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夢の続きを見る為に…

作者: plus

 



 終わりと始まりはいつも一瞬で静かだった………


「そろそろ時間か…」


 アレからどれだけの時が経っただろうか。

 今の俺は魔王という立場にある。

 そして間も無く俺を討伐(殺)しに勇者が来るだろう、そして俺は敗北する。

 その事実は絶対であり回避する事は許されない。


 しかし、それでいい。あの時、俺はこの結末が分かっていながらこの選択をしたのだ。全てはアイツの為に…俺は小さな自己犠牲を果たそう。


 そして俺は俺以外の魔族達に関して呪いを使った。その内容は容姿が魔族からニンゲンになるように、この場合は人族か…とりあえず、そうなるようにした。トリガーは俺の死だ。これで他種族に殲滅される事も無く勇者達に保護されるだろう。


 最後に俺は人のような容姿から魔王の様な姿に見えるように魔法で体を包み、そしてマントを羽織る。

 コレでどこからどう見ても魔族の王、魔王に見えるはずだ。


 少し時間が余ってしまったようだ。

 …仕方ない。最後に勇者たちが来るまで過去を振り返りながら微睡むとしよう………………



















 最後の一人の魔王の城を走っている勇者たちがいた。


 黒いショートの髪に刀身が白く透けている剣、それに純白のフルアーマー、髪と装備の配色が真逆の男の勇者。


 水色のような毛並みに何者も切り裂けるような牙に爪、さらに神々しさすら覚える薄い光に身を包んでいる狼、もとい神獣。


 その神獣に乗っている少女二人。

 片方は白銀のストレートの髪を風になびかせ、薄い蒼のクロークに身を包んでいる聖女。


 もう片方は白、茶、黒のフサフサした自然体の髪に右目は赤、左目は青のオッドアイで背丈の小さい。更に頭の上には猫のような耳がある魔法使いの獣人。


 その種族には珍しく豊満な体つきに露出の多い服装、魔界に住むと言われており稀に魔族と間違われる事もある白髪に赤褐色の肌のダークエルフの女性の魔剣士。


 訳ありが集まっているような一行が目指して走っているのは、この城の主である魔王。



 訳ありというのは、「人族では黒髪は魔族の髪の色」ということで人族に歓迎される事の少ない勇者。


「人に飼い慣らされた」と何の根拠もない偏見でつま弾きにされていた神獣。


「獣人のくせに身体能力が低く魔法に頼る軟弱者」と最早種族すら否定されかけた魔法使い。


 見た目に拍車を掛け「エルフであるのに自然を顧みずに剣と破壊するためだけにあるような魔法を使う」と里長に言われ里を追い出された魔法剣士。




 聖女以外、その種族から歓迎されない一行が『悪の根源』と言われる魔王を討伐したい理由は一人一人違うだろう。しかし、それでも『平和にしたい』という理由は全員が持っている。



 走っている途中で一行に小部屋の様な物が見えてくる。そしてその部屋には一人の女性が立っており背後には扉がある。さらに言うとその女は勇者と同じくらいの背丈があり女性としても身長は高い方だろう。



「来てしまったようですね。」


 長いストレートの黒髪にエルフ程ではないにしろ尖っている耳、それに背中には魔族特有と言っても過言ではないコウモリのような黒い翼。

 勇者たちは一瞬で敵である魔族と判断する。



「そこを退いてくれないか?」


「それは無理ね。」


 勇者の問に魔族の女はどこか慈しむような視線を勇者に送りながらも否定の意思を返す。



「そこをなんとか出来ませんか?」


「何度聞かれても答えは変わらないわよ。」


 対して聖女の問には嫉妬と哀れみを含めたような返しをする。


(この温度差は一体何なのだろうか?)


 勇者と聖女、その当事者以外の全員がそう思っただろう。ただ、その当事者の二人はそのような視線を送られた事すら気にしてはいなかった。

 勇者には嫉妬や哀れみ、聖女には慈悲のような視線がいつも集められていた。なのでその二人は今回はそれが逆になっただけだと思ったのだ。


 だからこそ気付かない。


 しかし、それも仕方の無い事だろう。魔王を全員倒さないと世界が滅ぶとまで言われた今の切迫した状況では言葉一つ視線一つを気にしている余裕というものがある方が珍しい。



「それじゃあ無理矢理にでも通してもらおうじゃねーか。」


 ダークエルフの魔剣士が両腰の剣を引き抜き、構え、そして魔族の女に走り出す。



「俺がこの女を抑える。そのうちに行きやがれ!」


 ダークエルフの魔剣士は男にしては高く女らしい声で、しかし女にしては少々どころではすまない荒々しい口調で後ろにいる勇者たちに言い放ち、その言葉と同時に勇者と神獣が女の横を迂回するように走り出す。



「させると思っているのですか?」


「アンタの相手は俺だ!」


 扉は女の背後にあり、また女は勇者たちを行かせないようにしようとするがダークエルフの魔剣士がそれを阻止しようと斬りかかる。だが、その斬りかかりに魔族の女は翼で自分の身を守る。



「…甘いですね。」


「んだと…!?」


 魔族の女が翼で自分を守るとそう言い放つ。そしてその直後に扉の目の前に黒い炎のような物が現れ、勇者たちにも黒い炎が飛んでいく。その様子にダークエルフの魔剣士がそれに驚きを隠せずに思わず声が出てしまうが、今それに気が付いても黒い炎を消す事は出来ないだろう。



「大丈夫です。そのまま行ってください。私があの黒い炎を抑えます。」


 その様子に獣人の魔法使いが扉の黒い炎に水の魔法を放ち、黒い炎を鎮火してから神獣から飛び降り、勇者達はその言葉を信じ振り返らずに走って行く。そして飛んできている黒い炎も細かな氷を飛ばしてかき消し、更にはその氷が魔族の女に飛んでいく。



「!?」


 氷が飛んでくることを予想していなかったのか、魔族の女は咄嗟に目の前に黒い炎を出して氷を溶かす。



「私がいる限り邪魔はさせません。」


 今度は獣人の魔法使いが勇者たちの壁となるように立つ。



「そう言う事だ。追いたきゃ俺たちを倒すこったな。まぁ俺達もお前を倒して、魔王とかいう奴を倒しに行かないといけないんだが。」


 ダークエルフの魔剣士と、獣人の魔法使いの言葉を黙って聞いている魔族の女は一瞬だけ小さく息を吐き誰も聞こえない声で呟く。

(お先に失礼します。)

 その呟きはこの二人には聞き取る事は出来なかっただろう。しかし、それでも二人は魔族の女の只ならぬ意志の強さを感じ取り、気を引き締める。
















 静寂の中、玉座の間の大きな扉が音を起てて開き出す。そしてその扉をくぐる『勇者』と『聖女』の二つの足音がやけに大きく響きく。


 対して玉座に座っている人物は足を組み、右の肘を玉座の掴みに置いてその手に拳をつくり、こめかみに当てて眠っていた。



「魔王…。」


 勇者は横にいる聖女にすら聞こえるか分からないような小さな声で呟いた。



「………?」


 しかし、その小さな声を拾ったかのように玉座に座っていた人物は右眼を開く。



「一緒にいた犬はどうした?見捨てたのか?」


 恐らく魔王が口にしているのは聖女と魔法使いを乗せていた聖獣のことだろう。その言葉を聞いたとき、聖女がピクリと反応する。



「あの娘にはちゃんとした名前が…」

「ほぅ、ただの犬に名前をつけているのか…」


「許せません…『ライトアロー』!!」


 玉座に座っている人物は聖女の言葉を遮るように自分の言葉で挑発をした。

 それに対して聖女は聖獣のことを家族のように思っていたのだろう。正確には犬ではないのだが、それでもただのの犬扱いをされ、あまつさえ見捨てたのかと聞かれる。それは聖女でなくても家族を大事にしている人であれば怒りを顕にするだろう。


 そして聖女は相手は倒すべき敵であり魔王である、という事を再認識して光の矢を魔法で作り玉座に座っている魔王に飛ばす。




  『ダークホール』



 聖女は魔王に光の矢を飛ばしたが直後に突然玉座の間に声が響き渡り、玉座に座っている人物の天井近くに黒い大きな玉が現れる。

 すると聖女が放った光の矢が軌道を変えて黒い大きな玉に吸い込まれるように消えていった。



「獣の亜人のくせにいい魔法を使うよな?」


 魔王が使った魔法は獣人の魔法使いが旅の中で開発したオリジナルの魔法だったのだ。



「世界の理を理解出来ていないと、使う事も出来なかっただろうに…」


 事実、勇者達の旅の中で魔法使いはこの魔法を他の人に教えようとしたことがある。しかし、誰一人としてこの魔法を使えた者は居なかったのだ。


 その言葉に勇者と聖女は言葉が出なかった。今まで獣人の魔法使いしか使えなかった魔法を目の前で使われた事もその理由の一つだろうが、それよりも黒く大きな玉の隣に別の紅い玉があったからだ。



「しかし、あの亜人も完全には理解が出来ていないと見える。あの亜人はほかの魔法と一緒には使えなかったのだろう?」


 その言葉通り獣人の魔法使いは黒い大きな玉を作り出した時にはほかの魔法が使えなかった。それは魔法使いだけでなく、その場に居る者の魔法の全て吸い込み、魔法の使用を許さなかったのだ。


 しかし、今この魔法を発動させている人物は同時にほかの魔法も使用している。これが示す事は魔法の最大の利点、詰まる所の魔法による遠距離からの一方的な攻撃を可能にするという事だ。


 その現実を前に勇者と聖女は息を呑み、勇者が前に、聖女が後ろに位置をとり攻撃に備える。



「そんなに身構えなくとも、そのような無粋な真似はせんよ。せっかくここまで来たんだ。この私を楽しませてくれよ。さぁ始めようじゃないか。」


 魔王が玉座から立ち、手を広げると黒く大きな玉と紅い玉が消えていき、同時に小さな火の玉がカーテンのように無数に現れる。

 そしてその一つ一つが勇者と聖女に飛んでいき、それを合図に玉座の間での戦いが始まった。



 勇者は一つ一つ飛んできている火の玉を剣で丁寧に斬っていき、聖女も水の玉を飛ばして相殺し、ようやく火の玉が無くなってきたというタイミングで勇者が魔王に向かい走り出す。

 依然として火の玉は勇者にも飛んでいくが、勇者は走りながら火の玉を避け、当たりそうになると聖女がそれを相殺させていった。



「魔王ー!!」


 勇者は魔王を自分のの間空いに入れると鼓舞する為か、対峙している人物の名前を叫び魔王に斬りかかる。


 対する魔王は勇者の叫びなど無かったかのように振る舞い、勇者の斬撃を半身になるようにして躱す。


 魔王の動作を完璧に捉えてた勇者は魔王が半身の形をとった瞬間に、縦に振っていた剣を横に振るように切り替える。


 捉えた!!この場面を見ている者がいればそう思えただろう。事実、勇者と聖女もそう思っていた。

 しかし、気がつけば半身になっていた魔王はいつの間にか黒に塗り固められたような剣を持っており、その剣で勇者の攻撃を弾いていたのだ。



「いい動きだ。だが…甘い。」


 攻撃を弾かれた勇者はその反動で身動きを取ることができず、あまりにも無防備な隙を晒していた。その隙を魔王が見逃す筈もなく、漆黒の剣を勇者に振りかざそうとする。勇者本人ですら一瞬だけ殺られたと思っただろう。


 しかし急に勇者の目の前で爆発音が鳴る。いや、正確にいうならば魔王の持っていた剣が爆発したのだ。そして爆発した剣はと言うと、爆発を起こした所からまるで初めから刀身が無かったかのように綺麗に消え去っていた。



「…あの女か。」


 その爆発は魔王が起こしたものではなかった。そして魔王は爆発を起こした剣を見て苦虫をかみつぶした様な顔をしてそう吐き捨てたのだった。


 魔王の言葉で状況を瞬時に把握した勇者は魔王から急いで距離をとり、聖女のすぐ近くに戻る。



「ご無事ですか?」


「あぁ助かったよ。」


「気を付けて下さい。恐らく相手は今まで戦ってきたどの敵よりも強いと思います。」


「そうだね。でも恐らくじゃない。実際、今まで戦ってきたどの敵よりも強いよ。それに完全に遊ばれている感じがする。ここまで実力に差があるのは初めてだ。」


「それでも勝たなくてはいけません。…平和の為にも。」


「分かっているよ。」


 勇者と聖女は再び覚悟を決める。しかしこのやり取りは戦闘中にしては明らかに長い。その長さは戦闘において致命的だっただろう。それでも二人は攻撃を受けていない。攻撃を避けていたり防いでいた訳ではなく、ただ攻撃が来なかったのだ。



「もう終わったかね?」


 魔王は二人の話が終わるのを待っていたのだ。二人が話をしている間は明らかに無防備だった。しかしその隙をつくまでもなく魔王は勇者と聖女の二人を下すことは可能だと判断したのたろう。


 そして魔王の手には先程、聖女の魔法により爆破された筈の漆黒の剣が握られていた。だが、ただ同じという訳ではなかった。形状こそは先程爆破された剣そのものだったが、今魔王が持っている剣は周りに影のようなものが漂っていたのだ。



「魔剣…か。」


 勇者がそう呟く。

 魔剣、それは長い間使われてきた剣に魂が宿ったり、前の持ち主の魂が剣に宿る事で剣そのものに特殊な能力がついたりした物で、通常の武器の性能を遥かに超える物だ。

 しかし、後者、つまり前の持ち主の魂が宿っている場合だと状況が少し変わる。どういうことかと言うと宿っている魂が怨念だった場合、所持者の精神力が弱いと魔剣に飲み込まれるという事だ。だがその場合は弱点がある。

 それは光の魔法で怨念を祓うというものだ。


 勇者は魔剣に弱点があると信じ魔王に向かって走り出す。

 対する魔王は向かってくる勇者に魔法を放とうとせずにじっと勇者が来るのを待っている。



「はぁーー!!」


 勇者は魔王を自分の間合いに入れると、自分の剣に目が眩む程の光を纏わせて魔王に斬りかかる。

 すると魔王の持っていた剣に漂っていた影のようなものが薄れていき、魔王が勇者の斬りかかりに対抗するように剣を振ろうとして剣と剣がぶつかる。そして一瞬の拮抗の末に魔王の剣がまたもや折れたのだ。



「………。」


 しかし魔王は己の剣が折れても全く気にしている様子は無かった。

 それでも勇者は魔王の剣が折れた事を好機と考え、追撃しようと剣を振るう。


 だが勇者の剣は魔王を捉える事は出来なかった。

 今度は魔王の逆の手に炎の剣があったからだ。

 そして、このままではマズイと思い勇者は魔王と少し距離をとるのだった。



「一体どれだけの魔剣を持っているんだ…。」


「わざわざ自分の戦力を教える馬鹿は居ないだろうよ勇者よ。それよりもいいのか?あっちもあっちで状況は思わしくないと思われるが?」


「なっ!?」


 魔王が顎で聖女の方を指すと、そこにはリッチやスケルトンと呼ばれている骨のモンスターに囲まれていた聖女がいた。

 それでも完全に囲まれる前に自分から中心とした光の柱を作り出してそのモンスター達を消しさっているが、このままではいつまで光の柱を生成出来るか分からない。

 その状況を知ってか勇者は急いで聖女の下へと行こうとする。


 しかし光の柱が消えた瞬間に聖女の背後から飛び込んでくる影がいた。そして、それをきっかけにしてスケルトン達が一斉に聖女に襲いかかる。


 勇者は聖女なら魔法でもう一度光の柱でスケルトン達を一掃してくれると信じて走る。その一回があれば次の波までには間に合うのだ。

 しかし走り続けても光の柱は生成されない。時間にしても一秒か二秒経っていないだろう。それでも聖女が通常光の柱を生成するのに必要な時間としては充分だったのだ。それが今でも作られない理由…勇者の脳裏に最悪の予想が展開されていた。

 だが、次の瞬間にスケルトン達が崩れ去る。



「大丈夫です。この子が助けてくれました。私たちのことは心配いりません。そのまま魔王を倒して下さい。」


 そう言って聖女は先程飛び込んで来た影、神獣の頭に手を乗せる。

 そして勇者は聖女の言葉に頷き、再び魔王の方を向く。



「チッ…。早いな。」


 その状況を見てか魔王は舌打ちをする。ただその行動とは裏腹に魔王の表情は焦りを見せない。むしろ全てが計算通りとさえ言わんが如く口元が緩んでいた。



「それではこういうのはどうかな?」


 直後に魔王から黒い霧が吹き出し一瞬にしてこの玉座の間を覆い隠す。しかしそれも一瞬の出来事であり、すぐに霧が晴れる。



「なっ…!?」


 何があってもいいように警戒を怠らなかった勇者がある事に気づく。それは聖女の近くにいた骨のモンスター達が消えていたのだ。

 しかし、それは良かった。むしろ前の方が良かったとも言えるだろうか。なぜなら今、聖女の目の前には魔王が居たからだ。


 すぐに戻りたいと勇者は思っているだろう。それでもそれは叶わないだろう。何故なら勇者の目の前にはあいも変わらず魔王がいるからである。



「どうした、勇者よ。早くしないと向こうが先にやられるぞ?」


 魔王の言葉に勇者は歯軋りをするが実際このままでは聖女がやられてしまう。しかし目の前の魔王に背を向けてはコチラもやられてしまうだろう。あわよくやられずに聖女の所にいけても次は魔王が二人同時に攻撃してきてやられてしまう。

 そんなジレンマに陥りかけた頃に乱暴に扉が開かれる音がする。



「俺らの事を忘れてしまっちゃいけねぇよ勇者さん。」


 何事かと思い、勇者は扉の方を見るとそこにはダークエルフと獣人の二人の少女が来ていたのだ。



「私達が援護します。」


 そして気がつくと聖女のすぐ近くにいた魔王がダークエルフの一撃を受けると姿が揺らめいていき煙のように消えていたのだ。

 しかしダークエルフの手には手応えという物は無かった。それは剣が空を斬ったようで、ただの幻覚を全員が見ていたようだった。

 しかしその事に気を取られているわけにもいかないので起こった出来事として今は戦闘にすぐに意識を戻す。



「とりあえず、だ。コレで五対一。かなり優勢になったんじゃねーのか?」


 今までの勇者と魔王の戦いを見ていなかったダークエルフはそんなことを言う。実際、勇者と聖女に目立つ傷が無かったのでこの場面だけを見ればそう思いたくなるのも仕方のない事なのだろう。

 しかし、傷が無いのは魔王も同じでありコチラはほぼ無傷だった。



「変わらないさ。」

 そう呟いたのは一体誰だったのだろうか。だがその言葉通り状況は変わらないのだろう。



「それにしても相手が一人に対して五人で戦うとはどうなのだ?勇者よ。」


「村や町を集団で破壊してきたお前がそれを言うのか!?」


「そうだな…それでは第二ラウンドといこうか。」


 魔王は言葉と共に一瞬で勇者と距離をとり、黒色の炎、氷、雷の弾を創り勇者達に飛ばす。

 それでも流石は勇者パーティと言ったところか、獣人の魔法使いが飛んできた魔法に対して氷、炎、土の塊を魔法で生成して相殺させる。



「………。」


 細かな魔法をどれだけ繰り出しても埒があかないと思ったのか魔王はこの広間を覆い尽くしそうな黒い大きな球を勇者達に飛ばす。



「コレは私でも無理かも知れません…。」


 その大きさ故かそれともその威力を感じ取ったのか獣人の魔法使いは自分の手に負えない事を伝える。しかし、獣人の魔法使いの顔は諦めていなかった。そして勇者と聖女もジッと魔王を視界から離さず、迫って来ている魔法には見向きもしなかった。



「じゃあ俺の出番だな。…『エンドレスブレイク』」


 獣人の魔法使いが後退するとすぐにダークエルフが前に飛び出す。そして剣を一振りすると周りが一瞬だけ輝き黒い球は急激に小さくなっていきすぐに消えてなくなる。



「とっておきだったんだがな…魔力切れだ、しばらく頼むぜ。」


「任せてくれ。」


 しかしその代償も決して安くなかったようでダークエルフは膝を地面について肩で息をしている。

 そしてダークエルフが剣を振った瞬間に魔王に向かって走り出していた勇者がダークエルフの言葉に答える。


 ダークエルフが黒い球を消した時に放たれた光に目が眩んでいるのか魔王の目線は迫って来ている勇者より少しズレていた。

 それを好機ととらえて勇者は剣に炎を纏わせて魔王に剣を振るう。



「コレでどうだ!?」


「!?」


 勇者の剣は魔王に当たる。

 そして勇者の手に確かな手応えを残しながら魔王が後方に飛ばされていき、この広間の壁が崩れる勢いで衝突する。

 この戦闘で初めて勇者側からの攻撃に成功した瞬間だった。

 この一撃をどれ程待ちわびた事か。勇者の持つ聖剣、それは魔族に対して命取りともなる傷を与える。


 聖女は魔王が崩れた壁の残骸をどけながら立ち上がるのを目撃する。しかし先程までのように状況が悪くないと判断しているのか聖女の表情は少し余裕が見てとれるがそれでも警戒は怠らない。


 立ち上がる途中に魔王にノイズが掛かっていたのが見えたのでまた幻影かと聖女は思ったがすぐにノイズは無くなり魔王が瓦礫を手で退かすのを見て勇者の攻撃が確実に効いているのを確信する。



「聖剣…か。」


 魔王が呟く。

 聖剣、それは魔族特有の魔力に対しても傷を与える事が出来るという物だ。魔族はその特有の魔力で自身の体を強化でき、さらに稀に魔力で魔力を生む事が出来る存在がいる。その者達にとって魔力とは力の源でありブースターなのだ。

 その者達が魔力を削られると必然的に無限機関とも言えるサイクルに綻びが出てくる。


 実際に魔王の魔力は一気に小さくなっており、絶対に敵わないと思うような重圧から今まで対峙してきた魔王クラスまで落ちていた。

 それでも魔王最後の一人と云うべきか、他の魔王は聖剣の一撃をここまで避けてきた事は無かった。それに他の魔王は魔力が落ちると勇者単体程の魔力まで落ちていたが、今対峙している魔王は魔力が落ちてなお他の魔王と同じ量の魔力を持っていた。



「嘘です…。」


 獣人の魔法使いがそう呟くが、それは魔法使いとしてその差を感じ取ったからだろうか。


 魔王はその呟きを聞き取ったのか、手を獣人の魔法使いに向ける。すると瞬く間に獣人の魔法使いの体が石になっていった。


 あまりにも一瞬の出来事だった為に誰もが状況の把握が出来ない。

 それでも魔王が石になった魔法使いに炎を飛ばした時には勇者がいち早く駆けつけて炎を切り落とす。



「魔法使いを守ってくれ。」


「お、おう。」


 そして勇者は近くにいたダークエルフに石になった魔法使いを任せて魔王に駆け出す。

 謎の魔法によって魔法使いは石にされたが、それが原因か今の魔王には先程まで圧倒的に感じた魔力を感じない。



「よくも魔法使いを!」


「…………。」


 勇者は魔法使いを石にされた怒りをぶつけるように先程と同じく剣に炎を纏わせて魔王に斬りかかるが、またもや何処からともなく魔王は剣を取り出して勇者の斬撃を受け流す。



「それならコレでどうだ!?」


 魔王が余裕をみせて斬撃を受け流すのを見て勇者は剣に緩やかな風を纏わせる。すると最初に纏っていた炎と相まってさらに大きな炎が剣にまとわりつく。


 勇者の剣がまたも魔王の剣に防がれる。しかし今度はそれだけに終わらなかった。勇者の剣が魔王の剣にぶつかった瞬間に炎が魔王の体を多い尽くしたのだ。



「うあああああ!?」


 声がしたのは勇者の後方。石になってしまった魔法使いを任せたダークエルフからだった。

 振り返った勇者が見たのは魔王が聖獣の攻撃を避けようとした瞬間だったがそれだけでも状況を把握することが出来た。

 ダークエルフが眠らされて、うなされていたのだ。


 さらに状況が悪い事に、ついさっきまで無いに等しかった魔王の魔力が聖剣に斬られた瞬間の時まで戻っていた。



「今度はコチラからいくぞ勇者。」


 それからは激しい攻防が繰り広げられた。

 魔王の攻撃の隙をついて勇者は魔法を纏わせた剣で攻撃をするが、それを魔王が同じ属性、または相性の違う属性で完全に防ぐ。


 逆もまた然り。


 それでも違う要素がある。聖女と聖獣の存在である。

 激しい攻防の中で聖女と聖獣が勇者の攻撃に合わせて追撃を加えていたのだ。


 しかしソレも魔王は何事もないように受け止める。


 長い攻防の末に勇者と聖女はある事に気付く。

 それは魔王の攻撃がまるで当て付けのようにコチラと似ているという事だ。

 コチラが連続で攻撃をすると魔王はソレを全て受けきり、同数かそれ以上で返してくる。そして属性もだ。

 その一連の動きが聖女による横槍が入っていても魔王の攻撃が来るので、かえって勇者の焦りを加速させる。


(この動きは…!?)


(クソッ。これだけ手を尽くしてもまだ倒せないのか…)


「戦闘中に考え事とはずいぶんと余裕だな。」


 勇者と対峙していたはずの魔王の声が聖女の居る方向から聞こえる。

 嫌な予感の下、聖女の方を振り返るとそこには魔王に剣で胸を貫かれた聖女がポツンと立っていた。そして魔王が剣を抜くとばたりと聖女は倒れる。



「コレで残りは勇者、お前だけだ。」


「よくも皆を!!」


 聖女に攻撃を仕掛けるために何らかの魔法使ったのか、今の魔王からは魔力のほとんどを感じ取れなかった。

 そしてそれを好機ととらえて勇者は魔王に攻撃をしかける。


 それでもアッサリと倒されてくれるほど魔王は優しくなく、勇者の攻撃を受け止めている時間一秒毎に凄い早さで魔力が回復していく。


 激しく魔王を攻め立てる中で一向にその攻撃はまともに入らない。気付くと魔王の魔力は再び聖剣に斬られた時と同じ程にまで回復していた。



「さぁ終わりといこうではないか。」


 言葉が聞こえると既に魔王は僕の背後にいて、僕が後ろを振り返ると魔王は剣に圧倒的なまでに膨大な魔力を込めて僕に刺そうとしていた。



「もう会わないことを願うよ。」


 それは誰に向けた言葉だったのだろうか。

 死を覚悟して目を瞑るが、いつまで経っても意識は消えようとせずハッキリとしたままだった。

 恐る恐る目を開けてみると魔王は剣で僕の体を貫く寸前で体を氷漬けにされており、ダークエルフが魔王の胸を剣で貫いていたのだ。


 あまりにも唐突であっけなく、アッサリと終ってしまった。

 静寂の中、僕は緊張状態から抜け出したからか意識を失なってしまう。















「勇者さんよ、早く起きたらどうだよ。聖女さん達も心配してるぜ?そのアレだ、俺も……。」


 ダークエルフのその言葉で意識が覚醒しだす。目を開けずに耳を澄ませてみると聖女と魔法使い、そして聖獣が戯れているであろう声がする。


 そして僕は意識が途切れる前の事を思い出す。それは何らかの魔法で眠らされてうなされていたダークエルフが魔王を仕留めていた所だった。

 恐らく途中から姿が見えなかった聖獣がその魔法を解除してくれていたのだろう。石化から戻った魔法使いが魔王の動きを止めて、悪夢から開放されたダークエルフが止めを刺した、そんなところだろうか。


 ともあれ皆が無事でよかった。

 ………皆?


 僕はすぐさま起き上がり聖女の居るところまで走り出す。起きた瞬間にダークエルフが驚いたり、途中で転けかけたりしたがそんなことはどうでもいい。

 聖女の目の前までたどり着くとすぐに服を脱がせて胸を確認しようとする。



「きゃぁぁぁぁ!?」


 確認しようとして聖女に顔をひっぱたかれ、近くに居た魔法使いに死なない程度の魔法を浴びせられる。

 そしてダークエルフには「それはフォローできないぜ。」とまで言われてしまう。


 しかし、一瞬だったが見る事が出来た。そして疑問が深まる。

 確かにあの時に聖女は魔王に胸を剣で貫かれていて、一目見ただけでも致命傷だという事は判断出来た。


 ありえない話であっても治療したのであれば分かるがそれでも治療の跡と言うのは残ってしまう物である。しかし、今見た聖女の胸には傷の跡という物はなかった。それ以前に服も剣で貫かれた跡という物もなかったのだ。


 しばらくの間、女の子三人には白い目で見られたが事情を話すと、僕が寝ている間にうなされていたので悪夢でも見たのだろう、と言われてしまった。


 色々あったけど一人も欠けずに魔王の討伐が出来てよかった。

 そう思い僕達はそれぞれの国に、家路につく。













 魔王討伐から二ヶ月、僕と聖女は家を建てて一緒に住む事にした。旅に出る前から抱いてきた夢だ。子供は何人欲しいか等と未来への希望に満ち溢れている。









 魔王討伐から三ヶ月、統率者が居なくなったからなのか魔族達が村を襲ったり窃盗を繰り返したりしているらしい。それもごく一部で僕達勇者パーティには召集がかかっていない。













 魔王討伐から半年、聖女と一緒に買い物へ行き、家に戻ると家を漁っている人影がいた。おそらく窃盗をしている魔族の一人なのだろう。


 しかし、よく見てみるとその犯人の見た目は四歳ほどでとても対処に困ってしまう。

 親はいるのか、どこからき来たのか等と質問をしてみるが返ってきたのは想像よりも酷かった。

 親は人族に殺されてしまったらしい。コレは今まで戦争のような状態だったので僕が手を下してしまっている可能性もある。

 どこから来たのと聞くと、色々な所から、と返ってきた。この歳で旅を続けてきたのだろうか…


 僕は聖女と話し合う。このままではこの子は他の魔族と同じく王都に捕らえられてしまうかもしれない。ならば僕達で育てて魔族達との架け橋になってはもらえないだろうか。


 聖女も概ね同じ考えだったようですぐにこの子を育てる方向で決まった。


 聖女との二人目の子供はもう少し後になりそうだ。

 僕と聖女は一人目の子供を受け入れるのだった。
















 魔王討伐から一年、暴れ回っていたり窃盗を繰り返していた魔族のほとんどが王都に捕まったらしい。僕達は魔族の子供にそんな事はするなよと言い聞かせて育てているおかげか、あの日から一度も悪さをしていない。

 この家に招いた当時はぎこちなかったけど半年も一緒に暮らせば完全に遠慮もなくなっていた。















 魔王討伐から一年と半年、魔法使いが禁書を復活、複製したとのことで人族、獣人族から指名手配されているらしい。僕は真実を確かめる為に少しの間旅に出る事にした。それを聖女に話すと付いてこようとしていたので、魔族の子供の事をどうするのかと言うと引き下がってくれた。



 旅は一ヶ月で終わる事となった。魔法使いが目撃されたという場所に行くと魔法使いは処刑をされていたのだ。これでは真実の確かめようがなかった。

 あと一日早ければ魔法使いを助ける事ができたのではないか、そんな事を思ってしまう。その日はずっと泣いて過ごしていた。

 家に帰って聖女にその事を話すとやはり聖女も一日中泣いていた。それでも僕より心が強くそれ以降その事で泣く事は無かった。


















 魔王討伐から二年、聖女に少し太ったんじゃないかと言ったら頬をひっぱたかれた。しかし、すぐに笑顔になってくれる。子供だそうだ。魔族の子供も嬉しそうにして僕達を祝ってくれた。

 それと同時にダークエルフからの手紙が届いた。

 少し内容がおかしかったがそれは確認すればいい事だろうと思いダークエルフの元を訪ねる事にした。

 往復で一週間もかからない距離だからか聖女も今回は家で待っているそうだ。


 僕の所に手紙が、それも仲間からの手紙が来たことがとても嬉しくて通常三日で着くはずが二日でたどり着いてしまった。


 手紙の内容は、手紙では書けない事がある。早急に一人で来て欲しい、との事だが何故一人でなのだろうか。

 そんな疑問を持ちながら小さな小屋にノックをする。

 しばらくしても返事がなかったので仕方なくドアノブに手をかける。するとカギは掛かっていなかった。そして中に入ると椅子に座っているダークエルフがいた。


 手紙を書いている途中に寝てしまったのだろうか、手にペンを持ちながら机にうつ伏せになっている。僕はダークエルフを起こそうと肩を揺そうとするがある事に気付く。


 ダークエルフの体が冷たいのだ。


 ダークエルフの体は僕が触れた事によりバランスを崩して床に倒れてしまう。そしてダークエルフの裾から白紙の紙がスルッと出てくる。何だろうと思いその紙を触ると紙に文字が浮かび上がる。



 わざわざ来てもらって悪かった。この手紙を読んでいるっつう事は間に合わなかった訳だ。まぁそれはいい。いいか、絶対に単独行動はするな。人族の王さんが魔法使いを罠にかけやがった。そういう俺も毒を盛られた訳だが。次はお前ら二人だと聞いた。万が一にも今単独行動してるならすぐに合流しろ。いつ狙われているか分からねぇ。



 僕はすぐに手紙を読むのを止めて二人が待つ家に急いだ。どうか無事でいてくれ、そんな思いを込めて…


 家には一日で戻ってくる事ができた。往復で三日、家の前にたどり着いてすぐに扉を開ける。


 そこには僕が帰ってくるのが分かっていたかのように二人が玄関にいた。そして魔族の子供が僕に抱きついてこようとする。

 その様子にホッとしながら家の中を見渡す。すると何故か家の中は荒らされたように散らかっていた。

 直後、腹部に痛みを感じる。その痛みの元を見ると人形にナイフで刺されている。そして意識がなくなっていく中で視界に入っていたのは愛しの家族ではなく無機質な二体の人形だけだった。















 ゆっくりと意識が覚醒していく。僕はうつ伏せになっているようで体は重く力も入らない。それに特別な手錠をかけられているようで魔力も封じられている。



「目が覚めたか、勇者。」


 僕は声のする方に頭を上げるとそこには僕達を旅に出させた人族の王様が玉座に座っていた。そしてその横には明らかによくない気配を放っている男がいた。さらにその男の後ろには少し前まで一緒に暮らしていた聖女も居たのだ。



「なにもうすぐ喋れる程度には毒が抜けるさ。…あぁコヤツか?」


 王は横にいた男に顔を向けて僕に尋ねてくる。



「コヤツはな優秀で新しい大臣じゃよ。コヤツの頭のキレに驚いている所でな、あと一年で全種族を我々人族が支配する案を進行しておるのじゃよ。その作戦に聖女とお主を招こうと思ったのじゃが、聖女が拒否しおったのでな…。それで最初は魔法で洗脳でもしようと思ってたのじゃが、精神魔法の類が効かないので仕方なく殺して、何も判断のつかない真っ白な魂を入れてやったのじゃよ。」



「こ、子…供……は」


 僕は掠れるような声で二人の子供の心配をする。せめて命だけでもあればと淡い期待をせずにはいられないのだ。



「おぉ、あの魔族の子供か。アヤツはいい人質になったぞ。聖女もアッサリと殺されてくれおったし、それに魔族であろう、アレは人形としても使えそうであるな。…もちろん腹の子、共々処分しておいたぞ。」


 王は高らかに笑う。そして何を思い立ったのか聖女の方に視線を送る。すると聖女が這いつくばって王の靴を舐めだす。

 王の言葉、聖女の行動で僕は頭を鈍器で殴られたような感覚に襲われる。


「お主の事だ、聖女と同じで儂の、人族の繁栄には協力しないのだろう?それならば殺して聖女のように傀儡にしてしまえばいいと気付いたのじゃよ。そして勇者、お主の膂力と魔力を封じる術が完成した。さぁ儂の……。」


 突然王の言葉が途切れる。再び上に顔を向けると王の首が飛んでいた。聖女は未だに王だった物体の靴を舐めていて犯人でない事は明らかである。



「だからこそ貴方を呼んだのですよ。」


 声の主は王の横にいた男からだった。先程までは普通の人族の姿をしていたが、今は魔族に似た姿をしている。



「あの最後の魔王とそれを倒した貴方達、そして魔族どもが居なければ我々悪魔がこの世を支配出来る。」


 喋りながら自らを悪魔と称する男は聖女を蹴り飛ばす。ただ、精神が幼い故なのか聖女は悲観するような顔をしずに苦い笑顔を浮かべる。



「いいですね、実にいい。絶対強者に対する表情、この女はそれが分かって……そうでしたね貴女の精神は子供でしたね。私とした事が自分でした事なのに忘れていました。」


 そうだ、と思い付いたように男は邪悪な笑みを浮かべる。



「あの男を殺す事が出来たら御褒美をあげましょう。」


 男は聖女の頭を撫でて優しく囁く。



「ただし失敗すれば罰を与えます。」


 どうしたら助けられたのだろうかと思いながら俺は瞳から一粒の涙を流した。


 聖女だった女は必死にそして確実に俺を殺そうと男から渡された剣で斬ろうとする。長い旅だった事もあるのだろう、記憶が無くなっても体が使い方を覚えているらしく鋭い剣筋が俺を襲ってくる。


 そして剣が体に触れた瞬間に剣がへし折れる。その事に男は驚愕して魔法を飛ばしてくる。



「恐かっただろ、ごめんな。」


 俺の呟きは飛んできた魔法の爆発音で掻き消える。俺は爆発で出来た煙のせいで魔法を飛ばしてきた男の表情を見る事が出来ないが、一体どのような顔をしているのだろうか。

 そんな事を思っているとゆっくりと煙が晴れていく。


 そして男の表情は仕留めたという余裕の表情から再び驚愕の表情に戻ったのだった。



「何故です!?何故聖女を殺す事が出来るのですか!?」


 男は何を疑問に思っているのだろうか。言いたい事が分からないとまではいかないが……



「あぁ。この子の事か。」


「そうです。何故人間である貴方が伴侶である聖女を傷つける事が出来るのですか!?」


「そうか…。確かに20年そこらしか生きていなかったらそうだっただろうな。それに聖女はお前が殺したんだろ?それにこの子の魂も安定していないんだ。むしろあるべき形に戻しただけだよ。」


「まぁいいです。魔力を封じられている貴方など私一人で十分で…。」


 男の言葉が掻き消える。もちろん原因は俺だ。そもそもこの子をどうやって弔ったと思っていたのだろうか。今となっては知る由もないが、とりあえず俺は魔法でこの城の外に出た。



 外に出るとそこは地獄を体現したようなありさまだった。人族の貧困層と見られる水簿らしい姿をしている人がそこらじゅうに奴隷のように扱われている。それにチラホラと見える他の種族も同様だ。


 原因は先程城にいた悪魔のようなやつがそこらじゅうにいて今にも奴隷のように扱われている人達を処分できるように目を光らせているからだろう。


 俺は煩わしい手錠を魔法で破壊する。すると押さえつけられていた魔力が俺の元に戻ってくる。そして全快とまではいかないまでも取り戻した魔力で悪魔のようなやつらを光の矢を無数に降らせて一掃する。


 奴らを残らず倒すと奴隷のように扱われた人達が一人、一人と淡い光を放出して倒れる。その中でありがとうと聞こえてくるが全員が殺されてなお無理やり動かされていたのだろう。俺は助けられなかったという無念の思いを胸に秘めて別の場所に転移を繰り返した。

















 助けられなかった。


 まただ…


 悪魔共を全員倒しても、この大地にいる俺以外の生物が死別してしまっている。どれだけ早くしてもあと少しで全生物がいなくなってしまう。


 直接手を下すと悪魔共は計画を前倒しにするだけでいつも結果は変わらない。どう頑張っても聖女が殺される。


 あの幸せの先にいくにはどうすれば良かったのだろうか………



 次は何処の時間から介入を始めようか。


 僕は、いや俺は何度目かになる時間を越えるゲートを魔法で作ってそれをくぐった……………

























 金属の軋む音が聞こえだし、その音に俺は片目を開ける。そこにはあの時と同じく勇者と聖女が居た。



「魔王……。」


 そう呟く勇者からは溢れんばかりの闘志を感じる。はてさて、今回はどのような檄を飛ばせば戦闘だけに集中してくれるだろうか。あくまでも剣筋は魂にまで刻まれているのでそれを注視されれば前回のように気付かれるだろう。



「……お仲間はどうした?見捨てたか?それとも勝手に野垂れ死んだか?」


「仲間を侮辱するな!?」


 安い挑発と分かっていてもそれが許せないのだろう。かつては仲間だった人達を貶す事だと分かっていて俺は胸を痛めながら続ける。



「そうだな、どうせ駄犬も捨て駒だよな?」


 そういえば聖獣はどこにいたのかというと、あの城の地下で半分白骨化していた。旅から帰ってきてすぐに閉じ込められていたのだろう。


「あの子にはちゃんとした名前が、それに駄犬なんかではありません!!」


 そう言って聖女は光の矢を俺に放ってくる。

 何回体験しても愛した人からの攻撃は外見のダメージにはならなくとも胸に鋭く刺さる。




 とにかく、今回はこの戦いで勇者パーティ全員をどこまで成長させられるだろうか…………





 刻一刻と今回の終わりが近づいてくる。


 仕上げだ。俺は勇者の背後に移動して全魔力をアイツに託すべく勇者に剣を刺す仕草をする。勇者は目を閉じているが、俺の体は魔法使いによって凍らされてダークエルフによって胸を剣で貫かれる。



「もう合わないことを願うよ。」


 つい思っていた事を口に出してしまう。魔力はしっかりと勇者の奥深くに渡ったが、願わくばもう聖女の体を傷つけずに済むように………












 俺の瞳から涙がこぼれる。人族の姿になった魔族達はいつの間にか迫害を受けていて、人族の王様は魔族に向けていた戦力の矛先を獣人族やかつての仲間に向けていた。今回の抵抗は逆効果だった訳だ。


 少し前まで幸せな夢を見られていたのに今はもうその続きを見る事は出来ないという事を自覚しながら、魔力と共に記憶を取り戻した俺は斬りかかってくる聖女だった人物をあるべき形に戻す。


 会いたかったがこの結果が待ち受けているなら永遠に会いたくなかった……






 今度こそは生物が生存できるように、もしくはあの夢の続きを見る事ができるまでこの哀しみは続くのだろう。






 俺は微かな希望を胸に、目の前にいる悪魔を倒して別の場所に転移した………




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