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二十五話『勧誘』

 あの後、何事もなく短剣を購入した零斗は、一旦持ち切れない荷物を宿において、ギルドに向かっていた。

 新たに購入した短剣の鞘をベルトに固定し、いよいよ冒険者らしい外見になってきた。

 思えば、冒険者登録した直後は、魔法適性もなく、カバンもなく、武器すら持たなかった自分はさぞかし傍から見たら異端な存在に映っただろう。


 アンナの心配も、今にしてみれば至極真っ当なものであったと頷ける。

 ――――まぁ、武器は持っていないように見えるだけで、実際には世界有数の品(喋る機能付き)を所持している上に、素の身体能力だけでも地上の魔物相手なら十分相手にできるのだが。


 余談だが、『迷宮』から出た後に着ていたコートは宿に置きっぱなしにしてある。

 今までに過ごしてきた環境が大きく影響し、基本的に零斗は、実用性を最重要視する価値観が身に染みついている……、が、せっかくの異世界。少しくらいオシャレをしても罰は当たらんだろうと持ってきていたコート。

 ……しかし、その、実際に動いてみると、無駄な布が風に靡いて、身も蓋もないことを言うようだが――――非常に鬱陶しいのだ。


 よくある漫画やアニメのキャラクターはそういった格好をしている印象があった零斗だったが、実際に似たような恰好をしてみて強くこう思った。

 ――――“お前ら、邪魔じゃねえの? それ”と。


 とはいえ、あのコートにも魔法がかけられており『防寒』『耐熱』『防塵』『防水』、さらにその他諸々と、戦闘に直接関係ないが、あらゆる環境に適応できる性能が付いているので一応無駄な荷物ではない。

 だが、それを知っている身としては、なぜそこまでできるのに、あの余分な布の動きを抑制する魔法が付けられないのかと嘆いたものである。


 そんなしょうもないことを考えながら零斗が歩いていると、突然、視線のようなものを感じた。


 しかし、向けられた視線の方向を見るようなことはせず、させるがままにしておくと、すぐにその気配は消え去った。

 

「……気のせいか?」


 思ってもいないことを口にする。

 達人の領域に踏み込んでいる零斗の五感はそうそう欺けない。つまりは、確実に“見られていた”。

 それも、不意に目が向いたとか、そういった類のものではなく、明らかに観察するような目で。


 しかし、そんなことをされるような真似をした覚えはない。

 唯一の心当たりと言えば、危険度Ⅱの魔物四体を一人で討伐してきたことだが、それはアンナに口止めしてある。

 まさか彼女がそれを破ることをするはずもあるまい。……なら、いったい誰だ。


(……しばらくは様子見か)


 そう結論付け、深く考えはせずそのままギルドに向かった。




「……ん? 今日は休みか?」


 毎度世話になっている受付係の姿がないことに、そんな呟きが口から漏れ出た。

 いや、流石に毎日いるものだとは思っていないが、今日は確か平日のはずであり、普通の者であれば出勤しているはずだが、どこを見ても彼女の姿はない。

 どういうことかと、零斗は普段使わないカウンターに向かい、彼女の事情を尋ねることにした。


「そうですね。珍しいんですが、今日は休暇を取られているみたいで。彼女に何か用事でも?」

「いや、俺も似たようなもんだ」


 そして、受け答えしてくれた男性に礼を告げてその場を去る。

 やはり、たまたま休みだったらしい。顔見知りがいないということでやりづらさはあるが、それだけだ。人間なら誰でも、たまには羽を伸ばしたい日もあるだろうと、特に気にしなかった。


 ちなみにだが、『迷宮』で過酷な日常を送っていて吹っ切れたのか、零斗のコミュ障はかなり改善されている。とはいえ、めんどくさいからという理由で、基本的に人とのコミュニケーションは最低限にするつもりなのは変わらないままだが。




 掲示板に目を向けると、様々な大きさ、形をした羊皮紙が貼られていた。

 挿絵を伴った物もあれば、文字だけのもの。

 共通しているのは、右上の部分に赤いハンコで依頼の難易度を示すランクが押されているということだ。そのうちで零斗が目を付けたもの――――。


『ローウルフ十頭分の毛皮納品求む』


 ローウルフの危険度は『Ⅰ+』。

 パノルゴスと同じく群れを形成することもあるが、基本は単体で動いていることが多い上、一体だけならその辺の狼と大して変わらない。仮に群れていたとしても、統率力はパノルゴスに比べれば遥かに低い。

 駆け出しの冒険者でも十分に戦える魔物である

 

 十頭分程度なら半日もあれば集まる上に、報酬も一万二千リブラと悪くない。

 受けるならこれだろう。そう思い、零斗が依頼書を掲示板から剥がそうと手をかける。


 その時、突然零斗の肩に手が置かれた。


「……?」


 振り返ると、笑みを浮かべた、零斗よりも幾分背の高い男が立っていた。麻色の短髪に、優し気な印象を与える柔らかい瞳。

 そして、零斗が口を開くよりも早く、男は言った。


「初めまして、俺はロイ。突然だが、君、俺達と()()気はないか?」

「――――は?」


 零斗の思考が一瞬、止まった。

 今、目の前で笑いかけてきている男は今なんと言ったのかと、頭をフル回転させ理解しようと努める。

 確か――“組もう”とか宣っていたか。

 

「組む……?」

「ああ、そうだ。見た所、君は新人だろ? その依頼は新人一人で受けるような物じゃない。それを先輩として忠告しに来たついでに、勧誘しに来たというわけだ」


 なるほど、筋は一応通っていると、零斗は思う。

 だが、急にそう言われて二つ返事でそれに応じるのは、余程のアホぐらいだ。肝心の向こうの意図を引き出すべく、目を細めてロイに問い返す。


「――――二つ、聞くことがある。一つ、何でわざわざ、“新人”だと分かっている上で俺を誘う? 二つ、あんたの素性を俺は一切知らない以上、()()()()()()()()()()()()ということもあるわけだが、それについてはどう否定する?」


 そう。ロイは、零斗が新人だと見抜いたうえで、声をかけてきているのだ。

 ――新人など戦力になるかどうか疑わしいのにも関わらずだ。零斗の勘から言って、ロイの強さはランクで表すなら『D』と言ったところだろう。

 パーティを既に組んでいるということは、仲間も同程度の実力を持っていると考えるのが自然だ。


 そんな彼らに、二段階も下の『F』ランクである零斗が加わったところで向こうの得られるメリットは薄いだろう。

 あるとするなら、零斗が言及した通り、持ち物全てを奪ってしまうことぐらいだ。死と隣り合わせの冒険者ならば、口封じのために殺そうと、依頼中に()()()()()()といえば良い。


 尤も、その程度の言い訳を準備したところで、怪しまれれば事情聴取やらなんやらで捜査されるだろうが。


 そんな零斗の問いに、ロイは顎に手を当て、少し考える仕草を見せた後、答えた。


「そうだな、まず一つ。例え新人だろうと、ちゃんと指導すれば十分使い物になる。二つ、うちのパーティは長い間、欠員が出ていてね。それを補うために一人欲しい。三つ――これは単なる俺の勘なんだが、君……強いだろ?」

「……ほう? なんでそう思う」


 零斗がさりげなく警戒度を引き上げながら答える。

 ――――回答によっては、この街をそうそうに立ち去ることになることも考慮に入れて。

 そんな零斗の心情などつゆ知らず、ロイは平然と続ける。


「新人――――それも君の若さにしては、警戒心が高い……いや、高すぎると言ってもいいぐらいだ。警戒心の高さは冒険者をやる者ならばいくらあっても不足はない。それに、依頼を選んでいた時の君の佇まいも、熟練した冒険者のそれに近いものがあった。……尤も、他の者はそれに気づいていないようだけどね」


 なるほど、どうやら『パノルゴスを四頭、ソロで討伐した』という情報は流れていなかったようだ。

 しかし、この男、かなり良い観察眼を持っている。佇まいと一言にまとめているが、幾多もの所作の中で、零斗の実力を見抜いたのだろう。

 

 さて、どうしたものかと零斗は逡巡する。

 正直なところ、パーティを組むことを全く考えていなかった。というのも、複数人で行動すれば、どんなに注意を払おうが、どこかで必ず()()が出る。つまり、零斗の正体がバレるという危険もそれだけ増えるのだ。


 それに、現状において戦力の不足というのを一切感じたことがない。――というより、今後もそれが生じるかどうか疑問ではあるが。

 

 以上、極めてシンプルな二つの点だけを考慮するなら、ロイの提案は断ってしまうところなのだが、如何せん資金がまだ足りていないため、零斗はこの街にとどまる必要がある。

 ということは、必然的に彼らと顔を合わせる機会も今後あるわけで、ここで断って変にギクシャクするのも面倒なのだ。

 

 そんな悩んでいる零斗を見かねてか、ロイが言った。


「こういうのはどうだ? うちのパーティへは仮加入ということで、合わないと感じたならいつでも抜けてもらって構わない。ただ、加入している間の報酬は平等に分割、リーダーである俺の指示には従ってもらうことになるが」


 提示してきたロイの案は、新人の零斗にとっては破格すぎるものだった。

 普通、新人が新たにパーティに加入するとなると、最初は荷物持ちを任され、分け前もほんの何割かというのがほとんどだ。

 ロイが言っているのは、他のパーティメンバーと同待遇で新人の零斗を迎え入れるというのと同義である。


 流石にそこまで言われては、断るのも失礼だという物だろう。

 ここは少しの間はパーティに参加しておいて、後で彼の言う通り合わなかったことにして抜けるのが得策と判断し、零斗が首を縦に振った。


「分かった。戦力になるかどうかわからんが、よろしく」

「ああ、こちらこそ。……ところで、君の名前を聞いても良いか?」


 そう言われ、ここまで一切名乗っていなかったことに気づき、零斗が答える。


「レイだ」

「レイ……まさか一文字違いだったとは」


 正確には()()()違いだけどなと、零斗が内心で訂正を入れる。

 と、ここで零斗もあることに気づき、口を開く。


「そういや、()()って言っているけど、他の奴はいないのか?」

「ん? ああ、それならもうじきここに来る……って言ってるそばから来たな」


 ちょうどロイが話している時に、ギルドのドアが開き、男女の二人組が入ってきた。

 男の方は何やら気分が悪そうに肩を借りながら、女の方はそれに対し不機嫌そうに。そして、後者がロイに気づくと、さらに不機嫌さを増してこちらへ歩み寄ってきた。


「……ロイぃぃぃ……。あんた、何アランを押し付けて一人先行ってるのよ!」


 開口一番そう叫んだ女性は、ロイと同じ麻色をした長い髪と、控えめな胸元が特徴的だった。高い鼻と大きな碧眼、まばらにそばかすが付いているのも相まって、西洋系の顔立ちと評するのがしっくりきた。


 そんな彼女の、今にも掴みかからんとする訴えを両手で制しながら、ロイは苦笑を浮かべながら言った。


「わ、悪い悪い。あ、ほら、俺ってリーダーだろ? だからみんなのために依頼を取ってこようとだな……」

「あんた普段ならこの時間まで寝てるじゃないの!」


 ロイの苦しい言い訳を速攻で断じたかと思ったら、ちょうどロイの後ろに立っている構図になっていた零斗に女性が目を向ける。


「……その子は?」

「これからしばらく、うちのパーティに加わることになったレイだ」

「ちょっとロイ、表に出なさい。いくらリーダーといってもやっていいことと悪いことがあるわよ」


 女性が目を細め、肩を貸していた男を壁にもたれかけさせ、ロイに詰め寄る。

 

 全くもって正論だ。

 聞くところによると、体調の優れないメンバーを押し付け、一人先に出ていったかと思えば、合流すると同時、相談もなしにパーティに一人新たに加えたと宣う――――あれ、こいつって結構クズじゃね――――。


 と、そこまで考えたところで、流石に置いてけぼりすぎると零斗が会話に加わる。


「あー、一応パーティに加わったレイだ。……えと、ロイ以外が反対意見っていうなら、俺はすぐに抜けるが……」

「ん? ああ、レイ君が入ること自体は反対じゃないのよ。むしろ、四人になって戦いやすくなるからメンバーを増やすこと自体は私も賛成。……問題なのは、こいつが何の相談もなしに独断で決めたってことよ」


 どうやら零斗の感性は間違っていなかったらしい。

 彼女も苦労しているなと、零斗が同情の眼差しを向けていると、自称リーダーらしい男は反論の言葉を口にした。


「ジーナも賛成なんだろ? なら、何の問題もないじゃないか」

「だからそこじゃなく……はぁ……もういいわ」


 話が通じないと判断し、途中で諦め、ジーナがため息を吐く。

 

「……苦労しているな」

「……それが分かってくれる人が来ただけでも大分マシよ」


 再び深くため息を吐くジーナに、零斗はこのパーティに入って本当に良かったのだろうかと、不安を覚えずにはいられなかった。


 

 

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