第5話 〜適正武器 診断編〜
「この方が・・・総隊長、なんですか?」
「あぁ。そうは見えないだろうがね」
羽近に抱きついているメガネをかけた全裸の女性、彼女が『天王寺 御門』。なんと、彼女がこの第8支部の開発部長にして、対機人隊の全ての指揮を任されている総隊長だと言うのである
「そうは見えない、って顔してるねー君は」
「い、いえ!そういうわけでは・・・」
「いいや!科学的に見てもそうにしか見えないね!今君は嘘をついているだろ!正直に言ってみろ!!」
御門は羽近から離れ、大八に近づいていく。自分の裸体をこれでもかと見せつけながら。大八な彼女の姿を見ないように目を逸らすと、御門はその動きに合わせて移動する。そして、お互いの身体が密着するまでの距離になると、御門は大八の顔を両手で掴み、頭が動かないようにする。ものすごい力だ。大八が何とかして動かそうと頭だけでなく、身体も動かそうとするが、一歩も、1mmも動かない。御門は両手で大八の顔を掴んだまま、じっと見つめる。大八は目を動かせずにいた。頭は動かせず、目も動かそうにも動かせられない。今の彼はさながら、獲物を狙う蛇に睨まれた小さなネズミであった。
「・・・狼牙棒。それも大型のだね」
大八の頭から手を離し、見つめるのをやめた御門は小さく呟いた。
狼牙棒、それは主に古代中国で用いられた棒状の打撃武器。先端部分には狼の牙を模した大量の突起物が取り付けられている。形をイメージするなら、創作物の鬼が持っている金棒、系統をイメージするなら西洋のモーニングスターが近いだろうか。
「狼牙棒・・・?それは一体どういう・・・」
話を聞こうとする大八をよそに、御門は騎士団長であるオリヴィアに近づいていく。
「なっ、何をするつもりだ。なんだ!私の身体が貧相である事を馬鹿にしたいのか!なんだ!そんなものをたゆんたゆん揺らしおって!不埒だ!不潔だ!」
自分の胸に手を当てながら、オリヴィアは御門から遠ざかる。御門はこれみよがしに自分の胸を強調するように、胸を張りながら近づいていく。
そして、ついにオリヴィアは壁際へと追い詰められてしまった。先ほど自分で大八を追い詰めたように。
「く、来るな!やめろ!これ以上私にその胸を見せてくるな!!」
「・・・レイピア」
「・・・は?レイピアだと?私は残念ながらレイピアを扱うのが不得手でな。アルテミス王国の騎士団長であった時も常に両手剣を使っていたよ。もし、適正武器を診断しているのだとすれば、その選択は間違いだったな!」
大八と御門のやり取りを見ていたオリヴィアは、御門の『レイピア』の一言で自分の適正武器を診断しているのだと察知していたのだ。だが、そんな事、御門はお構い無しだった。
「あなたがなんて言おうともあなたの適正武器は両手剣。私の見定めと最新科学技術に間違いは無いわ」
「き、貴様!私の言い分を無視するというのか!私はアルテミス王国の騎士団長であり、アルテミス王国最強と名高い・・・」
「あなたの場合、剣を大きく振りかぶりすぎてる」
オリヴィアの言葉を遮り、御門は話を始めた。
「あなたは相手を一撃で倒す事を意識しすぎているせいか、大きく振りかぶっている。本来ならその隙を突かれて殺されているはずだけど、全て紙一重のところでかわしている。それは確かに素晴らしいと思うわ。でも・・・それはロボット相手には通用しない。」
もちろん、オリヴィアも黙ってはいなかった
「なっ・・・何を言っている!ロボットも人間と同じだろう!急所を狙えばロボットだろうが人間だろうが一撃だ!それに!やられる前にやるのは戦闘の基本であろうが!」
「えぇ。確かにそう。確かにそうよ。ロボットだって急所を突かれたら一撃でやられるし、やられる前にやるのも正しい方法よ。でもね、私が言いたいのは『ロボット相手には防御が意味をなさない』っていうことなの」
「防御が意味を・・・なさないだと?」
「えぇ。レーザーやミサイル、『フレイムブレイド』と、攻撃に使う技術はすさまじい速度で発展しているけど、それを防ぐための防御の技術がほとんど発展していない。現状、レーザーも『フレイムブレイド』も防ぐ手段が存在しない、使ったもの勝ちの兵器なのよ。だから、あなたが装備し慣れている鎧兜も、今着ている特殊スーツも、そういった兵器に対しては意味をなさないのよ」
御門はさらに話を続ける。
「あなたが使っている両手剣の場合、確かに相手を一撃で倒す事は可能だわ。騎士団長の時の戦闘データを見させていただいたけど、すべての戦闘において、あなたが攻撃する前に常に相手が先に攻撃している。人間相手ならかわせば十分でしょうけど、ロボットにはそれが通用しない。使ってくる武器は全て完全回避が不可能な代物ばかり。あなたも試験で嫌というほど味わったでしょう?ロボット達が使ってきたレーザー銃を」
オリヴィアの頭の中で第一試験の時の光景が浮かび上がってくる。高速で放たれる無数のレーザー、障害物も関係なしに貫通してくるレーザー。そのレーザーに貫かれる自分。そんな光景が思い出せば浮かび上がってくる。それを思い出したオリヴィアはこれ以上何も言わなくなった。
御門は何も言えなくなった彼女から遠ざかる。そして次は小梅・・・ではなく、部屋の隅に隠れていた男性に近づいていく。
「こ、こっちに近づいてきた!さっきの、そしてあの扉を蹴破ってきたあたり力は僕なんかより断然上。さらに今までの行動を見た限り、相手は僕にも裸を見せつけに来るはずだ。だったら目を瞑って走って逃げればなんとかなるか。いや!あの化物みたいなあの人から逃げられるとは到底思えない!あんな僕よりも、女性よりも背の高い『大八』とかいう人も動けてなかったし、あの騎士団長だとか言ってる女の人もダメだった。想定しろ!想定しろ!どこかに逃げ切れるルートがあるはずだ!」
小さな声で、親指の爪をかじりながら早口でブツブツと呟いていた。だが、御門はおどおどしている男の子に逃げる暇を与えない。オリヴィアの時のように、というより元から壁際にいた彼に近づいて逃げられないようにし、大八の時と同じように、男の子の顔をものすごい力で両手を掴む。
「こ、殺される!!僕を殺そうとしてるんだろ!」
「そんな物騒な事しないわよー。お姉さんがそんな事するように見える?」
「み、見えるとも!小さなネズミを狙う蛇のようにね!」
おどおどしている男を気にする様子も無いまま、御門は男の耳元で小さく呟いた。
「・・・トラップツール」
「な、何を言っているんだ!僕がそんな物を使えるとでも言いたいのか!」
「まあ、そこは最中君、あなたの頑張り次第ね。試験を見た限り、あなたは本番で真価を発揮するタイプみたいだし」
御門はそう言い残して、男の元から去っていく。
おどおどしながらも騒いでいるこの男の名前は『中山 最中』。この男もまた、あの試験を乗り越えてきた合格者である。本当は十分実力を持っているのだが、自分自身に対する自信の無さが原因で、いつもはこのように常に怯えながら、起こりもしえない事や今起ころうとしている事がどういう展開になるかを常に考え、避けようとする、気の弱い人物になってしまうのだ。
「羽近隊長、彼もまた、合格者なのですか?」
彼の様子を遠くから見ていた大八は、本当に彼があの試験を乗り越えてきた合格者であるのかを疑問に思っていた。あの様子を見れば無理もない。
「あぁ、彼もまた、素晴らしい実力を持った合格者だ。だが、見ての通り、彼は『本番には強いが、本番以外の場面では途端に弱くなるタイプ』なんだ」
「そんなタイプの人間、彼以外にいるんですか?」
「まぁ、世界は広い。探せばもう三人くらいはいるだろう」
大八はもう一度、最中を見てみる。だが、今の彼をどう見ても強そうには見えなかった。
「さて、最後に残ったのは君かい」
御門は、赤い髪の小さな少女の前に、小林 小梅の前に立っていた。
「アタシが使う武器ぐらい、アタシで決めさせてほしいわ」
「君ならそう言うと思っていたよ。だから君が何を使いたいか言ってみなよ」
御門のその一言に小梅は虚を突かれたのか、御門の顔を見上げる。たゆんたゆんと揺れる豊満な胸と御門の顔が視界に入ってくる。揺れる胸を少し羨ましく思いながら、御門に言った。
「スナイパーライフル。私はスナイパーになりたいの」
その言葉を聞いた御門は小梅を見下ろす。短いながらも綺麗な、艶のある赤い髪を持つボロボロのワンピースを着た小さな少女が視界に入ってくる。赤い髪を少し羨ましく思いながら、小梅に言った。
「おめでとう!君の適正武器は君の要望と同じスナイパーライフルでしたー!!よかったな!」
そう言って御門は微笑んだ。御門のその言葉を聞いて、その笑顔を見て、小梅もまた微笑んだ。
「君がスナイパーとなって活躍してくれる事を祈ってるよ」
「言われなくても!バリバリ活躍してやるわよ!」
「羽近隊長・・・」
「何だ、大八君」
「御門総隊長、って本当はいい人なんですかね。おかしな人ではありますが」
「確かにいい人なんだろうが、いかんせんあれだけ変だとなぁ・・・」
御門と小梅の様子を見ながら、羽近と大八は言葉をかわす。出会ったばかりだというのに、上下関係もあるというのに、すっかり仲良くなっている。
「さて・・・と」
全ての試験合格者の武器の診断を終えたのか、御門は全裸のまま、バーチャルトレーニングルームの中央へと行き、大きな声で合格者達に言った。
「さぁ!今から実際に仮想空間でその武器を使って殺し合いをしてもらおうか!!」
何かもう、いろいろとアレです