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鉄の地球  作者: leben
第1章 始まりの章
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第3話 〜対機人隊入隊試験その2〜

「『何とかして切り抜けろ』?」



試験監督である羽近から出された試験の問題文に大八は疑問に思っていた。『人質を助ける』のではなく『状況を切り抜ける』。この問題の制作者の意図を、大八は掴めずにいた。



「君たちには実弾が装填された小型銃とサバイバルナイフが与えられている。特に、銃は現に右手に持っているはずだ」



羽近に言われた通り、腰にはサバイバルナイフが装着されている。さらに右手には拳銃を握りしめている。だが、機人相手にこの武器は最悪と言っても過言ではない。機人の鋼鉄の肉体に、実弾も刃物も通用しない。実質、武器は無いに等しい。



「さらに一つ言っておく。この試験のクリアタイムは測らせてもらっている。経過時間は視界の左上に来るように固定しているから、一位を目指したいのなら、時間も気にするようにしてほさい」



羽近がそう言った瞬間、大八の視界の左上に『経過時間』と書かれた文字と六つの0が現れた。そして、徐々に数字が大きくなっていく。計測が始まったのだ。それを見た大八は瞬時に目を瞑った。経過していく時間を見て焦って変な行動をとったりする事を防ぐためだ。



「さぁ!人質を開放して欲しければ武装を解除してこちらに近づいて来い!」



人質に銃を突きつけている機人が大八に向かって叫んだ。銃を突きつけてられている人質の女性は恐怖で震え、目には涙を浮かべている。



大八は目を瞑ったまま、人質も見ようとせず、機人の声も聞こうとしない。経過していく時間と同じように、その光景を見て、機人の声を聞いて焦らないようにするためだ。大八は大きく息を吸って、空を見上げるかのように顔を上げた。




ーー『人質を助けろ』ではなく『何とかして切り抜けろ』?これは『人質の生死は問わない』ということか?さらに『切り抜けろ』?それが『生きて乗り切ろ』ということだとしたら『人質はどうでもいいからこの状況から生還しろ』という事になる。普通なら素直に降伏するのがいいのだろう。だが、人間を憎む機人達がそうみすみすと人間を見逃すとは思えない。降伏したとしても無防備なところを容赦なく撃ち殺すはずだ。逃げるのもいいのだろうが、軍人として、全人類の全てを託された『対機人隊』に『逃げる事』を許されているとは到底思えない。『戦死者を誰一人出したことの無い』第8支部ならなおさらだ。それに機人達から逃げられるとはとても思えない。だとしたら、機人達と戦って勝つしか生き延びる術は無い。つまり、この試験の模範解答は『人質を無事に確保しつつ、機人達を全機撃破して生還する』という事になる。だが、武器はどうする?機人相手に実弾もナイフも通用するはずがない。だとしたら、機人達から武器を奪い取りつつ倒す事になる。なるほど、これは難しい。『戦死者を誰一人出したことの無い』第8支部らしい試験、というべきなのだろうか。



大八は息を大きくはき、目を開ける。既に時間は二分を過ぎていた。機人達はまだ動かない。動かない、というよりは『待ってくれている』と言う方が正しいのだろう。これは試験ゆえに、だろう。



「さぁ!早くしろよ!人間!!」



銃を突きつけている機人は声を荒げながら叫ぶ。



「・・・分かりました。武装を解除しましょう」



大八は手に持っていた銃と、腰に装着していたナイフを地面に置き、両手を上げる。



「そうだ!そのままこっちへ近づいてこい!」



手を上げたまま、大八は機人へと、人質へと近づいていく。そして、ある程度近くまで来たところで大八は歩みを止めた。



「どうした!もっとこっちにこんかい!」


「・・・自分、降伏するつもりはありませんから」



そう言った瞬間、人質に銃を突きつけていた機人に回し蹴りを放ち、銃を突きつけられていた人質の女性もろとも蹴り飛ばす。機人が持っていた銃も手から離れ、大八の近くへと飛んでいく。


直後、大八の蹴り脚に激痛が走る。鋼鉄の塊に蹴りを当てたのだ。当然痛いに決まっている。さらに機人は吹き飛んだものの、ダメージ自体はほとんど受けていないらしく、何とも無かったかのように立ち上がる。


機人が落とした銃を広いに行こうとした瞬間、後ろに控えていた二機の機人が大八に向けて銃撃を始めた。それらが持つ銃から放たれるのは、大きな彼が持っていた銃のような実弾ではなく、一本のレーザー光であった。人間の肉体も鋼鉄の身体も関係なく貫くレーザーである。そう、大きな彼が機人を蹴り飛ばした真の目的はあのレーザー銃だったのである。


大八は放たれた四発のレーザーを軽やかな身のこなしで交わし、落ちていた銃を手に持つ。だが全てはかわしきれなかったのか、左脚の腿から大量の血が流れている。だが、彼は一切気にしていなかった。いや、気にしている暇が無い、と言った方が正しいのだろうか。


体勢を整えた後、大八は蹴り飛ばした機人に向けて銃から二本のレーザーを放つ。放たれた一本のレーザーは、人質の女性もろとも機人の鋼鉄の装甲を貫く。間髪入れずに放たれたレーザーが機人の頭部を、人質の脳天を貫く。撃たれた機人はそのまま動かなくなった。


そのまま、後ろに控えていた二機の機人に向けて四本のレーザーを放つ。だが、彼の銃撃の精度は決してよいとは言えないので、全弾命中とはいかない。が、一本のレーザーが二機のうちの一機の機人の胴体を貫く。だが貫かれた機人は気にせず、ひたすらレーザーを放ってくる。


レーザーが大八の巨体を貫く。貫かれた部位から血が流れてくる。致命的な急所はなんとか避けているが、大八の身体は穴だらけになっていた。普通の人間なら死んでいるほどだ。だが、彼はその巨体を持つがゆえに人より何倍もタフだった。身体能力だけならおそらく全志願者の中でもトップクラスであろう。



「自分は・・・自分はこんなところで負けるわけにはいけないのです!」



フラフラになりながらも大八は銃を撃つ。何発も撃たれたレーザーが二機の機人の装甲を貫く。そして、二機の機人も機能停止状態になったのか、動かなくなった。



「・・・終わったのでしょうか」



この窮地をボロボロになりながらも乗り切った大八は、地面に座り込む。ドサッ、と大きな音を立てて地面に座り込む。ふと、視界の左上に表示されている経過時間を見ている。『04:34:58』、およそ四分半。遅いのか、早いのかは分からない。大八にも、誰にも。



「第一試験を終えた者達はそのまま先へ進め。そこには第二試験が待っている」



満身創痍の身体を奮い立たせ、大八は立ち上がる。フラフラとよろめきながらも開けた場所から先へ進む。














「・・・ははっ、これは何の冗談でありますか」



大八を待ち構えていたのは、規格外の巨体に標的を定め銃を構えた、何十機もの機人達だった。

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