第四話 ラビュリントス攻略 後編
一ヶ月ぶりの投稿です。
先月は今まで投稿した分をまとめ、改変しました。
前とは話が違うところがいくつかありますのでもう一度読み直すのをお勧めします。
本来、投稿したのにこんなに大幅な改変をすることは読んで下さっている人たちに大変失礼だと思います。
これからも頑張って書いていくので何か間違っているところ、文がおかしいところ、こうした方がいいなどといったアドバイスをくれると幸いです。
「はぁ、また行き止まりか……」
キールは深いため息をついていた。
ダンジョンカードの転移魔法を何者かに封じられ、学園に帰るためにはこの転移妨害魔法を使っている犯人を倒すしか方法がない。
倒すことについては問題ない。
仲間と協力して立ち向かえば何とかなるだろうと考えている。
無理だったなら封印を解いて本気で戦えばいい。
それに桜の花弁でまた相手と俺との周りに壁を作れば仲間を守りつつ正体を知られずにすむ。
だが、それ以前の問題として犯人の居場所が分からない。
最後の守護者の部屋にでもいてくれたら楽なんだがここはラビュリントス、迷路なわけだ。
もしかしたら何処かの小部屋で隠れながら妨害をしているのかもしれない。
そんな事考えて迷路を回っていては何日かかっても抜け出すことが出来ない。
三人と話し合い、とりあえずボスの部屋に向かって、そこに犯人がいなかったら改めて考えようってことになった。
なので先ほどからボスの部屋を目指して、道を右へ行ったり左へ行ったりしている。
そして現在四十八回目の行き止まりに合っていた。
「もう壁壊して進んじゃダメかな?」
「さ、流石にそれはダメじゃないかな……?」
イライラしているニールに対し、アイシアが宥める。
ラビュリントスに入ってから三時間あまりが経過している。
何度か中型ゴーレムに遭遇して倒していたりはしたが、それでも大半の時間を迷路探索に費やしている。
中型ゴーレムは160センチから200センチのサイズのゴーレムの総称で、他に小型大型のサイズもある。
紫さんに聞いた話では200年ほど前に山よりも大きいゴーレムがいたという。
今のところビックスライムのような大掛かりな罠は無いが、それでも同じ所をぐるぐる回っているような感じはニールにとって苛立ちを感じるものなのだろう。
「……確か去年、こういった迷路が苦手な先輩が壁を一つ一つ壊して進んだことがあるという話を聞いたことがある」
「それ知ってる!桜田先輩でしょ。革新者の!」
確かに去年ここのダンジョンを攻略した時、今と同じように迷ったから壁を壊して進んだ覚えがある。
あの後、紫さんにこっ酷く怒られて罰ゲームとかを強制的にやらされた。
あの罰ゲームは今思い出すだけでも恐ろしい……。
肌が綺麗だから化粧ののりがいいとかいう理由でメイクをされ、メイド服を強制的に着用させられた。
あまつさえ、その格好で一週間メイド喫茶でバイトをさせられ心身共に疲れてしまった。(ちなみにバイト代は全額紫さんの財布の中に飛んでいった)
またダンジョンを壊したら次は何されるか……。
考えただけで更に恐ろしく思ってくる。
「確かダンジョンは探索者一人もいなくなると、自動修復されるのではなかったか?」
「確かに授業でそんなこと言っていたね。なら壊しても大丈夫だね、お姉ちゃん」
また壊したら紫さんの罰ゲームがまた来る。
そんな事だと命がいくつあっても足りない。
何とか説得しなくては……。
「いやいやいや、先生も壊さないようにって言ってたじゃないですか!」
「だけど今は緊急事態だし、多分先生も多めに見てくれるよ」
「確かに、今は脱出を優先しないといけないかもね」
さっきまで反対派だったアイシアさんまでもが敵に回った!
「で、でもどうやって?このダンジョンの壁はなんか魔法抵抗強そうだし、流石のアイシアさんでもこの壁は壊せないんじゃ……」
「確かに私では、この壁は破壊できないでしょうね」
「だったらどうやって……?」
「私にまかせて!」
ニールは自信満々に声を上げる。
彼女はこのメンバーの中で二番目に小柄だ。
アイシアよりは背も高く発育はいいほうだが、そんなひ弱そうな彼女にこの壁を壊せるわけがない。
誰でも彼女を見たらそう思うだろう。
しかも彼女が使っている武器は短剣、魔法もある程度使えるようだがアイシアさんを上回るほどの威力のある魔法は使えないだろう。
一体どうやって壁を壊すのか、その疑問はすぐさま分かることになった。
「いくよ、《ナストゥプレーニエ》」
ニールの声に右手に持っていた《ナストゥプレーニエ》と呼ばれた短剣とニールが魔力共鳴を起こした。
魔力は指紋やDNAと同じように一人一人違う。
その魔力が近い者同士、魔力を合わせることを魔力共鳴という。
彼女の持つ短剣の《ナストゥプレーニエ》は魔力を持っている。
いわゆる魔剣というやつみたいだ。
魔剣なんてそうそうお目にかからない、俺でも紫さんが持っているの以外初めて見たくらいだ。
魔剣は人を選ぶという。
赤制服のニールが選ばれたということは、彼女には何かしら目覚めてない力みたいな物でもあるのだろうか?
双子の姉妹、もしかしたら姉のキールも何か持っているかもしれない。
そんな事を考えているとニールと《ナストゥプレーニエ》の共鳴が完全に同調したようだ。
《ナストゥプレーニエ》は白銀の輝きを放ち、持っている手から肘ぐらいまで同じ白銀色の籠手に変わる。
「突き抜け、《ナストゥプレーニエ》!」
ニールは右手にもつ白銀に輝く《ナストゥプレーニエ》を構え、壁に突き刺した。
壁に突き刺した瞬間、輝きが一層強くなり目の前の壁とその次の壁、更に次の壁と壁が次々崩壊していく。
八枚ほど壁を壊して《ナストゥプレーニエ》から輝きが消えた。
同時に右腕にある白銀の籠手も光が散るように消え、ニールはその場にしゃがみこんでいた。
「つかれた~」
「お疲れ様」
キールはニールの頭に手を置き、軽く撫でる。
ニールもその行為が嬉しいらしく微笑んでいる。
こんな状況じゃなかったら微笑ましい光景だ。
そんな状況だが、とりあえずニールにその短剣はどういった物か聞いてみた。
「私も良くは知らないんだけど、ウェイマス家は大昔に二つの武器を使って何かをしたらしいの。んで、今私が使っている短剣《白銀ナストゥプレーニエ》とお姉ちゃんが使っている盾《黒鐵アバローナ》がその武器。学園に入る前に御祖父様からこの話とこの子達を受け継いたの。詳しい話は卒業したら聞かせてもらうことになってるから私達はこれ以上の事は知らないよ」
ということらしい。
帰ったら紫さんにでも聞いてみよう、あの人こういったことが詳しいし何か知っているかもしれない。
少しニールを休めてから壊した壁の先を進んでみた。
壊し損ねた九枚目の壁、かなりヒビが入っていて、触っただけで崩れ落ちてしまった。
そしてその先に守護者の部屋の扉があった。
「……あんなに探したのに、こんなにあっさり見つかってしまった」
「守護者ってなんだっけ?」
「〈迷宮〉は確かミノタウロスっていうモンスターが出るみたいで、話によれば大剣を持った人型の牛らしいです。大剣を振り回してくるので、キールは盾で攻撃をガードして私が魔法で動きを封じます。ニールとサクラさんは隙を見て攻撃してください。何か質問はありますか?」
「特にない」
「りょうかーい!」
「わかりました」
アイシアは俺達の顔を見渡して「行きましょう」っと言い、扉に手をかけた。
扉の先は学園の体育館と同じくらいの空間が広がっていた。
部屋の周りには石でできた柱が等間隔に立っていて、その間に魔法ライトが設置されていた。
そして部屋の奥に奴はいた。
大きさ的には三メートルぐらいの巨体を持ち、右手には自身の体格より少しばかり小さい剣を握っていた。
少しばかり小さいとはいえ二メートルを余裕で超える大きさの剣は俺達から見ると大剣に見えるが、奴からしたらロングソードあたりのサイズだろう。
ミノタウロス、体は人で頭が牛の守護者。
すぐさま襲いかかって来ると思っていたが、ミノタウロスは剣を持ったままこちらを見下ろしているだけで全然動こうとしていなかった。
「何かの作戦か?奴はあまり知能が良さそうには見えないが……」
キールはミノタウロスを睨んだままこちらに話しかけてきた。
昔、攻略したときはすぐさま襲いかかってきた。
だが、今回は全くと言っていいほど敵対心が無い。
まるで何者かに操られているみたいな……。
「来るのが遅くて、待ちくたびれましたよ」
部屋に俺達以外の声が響き渡る。
声の主はミノタウロスの後ろに隠れていたらしく、足の後ろから姿を現した。
「えっ!」
「なんで……」
「あなたは……」
「…………」
三人の声がハモる。
姿を現したその人は……
「高坂先生?」
俺達の担任教師である高坂和真先生だった。
「なんで先生がここに?」
アイシアは杖を構えたまま先生に話しかけた。
守護者がいるからだけではなく、先生がここにいることにも警戒をしているようだ。
「そうだね……君達を殺せという命令を受けたから、かな?」
高坂先生はニヤリと自分の鋭い犬歯を見せつけるように笑う。
俺は直感した。
こいつが紫さんの言っていた吸血鬼だと。
「このミノタウロスは俺の力によって完全に支配下に置いた。いつでもお前らを殺せと命令できる。だが所詮IXの守護者だ。お前らの相手にならないと思ってね、お前らが来る前にこいつを改造したいたのさ。殺れミノタウロス!」
高坂先生の命令でミノタウロスは強く剣を握り、こっちに向かって走ってきた。
重そうな剣を持っている割には足は早く、一瞬にこちらとの距離を詰めてくる。
剣を振り下ろそうとするミノタウロスに、すぐさまキールが前に出て盾で攻撃を防ぐ。
アイシアは作戦道理、後方から魔法でミノタウロスの行動を阻害しようとする。
「《鎖の拘束》」
発動した拘束魔法によってミノタウロスの両手両足を拘束させる。
その隙をついて俺は左側から頭を潰そうと《白桜》を鞘付きのまま振りかざす。
ニールは右側から左腕を切りつけようと短剣を振るう。
だが、敵はそんなに弱くはなかった。
ミノタウロスは両腕の鎖を力づくで引きちぎり剣を俺に空いた左手をニールに向けた。
俺はなんとか鞘で守ったが、そのまま吹き飛ばされて壁に激突した。
ニールは短剣を持っていた右手を掴まれ俺の方に向かって投げ飛ばされた。
もちろんそこには俺がいる。
俺の上にニールが覆いかぶさり、身動きがとれなくなってしまった。
ミノタウロスは両足の鎖も力ずくで断ち切り、俺とニールを串刺しにしようと剣を振りかざす。
「させるか!《桜障壁》」
俺達と剣の間に《桜障壁》を作る。
剣は桜の花弁で作った壁に抑えられ、俺達に届く前に止まった。
その隙にアイシアの魔法玉がミノタウロスの顔に当たり、術式が発動する。
「《魔力爆発》!」
《魔力爆発》によって体勢が崩れ、またしてもミノタウロスに隙ができる。
俺はその隙にニールをどかして立ち上がり、右手を手刀にして魔力を溜める。
アイシアは連続で《魔法玉》を作り出して腕、足、顔に当てて《魔力重力作用》を発動させた。
流石のミノタウロスでも、これだけの《魔力重力作用》を使われて動けるはずがない。
片膝を地面につけ、大剣を地面に刺しながら踏ん張っている。
俺は右手に溜めたに魔力を風魔法に変換し、動けないミノタウロスの頭目掛けて矢のように突き出した。
風はミノタウロスの頭を貫通し、膝をついて地面に倒れた。
ミノタウロスにはビックスライムのような再生能力は無かったようだ。
「へぇ~、やるじゃないか。強化したミノタウロスを倒すなんて」
少し離れた所から俺達の戦闘を見ていた高坂先生が関心するような口調で話しかけてきた。
「でも大丈夫かな?ニールさん結構ボロボロだよ」
高坂先生に言われてニールを見た。
彼女は意識はあるがミノタウロスに掴まれた右腕は骨が折れているみたいで力が出ないようだ。
顔も真っ青で息も荒い。
先ほどの《ナストゥプレーニエ》を使った時に魔力を結構消費したし、腕も折れた。
相当辛いだろう。
「キールはニールの看病と護衛、私とサクラさんは先生を!」
「わかった」
「了解」
キールはニールの元に駆け寄り、バックに入っていたポーションを飲ませている。
俺とアイシアは左右に分かれ、高坂先生に近づいた。
「先生、これまでです」
アイシアの言葉に高坂先生は「クククッ」と笑みをこぼす。
「まさか俺がこれだけしか策を練っていないわけがないだろう」
高坂先生は右手を前にだし「パチン」と指を慣らす。
その瞬間俺の背中に衝撃が走った。
その衝撃が《爆発》だということに吹き飛ばされた後に気づいた。
《爆発》は制服のおかげでダメージを抑えることが出来たが、それでもダメージがでかい。
いったい誰が使ったのか、放たれた方向を見る。
視線の先には……
「あ、アイシアさん?」
杖を俺に向かって構えるアイシアが立っていた。
「サクラさんは知らかったみたいだけど、吸血鬼ってのは血を吸った相手を眷属に出来るんだ。だから彼女はもう俺の人形さ」
「い、いつの間に……」
「簡単さ、彼女が寮に帰る途中に隙をついて血を吸った。その後に記憶操作と傷口を直せばバッチリさ」
俺はアイシアの顔を見る。
その表情は人形のように冷たく、冷酷に俺を見ていた。
「さあ、アイシア。目の前のサクラさんを動けないぐらいにボコボコにしてやりな。終わったら生き血を飲むんだから殺すなよ」
高坂先生はアイシアに命令し、彼女は杖を俺に向けて構えた。
「《魔法玉》……」
アイシアの周りにはさっきから使っているサッカーボールサイズの《魔法玉》より大分小さいピンポン玉ぐらいのサイズの《魔法玉》が浮かんでいた。
その数、約100個。
一つ一つの魔力はいつもの使ってる《魔法玉》の十分の一ほどの量しか無いが、それでもこの数を相手にするのはなかなか大変だ。
しかも、それが全部俺に向かって飛んで来た。
風魔法と桜の花弁を使って近づいてくる前に撃ち落すが、この距離では半分ぐらいしか撃ち落とすことが出来なかった。
「《魔力重力作用》……」
撃ち落としきれなかった《魔法玉》のいくつかは刀や服にくっつき、《魔力重力作用》によっていつもより多くの重力が俺に覆い被さった。
「くっ……」
流石の俺でも立っているのがやっとで動くのも魔法を使うのもままならない。
そこに追い討ちをかけるように次の魔法が飛んでくる。
「《魔力鎖の拘束》」
空中を漂う《魔法玉》から細い鎖が両腕、両足にいくつも縛られる。
魔法とは別の桜の加護ならば言葉を発せずに使えるが、それだけじゃこの魔法から完全に抜け出すことは出来ない。
そこにアイシアは漂うピンポン玉サイズの《魔法玉》を俺の胸辺りに集め、サッカーボールサイズになった時に次の魔法を発動させた。
「《魔力電撃》」
咄嗟に自分の周りに《桜障壁》を張って威力を軽減させるが、《桜障壁》ごと電撃で吹き飛ばされてしまった。
「うっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー」
アイシアが放った雷撃が体中を駆け巡る。
制服には物理・魔法耐性があるが滅多なことでは破けないし、生徒の命を守ってくれる。
死ぬ程では無いがダメージが大きい。
まだ意識を保っているのが奇跡みたいだ。
アイシアはそのまま畳み掛けるようにサッカーボールサイズの《魔力玉》を作る。
アイシアの魔力がだんだんが上がって、制服の袖やスカートが青色から黒色になりかけている。
このままでは赤制服の俺はアイシアに勝てない。
ここに来るまで花弁を使いすぎ、魔力をかなり使った。
これ以上は俺は持たない。
ニールは怪我で動けない。
キールも動けないニールの側を離れるわけにはいかない。
「仕方ないか……」
そう呟いて右手の人差指にはまっている指輪を花弁を上手く使って指から外させる。
アイシアは何かを察知したのか《魔法玉》を俺に向けて放ち、《魔力爆発》を発動させる。
大きな爆発が起こり、爆破した所から煙が漂ってどうなったか分からない。
赤制服の俺だったら防げず、力尽きたかもしれない。
爆発の煙が晴れ、俺の姿が現れた。
黒い髪に黒い瞳、そして黒い制服。
左手には鞘を右手には鞘から抜かれたうっすら桜色の白い刀、《白桜》を握っていた。
《魔力鎖の拘束》と《魔力重力作用》は《白桜》によって全て叩き潰した。
それだけではない、頭とお尻にありえない物がついている。
髪の色と同じ狐耳と狐尻尾。
白桜の呪いの一つ、所有者を獣人にするというものだ。
鞘から抜かないならば自分の力で押さえ込むことが出来るが、抜いてしまうと抑えきれなくなる。
白桜を抜刀するときに見られないように桜障壁を張っていたのは「恥ずかしいから隠したかった」っという理由である。
だけど今は無駄な魔力を使っている暇はない。
アイシアの目が険しくなる。
ピンポン玉サイズの魔法玉を追加で150個作り、30個づつ5組に分けて放つ。
俺は《白桜》を構え、アイシアに向かって走り出した。
魔法玉が俺の近くまで飛んできて《魔力重力作用》が発動する。
「《桜障壁》」
少ない桜の花弁を《魔力重力作用》が当たるところを的確に配置して防ぐ。
今度は左右からの《魔法玉》による《魔力爆発》。
片方は花弁で防ぎ、もう片方は風を纏った《白桜》の斬撃で切り落とした。
俺が一定の距離まで来ると、アイシアは距離を取ろうと移動する。
だがその動きは鈍い。
本人もそれに気づいたようだ。
彼女の足には何枚かの花弁がくっついていたことに。
触れた相手の行動を鈍くさせるという花弁の効果に。
魔法使いは接近戦は得意ではない。
接近戦に持ち込まれたら負ける確率が飛躍的に高くなる。
「――っ!!」
「ごめん……」
俺はアイシアの目の前まで来ると彼女に向かって《白桜》を振り下ろす。
アイシアの肩から脇腹にかけて斬撃が残走るが、血は吹き出すことなく斬られたアイシアは地面に膝をついて倒れてしまった。
アイシアが地面に倒れ込む前に《白桜》をしまい、両手で抱きかかえる。
抱き上げ離れた所で少し離れたキールの元に一瞬で移動する。
「……!!アイシアは無事なのか!?それにサクラ、その格好は……」
「アイシアは魔力切れで気を失っているだけだ。これに関しては後で話す」
白桜は魔力もしくは魔力に関するものしか斬れないし、触れることが出来ない。
このことは後で色々と話さないといけない。
とりあえずアイシアをキールに預け、元の位置に戻って《白桜》を取り出し高坂先生と向き合う。
「紫さんからお前のことを調査しろって言われてるけど、捕まえちゃってもいいよね」
いくら封印を解いて黒制服に戻ったとはいえ、体力や魔力が回復するわけがない。
まるで平然としているように装いながら高坂先生……吸血鬼に一歩づつ近づく。
「本気でなかったとはいえ俺を倒したぐらいで調子に乗るな!流石のお前でもアイシアとの戦闘で力を使い果たしたのは見え見えだ!」
そう言いながら腰に刺さっていた二本のレイピアを引き抜く。
「……大剣じゃないんですね」
「あんな重い剣なんか使えるか。俺は軽くて速い武器のほうが合ってるん、だ!」
吸血鬼はレイピアを突き刺してくる。
「では俺と一緒です、ね!」
レイピアを躱し、《白桜》を鞘から引き抜き切りつける。
吸血鬼は《白桜》をもう一つのレイピアで防ぐ。
《白桜》を防ぐことが出来るということは魔剣もしくは魔法武器の類だろうか。
魔法関連の武器でなかったなら、レイピアをすり受けて吸血鬼を斬りつけることが出来ただろう。
「《血吸いの一刺し》」
レイピアが血のように赤く光り突き刺してきた。
ギリギリの所で回避出来たが、肩を少しかすってしまった。
「……!!」
突き刺された所から力が無くなる、いや削ぎ落とされるような感覚を襲った。
「すごいだろ、俺達吸血鬼しか出来ない技だ。食らった奴はそこから体力を吸われる。かすり傷でそれぐらいだ。直でくらったらどうなるかな?」
不気味に笑いながらまた《血吸いの一刺し》を使ってきた。
片方のレイピアを《白桜》で抑え、もう片方を鞘をしまって空いた左手で刃の部分を握って止める。
「なっ……!」
「……いよ」
俺は小さな声で言った。
「あぁん?」
今度は聞こえるよう大きな声で。
「すんげー面白いよ!!」
吸血鬼の腹に向かって蹴りを繰り出す。
左手を放し、吸血鬼は壁の方まで飛んでいった。
「ぐぅう……」
吸血鬼はそのまま壁にぶつかり、痛みに耐えながら立ち上がった。
そして俺は久々の本気の戦闘、自分の命を天秤に賭けた殺し合いがたまらなく面白く感じてしまった。
「来い《月光》」
呼びかけに応じ、左手には黒い柄に銀色の刃を持つ日本刀《月光》が握られていた。
《白桜》と《月光》の二刀流。
その姿を見た吸血鬼はレイピアを構え直す。
「あんた名は?」
俺の質問に吸血鬼は始め驚いたような顔をさたが、すぐに答えてくれた。
「俺はルドル・カーミラ。金さえ貰えれば何でもする旅する吸血鬼だ」
「ルドルか……。俺を楽しませた数少ない奴として覚えていてやるよ!」
「ほざけ!」
ルドルは《血吸いの一刺し》を使い、突き刺してくる。
俺はそれを《白桜》で防ぎ、《月光》を突き刺す。
ルドルはそれを上に飛び上がり回避する。
空中でレイピアを一突きするがそれを身を翻して回避し、《白桜》を一閃させる。
相手も甘くはない。
その攻撃をもう片方のレイピアで素早くガードし、地面に舞い降りて《血吸いの一刺し》で一突きする。
流石にこの位置では回避できず、腹に一撃をくらってしまった。
ところがレイピアをくらった俺は波のようにゆらゆらと揺れて、消えてしまった。
「なっ!」
《月光》の特殊技の一つ、《月写し》。
夜の水面に写る月のように自分の写身を作り出す技。
弱点と言えば分身を作る訳ではなく、ただの立体映像なので作った時以外のポーズは取れず、触れられれば水面のように波打って消えてしまう。
言わば一時的な囮にしか使えない。
その囮を突き刺したルドルに背後から《月光》を振りかざす。
「楽しかったよ、ルドル・カーミラ」
この位置からの防御は間に合わない。
俺は《月光》で背中を一閃し、《白桜》で一突きした。
「ぐっはぁ……」
俺は《白桜》をルドルから引き抜く。
《白桜》は魔力関連しか斬れないし触れられないのでルドルの魔力は引き抜かれたし穴は空いてなかった。
その代わり《月光》での攻撃が彼にダメージを与えた。
魔力を根こそぎ奪われ、ルドルは倒れた。
彼はその瞬間、持っていたダンジョンカードの効果によって強制的にダンジョンから学園に引き戻された。
彼が倒れたことで転移阻害の魔法が消えたのだ。
ニールもアイシアも強制転移によって学園に戻された。
〈迷宮〉に残ったのはキールと俺だけ。
そんな俺も刀をしまって指輪をつけて制服を赤に戻した時、意識を失った。
もちろん俺も転移され最終的に残ったのはキールだけになってしまった。
「……あ、あれ?私一人だけになってしまった」
最後に「転移フォルティナ」っと言った声が〈迷宮〉内に聞こえたが、その声を聴く者は誰もいなかった。
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アイシアが使う魔法の中で、魔法玉から使われた魔法には魔力が追加されました。
それとアイシアとの戦闘シーンが自分でも微妙だったので改変しました。
まあ、内容は改変しましたがストーリーに支障は……多分無いと思う……と思いたいので引き続きよろしくお願いします。
何度も改変してすいません……。