表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/69

二十六話『憂鬱』

「はぁっ、せいっ!」


 背丈ほどある大剣を軽々と振り回し、ロイが『ローウルフ』に大きなダメージを負わせる。だが、それで命を奪えるほど、魔物は軟ではない。

 すぐに体制を立て直し、ローウルフが不利と判断し、撤退の姿勢を見せ、飛びのこうとする。


「させないわよ」


 即座にそれを察知したジーナの声が頭上からしたかと思うと、退路を塞ぐように何本かの矢がローウルフの後ろに突き刺さる。

 先を読まれ、動揺したローウルフがやけになりロイに襲い掛かった……が、彼に牙は届かず、代わりに首元に短剣が深々と刺さっていた。


「――――良い反応だレイ」


 短剣を引き抜き、血糊を振り払う零斗にロイが声をかける。

 

「本当、大したものね。新人でここまで動ける人は初めて見た」


 器用に、樹上で構えていたジーナが降りてきて同様に声をかける。


 今、零斗を新たに加えたロイ率いるパーティは、零斗の受けようとしていた依頼をこなすべく森に足を運んでいた。

 本来ならアランと呼ばれた男もいるはずなのだが、今日は二日酔いということで宿で待機している。


 つまりこのパーティは、普段いるメンバーの代わりに今日入ったばかりの者を加え戦闘していたわけだが、傍から見て、とてもそうは思えない連携っぷりを発揮していた。

 ――――尤も、八割ほど、零斗が二人に合わせているというところが大きいのだが。


「いやぁ、こりゃとんだ掘り出し物を引いた気分だな。レイ、君、本当に新人だよな? 特に最後の一撃は、俺が敢えて止まっているのを見越して突っ込んできただろ?」

「……まぁ、何となくだけどな」


 無論、零斗が合わせていると言えども、この二人の実力が低いというわけではない。

 今の言葉が示す通り、ロイはパーティメンバーの動きをしっかり見ている。伊達にリーダーをやっているわけではないということか。

 ジーナはというと、こちらも先ほどのギルドでの会話からわかるように、物事を冷静にとらえ、客観視することが得意なようで、常に頭上から零斗とロイに危険が迫らないように気を配っていた。


 一方、零斗は、複数人での戦闘経験など皆無であるため、終始“何となく”で動いていた。

 最後の攻撃も、ロイの攻撃が間に合うラインを見計らって、間に合わないと判断した上で動いただけであり、特にロイ自身に気を配っていたわけではない。

 

 とはいえ、結果的にロイ達からしたら十分な物だったようで、笑みを浮かべながら声をかけてくる。


「これは、俺達が抜かれるのも早いかもな」

「悔しいけど、ロイの言うとおりね。冒険者になる前、どこかで修業してた?」

「悪いが、それは言えない」


 ジーナの言葉に、苦笑を浮かべ零斗が返す。

 まさか『迷宮』なんて言えるはずもない。言ったところで信じてもらえるかはまた別の話だが。


「まぁ、実際に動いてみて分かったと思うが、これが複数人での戦闘だ。一人で戦うよりはかなり楽に動けただろ?」

「……そうだな」


 残念ながら、零斗の実力ならばローウルフを一撃で仕留められるため、むしろ複数人で動くことは一種の縛りに近かったのだが、一応肯定で返す。

 

「動きも悪くないし、連携もしっかりとれる。やはり俺の目に間違いはなかっただろ? ジーナ」

「どうだか。偶々レイ君が動けたってだけじゃないの?」


 二人してまた言い合いを始める。

 ただ、二人とも不快感を抱いている様子はなく、ロイの方はそれを楽しんでいるとさえ取れる表情だった。

 そのことからいつもこんな感じであることが伺える。

 

「とにかくだ。レイが動けると分かった以上、アランが復活したら本格的に依頼を受けるぞ」

「え、まさか新人を『Ⅾ』ランクの依頼に連れていく気!?」

「当然だ。それにこの調子なら、レイもある程度はついてこれるはずだ。無理だったら途中で切り上げれば良いだけだしな」


 ロイの言葉に、いよいよ頭痛を抑えるように――いや、これは本当に頭を痛めているのを堪えるように、額に手を当ててジーナはもはや呆れた表情を浮かべていた。


「はぁ……。貴重な戦力を何だと思っているのよ」

「よし、そうと決まればさっさとこの依頼を終わらすか」


 そう言って、血の匂いを嗅ぎつけて新たに現れたローウルフに大剣を振り下ろす。


「ったく、レイ君、あのバカの言うことは真に受けなくて良いからね。できる限りのことで良いから」

「あ、あぁ。大丈夫だ」


 なぜジーナが愛想尽かしてパーティを抜けないのか不思議な程に、ここに来るまででロイは彼女のことを振り回している。

 それでもなお見限らないのは、それ以上の信頼がなせる業か。それともほかに何か――――と、そこまでいって、零斗は戦闘に意識を集中させた。




 その後、無事にローウルフの毛皮を回収できた一行は、既に沈みかかった日に焦り、撤退しつつあった。


「まさか一日で全部集めきれるとはな」

「ええ、新人って聞いたからてっきり二日はかかると思ってたわ」


 ロイとジーナは会話しながらも足早に森を抜けていく。

 

「……今回の依頼って、普通どんくらいかかるもんなんだ?」

「そうね、うちのパーティの本調子でも今日と同じくらい。全員『F』ランク冒険者だったら、三日くらいかしら」


 ということは、少なくとも零斗はアランと同等の実力を持っていると、二人にはそう思われているわけだ。

 かなり控えめに動いたとはいえ、流石に新人でそれはやりすぎたかと小さく冷や汗を掻く。


「いやぁ、本当、これが大型新人ってやつか?」

「流石に最初は私たちの依頼に連れていくのもどうかと思ったけど、確かにこの調子なら大丈夫そうね」


 しかし零斗の心配をよそに、二人はそれほど気にしているようでもなかった。パーティの不足が補えたことがよほどうれしかったのだろうか。

 まぁ、確かに零斗がやったことと言えば、ローウルフからの攻撃をよけながら、ロイの指示に従って動き、アイコンタクトに合わせて攻撃しただけなので、多少要領が良ければ誰にでもできるものではあった。


 故に、それほど怪訝に思われることもないか、と零斗が小さくため息を吐く。


「にしても、レイの剣術……誰に教わったんだ?」

「剣術?」


 ロイの言葉を零斗が聞き返す。


「いや、レイの振るう剣さばきが、素人が急に剣を握ったものに見えなくてな。冒険者になる前は何をしてたんだ?」


 そんな質問を浴びせられ、零斗は一瞬言葉に詰まるも、どうにか言い訳になるものを絞り出す。


「あー、たまたま村に剣術を教えてくれる人がいてな。その人に小さい頃から教わってた」


 真っ赤な嘘である。

 剣を始めて握ったのは二年ほど前であり、小さいころは戦いとは無縁な場所にいたため剣術の“け”の字も知らなかった。

 

 だが、そんなこととは知らないロイとジーナが感心した声を漏らした。


「なるほどな。ということは随分と長い間鍛錬してきたんじゃないか? レイの剣筋は、何というか、無駄を徹底的に排しているという印象があった」

「それは思ったわ。あそこまでブレも迷いもない剣筋はあまり見れないからね」


 ロイの感想はあながち間違っていない。

 剣の、というよりは動きの無駄な要素を排除していくことは、『極撃』を行う上で最も基本的なものであるからだ。今日の戦闘程度では『極撃』本来の力を使うまでもなかったが、身に染みついて離れない基礎の動きは、意識せずとも自然に行えるようになっているので、そのことをロイは言っているんだろう。

 

 ちなみに、ジーナの指摘に敢えて答えるならば、迷い、ブレが、即座に致命傷に繋がる場所で戦いを重ねていくうちに勝手に矯正されたというだけだ。

 尤も、その域に着くまでに何度も“致命傷”を負っているわけだが。


「何にせよ、しばらくの間はかなり戦力増強ができるということだな」

「これで仮加入っていうのが惜しいわね。どう? レイ君、本格的にうちに入る気ない?」

「……考えさせてくれ」


 かなり期待の籠った眼差しで見られたが、勘弁してほしいと零斗は苦笑する。

 そもそもパーティを組むつもりがなかったのだ。今回の件は随分と強い押しに負け、成り行きで入っただけであり、とどまり続けるつもりは毛頭ない。


 零斗の今の目的は『魔王に会うこと』と、『迷宮探索』である。

 この二つを最優先して動く以上は、下手にパーティを組んでいる暇などないのだ。


 そんな零斗の社交辞令じみた返答に、ジーナは続ける。


「レイ君ぐらいの腕前ならいつでも歓迎よ」

「……思ったんだが、俺を勧誘するくらいなら、二人と同ランク帯のソロの冒険者を誘ったほうが手っ取り早いんじゃないか?」


 零斗の尤もな疑問にジーナはかぶりを振る。

 

「私たちと同じ『D』ランク以上から冒険者を勧誘するのはかなり厳しいのよ」


 彼女が言うにはこうだった。


 冒険者というのは、大体『D』ランクまでに活動方針を決めるものらしい。つまり、ソロと決めたらずっとソロ、パーティを組むならパーティといった具合だ。

 その上、同ランク以上ともなると裏切られるリスクも同様に上がるという。

 その点、ロイ曰く新人だった零斗は裏切られるリスクも比較的低く、ソロだったため声をかけやすかったらしい。


 ――――尤も、ジーナに本当にそこまで考えていたのかと怪しまれていたが。


「ていう感じで新人君誘ったらあらびっくり、即戦力。これは勧誘しないほうがどうかしてるわ」

「なるほどな」


 自分をすんなりと受け入れたのにはそういった考えがあるのかと、冒険者としてはまだまだ新米の自分にとっては勉強になると、零斗は感心していた。

 

「これはアランにも早く言ってやらなきゃな」

「そうね。でも、その前に早く二日酔いから立ち直ってもらわないと」

「珍しいよな。普段二日酔いするまでは酔わないのに」

「そうなのか?」


 二人の会話に零斗が疑問を抱いて口を開く。


「ああ、アランはどっちかっていうと酒が弱い方なんだが、昨日はだいぶ飲んでたからな」


 ロイが答える。

 よほど良いことでもあったのだろうか。それともその逆か。

 ……なんにせよ、二日酔いで依頼に来れないって、それは冒険者以前に、人としてどうなのだろうかと新たに疑問を覚えるところだが。

 



■■■


 依頼を終えて、無事報酬が支払われた零斗は宿に戻っていた。

 依頼の基本報酬と、魔物の討伐報酬、合計一万九千リブラ。

 三人で分けるにはやや半端な額だったため、最初は一人六千ずつにして、残った千リブラはロイとジーナの二人に渡そうとした零斗だったが、何やら「新人の頃こそ貰っとけ」という謎の気遣いによって、逆に零斗の取り分が一番大きくなってしまった。


 揉めるのを避けるためにした提案だったが、却って自分が得する結果になり、これが「情けは人のためならず」ということかと、身に染みて実感した。

 その後、サリアにあらかじめ三日分追加すると言ってあったので、その分の額を払い、再び懐が寂しくなってしまった。


 とはいえ、それに関しては依頼に集中するか、魔物討伐に精を出せば何とでもなるのでさほど気にしていなかった。

 

「さて、本格的に移動経路を考えなきゃな」


 ギルドで借りてきた世界地図を広げ、零斗が呟く。


「流石に海を渡って直接行くわけにもいかねえからな……。となると、必然的に陸路か」

『具体的には?』


 今まで眠っていたらしいイドリスが尋ねる。

 それに対し、目のないイドリスが見えているのか分からないが、世界地図の大陸を指でなぞり解説する。


「ここがタルデだな。人間領のかなり端の方だ。ここから陸続きになっているのを利用して、『獣人領』を経由して、『大森林』を通過。そんでこの『龍岳』を越えた先が――“魔人領”だ」


 ざっと計算して、零斗の足で三か月弱。ただし、これは街に滞在する日数などを全く考慮していない時間であり、おそらく実際にはもっとかかるだろう。

 参考程度に、()()()の移動能力で計算すると一年で着けばいい方だ。


 食料、睡眠等の問題をある程度はイドリスが内包する『回復』で解決してくれることと、零斗の身体能力が合わさったことでなせる業だ。

 

 そうなると、最初の関門は獣人領に入ることかと、零斗が思案を巡らす。


 獣人族とは、その名の表す通り、人の体に獣の特徴を持つ者達のことである。俗にいうケモミミという奴だ。

 しかし、その中でも獣の外見を色濃く残す者、ほとんどそれコスプレじゃね? となる者。種族によって大きく異なる。


 だが、共通していることは、総じて“縄張り意識が極めて高いこと”。

 侵入者の存在を一切許さず、許可なく領域に踏み込めば、即刻排除される。獣の身体能力も引き継いでおり、平均的な身体能力は人間よりもはるかに高い。

 まともに攻撃されれば、並み大抵の者だとただではすまないだろう。


「終始気配を殺して通過するか……。いや、気づかれるな」

『そんなすげえのか獣人族ってやつらは』

「五感だけなら多分俺と同等だぞ。そんな奴らがうじゃうじゃいるところをこっそり通ろうって? 無理に決まってんだろ」


 獣人領は人間領や魔人領ほどではないにしろ、かなり広い。隠れて突っ切るにはだいぶ無理のある距離だ。

 よって、通行許可をもらうのが最も安全なわけだが、それが手に入るかどうか。


 その懸念の原因は――獣人と人間の関係はあまりよろしくないことにある。

 というのも、人間側の一部の者達が獣人を奴隷にしているからだ。

 一応、獣人だけではなく人間の奴隷も存在していることで特別獣人を見下しているわけではないということに()()()()()、争いに発展するようなことはないが、それでも獣人から見た人間への印象はかなり悪い。


 そんな者達から通行の許可を、『信用』とは程遠い零斗が得られるかというと、正直かなり厳しい話である。


「……どうすりゃいいんだ」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ