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童話

ゆきだるま

作者: 泣面道化
掲載日:2014/01/22

「さみぃ」


 しんしんと雪が降っている。

 ザクザクと白い世界に足跡を刻んで行く。

 日が落ちて、だいぶ時間が経ったからか非常に寒い。

 いや、冬だからだろう。


「さみぃ」


 腕を抱え込みながら震えながら呟く。


「はあ」


 白い息を吐き、今日の出来事を思い出す。



「なあ、オマエさ、なんで生きてんの?」


 心底、不思議だと言わんばかりだった。


「さあ、なんでだろう」


 痛む腹を押さえながらに呻きながら、そう答えた。


「まじで、不思議だわ。俺らに理不尽に暴力振るわれてさ。周りのヤツからも色々、嫌がらせされてんだろ?」


 踵をつけてしゃがみこんで髪を掴み、顔を上げさせながら、そう尋ねた。


「思い付きもしなかった」


 静かにそう答えた。


「そうか。ん? 雪が降ってきたな。帰るか、お前ら」


 何事も無かったように少年は淡々としゃべる。


「うーす」


 軽くチャラい感じに答え。


「今日、ゲーセン行かねぇ?」


 淡々と遊びに誘い。


「ボク、今日はバイトですよ」


 生真面目そうな声で少年は答え。


「まじ、しゃーねぇなあ、3人で行くか?」


 淡々と語りを続け。


「ワリィ、俺は母さんの買い物に行くから」


 更に粗野に断られ。


「親孝行かよ、同級生イジメてんのに優しいな」


 感心し。


「まあな」


 同意され。


「おい、おまえは?」


 最後の希望も。


「彼女とデート」


 軽くチャラく流され。


「はあっ!? マジかよ! ふざんけんなよっ!」


 初めて声を荒げた。

 ガヤガヤとヤツラが去って行く。


「いてぇ」


 無感情に空を眺めながら呟く。

 降ってくる白いチラチラとしたものが視界に入る。


「本当に雪が降ってきた」


 そういえば冬だ。

 なんで、生きているのか?


「なんでだろう。なんで俺、生きてんのかな」


 痛む体が嫌でも生きているのだと実感させられる。

 それでも生きてる理由が解らなかった。

 今でもまだ悩んでいる。


「いてぇし、つれぇし、生きていく理由なんてねぇけど、死ぬ理由ってのは、この現状から手早い脱出法としては一応はあるわけだ」


 どうしようか?

 腕を組み、震える体を少しでも暖めようとする。


「ああ、さみぃ」


 それでも体は暖まらず、震えて呟く。

 行くあてもなく白い世界をさまよう。

 その時、目の前に白い塊が見えてきた。

 ただ、2つの雪玉が重なっているそれは確かに見覚えがあった。


「ゆきだるまか、懐かしいな」


 昔は、作ってたな。

 寒さなんて気にせず夢中で。

 あの頃はメチャクチャ楽しかった。


「ああ、そうか」


 その時、俺は気づいた。

 いや、気づいてしまった。

 あの頃に戻れるような気がしてたから生きていたのだ。

 でも、もう無理だな。


「だって、今はどうしようもなくさみぃもんな」


 体を震わせながら呟く。

 しかし、目の前のゆきだるまは何もないな。

 記憶の中のゆきだるまは口や目や手があったけどな。

 単純に雪玉が2段重ねしてあるだけじゃないか。

 そうだ昔の俺は、手袋とか長靴とか着けてたな。


「もう俺には必要ないしな」


 近くに落ちいてた枝を2本を差し込み、その先に手袋を着け、履いていた靴をくっつける。


「後は目と口か?」


 コートからボタンを外し、目に見えるように2つのボタンを付け、近くの小枝を口に見えるように付ける。

 マフラーも巻いておくか。


「やっぱ、さみぃ」


 もういいか。

 どんなに昔のような行動をしても。

 どんなに昔を懐かしんでも。

 あの頃には戻れない。


「さて、死に場所でも探すか」


 何の感慨も抱かすに自然と口からそんな言葉が発せられた。

 すっかり出来上がったゆきだるまに踵を返す。


「少し、お待ちください」


 踵を返した傍から呼び止められた。

 しかし、人なんて居たかな?

 疑問を抱きながらもゆっくりとした動作で振り向いた先に、ゆきだるまが立っていた。


「この度は、私に命を吹き込んでいただきありがとうございます」


 ゆきだるまが悠長にしゃべりだした。


「そうかい、そいつは良かった。わりぃがさみぃから早く死に場所探してぇんだ。もう行くぜ」


 ゆきだるまがしゃべりだしたのに驚きの感情も抱けなかった。

 振り向いた顔を再び前に向け、歩き始める。


「あなたが私に腕をくれた。あなたが私に足をくれた。あなたが私に光をくれた。あなたが私に言葉をくれた。あなたが私に命をくれた」


 歩き続ける俺の背に声が届く。


「私はすぐに溶けるでしょう。あなた方でいう死だと思います」


 返事をしない背に淡々と語りかけて行く。


「掴みたい物も掴めず、歩きたい場所も歩けず、見たいものも見れず、しゃべりたいこともしゃべれなくなる。それが、私の考える死です」


 声はどんどんと遠ざかってゆく。


「だから、私はあなたに問いたい。なぜ、あなたは死にたいのですか?」


 そんなのは決まっている。

 ただ、理不尽に暴力を受ける。

 ただ、単純に嫌がらせを受ける。

 そんな最低な現状からの逃避などではない

 気づいたからだ。

 簡単なことで、あの頃には戻れないと悟ったからだ。


「それは、さみぃからだよ」


 だから俺は弱々しい呟きに諦めの色を着け、吐き出した。

 この言葉は、ゆきだるまに届いただろうか?

 あるいは白い息のように世界に溶け込んでいっただろうか?


「そうですか、私は暖かいですよ。あなたが私に温もりをくれたから」


 その言葉に再度、振り返った。

 ゆきだるまはマフラーを握りしめていた。


「死ぬのは怖いです。でも命をいただいて温もりをいただいて、私は生きて良かったと思います。これからも生きていきたいと望みます。でも、もう私は生きれないから」


 ゆきだるまはつらつらと続けてゆく。


「だから、私はあなたにももりを差し上げます。私はあなたに生きてほしいです。私は生きれないから」


 ゆっくりとゆきだるまが近づいてくる。


「あなたには、私の分まで掴んで、歩いて、見て、しゃべって、そうして生きてほしいのです」


 ゆきだるまの言葉に昔の記憶がフラッシュバックする。


「おい、遊ぼうぜっ!」


 元気な少年の声が響く。


「結構、積もったからな。合戦だろ、合戦!」


 子供たちが白い世界を駆けて行く。


「はあっ!? 雪ウサギだろ、普通」


 少年は自らの常識を叫び。


「雪ウサギって、マイナーだろ」


 呆れたような声で常識を壊され。


「な、なんだって。俺の冬が終わった」


 絶望に沈み。


「雪ウサギ否定されただけで?!」


 周りを驚かせ。


「あ、なら冬将軍やろうぜ!」


 速攻で立ち直り。


「冬将軍ってなんだよ」


 疑問に。


「俺の冬が終わった」


 すぐに叩き潰された。


「知らねぇのかよ」


 呆れられた。


「ねぇ、誰か手伝ってくれない?」


 少女は気にせず、助けを求める。


「任せろ! このゆきだるまマスターの隣のコイツに手伝わせてやろう」


 自信満々に他力本願をする少年。


「まあいいが」


 どうでもいいかのように受ける自分。


「スゴい! 上手だね!」


 助けといってもほぼ全てを作り上げ、褒められ。


「さすが、このゆきだるまマスターの隣にいただけはあるな」


 何故か鼻高々の自称ゆきだるまマスターは。


「それ、関係ないだろ」


 ため息を吐くように突っ込みを受け。


「ありがとうっ!」


 少女は気にせず礼を言う。


「どういたしまして」


 ただ静かに頭を下げた。

 誰かに必要とされていた。

 どんな寒い日も暖かかった。

 あの温もりはもうない。

 もう2度と。

 その時、ビショビショに濡れたマフラーが首に巻き付いた。


「温もりは、差し上げます」


 ゆきだるまは最後にそう呟くようにしゃべり、崩れ去った。

 そのマフラーは冷たいはずなのに。

 身を震わせるほど冷たいはずなのに。

 なぜだろう、どうしてだろう。


「あったけぇ」


 そんな言葉が出たのは。

 厚い雲を突き破る光の柱が雪を水に変えた。

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