008 太陽の紋章
いくつもの大木が視界に入っては後ろに流れ消えていく。また入っては流れ、入っては流れ、見える景色が目まぐるしく動き続ける。だが、どれも同じで変わり映えのない景色だ。
方位磁石の確認は細かく行っているから道の誤りはないはずだ。
ただ森の木々が空からの光を遮ることで、独特の暗さを生みその雰囲気が不安をあおる。
たいして整理されていない森の小道を、一人の少年が黒い馬と共に駆けている。
黒い髪に黒いコート、そしてその両目に宿るのは光の灯っていない真っ黒な眼。ただ代わりにその目には強い意思が宿っているように見える。
少年の馬が不意に止まった。
目の前に右と左、分かれ道が足を止めさせた。そうこれで18回目の、だ。
方位磁石を手に持ち……握りつぶした。
「だー、めんどくせぇぇぇえ!」
跨る黒い馬を走らせる。右でも左でもない草木茂る分かれ道のまん真ん中に。
「方向は合ってるんだ! クネクネ曲がらず真っ直ぐ行った方が早いに決まってる!」
少年は盛大な音と共に草木の中に消えていく。
その風になびく黒いコートの胸の辺り、太陽を模した紋章が僅かもれる陽光を反射し、銀色の光を放っていた。