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三十七話『無双』

久々に零斗が好き放題する話です。


「――――と」

『キシャァァッ』


 夜の森に、獣の如き断末魔が木霊する。

 それを一瞥することもなく、さらに森の奥へと足を進めていく。耳を澄ませば聞こえてくる、ひしめき合う何者かの足音、意識しなくても感じ取れる幾多もの魔力の気配。

 そして、絶えず向けられる自分への殺気に、零斗はイドリスを握りながらうんざりしたような目で歩いていた。


「……ったく、どんだけいんだよ」


 明らかにこの間足を運んだ時より数が増えている。

 事態が悪化している証拠だ。

 辺りを漂う魔素もさらに濃くなり、鬱蒼と生い茂る木々がどこか不気味な物に映る。

 流石に可視化できる程の濃度はないものの、街と比べればこれが異常な量であることは一目瞭然であった。


 そして、今も自身の周囲を取り囲む魔物達の気配に眉を顰めて不快感をあらわにする。


「……はぁ」

『なんだ零斗。ビビってんのか?』

「――――雑魚しかいねえから暇なんだよ」


 魔力量からして危険度『Ⅲ』程度と推測される魔物が彼の周りに八頭。

 それらを前にして不遜に彼は()()と断言する。


『おー、言うねえ。流石は元勇者様』

「茶化すな。……それより、イドリス。俺が前に言っていたこと、できそうか?」

『――――は、誰に向かって言ってやがる。この世界、天上天下俺以上の()()なんて、存在すら許さねえ。そして、何であろうと主が言うなら応えるのが、俺の役目だ』

「口上は良いからさっさとやれ」


 零斗がそう言うと、イドリスはぶー垂れたような声を漏らしながらも、淡い光を刀身に纏わせていく。


 周囲からその様子を怪訝に思いながら魔物達が機を見計らっていると――――一瞬、零斗の姿がぶれた。


 ……刹那、彼らは眉間に途方もない衝撃を感じる。

 何事かと思う間もなく、魔物達は彼の手に“弓”が握られている光景を最後に、脳天を“矢”で貫かれ、なす術もなく絶命していった。



「――――言ったのは俺だが、ここまでくると、お前、何でもありだな」


 ()()()()()()()イドリスに対し、矢を放った後の姿勢から、呆れたような口調で零斗が言った。

 

『はははッ! どうだ! 恐れ入ったか! これが世界最強の剣であり、親父の最高傑作の俺の力だ!』


 相変わらず弓の姿だろうがやかましいままのイドリスを放置して、零斗は“矢筒”に蓋をする。


『しかし、同じ()()なら『弓』にも変形できるかもしれないなんてな。なかなか面白いこと考えるじゃねえかお前』

「魔法が使えないからな。何かしら遠距離攻撃できるものが必要だと思って、ダメ元で聞いてみただけだ」


 発想は、イドリスの持つ『変形』機能。

 最初は外見を変えるだけの物だと思っていたが、まさかこれだけ物理法則を無視したような能力が持たされていて、ただ『剣』の装飾を変えるだけの機能を()()()()()()()()が持たせるかという疑問から至った。

 


 それに、最初に出会った時、イドリスは何よりも先に自分を『武器』だと言っていたことにも疑問だった。

 剣として造られていたなら、わざわざ『武器』と言わずに『剣』と名乗るだろうと。

 

 そして、その疑問を解消すべく様々な検証した結果、ある程度の制約が付くものの、それさえ満たしてしまえばかなり幅広くイドリスは変形できることが分かった。


 今回の弓への変形は、ジーナの持っていたものを零斗のイメージと記憶を混合させ、イドリスに伝えた結果である。

 本体はあまり目立たぬように、光沢を帯びない黒い金属質に。弦はすぐに次を引き絞れるようにと、常人には引くことすらできないであろう硬さにしてある。

 そこから放たれる矢の威力は、ご覧のとおりだ。


「……矢も用意出来たら言うことはなかったんだがな」


 欠点はそこだ。

 あくまでもイドリスが変形できるのは、“それ自身で完結しているもの”であり、今回の例で言えば弓になれても、矢は自分で用意しなければならない。


 また、変形する際は、主に零斗のイメージに依存するため、構造を把握できていない武器――――例えば“銃”などと言った現代兵器は、外見だけで、発射機構が備わらない上、前述した通り、『弾丸』も別に用意する必要があるため使えない。


 それ以外にも、変形できる大きさはイドリスの質量を上回ることのない範囲。

 本来『武器』としての用途ではない物には変形できないなど、と意外に制約は多い。

 どういう仕組みなのか本人に聞いてみた所、零斗のイメージを読み取る際に、同時に零斗自身が抱く、“想像した対象への認識”も解析し、そこで『武器』か否か判断しているとのことだった。


 故に、極端な話だが『相手を殴る』用途として『あらゆる知識が載った百科事典』などを想像したところで、本来の用途ではないと判断されるために変形はできないということだ。


「――――まぁ十分か」


 自分が討ち取った魔物の残骸の間を通りながら零斗が呟く。

 原型を留めたままの個体もいれば、一部頭部が吹き飛んでいる個体もいる。

 たった一つの武器で遠近どちらも対応できるうえに威力も申し分なし。()()()()を望むのは欲張りという物だろう。


 弓は()()()使()()ため、上手く威力を調節できるかという意味合いもあったのだが、結果は五分五分と言ったところだった。

 

『おい。もっと褒めろよ』

「お前は下手に褒めると調子に乗るだろうが」

『乗らねえよッ!? てか、いい加減俺の扱いを改善しろよッ! 武器だけど泣くぞ!? 良いのか?!』


 あんまりな対応の零斗に一際うるさく叫ぶイドリス。

 ――――だが気づいているだろうか。零斗のその言葉こそが、既に称賛を示している何よりの証拠だということに。


「あー、スゴイスゴイ」

『ここまで感情が籠ってない称賛ってのも中々珍しいなおい』

 

 要望には応えただろと、棒読み丸出しの声を戻しながら零斗は続ける。


 夥しい数の魔物がうろついた森――――しかも最も彼らが活性化している真夜中を歩いているというのに、微塵も緊張感のない会話をすることに、残念ながら突っ込む者がいない。

 

『てか、わざわざこんな時間に森に来て何するんだよ』

「何って、そりゃ――――腕ならし」


 ここ最近、零斗はまともな魔物と対峙していなかった。

 いや、世間一般に見れば、脅威としては十分な強さの魔物達と戦っているのだが、如何せん、『迷宮』の魔物に慣れてしまっている零斗には些か実力差がありすぎて、腕がなまってしまうのだ。

 

 具体的には、普段零斗がロイ達と共に相手取る魔物は、零斗が先ほど一瞬で全滅させた物とほぼ同じくらいである。

 その上、彼らには悪いのだが、これまでずっと一人で戦ってきていたこともあり、正直パーティを組むよりも一人で戦う方が動きやすいのだ。


 故に、久しぶりに時間的にも人目に付かないだろうと踏み、こうして森の深部へと足を運び、鍛錬をしに来たというわけである。

 普段なら安物の短剣を使う零斗も、今日はイドリスを存分に使うつもりである。


「……ん、十二時方向、距離五十、数六。三時方向、距離二十、数二」


 どうやら零斗が処理した匂いを嗅ぎつけたのか、次々と魔物が近くに寄ってくる。

 流石に視界が悪いために視認はできないが、彼ら特有の匂いと魔力量。それに足音などで居場所は手に取るようにわかる。

 

 しかし、こうも魔物が多いと、普段生息している野生動物たちはおそらく食い尽くされているだろう。


「さて、もう少し弓の感覚にならすか」


 そう言って矢筒から矢を取り出し、イドリスに構えて引き絞る。

 視界が悪いというのなら、()()()()()()、他に集中力を割くために目を閉じる。

 

 先ほどの攻撃でおおよその要領は掴んでいるため、より早く、想像する理想の構えに近づける。

 身のこなし自体は、『極撃』を会得する過程で十分すぎるほどに心得ているためさほど苦労しなかった。

 自分の上半身程の長さがあるイドリスを一切の震えなく、凪いだ水のごとく静かに構える。


 こちらへ向かう魔物を正確に捕捉し、迷いなく狙いを定めて矢を放つ。


 放たれた矢は、風を切り、木々の間、枝一本一本の隙間すらもすり抜けた後、微塵のずれもなく魔物の眉間へと命中。

 そして、着弾前に既に零斗は迅速に二発目の矢を放つ。

 矢が闇に消えてからほどなくして魔物の断末魔が響く。


 あまりの速度で連発するその動きは、何本もの矢を同時に打ち放っているようにも映るだろう。

 だが、それを目撃する者は、それを見たが最後、悉く命を散らしていった。



『ケケケッッ!!』


 ――――正面の魔物ばかりを相手にして、背後から迫ってきていた魔物に気づかずにいる零斗にサルのような姿をした魔物が彼の頭蓋をかみ砕こうと飛び掛かる。

 その両の手が愚かな男の顔を掴もうとした――――が、何故かそこに先ほどまで立っていた零斗の姿はなく、サルの腕は空を切った。


「――――上だよ阿保」

『ゲギャッ!?』


 言葉の通り、いつの間にか上空に跳んでいた零斗が矢を放ち、呆気に取られた魔物の顔を、体諸共貫く。

 辺りには魔物特有の紫を帯びたような血がぶちまけられて、彼は悲鳴を上げる間もなく絶命する。


 そして、零斗は即座に空中で一回転し、体勢を整えて着地する。


「……うわ、血が付いた」


 華麗に着地を決めたのもつかの間。

 気づいた時にはもう手遅れで、ぬちゃという気味の悪い音と共に、手にぬるりとした感触が伝わってきた。

 最悪という表情を隠さずに、零斗は思わずため息を溢す。


「……帰るか」


 ここへ来たのは鍛錬という意味もあるが、もう一つ、煮詰まっていた思考を解すための気分転換という理由もあった。

 ――――が、こうなってしまっては気分転換などという話ではないと思い、撤退の意志を露わにしたその時だった。


「……いや、なんだこの気配」


 チクチクと全身を覆うような圧迫感。

 これまでの魔物からは全く感じなかった気配だが、それよりも――――。


「――――たった今()()()()?」


 そう表現するほかないような、あまりに唐突な魔力の出現。

 メシメシと木々がなぎ倒されるような音と共に、何者かの悲鳴にも似た声が聞こえる。

 それも、魔物のものではなく、完全に“人”の絶叫だった。


「――――アァァアァァぁッッッ!!!」

(こんな時間で……それも、こんな場所に人だと?)


 そう思うと同時、零斗は口端を歪めて笑う。


「確実に()()あるよな」


 イドリスを宙に納めると同時、零斗は地面を蹴って声がする方角へと駆け出した。

アーチャーってロマンですよね((


(追記)書いてあったあとがきは削除しました。元々書こうかどうか悩みに悩んでいた内容だったので。

 何のこと? と思った方は特に気にしなくて大丈夫です。ブクマしていただいている方への感謝以外は基本しょうもない内容ですので。



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