と全く違うのに、“これはレインのDJだ”とすぐに分かる。一流DJの証。

レインのブースには、いつものようにビール(GBはジョッキなのが嬉しい)。横にはアタシのランチボックスが置いてある。ふたは閉めてあって、時折DJブースに誰かが来ても見せないようにしていた。よしよし。

アタシもビールのジョッキを片手に、ブース後ろの壁に寄りかかっていた。

あんなことがあった後で、もうレインの前では飲めない。そんな思いを見透かしたみたいに、レインはスタート前にジョッキを2つ持ってくると1つをアタシに渡した。

「鶏ハムのお礼だから。断わらないでね。」

そう言って彼は笑った。アッサリとレインの前でアルコール解禁。また彼に救ってもらい、また借りを作ってしまった。

このままでは永久に返させてくれそうにない。気持ちは持っていかれっ放し。はあー。

演奏が終わり、またレインの転換DJが始まった。

コインが床に落ちる音に続いて、シンセの音がフロアに響き渡る。あれっ?

「これ、“レインメーカー”?」

アタシは思わずレインにたずねた。“レインメーカー”はプロレスラー・オカダの入場テーマ曲。でも、なんで?

ひょっとして自分の名前“レイン”に引っ掛けてる?いや、そんなわけないか。

レインはニヤッと笑ってうなずいた。

「どうして、こんなの使うの?」

次の出番は確か、大阪から来たガレージ・パンク(ガレージ・ポップよりもう少し荒々しいパンクロック)のバンドのはず。全く脈絡のない選曲、場違いにもほどがあるけど。

レインは黙ってステージを指さした。

そこには次のバンドのヴォーカリストが、モニター・アンプ(バンドが自分たちの音を聴くためのスピーカー)の上に乗って両手を大きく広げ、オカダがよく見せる“レインメーカー・ポーズ”をキメていた。

「アイツがオカダの大ファンなんだよ。」

こっちに親指を突き立てるヴォーカルに手を振りながら、レインは答えた。

なるほどね。

納得がいった。だんだんと、前回のライヴでも感じた違和感の答えが見えてきた気がする。

クラブでは、良いDJが気にするのはフロアの反応。お客さんの盛り上がりを確認しながら、そこに自分のセンスを投影することで一体感を生み出していく。

ライヴでもそれは同じだけど、そこに「バンド」というもう一つの要素が加わるんだ。それは単にバンドのジャンルに合わせるだけじゃなく、ルーツ・ミュージックだったりメンバーの嗜好だったり。

レインは次の選曲にデヴィル・ドッグスをセレクトした。ガレージ・パンクの王道。

そうか。

“レインメーカー”はメンバーの趣味。だけどフロアの雰囲気に合うとはお世辞にも言いがたい。

だから、ライヴが終わった直後でフロアがザワザワしてる時にもってきた。そして、その後は本来の路線に戻ってまた場内を盛り上げる。

プロレスの曲を続けたりして、場の空気を偏らせはしない。

面白い。面白いなー。

アタシには想像もできなかった繋ぎ方。

DJって奥が深い。そしてレインはすごい!

彼と出会ってから、楽しいだけでなくDJとしての違った目線も次々に開けている。本当に素敵な出会いだ!

それにしても。どうしても気になるなあ。

「サニィ、よく“レインメーカー”なんて知ってるね。」

アタシが聞こうとした矢先、またしても先回りされる。まるでこっちの思いを読んでるかのよう。

「だってアタシ、プ女子(プロレス女子)だもん。」

「マジで?」

マジだ。

アタシは会社の同僚の影響で、2年くらい前からプロレスにハマっている。深夜のテレビは毎週観てるし、会場に連れて行ってもらったこともある。

そんなに詳しくはないけど、鍛え抜かれたレスラー同士のぶつかり合い、華麗な空中技、ドラマチックな試合展開に魅了された一人だ。もちろんイケメンレスラーにもね。

「レインもプロレス、好きなの?」

「俺は大事なことは全部、パンクとプロレスに教わったんだよ。」

ますます冴えわたるレインのスピンを全身で感じながら、アタシは突破口を見つけた。

“これならレインも断らないだろう!”


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