第2話 〜対機人隊入隊試験その1〜
「これ、全員入隊希望者だって言うの?」
「・・・どう見てもそうでしょう。こんな場所に冷やかしに来るやからはいないでしょう」
塔の1階の中央部にある大広間にやってきた大八と小梅が見たもの、それは広間に集う大量の入隊希望者だった。その数は千人をゆうに超える。この大量に人がひしめく光景に、二人はただただ圧倒されるばかりである。
彼らが入隊を希望している『対機人隊』、それは全人類の不安と期待を背負った、全人類の平和を守る最高にして最後の希望にしてみんなの憧れである。
詳しく言うと『対機人隊』は、人間とロボットとの長い戦いの始まりとなった『機人の乱』が起こった数日後に国連が設立を宣言した全世界連合の正規軍隊である。その軍の一部である『対機人隊基地第8支部』は日本唯ーの軍基地であり、そして全世界にある対機人隊基地の中で唯一の
『誰一人戦死者を出したことが無い対機人隊基地』
なのである。
それゆえに、日本全国から来る志願者だけでなく、遠い海の向こうの国からやってくる志願者も多い。
大量に集まっている志願者たちをよく見てみると、肌が黒いショートヘアーの男性、青い目を持つ肌の白い女性、オッドアイのメイド服を着た少女、と一部おかしな服装をした者も混じっているが、確かに海外からやってきたと思われる者達が数人だが混じっている。
だが、そんな中でも大八は一際異彩を放っていた。2mをゆうに超える巨体、強面で大きな顔、この二つの要素だけで異彩を放つというのに、彼は正装で身を固めている。
志願者達をよく見てみると、サングラスをかけた、ダボダボのパーカーとズボンを身にまとうラッパー風の男、中世の西洋風の鎧兜一式で身を固めている銀髪の女性、フンドシだけでほぼ全裸の男、まともな服装をしている者達もいるが、千人を超える者達の中でスーツなどの正装で身を固めているのは彼、大島 大八 だけだったのである。
「正装、アンタだけね」
「じ、自分は、この入隊試験を一つの大事な儀式だと思っていましたので・・・」
「だったら、正装で来ない方が間違い、とでも?」
「自分も、そのあたりはよく分かっていないです」
そんな異彩の塊が入ってきたのだ。彼が大広間にいる者達から注目を浴びないはずがなかった。一瞬にして彼の周りに人が集まってくる。もちろん、彼と一緒にいた小梅の周りにも人が集まってくる。
「でけえ・・・」
「人間ってここまで大きくなれるんだな・・・」
「ガッチリした身体してるけど、なんか武術とか学んでたんですか?」
「肩車させてよ!」
「あ、あの・・・自分は・・・」
自分に対していろんな声が四方八方から飛び交ってくる、こんな経験は大八にとって初めての事だった。今までは巨体ゆえに避けられ、恐れられて、誰も寄りつこうとしなかったからだ。飛び交ってくる質問などに少し困惑はしたが、嬉しくも感じていた。
「静かにせい!!お遊びの時間はこれまでだ!!」
突如、大広間に響く、低く、重い、大きな声。声がする方向の先にいたのは、長く黒いあごひげを生やした、『第8支部対機人隊』のみに与えられる特殊スーツを着た老齢の男であった。
「貴様らはこの基地に遊びに来たわけではなかろう。貴様らはこの国を、この世界を守る『対機人隊』に入隊するためにここに来たのだろう?」
大八の周りで騒いでいた者達は言葉を発するのをやめ、彼から遠ざかり、老齢の男の前に集まった。大八と小梅も、他の者達とともに男の前にやってきた。
「うむ、それでよい。今から、貴様らが全人類の全てを守り、背負う覚悟と資格があるかを確かめるための試験である。生半可な覚悟と気合いでは受けても意味が無い。自分は入隊出来る自信が無い、という者はここから速やかに立ち去る事をおすすめしよう」
老齢の男は、集まってきた者達をじっと見る。志願者達もまた、老齢の男にのみ目を向ける。
「・・・皆、いい目をしておる。貴様らなら、待ち受けている数々の試験を乗り越えることもできよう」
老齢の男は話を続ける。
「私の名前は『関 羽近』。『第8支部対機人隊第8小隊』の隊長を務めている、『第8支部対機人隊』の初代からの所属メンバーだ。今回、私が君たちの入隊試験の試験監督を担当する事になった」
羽近と名乗った男は、どこからか大きな鍵を取り出す。1mはあると思われる、大きな鍵だ。その鍵を持ちながら、大きな鍵穴のある大きな扉の前へと向かう。
「この先にある『ヴァーチャルトレーニングルーム』が君たちの試験会場だ。全ての試験をここで受けてもらう」
羽近は大きな鍵を大きな鍵穴に差し込み、鍵を開け、重い大きな扉をゆっくりと開けた。
「ここが君たちの試験会場、『ヴァーチャルトレーニングルーム』だ」
扉の先には、広々とした、真っ白な壁と真っ白な床で囲まれた真っ白な空間が広がっていた。壁際には、人一人なら余裕で収まる大きさの、中身が見えない紅白のカプセルがびっしりと並んでいる。どれほどの数のカプセルがあるかは見た限りでは分からないが、大広間にいる千人超の志願者達なら余裕で収まりそうな広さだ。
「まったく、殺風景な部屋ね」
「仕方ないでしょう。ここはあくまでも『ヴァーチャル』トレーニングルーム、言ってしまえばここはだだっ広いカプセル置き場なんですよ」
「そうだとしても、これだけ何にもないと不気味ねえ」
大八と小梅は誰にも聞こえないように話しながら、紅白のカプセルがずらりと並んでいるだけの部屋を見回す。
「君たちがこれから受ける試験全ては、この『ヴァーチャルカプセル』の中で受けてもらう」
羽近は近くにあった紅白のカプセルを指さす。すると、その近くにあったカプセルが音を立てずに開いた。大八のような巨体を持つ者でも入りそうな広さだ。大八を含む志願者達全員は、それぞれの目の前にあるカプセルの中へと入っていった。
カプセルの中は思っていたよりさらに広く、あの規格外の巨体の大八でさえスペースに余裕があるほどだ。大八の半分も満たない身長の小梅であればなおさらである。さらに、カプセルの中は真っ暗だった。カプセルの外から中が見えないように、カプセルの中から外が見えないのだ。
全身をカプセルの中に入れた瞬間、開いていたカプセルがまた音もなく閉まる。カプセルの中は静寂に包まれた。カプセルの外からの音が一切聞こえてこないのだ。
「よし、全員カプセルの中に入ったな」
そんな静寂の中に突如入ってきた羽近の低い声に大八は驚いた。カプセルの外から声がしてきたのではなく、カプセルの中から声がしてきたからだ。大八の大きな耳の近くにスピーカーが付いているのだが、真っ暗なのでそれがある事に気づけずにいたのも、大八が驚いた理由である。
「今から君たちにやってもらうのは第一試験だ。カプセルの中にあるメガネをかけてくれ」
真っ暗闇の中、大八は手探りでメガネを探す。下の方を探ってみると、手にガラスが当たったような感触がした。手で形を確認し、それが言っていたメガネである事が分かると、大八はそれを手に取り、かけた。
メガネをかけ瞬間、真っ暗だった視界に突如、青々とした草木が生えた森が現れた。上を見上げてみると、青い空が広がっている。白い雲がゆっくり、ゆっくりと風に流されている。鳥のさえずりも聞こえてくる。草の匂いもする。足を動かしてみると土を踏む感触もする。近くにある木に触れてみると、木のざらざらした感触もする。どれもこれもとてもバーチャルだとは思えない。
「おそらく君たちは今、森の中にいるはずだ。その先に進むと開けた場所があるはずだ。直進してみてくれ」
羽近に言われた通りに直進してみる。すると確かに草木の無い開けた場所に出てきた。そしてそこには、一人の女性が三機の武装した機人によって人質として捕らえられていた。
「そこには、三機の機人と、人質として捕らえられている一人の女性がいるはずだ」
羽近の言う通り、確かにそこには三機の武装した機人の内の一機が女性の頭に中型の銃を突きつけている。その後ろに、同じく武装した二機の機人が同じ形状の銃を手に持っている。
「これが第一試験だ。この状況を
『何とかして切り抜けろ。』」