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六十五話

「――――」


 鎖に繋がれ、面会室へと連れられた零斗は、鉄格子越しにジーナとロイと向き合っていた。

 しかし、こうして腰かけてから数分が経過しようとしているのに、互いに一言も発さず時間だけが過ぎている。



「……レイ君がやったってほんと?」


 そして、ようやくの沈黙を打ち破ったのはジーナの問いだった。

 「やった」というのがどの程度のことを指しているのかは分からないが、少なくともアランを手にかけたことを含んでいることは明白である。


 それに対し、零斗は迷わずに答える。


「あぁ」

「……どうしてか、聞いても良いかな?」


 感情に任せて泣き叫ぶわけでも、怒鳴り散らすわけでもなく。静かにジーナが続けて問うた。

 ロイはと言うと、自分が口を挟む時ではないと、今は腕を組んで沈黙を保っている。そんな二人を交互に見てから、零斗は口を噤んだ。


 アランを助けられなかった時、こうなることは重々承知していた。

 いや、より正確に言えば、アランを殺すつもりでベナドから離れた時に覚悟していたことだった。


 そして、最後まで心残りであったのもまた、二人との対話だった。


 故に、悩んだ末に導き出した結論は――――。


「二人の身に危険が及ぶかもしれない話だ。……それでも、聞くか?」


 ありのままに伝えるということだった。


 だが、仮にこの話をこの場にいる者以外の誰かに聞かれただけで、()に消されるリスクが飛躍的に上がる。

 一応、周囲は盗聴することが出来る魔法を含めて、カリスしか気配がないことを確認済だが、それでも知っているだけでも危険なことに変わりはない。

 身を案じるのならそれも良し、当然の反応だ。しかし、そうでないのなら、自分は二人に真実を伝える義務があると思った零斗の判断である。

 

「――――なおさら、話して」

「……あぁ、それを知っているレイも危ないんだろ? なら、同じパーティの俺達が知らずにいるわけにはいかないだろ」


 二人が口を揃えてそれを望んだ。


「……なら、まずは俺が何者なのか、というところから説明しないといけないな」


 そんな二人に、苦笑しながら、事の経緯、そして自分の正体を順番に話し始めたのだった。



 ――――そして、一通りの説明が済んだ時、またしばらくの沈黙が流れた。


「……信じろとは言わない。だが、真実を話したつもりだ。これを聞いてどう思うかは二人の勝手だ。少なくとも、一度は俺も本気でアランを殺そうとしたからな。俺がフェンリルとの戦闘に加勢しなかったのも、完全に俺の都合だ。恨まれてもしょうがな――――」


 ゴンッッ!! という衝撃と共に、零斗の言葉がさえぎられる。

 音の正体は、ロイが拳を格子に叩きつけたものだったと、零斗は顔を上げたことによって気が付く。

 そして、僅かに血をにじませ、いつになく鬼気迫る表情のロイは言った。

 

「恨む? 馬鹿かお前は。俺達がお前を恨むことなんて何一つないだろ」


 零斗があっけに取られているのを他所に、ロイは続ける。


「俺がお前の立場なら、同じことをした。アランのバカ野郎は殺してでもその捻くれた考えを叩きなおしただろうし、自分が追われる立場なら素性を隠した。……つまり、お前がやったことは何も間違っちゃいない。俺達に負い目を感じる必要はどこにもないんだよ」

「……」

「そんでアランは最期に、俺達のことを仲間だと思ってたって言ったんだろ? それだけ聞ければ十分だ」

 

 ロイの言葉に、ジーナも頷く。


「私も同じよ。でもね、()()()。私は三つ、君にすごく怒ってる」

「……ほう? それは怖いな。参考までに聞いても良いか?」

「一つ目。なーにが“アランをやったのは自分”よ。結局のところ、あいつを殺したのはサイケじゃない。レイ君はアランを説得してくれたし、助けようとしてくれた。最後は仇まで取ってくれたじゃないの。……二度とそんな風に自分を悪者のように言わないで」

「……覚えておく」


 ジーナの最後の乞うような言葉に、零斗がそう答えた。


「二つ目。……君は何でも一人で背負いすぎなのよ。『魔力中毒』の時も、ロックリザードの時も、フェンリルのことも、そして、君の立場のことも」

「……」


 そう指摘されるのは何度目だろうかと、零斗が苦笑を浮かべる。

 

 今まで自分が取ってきた行動は、果たして正解だったのだろうかと思わないときはない。もっとうまく動いていれば、もっとより思慮深く行動していればと。

 むしろ、正しかったと胸を張れる選択の方が少ないだろう。


 それを見透かしたかのようなジーナに、返す言葉もなかった。


「君はまだまだ若いのよ? 冒険者の中でも割と若い方な私達よりもね。そんなレイ君が迷うのも、間違えるのも当然のこと。だから、もっと人を頼りなさい」

「……っ」

「今すぐにじゃなくても良い。私達じゃなくても良い。いつか、背中を安心して委ねられる、そんな人を見つけて、頼りなさい。それが君に今一番必要なことだと思うわ」


 ジーナの言葉に、零斗は衝撃を受けたかのように、僅かに目を見開く。

 しかし、それに気づかないままジーナは「最後」と言って、続けた。


「三つ目。……どうして、レイ君が捕まらなくちゃいけないの?」


 やや上ずり、震える声でジーナが言う。


「折角、ここにきてレイ君の気持ちを知れて、本当の意味で私達は分かり合えたのに……こうなったら、もう何もできないじゃないッッ!」


 ここにきて、初めてジーナが声を荒げた。


 おそらく街で広まる噂で、彼を待つ処遇がどんなものか。彼らは大方予想がついているのだろう。

 このまま零斗を待っているのは、誰の目にも明らかな破滅である。


 なぜ一時とはいえ、盃を交え、苦楽を共にした自分達を置いてそのような判断を独断で下したのか。こうして格子を隔てた関係になった以上、ロイとジーナが零斗にできることはこうして対話することのみである。


 これまで二人の仲間を失い、さらにまたもう一人までもが、権力という名の不条理に奪われようとしている。そんな状況を前に、感情を露わにした彼女を誰が責められようか。


 そんな悲痛な叫びを受け、零斗は小さくため息を吐いてから答える。


「……はぁ。落ち着け、まだ話は済んでいない。つか、ここからが()()だ」


 これ以上何があるというのかと、零斗の言葉に二人が首を傾げる。

 ――――そして、次の言葉でロイとジーナは己の耳を疑うこととなった



 

 あれからさらに三日経過し、再びカリスは零斗の元へと足を運んでいた。


「やぁ、元気かい?」

「おかげさまでな」


 まるで友人の家でも訪ねたかのように声をかけるカリスに、同じように零斗も応じる。そのやり取りにカリスが微笑を溢しながら、持参した椅子を牢の前において腰かける。

 さらにいくつかの書類を片手に持ってきていることから、仕事が片付ききっていない状態でここへ来たようである。


 そして、モノクルをかけた所でカリスは口を開いた。


「――――早ければ明日には使者が到着するそうだ」

「ほー、そりゃまた随分と早いお着きだな」


 王都からベナドまで、普通の馬車ならば三週間はかかる。それを一週間にも満たない日数で到着するというのだから、一体どれだけ飛ばしているのやらと。


「豪商やら貴族様御用達の『魔導車』か、城の精鋭魔導士を引き連れた飛行魔法か。何にせよ必死なこって」

「君の罪状と()()()()を考えれば、妥当だろうね」


 片や薄ら笑みを、片や苦笑を浮かべながら言葉を交わす。


「ところでまだ仕事が残ってんのに何でここ来たんだ?」

「ひどいなぁ。牢で寂しい思いをしてるであろう君の話し相手になってあげようと、わざわざこうして会いに来たって言うのに」


 わざとらしいすすり泣く演技までするカリスに、零斗が目を細め、冷めた眼差しで見つめていると、コホンと咳払いし、続けた。


「……まぁ、この書類はあまり重要度が高くないものばかりだから、息抜きも兼ねて話しながら片づけちゃおうと思ってね」

「最初からそう言え」

「はは、そう言わないでよ。あまり仕事詰めなのも好きじゃないし、この辺で僕と気兼ねなく話せるって言ったら君かアンナくらいのものなんだから」

「ならアンナのとこに行けば良いだろ?」


 悪戯っぽく笑いながら、零斗がカリスに言う。


()()()()()()()()のは君だろ? おかげでこっちはご飯を奢る約束を取り付けられちゃったっていうのに」

「むしろよくそれだけで済んだな」

「まぁ僕と彼女の仲だしね。あぁ、そうだ。一応君にも話しておこう」


 思い出したかのように書類から顔を上げ、カリスが続ける。


「アランと行動していた男が自害した」

「おいおい、重要参考人だろ? そんな簡単に死なせて良いのか」

「保護はしていたさ」


 零斗の言葉に、本当に不本意そうにカリスが答える。


「だけど、予想外だったのが彼があらかじめ自害用の魔法を自身に仕込んでいたということ。解こうにも式が複雑すぎて、解除するころにはとっくに発動するような代物だった。……これは独り言だけど、あんな複雑な術式を彼一人で構築できるとは思えない。まるで最初から解除させる気がない誰かが仕込んだようだった」

「……だろうな」


 おそらくはこの騒動を指示していた城の人間が仕込んだのだろうと、零斗が頷く。


 アランと共にこの街に混乱をもたらした者だ。

 事前に防げたとはいえ、彼が本来もたらした被害を思えば当然の報いである。


 しかし、アランがそうであったように、彼にも彼なりの苦悩があったのかもしれない。それを思う零斗は、複雑な心境だった。

 

「次、言うのが遅れたが、以前に君と約束していた物の用意が出来た」

「今かよ。まぁ別に問題はねえが、こんな状況で、俺はいつそれを受け取れば良いんだ?」

「それなら問題ないよ」


 はっきりとそう断言するカリスに、何か考えがあるのだと思い、零斗はその言葉を信じることにした。


「なら良い。そういや、()()に何か動きはあったか?」

「あぁ、それなら今のところ全くないよ」

「それは結構。現状、最も気にしなきゃいけないのは()()だからな」


 零斗の言うソレとは、大方想像がつくだろうが、ロマノフによる今回の関係者の抹殺である。


「あんだけ念を入れてたんだ。どうせサイケ以外にもあの日の冒険者の中にロマノフの手先がいるだろうよ」

「……だから、君がこうして捕まっていたとしても、事情を知る者が消される可能性は拭い切れない」


 零斗の言葉に、カリスが続く。

 そして、その先を零斗は紡いだ。


「――――それを防ぐためのお前の()()だ。俺がここにいる限りはあいつらは手を出さない」

「……全く、どんだけ難しかったことか」


 報告と聞いて、深くため息を吐くカリス。それもそのはず、なぜなら――――。


「王都のギルドを通じて、ロマノフたちに俺からの()()を『報告』する。まぁお前くらいじゃないとできないだろうな」


 そう、カリスが王都へと報告した内容は、全て零斗が考えた物である。

 それが何かと言うと()()()()()と引き換えに、今回の関係者全員を見逃せというものだ。

 

「まぁ、こういう時は肩書に感謝だね。君の言う通り、僕以外だったら不可能だったと思うよ」


 こともなさげに書類をめくるカリスは答える。


「……ところで、さっきから書類に目を通してばっかだが、サインとかしなくて良いのか?」

「あー、平気平気。あくまで不備がないか確認しているだけだから。ま、それも殆どないだろうけどね。はい、おしまい」


 そう言って最後の一枚をめくり終えたカリスは、立ち上がって椅子を持つ。


「では、明日また会おう、レイ君」

「……あぁ」

突然ですが、サブタイトルつけるのをやめました。

正直つける意味もないかなっていうのを薄々感じてきていましたので……。あと考えるのもめんどくさ((ゲフンゲフン。

あとかなりギリギリになりましたが、何とか今月中に終わらせる宣言は守れそうです。

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